上 下
320 / 366

予想外すぎるプレゼント

しおりを挟む
「……くっ! ……ぷっ! ……失礼……」

 どうにか笑いをこらえ、涙まで拭いてそう言うルーカス王が目の前にいるのに、私は遠い目をして見つめている。

「……ゴホン! 私からの贈り物です。我が国の優秀な住民をこちらに住まわせてほしいのです」

「ん!? それはだな……ありがたいが……その……」

 ルーカス王の突然の申し出に、お父様がかなり動揺をしている。もちろん私も目を見開く。
 いきなり住民をプレゼントされてしまっても、すぐに住む場所の確保も難しければこの国の秘密の件もある。

 私たちがしどろもどろになっている間に「遠慮なさらずに」と、ルーカス王がカーテンの閉まっているそれは大きな客車の扉を開けた。
 だが開けた扉の中は静まり返り、何かの冗談だったのかと思い始めると、一人の男が降りてきた。

「……先……生。うぷっ……気持ち悪い……」

「ジェイソン!?」

 真っ先に反応したじいやの叫び声を聞いて、ジェイソンさんは青い顔で微笑む。まるでホラー映画のようだ。
 それ以前に、まさかのジェイソンさんの出現に私たちは呆気にとられている。

「「……うぅ……隊長……」」

「もう……隊長では……うぷっ……ない……」

「えぇ!?」

 思わず叫んでしまった。ジェイソンさんと共に国境警備隊をしていたはずの二人が、フラフラと降りてきたからだ。

「え!? どういうこと!?」

「……お久しぶりです……ダミアンです……。妻と子どもと共に……今日からお世話に……なります」

「フレディです……。両親と共に……農業がやりたくて……来ました」

 名前を知らなかったジェイソンさんの部下たちだが、ジェイソンさんが国境へ戻るとすぐに話し合い、つい最近三人でシャイアーク国兵を辞めたそうだ。
 そしてジェイソンさん以外は家族を呼び寄せテックノン王国にしばし滞在し、国境が開通したら私たちを驚かせるために移住したいとニコライさんを通じてルーカス王に頼んでいたらしい。

「ずいぶん揺られたからね。大丈夫かい?」

 ルーカス王は苦笑いでそう言うが、視線はジェイソンさんたちではなく客車の中である。
 気を利かせたサイモン大臣が客車に乗り込み、手を引いて人々を降ろすが見たことがない。ダミアンさんとフレディさんの家族だろう。

「あぁ~……年寄りには刺激が強すぎたねぇ……」

「んん!?」

 客車の中から聞き覚えのある声が聞こえた。あの優しくゆっくりおっとりとした話し方は……。

「エルザさん!?」

 次にサイモン大臣に手を引かれて降りてきたのはエルザさんだ。想像だにしていなかった人物に、私たちは鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情になった。

「……ここならリーモンをたくさん食べてくれるでしょう? シャイアークでは人気がないんだよねぇ。それに昔馴染みと一緒に、人生最後の冒険も悪くないわよねぇ」

 乗り物酔いはしていないのか、いつものエルザ節が健在である。ただ最後の言葉の意味が分からず小首を傾げていると、元気に自分から降りてきた人物がいた。

「やぁみんな久しぶりだね。アレはなんだい?」

 そう言って興味津々にセノーテの方へと歩き出した。頭がついていかず呆然としているとスイレンが叫ぶ。

「ブルーノさん!!」

 大好きなブルーノさんが現れたことにより、いつものスイレンに戻ったようだ。抱きつき再会を喜び、手を繋いでセノーテへと向かい、セノーテの説明を始めたようだ。

 ただひたすらに呆然としていた私たちだが、お父様と私が口を開こうとすると、客車からさらに人が降りてくるではないか。

「……」

「えぇぇぇぇ!?」

 無言で、青ざめた無表情で、二日酔いをさらに酷い顔にしたようなその人はペーターさんだった。

「ペーターさん!?」

 私の声に反応し軽く手を上げるが、どうやら激しく乗り物酔いをしているようである。

 ブルーノさんはスイレンと共にセノーテに夢中だったので、一番元気そうなエルザさんに話を聞いてみた。
 どうやらブルーノさんもペーターさんも、この世の楽園と思っているこの土地を終の住処と決めたようなのだ。何がなんでも移住しようと、ジェイソンさんたちと結託したらしい。

「新しい町長はねぇ、カーラの旦那なんだよぉ」

「はいぃぃぃ!?」

 エルザさんはコロコロと笑うが、次の町長はカーラさんを推す人が多かったらしい。なんとなく分からないでもない。
 けれど「あたしは店が忙しいんだよ!」と、代わりに旦那さんを無理やり町長にしたらしい。きっとカーラさんは裏ボス的な感じで上手く町をまとめるだろう。

「あとねぇ、ブルーノの弟子が完全に伸びているんだよぉ」

 その言葉と同時くらいにサイモン大臣が応援を呼び、兵士が頭と足を持って客車から人を運び出した。
 私たちはその見覚えのある顔に「あ!」と叫ぶが、ピクリとも反応しない。……まるで屍のようだ。

「フランクとミースは、どうしてもブルーノと離ればなれになるのが嫌だったらしいよぉ。二人とも繊細だったんだねぇ」

 そう言ってエルザさんはまた笑う。そもそも「お弟子さん!」といつも呼んでいたので、初めて名前を知ったのだ。

 スイレン以外のヒーズル王国民がざわめく中、テックノン王国の兵たちが拍手を始めると、ルーカス王も眩い笑顔で拍手を始めた。
 ……どうしましょう……断ることなんて出来ない雰囲気だわ……。辺りを見回すと、スイレン以外は白目をむいていた。便乗して私も白目をむくことにするわ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。

向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...