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あっちもこっちも大騒ぎ
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この、どう収集をつけたら良いのか分からない空気を打ち破ってくれたのはブルーノさんだ。
「やぁみんな、久しぶりだね」
ブルーノさんはこちらを振り向き、いつも通り、まるで何事もなかったかのようにニコニコと話し始めた。
「驚かせようと思ったら、驚かせすぎてしまったようだね。スイレンくんから聞いたが、この水場が急に現れ、そしてこの辺りの土地はヒーズル王国のものになったんだね?」
その言葉に私たちはウンウンと頷く。
「ならちょうど良かった。ペーター、ここに移民の町を作ろう!」
その言葉を聞いた私たちヒーズル王国民は、しばし呆然としたあと「えぇぇぇぇ!?」と揃って絶叫した。
どうやらブルーノさんたちはこの国で暮らしたいと思いながらも、広場のあるあの場所にお邪魔するのも……では森の中にひっそりと住もうか、などと変な遠慮をしていたようで、要するにほぼ考えなしに来たようだった。
最悪、シャイアーク国との国境の辺りに住もうなどと呑気にやって来たらしい。……さすがの私も目眩がしてきたわ。
「町を作ると言ってもだな……そんな簡単には……」
あっけらかんとしたブルーノさんに対して、あのお父様がまともなツッコミを入れた。
「国境はもう決まったのだろう? それに、元々ここに国境を作るつもりで切り出した石があるだろう。それを使って家を建てる。しばらくはモクレンさんたちを頼るだろうが、なるべく迷惑はかけない」
ブルーノさんは爽やかな笑顔で言い切った。確かにここにはコツコツと切り出した岩がたくさんある。
「やったぁ! これからは毎日でもブルーノさんに会えるんだね!」
天使のスマイルのスイレンを見て、お父様は深く溜め息を吐いた。観念したようである。
「……はぁ。分かった。ハマナスよ、今日作業する予定だった者の束ね役として、しばらくブルーノ殿を手伝ってやってくれ」
「……は、はい!」
まだ呆然としていたハマナスは、急に名前を呼ばれて焦っている。お父様はそのままハマナスやオヒシバやブルーノさん、そしてスイレンと話し合いを始めた。
そんな時に私の目の前にニコライさんが小走りでやって来た。
「カレン嬢、このままウチに遊びに来ませんか?」
「「「は?」」」
とんでも発言に私とお母様、そしてルーカス王がハモった。その怒った表情のルーカス王にときめいている間に、お母様は「嫁入り前の私の娘に何を言うのかしら?」と、笑顔で凄んでいる。
「ちょちょちょちょっと! 勘違いしないでください! ウチの国に招待しようとしただけですよ! 王だって早く招待したいと言っていたじゃないですか!」
「言い方というものがあるだろう!?」
私のためにルーカス王が怒ってくれている……そんな幸せに浸っていると、ニコライさんはさらに言葉を続ける。
「それにカレン嬢。初めてお会いした日のことを覚えていらっしゃいますか? 石炭の扱いをお教えすると言ったでしょう。石の扱いに長けた方じゃなくても、すぐにでもお教え出来ますよ?」
ルーカス王の小言を聞こえないフリをして、あの日の約束事を守ろうとしてくれている。ニコライさんはすっかりと忘れていると思っていたが、ちゃんと覚えていたらしい。
そしてその場に、私たちのやり取りを聞いていたタデが現れた。
「石の扱いにおいて、私以上の者はいない」
「タデ……でも……」
タデに対してまごまごとしていると、当然のようにニコライさんから疑問を投げかけられた。
「どうしたんです? 城でも我が家でも泊まることは出来ますよ! 着の身着のまま来ていただいて構いませんよ!」
そう言ったニコライさんは「さぁ! さぁ!」と、私たちをテックノン王国へ案内しようと頑張っている。
しかし、今はまだ無理なのだ。
「ごめんなさい、ニコライさん……」
「子どもが間もなく産まれるのだ。しばらくは子どもの側にいたい」
言い切ったタデの言葉にお母様と微笑んでいると、ルーカス王がギョッとした表情でこちらを見ている。どうしたのかと小首を傾げていると、ニコライさんが胸を押さえたままパタリと倒れた。
「カカカ……カレン嬢……。私という者がありながら……その若さで妊娠なんて……」
ピクピクとしているニコライさんの言葉の意味が分からず、私とお母様、そしてタデは頭の中で言葉の意味を噛み砕いた。
そして意味が分かった瞬間、私は赤面し、お母様は呆れ果て、タデは激昂した。が、すぐに声に出すほどの溜め息を吐いて、ニコライさんを指さし私にこう言った。
「姫……そろそろコレを叩いていいか?」
「ダメに決まってるでしょう!? 当たりどころが悪くてさらに壊れたらどうするのよ!? ただでさえこうなのよ!?」
人に対してコレだの壊れるだのと言う私とタデのやり取りを聞いたルーカス王は、涙が出るほど笑いながら「一瞬私も勘違いをした。本当に申し訳ない」と謝罪してくれた。
