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監視小屋へ
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隣の住居にいるワラビさんとゼンマイさんは、野菜の天ぷらや素揚げ、野菜炒めが食べたいとリクエストをしてくれた。
火を起こすのが苦手な私は申し訳ないと謝りつつ着火だけを頼み、たくさんの料理を作った。
二人はそんなに量は食べられないと少しだけ食べたが、残ったものは別の妊婦に持って行ったらどうかと提案してくれた。
食器をお借りし、余り物を詰めて簡易住居のほうへ行くと、こちらでも天ぷらや素揚げが人気だった。胃もたれしないかとこちらが心配になるほどだった。
────
そんな生活を数日続けていたある日、監視小屋に食糧を持って行った者が私を探しに来た。
「姫様! モクレン様がお呼びです! いよいよ開通しそうとのことですが、モクレン様の耳にはあちら側から『カレン嬢! カレン嬢!』と声が聞こえているそうです!」
山の向こうから聞こえるという声の持ち主に心当たりがありすぎて、思わず苦笑いになってしまった。
とはいえ、ようやく開通する国境のことを考えればワクワクとドキドキが勝る。
「分かったわ。スイレンはどうしたら良いかしら?」
「まずは姫様だけとのことです! 姫様なら、何かがあっても機敏に動けるとのことで……。あとはタデとヒイラギにも来てほしいと言っておりました」
一部言葉を濁されてしまったが、要するに運動が苦手で俊敏に動けないスイレンは、安全が確保されてから行くことになるようだ。
タデとヒイラギを呼びに行ってもらっている間に私はお母様に状況を話しに行き、妊婦さんたちの食事や身の回りの世話を交代してもらった。
数日お父様に会えていないお母様だが、今はこれから産まれてくる子どもたちのことで頭がいっぱいのようで、募る思いや寂しさなどはないようだ。
「「姫!」」
お母様と話していると、タデとヒイラギも広場にやって来た。二人は国境開通へのピリピリとした思いと、奥様を置いていくソワソワが見てとれる。
そんな様子を見たお母様は、二人に声をかけた。
「大丈夫よ。今日明日、ということはないと思うわ。こちらは私に任せて、モクレンの力になってあげて」
お母様の言葉を聞いた二人は頷き、「よろしく頼む」とお母様に伝えた。
「ポニー、ロバ。私は少しお出かけするから、私が帰るまでお母様の言うことを聞くのよ?」
二頭には食材などを載せた荷車を取り付けてあるので、このままお母様に二頭を託す。二頭ともいななき、私の言葉を分かってくれたようだ。
「じゃあ行きましょうか」
タデとヒイラギに声をかけ、小走り気味に広場を出る。森を抜け、監視小屋までの小さなデーツの並木道を走っているが、二人は私に合わせてゆっくり走っているのだろう。
それなのに二人は嫌な顔一つせず、私のスピードに合わせてくれている。
「姫って、スイレン様よりも体力があるよね。下手したら力も」
「あぁ分かる。体力面はモクレンに似たんだろう」
なんとなく呟いたであろうヒイラギの言葉にタデが同意した。けれど私は反論させていただきたい。
「そんな……私はあんな怪力を通り越した、超力の人にはなりたくないわ……」
お父様を悪く言うつもりはないが、どう客観的に見てもお父様は人間離れしている。それに似ていると言われてしまうのは、女子としては許しがたい。
なのに二人は『超力』という言葉がツボに入ったのか、声を出して笑い始めた。
「長年外に出ていなかったのに、難なくリトールの町との往復をたくさんしているじゃないか。さらにはリーンウン国にまで旅に行った」
「そうそう。それだけじゃないよ。あんなに簡単に木登りをする女の子はなかなかいないよ」
タデはそう言うが、最低でも二泊は夜営するリトールの町への旅路はそれなりに疲れはするのだ。
そしてヒイラギの言う木登りだが、前世での生活でコツを知っているから登れるのだ。とはいえ、スイレンが木に登れる未来は想像できない。
「……できれば私、お母様のような大人の女性になりたいのだけれど……」
その言葉を聞いた二人は吹き出す。
「レンゲはレンゲであの危うさがなぁ」
「モクレンは力で人を殺せるけど、レンゲは無言で人を殺せてしまいそうで」
美人という前提はあるが、確かにお母様はただの天然なのに、リトールの町の人たちを鼻血まみれにし、出血死させるのかと思うほどだった。
「スイレン様はレンゲに似ていると思うけどなぁ」
そういえばスイレンは、あのクジャを天然の力で恋に落としたくらいだ。私と顔が一緒なのにだ。ある意味、スイレンは将来的に一番危険な男なのかもしれない。
「そういえばね、あの監視小屋だけど……」
「なんだ?」
「どうしたの?」
深刻そうに言った私の言葉に、少し先を走る二人は真面目な顔で振り返った。
「あそこでどれだけすごい回数をこなしたの?」
二人は不思議そうな顔をしたが、私がニヤッと笑うと言葉の意味を理解したようである。
「「なーーーー!!」」
なーとも、あーとも聞こえる声で二人は真っ赤になって叫び立ち止まった。
