319 / 366
恋に恋焦がれ恋になく
しおりを挟む
初めてと言っても過言ではないほどのときめきに、私自身が慣れずにドギマギとしていると、私の気持ちなど気付かないルーカス王が口を開く。
「噂には聞いていましたが、これほどまでに美味しいとは思いませんでした。私たちの国では農業をやる者が極端に減ってしまい、食べ物は輸入に頼っているのです」
少し憂いた表情で話すルーカス王に、また胸がときめく。
「言った通りでしょう? これは城の食事に使用し、もっとたくさん輸入が出来たら城下町、王都、そしてテックノン王国全土へと普及させましょう。それまではシャイアーク国のリトールの町とも取り引きが決まっていますから、一般の民にはそちらを売りましょう」
すっかりといつもの調子に戻ったニコライさんは、身振り手振りでルーカス王に話しかけている。そのニコライさんが急にこちらを向き、珍しく真面目な顔をして話し始めた。
「これらを『ヒーズル王国産』として売り出すわけではないので安心してください。あくまでもテスラ総合商社の中の『ヒーズル』という銘柄で売りに出しますから、その辺は私たちにお任せください」
ニコライさんが言うには、『ヒーズル』というブランドを作り流通させるが、私たちの国や存在はトップシークレットとして、他国どころか王都のごく限られた、この場にいる人間にしか知らせないとのことだった。
「国境についてですが、ニコライが爆破した初代王が印した周辺は、元々一般人は立入禁止区域なのですよ」
その言葉を聞いたニコライさんがまた小さく震え始めた。
「そこには常に門番を置き、そこを国境とします。毎日決まった時間に落ち合い、品物の受け渡しをしましょう。不法侵入した者は厳正な処分を下します。門番よりこちら側はヒーズル王国の土地としましょう」
「……この人、本当に怖いんですよ? 本当に死刑とかしますからね……」
「ニコライ、何か言ったかい? 兄弟のように育ったんだ。死刑にならないように気を付けてくれ」
ニコライさんに笑顔でさらりと怖いことを言うが、その威風堂々とした様子にすらドキドキが止まらない。
甲羅干しをしながら一通り話を聞いていたじいやが立ち上がり、ニコライさんやサイモン大臣と金銭についてや時間について話し合いを始めた。
「まさかこの水場を貰えるとは思っていなかった。感謝する」
難しい話をじいやに任せたお父様が、ルーカス王に握手を求めた。
「いえ、実はこちらからも贈り物があるのですが、到着が遅れていまして……」
初めて焦りの表情を見せたルーカス王だが、その顔も私の心を乱す……と思っていると、スイレンにいきなり頬をつねられた。
「いたたた! スイレン、何するの!?」
「別に」
珍しくぶっきらぼうに答えたスイレンは、一言だけ発するとそっぽを向いた。
そんなスイレンが小憎たらしく言い合いをしていると、また私たち以外の全員が一点を見つめ始めた。
「ようやく贈り物が……来た……よう……です?」
あのルーカス王が歯切れの悪い言い方をしながら、笑いをこらえている。その先を見てみると、曲がりくねった道の先から馬車が見えた。だが様子がおかしい。
バがこれでもかと言うほどに項垂れ、一歩進んでは立ち止まって動かない。馬車から降りた御者が引っ張っても、隣を歩くバが顔を近付けても動く気配がない。
「あと少しだ! 愛しい人はここにいるぞ!」
急にルーカス王が叫んだ。愛しい人とは? いったい誰……? 胸の奥がざわめいて、立っているのも辛くなる。
一人で落ち込んだり悲しんだりの負のループにはまっていると、「ブモッ!」という声と共にバが走り出した。御者も隣を走るバも大慌てで一緒に走っている。
「あ! やっと来ましたね! カレン嬢、覚えていますか? リトールの町でカレン嬢を乗せたバです!」
「……え? 覚えているけど……えぇ!?」
興奮しているバと、その隣を走るバの足並みが揃わず、大型の客車を豪快に揺らしながら見事な蛇行運転をしている。それもそのはず、それを御するはずの御者は置いて行かれ「待てー!」と馬車の後方からコントのように追いかけている。
全員が唖然と見守る中、フリーダムな馬車はこちらを目指しているようで、なんとなく私たちは一歩、また一歩と後退をする。
ジリジリと後退をしても、あの大きさのバの速さには敵わない。
「「ひぃぃぃぃ!!」」
私とスイレンは情けない悲鳴をあげ、スイレンに至っては尻もちまでついてしまった。
「ヒヒン! ブモッ! バヒヒン!」
私の目の前で止まったバは、何か言いたげにバ語を叫んでいるが、気が動転している私は放心状態だ。
するとニコライさんが小走りで駆けつけ、とんでもないことを言い始めた。
「この私のバがですね、カレン嬢に恋をしてしまったようなんですよ!」
「……は?」
「日に日に言うことを聞かなくなり、餌も食べず、無気力になってしまったんです。もしやと思い『カレン嬢』と口に出すと、辺りを見回す始末。このバにとっては私のところにいるよりも、カレン嬢の近くにいるほうが幸せだと思いまして。私からの贈り物です!」
「…………は!?」
我にかえり聞き返すも、バは私に頬擦りをしたりムチュームチューとキスをしたり、されるがままになってしまっている。
「……ぷっ!」
誰かの吹き出す声が聞こえ周りを確認すると、全員が口を押さえて笑いをこらえている。しかも悲しいことにルーカス王までもだ。
……いろいろな想いから、心の中で泣きつつ半笑いの完璧なまでの白目をむいてしまったわ……。