タデとの関係を疑われることに嫌悪感はないが、悲しいことにどうやら私はルーカス王の眼中にないらしい。その現実に、私はまた遠い目をしたのだった。
「やぁみんな、久しぶりだね」
ブルーノさんはこちらを振り向き、いつも通り、まるで何事もなかったかのようにニコニコと話し始めた。
「驚かせようと思ったら、驚かせすぎてしまったようだね。スイレンくんから聞いたが、この水場が急に現れ、そしてこの辺りの土地はヒーズル王国のものになったんだね?」
その言葉に私たちはウンウンと頷く。
「ならちょうど良かった。ペーター、ここに移民の町を作ろう!」
その言葉を聞いた私たちヒーズル王国民は、しばし呆然としたあと「えぇぇぇぇ!?」と揃って絶叫した。
どうやらブルーノさんたちはこの国で暮らしたいと思いながらも、広場のあるあの場所にお邪魔するのも……では森の中にひっそりと住もうか、などと変な遠慮をしていたようで、要するにほぼ考えなしに来たようだった。
最悪、シャイアーク国との国境の辺りに住もうなどと呑気にやって来たらしい。……さすがの私も目眩がしてきたわ。
「町を作ると言ってもだな……そんな簡単には……」
あっけらかんとしたブルーノさんに対して、あのお父様がまともなツッコミを入れた。
「国境はもう決まったのだろう? それに、元々ここに国境を作るつもりで切り出した石があるだろう。それを使って家を建てる。しばらくはモクレンさんたちを頼るだろうが、なるべく迷惑はかけない」
ブルーノさんは爽やかな笑顔で言い切った。確かにここにはコツコツと切り出した岩がたくさんある。
「やったぁ! これからは毎日でもブルーノさんに会えるんだね!」
天使のスマイルのスイレンを見て、お父様は深く溜め息を吐いた。観念したようである。
「……はぁ。分かった。ハマナスよ、今日作業する予定だった者の束ね役として、しばらくブルーノ殿を手伝ってやってくれ」
「……は、はい!」
まだ呆然としていたハマナスは、急に名前を呼ばれて焦っている。お父様はそのままハマナスやオヒシバやブルーノさん、そしてスイレンと話し合いを始めた。
そんな時に私の目の前にニコライさんが小走りでやって来た。
「カレン嬢、このままウチに遊びに来ませんか?」
「「「は?」」」
とんでも発言に私とお母様、そしてルーカス王がハモった。その怒った表情のルーカス王にときめいている間に、お母様は「嫁入り前の私の娘に何を言うのかしら?」と、笑顔で凄んでいる。
「ちょちょちょちょっと! 勘違いしないでください! ウチの国に招待しようとしただけですよ! 王だって早く招待したいと言っていたじゃないですか!」
「言い方というものがあるだろう!?」
私のためにルーカス王が怒ってくれている……そんな幸せに浸っていると、ニコライさんはさらに言葉を続ける。
「それにカレン嬢。初めてお会いした日のことを覚えていらっしゃいますか? 石炭の扱いをお教えすると言ったでしょう。石の扱いに長けた方じゃなくても、すぐにでもお教え出来ますよ?」
ルーカス王の小言を聞こえないフリをして、あの日の約束事を守ろうとしてくれている。ニコライさんはすっかりと忘れていると思っていたが、ちゃんと覚えていたらしい。
そしてその場に、私たちのやり取りを聞いていたタデが現れた。
「石の扱いにおいて、私以上の者はいない」
「タデ……でも……」
タデに対してまごまごとしていると、当然のようにニコライさんから疑問を投げかけられた。
「どうしたんです? 城でも我が家でも泊まることは出来ますよ! 着の身着のまま来ていただいて構いませんよ!」
そう言ったニコライさんは「さぁ! さぁ!」と、私たちをテックノン王国へ案内しようと頑張っている。
しかし、今はまだ無理なのだ。
「ごめんなさい、ニコライさん……」
「子どもが間もなく産まれるのだ。しばらくは子どもの側にいたい」
言い切ったタデの言葉にお母様と微笑んでいると、ルーカス王がギョッとした表情でこちらを見ている。どうしたのかと小首を傾げていると、ニコライさんが胸を押さえたままパタリと倒れた。
「カカカ……カレン嬢……。私という者がありながら……その若さで妊娠なんて……」
ピクピクとしているニコライさんの言葉の意味が分からず、私とお母様、そしてタデは頭の中で言葉の意味を噛み砕いた。
そして意味が分かった瞬間、私は赤面し、お母様は呆れ果て、タデは激昂した。が、すぐに声に出すほどの溜め息を吐いて、ニコライさんを指さし私にこう言った。
「姫……そろそろコレを叩いていいか?」
「ダメに決まってるでしょう!? 当たりどころが悪くてさらに壊れたらどうするのよ!? ただでさえこうなのよ!?」
人に対してコレだの壊れるだのと言う私とタデのやり取りを聞いたルーカス王は、涙が出るほど笑いながら「一瞬私も勘違いをした。本当に申し訳ない」と謝罪してくれた。
タデとの関係を疑われることに嫌悪感はないが、悲しいことにどうやら私はルーカス王の眼中にないらしい。その現実に、私はまた遠い目をしたのだった。
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