上 下
321 / 366

あっちもこっちも大騒ぎ

しおりを挟む
 この、どう収集をつけたら良いのか分からない空気を打ち破ってくれたのはブルーノさんだ。

「やぁみんな、久しぶりだね」

 ブルーノさんはこちらを振り向き、いつも通り、まるで何事もなかったかのようにニコニコと話し始めた。

「驚かせようと思ったら、驚かせすぎてしまったようだね。スイレンくんから聞いたが、この水場が急に現れ、そしてこの辺りの土地はヒーズル王国のものになったんだね?」

 その言葉に私たちはウンウンと頷く。

「ならちょうど良かった。ペーター、ここに移民の町を作ろう!」

 その言葉を聞いた私たちヒーズル王国民は、しばし呆然としたあと「えぇぇぇぇ!?」と揃って絶叫した。

 どうやらブルーノさんたちはこの国で暮らしたいと思いながらも、広場のあるあの場所にお邪魔するのも……では森の中にひっそりと住もうか、などと変な遠慮をしていたようで、要するにほぼ考えなしに来たようだった。
 最悪、シャイアーク国との国境の辺りに住もうなどと呑気にやって来たらしい。……さすがの私も目眩がしてきたわ。

「町を作ると言ってもだな……そんな簡単には……」

 あっけらかんとしたブルーノさんに対して、あのお父様がまともなツッコミを入れた。

「国境はもう決まったのだろう? それに、元々ここに国境を作るつもりで切り出した石があるだろう。それを使って家を建てる。しばらくはモクレンさんたちを頼るだろうが、なるべく迷惑はかけない」

 ブルーノさんは爽やかな笑顔で言い切った。確かにここにはコツコツと切り出した岩がたくさんある。

「やったぁ! これからは毎日でもブルーノさんに会えるんだね!」

 天使のスマイルのスイレンを見て、お父様は深く溜め息を吐いた。観念したようである。

「……はぁ。分かった。ハマナスよ、今日作業する予定だった者の束ね役として、しばらくブルーノ殿を手伝ってやってくれ」

「……は、はい!」

 まだ呆然としていたハマナスは、急に名前を呼ばれて焦っている。お父様はそのままハマナスやオヒシバやブルーノさん、そしてスイレンと話し合いを始めた。
 そんな時に私の目の前にニコライさんが小走りでやって来た。

「カレン嬢、このままウチに遊びに来ませんか?」

「「「は?」」」

 とんでも発言に私とお母様、そしてルーカス王がハモった。その怒った表情のルーカス王にときめいている間に、お母様は「嫁入り前の私の娘に何を言うのかしら?」と、笑顔で凄んでいる。

「ちょちょちょちょっと! 勘違いしないでください! ウチの国に招待しようとしただけですよ! 王だって早く招待したいと言っていたじゃないですか!」

「言い方というものがあるだろう!?」

 私のためにルーカス王が怒ってくれている……そんな幸せに浸っていると、ニコライさんはさらに言葉を続ける。

「それにカレン嬢。初めてお会いした日のことを覚えていらっしゃいますか? 石炭の扱いをお教えすると言ったでしょう。石の扱いに長けた方じゃなくても、すぐにでもお教え出来ますよ?」

 ルーカス王の小言を聞こえないフリをして、あの日の約束事を守ろうとしてくれている。ニコライさんはすっかりと忘れていると思っていたが、ちゃんと覚えていたらしい。
 そしてその場に、私たちのやり取りを聞いていたタデが現れた。

「石の扱いにおいて、私以上の者はいない」

「タデ……でも……」

 タデに対してまごまごとしていると、当然のようにニコライさんから疑問を投げかけられた。

「どうしたんです? 城でも我が家でも泊まることは出来ますよ! 着の身着のまま来ていただいて構いませんよ!」

 そう言ったニコライさんは「さぁ! さぁ!」と、私たちをテックノン王国へ案内しようと頑張っている。
 しかし、今はまだ無理なのだ。

「ごめんなさい、ニコライさん……」

「子どもが間もなく産まれるのだ。しばらくは子どもの側にいたい」

 言い切ったタデの言葉にお母様と微笑んでいると、ルーカス王がギョッとした表情でこちらを見ている。どうしたのかと小首を傾げていると、ニコライさんが胸を押さえたままパタリと倒れた。

「カカカ……カレン嬢……。私という者がありながら……その若さで妊娠なんて……」

 ピクピクとしているニコライさんの言葉の意味が分からず、私とお母様、そしてタデは頭の中で言葉の意味を噛み砕いた。
 そして意味が分かった瞬間、私は赤面し、お母様は呆れ果て、タデは激昂した。が、すぐに声に出すほどの溜め息を吐いて、ニコライさんを指さし私にこう言った。

「姫……そろそろコレを叩いていいか?」

「ダメに決まってるでしょう!? 当たりどころが悪くてさらに壊れたらどうするのよ!? ただでさえこうなのよ!?」

 人に対してコレだの壊れるだのと言う私とタデのやり取りを聞いたルーカス王は、涙が出るほど笑いながら「一瞬私も勘違いをした。本当に申し訳ない」と謝罪してくれた。
 タデとの関係を疑われることに嫌悪感はないが、悲しいことにどうやら私はルーカス王の眼中にないらしい。その現実に、私はまた遠い目をしたのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...