「噂には聞いていましたが、これほどまでに美味しいとは思いませんでした。私たちの国では農業をやる者が極端に減ってしまい、食べ物は輸入に頼っているのです」
少し憂いた表情で話すルーカス王に、また胸がときめく。
「言った通りでしょう? これは城の食事に使用し、もっとたくさん輸入が出来たら城下町、王都、そしてテックノン王国全土へと普及させましょう。それまではシャイアーク国のリトールの町とも取り引きが決まっていますから、一般の民にはそちらを売りましょう」
すっかりといつもの調子に戻ったニコライさんは、身振り手振りでルーカス王に話しかけている。そのニコライさんが急にこちらを向き、珍しく真面目な顔をして話し始めた。
「これらを『ヒーズル王国産』として売り出すわけではないので安心してください。あくまでもテスラ総合商社の中の『ヒーズル』という銘柄で売りに出しますから、その辺は私たちにお任せください」
ニコライさんが言うには、『ヒーズル』というブランドを作り流通させるが、私たちの国や存在はトップシークレットとして、他国どころか王都のごく限られた、この場にいる人間にしか知らせないとのことだった。
「国境についてですが、ニコライが爆破した初代王が印した周辺は、元々一般人は立入禁止区域なのですよ」
その言葉を聞いたニコライさんがまた小さく震え始めた。
「そこには常に門番を置き、そこを国境とします。毎日決まった時間に落ち合い、品物の受け渡しをしましょう。不法侵入した者は厳正な処分を下します。門番よりこちら側はヒーズル王国の土地としましょう」
「……この人、本当に怖いんですよ? 本当に死刑とかしますからね……」
「ニコライ、何か言ったかい? 兄弟のように育ったんだ。死刑にならないように気を付けてくれ」
ニコライさんに笑顔でさらりと怖いことを言うが、その威風堂々とした様子にすらドキドキが止まらない。
甲羅干しをしながら一通り話を聞いていたじいやが立ち上がり、ニコライさんやサイモン大臣と金銭についてや時間について話し合いを始めた。
「まさかこの水場を貰えるとは思っていなかった。感謝する」
難しい話をじいやに任せたお父様が、ルーカス王に握手を求めた。
「いえ、実はこちらからも贈り物があるのですが、到着が遅れていまして……」
初めて焦りの表情を見せたルーカス王だが、その顔も私の心を乱す……と思っていると、スイレンにいきなり頬をつねられた。
「いたたた! スイレン、何するの!?」
「別に」
珍しくぶっきらぼうに答えたスイレンは、一言だけ発するとそっぽを向いた。
そんなスイレンが小憎たらしく言い合いをしていると、また私たち以外の全員が一点を見つめ始めた。
「ようやく贈り物が……来た……よう……です?」
あのルーカス王が歯切れの悪い言い方をしながら、笑いをこらえている。その先を見てみると、曲がりくねった道の先から馬車が見えた。だが様子がおかしい。
バがこれでもかと言うほどに項垂れ、一歩進んでは立ち止まって動かない。馬車から降りた御者が引っ張っても、隣を歩くバが顔を近付けても動く気配がない。
「あと少しだ! 愛しい人はここにいるぞ!」
急にルーカス王が叫んだ。愛しい人とは? いったい誰……? 胸の奥がざわめいて、立っているのも辛くなる。
一人で落ち込んだり悲しんだりの負のループにはまっていると、「ブモッ!」という声と共にバが走り出した。御者も隣を走るバも大慌てで一緒に走っている。
「あ! やっと来ましたね! カレン嬢、覚えていますか? リトールの町でカレン嬢を乗せたバです!」
「……え? 覚えているけど……えぇ!?」
興奮しているバと、その隣を走るバの足並みが揃わず、大型の客車を豪快に揺らしながら見事な蛇行運転をしている。それもそのはず、それを御するはずの御者は置いて行かれ「待てー!」と馬車の後方からコントのように追いかけている。
全員が唖然と見守る中、フリーダムな馬車はこちらを目指しているようで、なんとなく私たちは一歩、また一歩と後退をする。
ジリジリと後退をしても、あの大きさのバの速さには敵わない。
「「ひぃぃぃぃ!!」」
私とスイレンは情けない悲鳴をあげ、スイレンに至っては尻もちまでついてしまった。
「ヒヒン! ブモッ! バヒヒン!」
私の目の前で止まったバは、何か言いたげにバ語を叫んでいるが、気が動転している私は放心状態だ。
するとニコライさんが小走りで駆けつけ、とんでもないことを言い始めた。
「この私のバがですね、カレン嬢に恋をしてしまったようなんですよ!」
「……は?」
「日に日に言うことを聞かなくなり、餌も食べず、無気力になってしまったんです。もしやと思い『カレン嬢』と口に出すと、辺りを見回す始末。このバにとっては私のところにいるよりも、カレン嬢の近くにいるほうが幸せだと思いまして。私からの贈り物です!」
「…………は!?」
我にかえり聞き返すも、バは私に頬擦りをしたりムチュームチューとキスをしたり、されるがままになってしまっている。
「……ぷっ!」
誰かの吹き出す声が聞こえ周りを確認すると、全員が口を押さえて笑いをこらえている。しかも悲しいことにルーカス王までもだ。
……いろいろな想いから、心の中で泣きつつ半笑いの完璧なまでの白目をむいてしまったわ……。
33
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる