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「お父様ー!」
恥ずかしさに悶えるタデとヒイラギを置き去りにし、余裕の一着で到着したと思ったら、すぐ後ろにはそのタデとヒイラギが当たり前のようにいた。
やはり身体能力は私よりも彼らのほうが上なのに、お父様に似ているなんて失礼だわ、なんて思っていると、お父様はゆっくりと振り向いた。
「カレン……タデ……ヒイラギ……」
そう呟いたお父様は少しやつれていた。そのお父様と共に、オヒシバを励ましながらここまで来た者もやつれていた。
その二人の足元には、干からびたようにやせ細った様子のオヒシバが転がっていた。
「オヒシバ!? どうしたの!?」
「……私には……姫様しか……おりません……」
焦点の合っていないオヒシバを見たお父様は大きな溜め息を吐き、「ずっとこの調子だ……」と、疲れ果てたようにしゃがんだ。
「カレン……何か食えと言ってやってくれ……」
そのお父様の言葉に、私とタデとヒイラギはドン引きしている。どうやらこちらが思っている以上に友人たちの妊娠騒動がショックだったようで、最低限の水分以外を受け付けない状態らしい。
「オヒシバ……もしかして、何も食べていないの……? 食べないとダメよ……?」
あまりのオヒシバのやつれ具合に及び腰になりながらも、なんとか声をかけるとオヒシバはカッと目を見開いた。
「……姫様……食べる……私……食べる」
なぜか片言で呟きだしたオヒシバは上半身を起こし、私たちはビクッと一歩後退した。
そんなオヒシバは四つん這いで、しかも某不快害虫のようなスピードで食糧の保管場所へ行き、食べ物を貪り食っている。
「……オヒシバ、聞こえるか? 好きなだけ食って良いぞ」
まだしゃがんだままのお父様が声をかけると、オヒシバは頷きながら食べている。
私とタデとヒイラギは、何か見てはいけないものを見たような気持ちになってしまい、オヒシバからそっと目をそらした。
「ようやく食ったな……。かなり心に傷を負ったようだったが……カレンに救われたようだ。あとは……あっちか……」
私は食べろと言っただけなのに、どうやらオヒシバの命を救ったようである。今日私が来なかったら、オヒシバはミイラになっていたかもしれない。
そしてお父様は山の方向を見ながら溜め息をまた吐くが、タデとヒイラギもその方向を見て苦笑いになっている。
「何か聞こえるの?」
「姫には聞こえないのか?」
苦笑いになっているタデとヒイラギに質問をすると、質問で返されてしまった。何も聞こえない私は首を横に振ると、ヒイラギが笑い出す。
「良いよ。姫のために真似してあげる」
そう言ったヒイラギは声色を変えて話し始めた。
『カレン嬢! カレン嬢に早くお会いしたい! 早くこの岩を退かして、また爆薬を仕掛けましょう! さぁ皆さん早く!』
すると、表情どころか顔色すら変えないタデも話し始めた。見た目とは裏腹に、ヒイラギの真似に乗ってくれたようである。
『お言葉ですが、これも朝から何回言ったかも分かりませんが、ニコライ様はなぜ手伝わないのです?』
『大丈夫ですマーク。しっかりと汚れをつけているので、カレン嬢は私が作業したと思ってくれるはずです!』
あちらから聞こえて来るという声を教えてもらったが、偽ニコライさんと偽マークさんは話し終わると苦笑いである。
「……今、十人くらいの舌打ちが聞こえたぞ」
お父様には『チッ』という舌打ちまで聞こえるらしく、こちらも苦笑いだ。
相変わらずニコライさんはニコライさんを貫いているようで、ある意味感心と安心をしてしまう。
「さて、ニコライを働かせるか」
「どうやって?」
「まさか、アレをやるのか?」
お父様の呟きに問いかけると、引きつったタデが質問をする。二人を見ると、お父様はニヤリと笑い、タデはヒクヒクとしている。
「これくらいの距離ならば聞こえるだろう。……落ちたら後は頼む」
不吉な言葉を残し、お父様は山へ向かって走るとそのまま助走をつけて山へ登り始めた。そり立つ石灰岩の尖った山を素手で登っているとは思えないスピードで、お父様は某不快害虫のようにカサカサと上へ向かって進む。
「お父様!?」
「はい、姫は少し離れて耳を塞ごうねー」
お父様の、ハッキリと言って気持ち悪いスピードに驚いていると、ヒイラギに手を引かれて広場側へと連れて行かれる。
私がお父様だけに夢中になっているうちに、タデはお父様の真下へと移動し地上から見上げていた。
何が起こるのか分からないままヒイラギに手を引かれて歩いてはいるが、顔だけはお父様の方を向き注意深く様子を伺っていると、お父様の動きがピタリと止まった。
するとそっとヒイラギに両耳を塞がれた。
「ニィコラァイィィィィ! 聞こえているぞぉぉぉぉ! さっさと働いてぇぇぇぇ! 日が暮れる前にぃぃぃ開通させろぉぉぉぉ!!」
人とは思えぬ声量に驚き一歩下がると、耳を塞ぐヒイラギにぶつかる。耳を塞がれている意味がないほどのお父様の叫び声だが、その声は私の全身や服すらも振動で震わせたほどだ。
唖然としながらヒイラギを見上げ、私は言った。
「……お父様はやっぱり人を超えた何かよ……。絶対に……絶対に似ているなんて言わないで……」