その横を私はニヤニヤとしながら走り抜けた。ようやくお父様に似ていると言う二人にお返しが出来たわ。
火を起こすのが苦手な私は申し訳ないと謝りつつ着火だけを頼み、たくさんの料理を作った。
二人はそんなに量は食べられないと少しだけ食べたが、残ったものは別の妊婦に持って行ったらどうかと提案してくれた。
食器をお借りし、余り物を詰めて簡易住居のほうへ行くと、こちらでも天ぷらや素揚げが人気だった。胃もたれしないかとこちらが心配になるほどだった。
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そんな生活を数日続けていたある日、監視小屋に食糧を持って行った者が私を探しに来た。
「姫様! モクレン様がお呼びです! いよいよ開通しそうとのことですが、モクレン様の耳にはあちら側から『カレン嬢! カレン嬢!』と声が聞こえているそうです!」
山の向こうから聞こえるという声の持ち主に心当たりがありすぎて、思わず苦笑いになってしまった。
とはいえ、ようやく開通する国境のことを考えればワクワクとドキドキが勝る。
「分かったわ。スイレンはどうしたら良いかしら?」
「まずは姫様だけとのことです! 姫様なら、何かがあっても機敏に動けるとのことで……。あとはタデとヒイラギにも来てほしいと言っておりました」
一部言葉を濁されてしまったが、要するに運動が苦手で俊敏に動けないスイレンは、安全が確保されてから行くことになるようだ。
タデとヒイラギを呼びに行ってもらっている間に私はお母様に状況を話しに行き、妊婦さんたちの食事や身の回りの世話を交代してもらった。
数日お父様に会えていないお母様だが、今はこれから産まれてくる子どもたちのことで頭がいっぱいのようで、募る思いや寂しさなどはないようだ。
「「姫!」」
お母様と話していると、タデとヒイラギも広場にやって来た。二人は国境開通へのピリピリとした思いと、奥様を置いていくソワソワが見てとれる。
そんな様子を見たお母様は、二人に声をかけた。
「大丈夫よ。今日明日、ということはないと思うわ。こちらは私に任せて、モクレンの力になってあげて」
お母様の言葉を聞いた二人は頷き、「よろしく頼む」とお母様に伝えた。
「ポニー、ロバ。私は少しお出かけするから、私が帰るまでお母様の言うことを聞くのよ?」
二頭には食材などを載せた荷車を取り付けてあるので、このままお母様に二頭を託す。二頭ともいななき、私の言葉を分かってくれたようだ。
「じゃあ行きましょうか」
タデとヒイラギに声をかけ、小走り気味に広場を出る。森を抜け、監視小屋までの小さなデーツの並木道を走っているが、二人は私に合わせてゆっくり走っているのだろう。
それなのに二人は嫌な顔一つせず、私のスピードに合わせてくれている。
「姫って、スイレン様よりも体力があるよね。下手したら力も」
「あぁ分かる。体力面はモクレンに似たんだろう」
なんとなく呟いたであろうヒイラギの言葉にタデが同意した。けれど私は反論させていただきたい。
「そんな……私はあんな怪力を通り越した、超力の人にはなりたくないわ……」
お父様を悪く言うつもりはないが、どう客観的に見てもお父様は人間離れしている。それに似ていると言われてしまうのは、女子としては許しがたい。
なのに二人は『超力』という言葉がツボに入ったのか、声を出して笑い始めた。
「長年外に出ていなかったのに、難なくリトールの町との往復をたくさんしているじゃないか。さらにはリーンウン国にまで旅に行った」
「そうそう。それだけじゃないよ。あんなに簡単に木登りをする女の子はなかなかいないよ」
タデはそう言うが、最低でも二泊は夜営するリトールの町への旅路はそれなりに疲れはするのだ。
そしてヒイラギの言う木登りだが、前世での生活でコツを知っているから登れるのだ。とはいえ、スイレンが木に登れる未来は想像できない。
「……できれば私、お母様のような大人の女性になりたいのだけれど……」
その言葉を聞いた二人は吹き出す。
「レンゲはレンゲであの危うさがなぁ」
「モクレンは力で人を殺せるけど、レンゲは無言で人を殺せてしまいそうで」
美人という前提はあるが、確かにお母様はただの天然なのに、リトールの町の人たちを鼻血まみれにし、出血死させるのかと思うほどだった。
「スイレン様はレンゲに似ていると思うけどなぁ」
そういえばスイレンは、あのクジャを天然の力で恋に落としたくらいだ。私と顔が一緒なのにだ。ある意味、スイレンは将来的に一番危険な男なのかもしれない。
「そういえばね、あの監視小屋だけど……」
「なんだ?」
「どうしたの?」
深刻そうに言った私の言葉に、少し先を走る二人は真面目な顔で振り返った。
「あそこでどれだけすごい回数をこなしたの?」
二人は不思議そうな顔をしたが、私がニヤッと笑うと言葉の意味を理解したようである。
「「なーーーー!!」」
なーとも、あーとも聞こえる声で二人は真っ赤になって叫び立ち止まった。
その横を私はニヤニヤとしながら走り抜けた。ようやくお父様に似ていると言う二人にお返しが出来たわ。
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