318 / 366
世界の謎と乙女心
しおりを挟む
へなへなとその場にへたり込んだニコライさんを無視し、私は疑問を投げかけた。
「ルーカス王……この土地は人工物が無い上に、生き物がほとんどいない『呪われた土地』と呼ばれた場所よ? まさか大昔には人がいたということ……?」
お父様やじいやも「何かの間違いでは?」と口を揃えている。
「……初代王がわざわざ嘘をつく理由がありません。おそらくこの土地には人がいたはずです。そして『存在を知られないように』と書かれていた通り、シャイアーク国はこの土地の存在をここ数十年までは確実に知らなかった。それに……」
ルーカス王がそこまで言うと、へたり込んでいたニコライさんが立ち上がった。
「テックノン王国の北部にある村なんですが、その村は伝承で『私たちは南から移り住んだ』と伝わっているらしいのです」
頭が追いつかず、小首を傾げているとニコライさんは続けた。
「あぁ! 以前お話した『メー』や『エエエエエー』を育てている村ですよ!」
そういえばヒツジ擬きやヤギ擬きは、少し寒い場所で飼育されていると言っていたことを思い出す。
「ヒーズル王国の皆さん、気付いておりますか? 貴方たちは、私たちと顔立ちや服装が違うことに」
ニコライさんにそう言われても、国が違えば見た目も違うだろうと思ってしまう。けれどすぐにリトールの町の人たちを思い出した。
同じシャイアーク国に住んでいながら、リトールの町の人たちは目や髪は黒やこげ茶色でありながら、顔立ちは西洋人のようであった。
「私はいろいろな国に行きますが、まず髪の色や質が違うんです。貴方たちは真っ黒で真っ直ぐな髪をしている。そして顔立ちも独特なんです」
確かに私たち以外の人は、いわゆる西洋人の顔立ちをしている。
「先程言いました村の人々もですね、森の民のような髪と顔立ちなんですよ! そして村には『この血を絶やしてはいけない』と伝わっているそうなんです!」
そう力説するニコライさんに、さらなる疑問を投げかけた。
「……待って。ならクジャたちは? クジャたちリーンウン国の人たちも私たちと似ていたわ」
そう言うとニコライさんはいつもの調子に戻った。
「そうなんです! そこが謎なんですよ! 毎回ハヤブサ王にお聞きしようとしているんですが、美しい女性たちに心を奪われて忘れてしまうんですよ! 一度クジャク嬢に聞いたことがあるのですが、『お主のような尻軽男に話すことはない』と冷たくあしらわれてしまったんです!」
オイオイと泣き真似をするニコライさんに誰も触れることなく、私たちはルーカス王を見つめる。
「私はまだクジャク姫にお会いしたことはありませんが、ニコライから聞く限り、おそらくリーンウン国の人たちも同じ出自なのではないのでしょうか」
確かにリーンウン国の人たちと私たちは似ていた。似ていたというより、どちらも日本人のようにしか見えない。
もしかしたら大昔はこの土地に文明があったのかもしれない。そして何かがあって、人々が散り散りになった……?
「カレン、考えても分からないことは、今考えても仕方がないよ。僕たちだってこの国のほとんどを知らないでしょ? いつか時間が出来たらたくさん冒険をしよう。今は民たちのために頑張る時だ」
眉間に皺を寄せて考えていると、スイレンが優しくそう言ってくれる。そうだ。今は疑問や謎は一旦保留にしておこう。
「そうね……そうよね。今はヒーズル王国を発展させることに集中しましょう」
そう言うと、スイレンはいつものように優しく微笑んでくれた。そのタイミングでお父様が「あ!」と声を漏らした。
「そうだ! この崩落で忘れていた! 初めに渡すつもりだったのだが、我が国からの贈り物だ」
お父様はそう言いながら手招きをすると、いつでも動けるようにスタンバイしていたハマナスが動こうとする。けれどポニーとロバは立ったままよだれを垂らして眠っていた。
ハマナスが小声で「起きてくれ」と言いながら二頭を揺さぶると、寝ぼけ眼で二頭は歩き始めた。その姿を見て両国から笑いが起きる。
「全て我が国で採れたものだ。このようなものを今度からそちらに売ることになる。私としては物々交換で良いのだが……」
すかさず「ダメよ!」と言うとお父様は口ごもる。ハマナスが木箱の蓋を開けると、ルーカス王は驚きの表情と共にサイモン大臣を呼んだ。
「……これはなんと素晴らしい!」
サイモン大臣の初めての言葉は褒め言葉だった。まるで宝石に触れるように果実や野菜を手に取り、いろいろな角度から農作物を見ている。
「冷えていないですが、一口いかがですか? アポーの実をどうぞ」
そう言ったハマナスはなにげにパワー部隊なのだが、芯の部分に親指を突っ込み「フンッ!」と力を入れると、アポーの実は真っ二つに割れた。
その腰に下げているナイフを使えば良いのに……とは、少し緊張気味のハマナスには言えなかった。
ハマナスは、その豪快さに驚いているルーカス王とサイモン大臣に割れたアポーの実を渡すと、二人はまじまじとそれを見つめている。
「水分がすごい……」
そう呟いたルーカス王が頬張るのと同時に、サイモン大臣もその実を一噛りする。目を見開いた二人は小動物のようにむさぼり始めた。
「美味い!」
「甘い!」
ルーカス王とサイモン大臣が同時に叫ぶ。そのルーカス王の表情は少年のような笑顔で、その表情にときめいてしまった。……間違いないわ、これは恋だわ……。
