貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
307 / 366

超人

しおりを挟む
「お父様ー!」

 恥ずかしさに悶えるタデとヒイラギを置き去りにし、余裕の一着で到着したと思ったら、すぐ後ろにはそのタデとヒイラギが当たり前のようにいた。
 やはり身体能力は私よりも彼らのほうが上なのに、お父様に似ているなんて失礼だわ、なんて思っていると、お父様はゆっくりと振り向いた。

「カレン……タデ……ヒイラギ……」

 そう呟いたお父様は少しやつれていた。そのお父様と共に、オヒシバを励ましながらここまで来た者もやつれていた。
 その二人の足元には、干からびたようにやせ細った様子のオヒシバが転がっていた。

「オヒシバ!? どうしたの!?」

「……私には……姫様しか……おりません……」

 焦点の合っていないオヒシバを見たお父様は大きな溜め息を吐き、「ずっとこの調子だ……」と、疲れ果てたようにしゃがんだ。

「カレン……何か食えと言ってやってくれ……」

 そのお父様の言葉に、私とタデとヒイラギはドン引きしている。どうやらこちらが思っている以上に友人たちの妊娠騒動がショックだったようで、最低限の水分以外を受け付けない状態らしい。

「オヒシバ……もしかして、何も食べていないの……? 食べないとダメよ……?」

 あまりのオヒシバのやつれ具合に及び腰になりながらも、なんとか声をかけるとオヒシバはカッと目を見開いた。

「……姫様……食べる……私……食べる」

 なぜか片言で呟きだしたオヒシバは上半身を起こし、私たちはビクッと一歩後退した。
 そんなオヒシバは四つん這いで、しかも某不快害虫のようなスピードで食糧の保管場所へ行き、食べ物を貪り食っている。

「……オヒシバ、聞こえるか? 好きなだけ食って良いぞ」

 まだしゃがんだままのお父様が声をかけると、オヒシバは頷きながら食べている。
 私とタデとヒイラギは、何か見てはいけないものを見たような気持ちになってしまい、オヒシバからそっと目をそらした。

「ようやく食ったな……。かなり心に傷を負ったようだったが……カレンに救われたようだ。あとは……あっちか……」

 私は食べろと言っただけなのに、どうやらオヒシバの命を救ったようである。今日私が来なかったら、オヒシバはミイラになっていたかもしれない。
 そしてお父様は山の方向を見ながら溜め息をまた吐くが、タデとヒイラギもその方向を見て苦笑いになっている。

「何か聞こえるの?」

「姫には聞こえないのか?」

 苦笑いになっているタデとヒイラギに質問をすると、質問で返されてしまった。何も聞こえない私は首を横に振ると、ヒイラギが笑い出す。

「良いよ。姫のために真似してあげる」

 そう言ったヒイラギは声色を変えて話し始めた。

『カレン嬢! カレン嬢に早くお会いしたい! 早くこの岩を退かして、また爆薬を仕掛けましょう! さぁ皆さん早く!』

 すると、表情どころか顔色すら変えないタデも話し始めた。見た目とは裏腹に、ヒイラギの真似に乗ってくれたようである。

『お言葉ですが、これも朝から何回言ったかも分かりませんが、ニコライ様はなぜ手伝わないのです?』

『大丈夫ですマーク。しっかりと汚れをつけているので、カレン嬢は私が作業したと思ってくれるはずです!』

 あちらから聞こえて来るという声を教えてもらったが、偽ニコライさんと偽マークさんは話し終わると苦笑いである。

「……今、十人くらいの舌打ちが聞こえたぞ」

 お父様には『チッ』という舌打ちまで聞こえるらしく、こちらも苦笑いだ。
 相変わらずニコライさんはニコライさんを貫いているようで、ある意味感心と安心をしてしまう。

「さて、ニコライを働かせるか」

「どうやって?」

「まさか、アレをやるのか?」

 お父様の呟きに問いかけると、引きつったタデが質問をする。二人を見ると、お父様はニヤリと笑い、タデはヒクヒクとしている。

「これくらいの距離ならば聞こえるだろう。……落ちたら後は頼む」

 不吉な言葉を残し、お父様は山へ向かって走るとそのまま助走をつけて山へ登り始めた。そり立つ石灰岩の尖った山を素手で登っているとは思えないスピードで、お父様は某不快害虫のようにカサカサと上へ向かって進む。

「お父様!?」

「はい、姫は少し離れて耳を塞ごうねー」

 お父様の、ハッキリと言って気持ち悪いスピードに驚いていると、ヒイラギに手を引かれて広場側へと連れて行かれる。
 私がお父様だけに夢中になっているうちに、タデはお父様の真下へと移動し地上から見上げていた。

 何が起こるのか分からないままヒイラギに手を引かれて歩いてはいるが、顔だけはお父様の方を向き注意深く様子を伺っていると、お父様の動きがピタリと止まった。
 するとそっとヒイラギに両耳を塞がれた。

「ニィコラァイィィィィ! 聞こえているぞぉぉぉぉ! さっさと働いてぇぇぇぇ! 日が暮れる前にぃぃぃ開通させろぉぉぉぉ!!」

 人とは思えぬ声量に驚き一歩下がると、耳を塞ぐヒイラギにぶつかる。耳を塞がれている意味がないほどのお父様の叫び声だが、その声は私の全身や服すらも振動で震わせたほどだ。

 唖然としながらヒイラギを見上げ、私は言った。

「……お父様はやっぱり人を超えた何かよ……。絶対に……絶対に似ているなんて言わないで……」

 私の言葉にヒイラギは腹筋が崩壊してしまったようである。しばらく大声を出すのは控えようと私は誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

処理中です...