私の言葉にヒイラギは腹筋が崩壊してしまったようである。しばらく大声を出すのは控えようと私は誓ったのだった。
恥ずかしさに悶えるタデとヒイラギを置き去りにし、余裕の一着で到着したと思ったら、すぐ後ろにはそのタデとヒイラギが当たり前のようにいた。
やはり身体能力は私よりも彼らのほうが上なのに、お父様に似ているなんて失礼だわ、なんて思っていると、お父様はゆっくりと振り向いた。
「カレン……タデ……ヒイラギ……」
そう呟いたお父様は少しやつれていた。そのお父様と共に、オヒシバを励ましながらここまで来た者もやつれていた。
その二人の足元には、干からびたようにやせ細った様子のオヒシバが転がっていた。
「オヒシバ!? どうしたの!?」
「……私には……姫様しか……おりません……」
焦点の合っていないオヒシバを見たお父様は大きな溜め息を吐き、「ずっとこの調子だ……」と、疲れ果てたようにしゃがんだ。
「カレン……何か食えと言ってやってくれ……」
そのお父様の言葉に、私とタデとヒイラギはドン引きしている。どうやらこちらが思っている以上に友人たちの妊娠騒動がショックだったようで、最低限の水分以外を受け付けない状態らしい。
「オヒシバ……もしかして、何も食べていないの……? 食べないとダメよ……?」
あまりのオヒシバのやつれ具合に及び腰になりながらも、なんとか声をかけるとオヒシバはカッと目を見開いた。
「……姫様……食べる……私……食べる」
なぜか片言で呟きだしたオヒシバは上半身を起こし、私たちはビクッと一歩後退した。
そんなオヒシバは四つん這いで、しかも某不快害虫のようなスピードで食糧の保管場所へ行き、食べ物を貪り食っている。
「……オヒシバ、聞こえるか? 好きなだけ食って良いぞ」
まだしゃがんだままのお父様が声をかけると、オヒシバは頷きながら食べている。
私とタデとヒイラギは、何か見てはいけないものを見たような気持ちになってしまい、オヒシバからそっと目をそらした。
「ようやく食ったな……。かなり心に傷を負ったようだったが……カレンに救われたようだ。あとは……あっちか……」
私は食べろと言っただけなのに、どうやらオヒシバの命を救ったようである。今日私が来なかったら、オヒシバはミイラになっていたかもしれない。
そしてお父様は山の方向を見ながら溜め息をまた吐くが、タデとヒイラギもその方向を見て苦笑いになっている。
「何か聞こえるの?」
「姫には聞こえないのか?」
苦笑いになっているタデとヒイラギに質問をすると、質問で返されてしまった。何も聞こえない私は首を横に振ると、ヒイラギが笑い出す。
「良いよ。姫のために真似してあげる」
そう言ったヒイラギは声色を変えて話し始めた。
『カレン嬢! カレン嬢に早くお会いしたい! 早くこの岩を退かして、また爆薬を仕掛けましょう! さぁ皆さん早く!』
すると、表情どころか顔色すら変えないタデも話し始めた。見た目とは裏腹に、ヒイラギの真似に乗ってくれたようである。
『お言葉ですが、これも朝から何回言ったかも分かりませんが、ニコライ様はなぜ手伝わないのです?』
『大丈夫ですマーク。しっかりと汚れをつけているので、カレン嬢は私が作業したと思ってくれるはずです!』
あちらから聞こえて来るという声を教えてもらったが、偽ニコライさんと偽マークさんは話し終わると苦笑いである。
「……今、十人くらいの舌打ちが聞こえたぞ」
お父様には『チッ』という舌打ちまで聞こえるらしく、こちらも苦笑いだ。
相変わらずニコライさんはニコライさんを貫いているようで、ある意味感心と安心をしてしまう。
「さて、ニコライを働かせるか」
「どうやって?」
「まさか、アレをやるのか?」
お父様の呟きに問いかけると、引きつったタデが質問をする。二人を見ると、お父様はニヤリと笑い、タデはヒクヒクとしている。
「これくらいの距離ならば聞こえるだろう。……落ちたら後は頼む」
不吉な言葉を残し、お父様は山へ向かって走るとそのまま助走をつけて山へ登り始めた。そり立つ石灰岩の尖った山を素手で登っているとは思えないスピードで、お父様は某不快害虫のようにカサカサと上へ向かって進む。
「お父様!?」
「はい、姫は少し離れて耳を塞ごうねー」
お父様の、ハッキリと言って気持ち悪いスピードに驚いていると、ヒイラギに手を引かれて広場側へと連れて行かれる。
私がお父様だけに夢中になっているうちに、タデはお父様の真下へと移動し地上から見上げていた。
何が起こるのか分からないままヒイラギに手を引かれて歩いてはいるが、顔だけはお父様の方を向き注意深く様子を伺っていると、お父様の動きがピタリと止まった。
するとそっとヒイラギに両耳を塞がれた。
「ニィコラァイィィィィ! 聞こえているぞぉぉぉぉ! さっさと働いてぇぇぇぇ! 日が暮れる前にぃぃぃ開通させろぉぉぉぉ!!」
人とは思えぬ声量に驚き一歩下がると、耳を塞ぐヒイラギにぶつかる。耳を塞がれている意味がないほどのお父様の叫び声だが、その声は私の全身や服すらも振動で震わせたほどだ。
唖然としながらヒイラギを見上げ、私は言った。
「……お父様はやっぱり人を超えた何かよ……。絶対に……絶対に似ているなんて言わないで……」
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