「ルーカス王……この土地は人工物が無い上に、生き物がほとんどいない『呪われた土地』と呼ばれた場所よ? まさか大昔には人がいたということ……?」
お父様やじいやも「何かの間違いでは?」と口を揃えている。
「……初代王がわざわざ嘘をつく理由がありません。おそらくこの土地には人がいたはずです。そして『存在を知られないように』と書かれていた通り、シャイアーク国はこの土地の存在をここ数十年までは確実に知らなかった。それに……」
ルーカス王がそこまで言うと、へたり込んでいたニコライさんが立ち上がった。
「テックノン王国の北部にある村なんですが、その村は伝承で『私たちは南から移り住んだ』と伝わっているらしいのです」
頭が追いつかず、小首を傾げているとニコライさんは続けた。
「あぁ! 以前お話した『メー』や『エエエエエー』を育てている村ですよ!」
そういえばヒツジ擬きやヤギ擬きは、少し寒い場所で飼育されていると言っていたことを思い出す。
「ヒーズル王国の皆さん、気付いておりますか? 貴方たちは、私たちと顔立ちや服装が違うことに」
ニコライさんにそう言われても、国が違えば見た目も違うだろうと思ってしまう。けれどすぐにリトールの町の人たちを思い出した。
同じシャイアーク国に住んでいながら、リトールの町の人たちは目や髪は黒やこげ茶色でありながら、顔立ちは西洋人のようであった。
「私はいろいろな国に行きますが、まず髪の色や質が違うんです。貴方たちは真っ黒で真っ直ぐな髪をしている。そして顔立ちも独特なんです」
確かに私たち以外の人は、いわゆる西洋人の顔立ちをしている。
「先程言いました村の人々もですね、森の民のような髪と顔立ちなんですよ! そして村には『この血を絶やしてはいけない』と伝わっているそうなんです!」
そう力説するニコライさんに、さらなる疑問を投げかけた。
「……待って。ならクジャたちは? クジャたちリーンウン国の人たちも私たちと似ていたわ」
そう言うとニコライさんはいつもの調子に戻った。
「そうなんです! そこが謎なんですよ! 毎回ハヤブサ王にお聞きしようとしているんですが、美しい女性たちに心を奪われて忘れてしまうんですよ! 一度クジャク嬢に聞いたことがあるのですが、『お主のような尻軽男に話すことはない』と冷たくあしらわれてしまったんです!」
オイオイと泣き真似をするニコライさんに誰も触れることなく、私たちはルーカス王を見つめる。
「私はまだクジャク姫にお会いしたことはありませんが、ニコライから聞く限り、おそらくリーンウン国の人たちも同じ出自なのではないのでしょうか」
確かにリーンウン国の人たちと私たちは似ていた。似ていたというより、どちらも日本人のようにしか見えない。
もしかしたら大昔はこの土地に文明があったのかもしれない。そして何かがあって、人々が散り散りになった……?
「カレン、考えても分からないことは、今考えても仕方がないよ。僕たちだってこの国のほとんどを知らないでしょ? いつか時間が出来たらたくさん冒険をしよう。今は民たちのために頑張る時だ」
眉間に皺を寄せて考えていると、スイレンが優しくそう言ってくれる。そうだ。今は疑問や謎は一旦保留にしておこう。
「そうね……そうよね。今はヒーズル王国を発展させることに集中しましょう」
そう言うと、スイレンはいつものように優しく微笑んでくれた。そのタイミングでお父様が「あ!」と声を漏らした。
「そうだ! この崩落で忘れていた! 初めに渡すつもりだったのだが、我が国からの贈り物だ」
お父様はそう言いながら手招きをすると、いつでも動けるようにスタンバイしていたハマナスが動こうとする。けれどポニーとロバは立ったままよだれを垂らして眠っていた。
ハマナスが小声で「起きてくれ」と言いながら二頭を揺さぶると、寝ぼけ眼で二頭は歩き始めた。その姿を見て両国から笑いが起きる。
「全て我が国で採れたものだ。このようなものを今度からそちらに売ることになる。私としては物々交換で良いのだが……」
すかさず「ダメよ!」と言うとお父様は口ごもる。ハマナスが木箱の蓋を開けると、ルーカス王は驚きの表情と共にサイモン大臣を呼んだ。
「……これはなんと素晴らしい!」
サイモン大臣の初めての言葉は褒め言葉だった。まるで宝石に触れるように果実や野菜を手に取り、いろいろな角度から農作物を見ている。
「冷えていないですが、一口いかがですか? アポーの実をどうぞ」
そう言ったハマナスはなにげにパワー部隊なのだが、芯の部分に親指を突っ込み「フンッ!」と力を入れると、アポーの実は真っ二つに割れた。
その腰に下げているナイフを使えば良いのに……とは、少し緊張気味のハマナスには言えなかった。
ハマナスは、その豪快さに驚いているルーカス王とサイモン大臣に割れたアポーの実を渡すと、二人はまじまじとそれを見つめている。
「水分がすごい……」
そう呟いたルーカス王が頬張るのと同時に、サイモン大臣もその実を一噛りする。目を見開いた二人は小動物のようにむさぼり始めた。
「美味い!」
「甘い!」
ルーカス王とサイモン大臣が同時に叫ぶ。そのルーカス王の表情は少年のような笑顔で、その表情にときめいてしまった。……間違いないわ、これは恋だわ……。
32
お気に入りに追加
1,985
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる