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カレンの会心の一撃
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新しい朝が来た。希望に満ち溢れた朝だ。そんなどこかで聞いたような歌の歌詞を思い出しながら、私は身支度をする。
外へと出る前に、家の中でお母様と今日のやることについて話し合っていると、スイレンもじいやと何かを話している。
昨日のあの騒動の中、スイレンは一人で淡々と何かをしていた。子どもが産まれるということをあまり理解していないのと、スイレンなりに民たちのために何かをしようと考えてのことだろう。
スイレンは冷めているわけではないのだ。むしろ見た目と違い、熱い気持ちを持っているのを私は知っている。
民たちが広場に集まり始める中、私は朝の挨拶をしながら駆け出す。ポニーとロバの元へとだ。今日から二頭には重大な任務を与えるのだ。
「おはようポニー、ロバ。ご飯中に申し訳ないのだけれど、今日からたくさんお仕事をしてもらうわ」
放牧地でモシャモシャと草を食べていた二頭は、私の言葉を聞いてすぐにこちらへ来てくれた。賢いこの子たちに後でたっぷりとおやつをあげよう。
二頭を連れて広場へ戻り、荷車を取り付けているとお母様たちが木箱を運んで来てくれた。中には採れたて新鮮な野菜や果実が詰め込まれている。
実は先ほどお母様と話していたのはこのことだ。動くこともままならない妊婦さんたちのために、今日から私は各住居を見回りするのだ。
新米パパたちが作業に行っている間に、新米ママたちに何かがあっては大変だ。例え迷惑がられようとも、一日いっぱい何回もお宅訪問をすると決めたのだ。
「ではお母様、行ってくるわ」
「よろしく頼むわね」
お母様はキリリとした表情で私を見送ってくれる。子どもが産まれるという、この土地に来てからの一番の喜び事に、一番気を張っているのはお母様なのかもしれない。
お母様はこれからのために、いつも以上に布を作ると気合が入っている。動ける女性を、布と糸作りに総動員すると言っていたくらいだ。
────
「おはよう! ハコベさん、ナズナさんの調子はどうかしら?」
住居の勝手口から声をかけると、タデとヒイラギがいそいそと食事の支度をしていた。
玄関からではなく勝手口からお邪魔するのは、日本の田舎を思い出させる。
「「姫!」」
二人は笑顔で私を迎えてくれた。
「今日から私が妊娠中の女性たちを見回るから、二人は作業に集中して大丈夫よ。食べられるかどうかは別として、食事の用意も私がするわ」
そう言うと二人は喜び、私を揉みくちゃにする。最近思うのだけれど、二人の私に対する愛情表現は激しいわ……。
「……ふぅ……。ハコベさんとナズナさんはどうしているの?」
「暖炉の近くに二人で寝ている。便所にも近いし、階段から落ちたら大変だからな」
旦那様たちは奥様たちの体調を気遣い、いろいろとやっているようだ。ここはこのまま任せて大丈夫だと判断し、冷蔵庫代わりの壺の中にいくらか食材を補充し、隣の住居へと向かうことにした。
元ヒイラギ宅には、ウルイとミツバが婚約者であるワラビさんとゼンマイさんと移り住んだが、こちらも奥様が体調が悪く、男二人で食事の支度をしていた。
ワラビさんとゼンマイさんは二階に寝ていると言うので、万が一を考え、ハコベさんたちのように一階に降りて来てもらうことにした。その間、私は鍋の番をしていた。
ワラビさんとゼンマイさんが居間に寝たのを見届け、こちらの壺にも食材を入れて隣へと向かった。
「みんなー、おは……よう……?」
イチビたちの住居の勝手口から声をかけると、中からは言い争うような声が聞こえて来た。何があったのかと驚き、靴を脱いで勝手に上がり込んだ。
「どうしたの!? 何かあった!?」
「「「姫様……」」」
「「「姫様!」」」
イチビたち男性陣はハの字眉毛の困り顔でゲンナリとしながら、女性陣はハツラツとした笑顔で私を呼ぶ。とりあえず女性陣が元気なことにホッとする。
「えぇと……女性たちは元気そうに見えるけど……何か問題でも……?」
タジタジとしたイチビたちに気を遣いながら聞いてみると、真っ先に口を開いたのは女性たちだ。
「見ての通り元気なんだ」
「たまに気持ち悪くなったりはするけど……」
「早く作業に向かいたいんです」
キキョウさんにナデシコさん、セリさんが同時に叫ぶ。けれど、婚約者の身に何かがあると困る男性陣は、女性陣の気迫にビクビクとしながらも体を気遣ってほしいと言う。
この構図に既視感を覚えるのは、お父様たちがお母様たちを怒らせた時のようだからだろう。……この王国の女性陣は何気なく強いのだ。
とはいえ、イチビたちの気持ちも分かるので、間を取り持つことにしよう。
「キキョウさん、ナデシコさん、なんともないようなら、お母様たちの手伝いを頼んでも良いかしら?」
私の言葉を聞いたキキョウさんとナデシコさんは頷くが、イチビとハマスゲは「でも……」と、控えめな反論をする。
「具合が悪いなら休んでいるべきだけれど、元気なら少しは体を動かしても大丈夫よ。それにお母様の手伝いと言っても、糸や布作りよ? 女性たちが周りにいるし、一番安全だと思わない?」
イチビとハマスゲはようやく納得してくれたようだが、問題はセリさんである。
彼女は農作業の楽しさを知ってしまい、自分が作って収穫したものを食べる人が見たいとの思いで、私たちとリトールの町まで行ったくらいだ。
さらには妊娠中なのを隠し、連日農作業に勤しんでいたくらいだ。生半可な言葉では諦めないだろう。
「セリさん、シャガは心配なのよ……。セリさんの体はもちろんだけど、シャガ以外の他の誰かを押し倒してしまわないかと……」
「「あーーー!!」」
セリさんの体のためを思い、農作業を諦めさせるために爆弾発言をしたが、シャガにまで猛烈な流れ弾を当ててしまい、二人は耳や顔を覆い悶えてしまった。
それを見たイチビたちにからかわれ、二人は撃沈してしまった。
セリさんの農作業への戦意喪失には成功したので、結果オーライである。
外へと出る前に、家の中でお母様と今日のやることについて話し合っていると、スイレンもじいやと何かを話している。
昨日のあの騒動の中、スイレンは一人で淡々と何かをしていた。子どもが産まれるということをあまり理解していないのと、スイレンなりに民たちのために何かをしようと考えてのことだろう。
スイレンは冷めているわけではないのだ。むしろ見た目と違い、熱い気持ちを持っているのを私は知っている。
民たちが広場に集まり始める中、私は朝の挨拶をしながら駆け出す。ポニーとロバの元へとだ。今日から二頭には重大な任務を与えるのだ。
「おはようポニー、ロバ。ご飯中に申し訳ないのだけれど、今日からたくさんお仕事をしてもらうわ」
放牧地でモシャモシャと草を食べていた二頭は、私の言葉を聞いてすぐにこちらへ来てくれた。賢いこの子たちに後でたっぷりとおやつをあげよう。
二頭を連れて広場へ戻り、荷車を取り付けているとお母様たちが木箱を運んで来てくれた。中には採れたて新鮮な野菜や果実が詰め込まれている。
実は先ほどお母様と話していたのはこのことだ。動くこともままならない妊婦さんたちのために、今日から私は各住居を見回りするのだ。
新米パパたちが作業に行っている間に、新米ママたちに何かがあっては大変だ。例え迷惑がられようとも、一日いっぱい何回もお宅訪問をすると決めたのだ。
「ではお母様、行ってくるわ」
「よろしく頼むわね」
お母様はキリリとした表情で私を見送ってくれる。子どもが産まれるという、この土地に来てからの一番の喜び事に、一番気を張っているのはお母様なのかもしれない。
お母様はこれからのために、いつも以上に布を作ると気合が入っている。動ける女性を、布と糸作りに総動員すると言っていたくらいだ。
────
「おはよう! ハコベさん、ナズナさんの調子はどうかしら?」
住居の勝手口から声をかけると、タデとヒイラギがいそいそと食事の支度をしていた。
玄関からではなく勝手口からお邪魔するのは、日本の田舎を思い出させる。
「「姫!」」
二人は笑顔で私を迎えてくれた。
「今日から私が妊娠中の女性たちを見回るから、二人は作業に集中して大丈夫よ。食べられるかどうかは別として、食事の用意も私がするわ」
そう言うと二人は喜び、私を揉みくちゃにする。最近思うのだけれど、二人の私に対する愛情表現は激しいわ……。
「……ふぅ……。ハコベさんとナズナさんはどうしているの?」
「暖炉の近くに二人で寝ている。便所にも近いし、階段から落ちたら大変だからな」
旦那様たちは奥様たちの体調を気遣い、いろいろとやっているようだ。ここはこのまま任せて大丈夫だと判断し、冷蔵庫代わりの壺の中にいくらか食材を補充し、隣の住居へと向かうことにした。
元ヒイラギ宅には、ウルイとミツバが婚約者であるワラビさんとゼンマイさんと移り住んだが、こちらも奥様が体調が悪く、男二人で食事の支度をしていた。
ワラビさんとゼンマイさんは二階に寝ていると言うので、万が一を考え、ハコベさんたちのように一階に降りて来てもらうことにした。その間、私は鍋の番をしていた。
ワラビさんとゼンマイさんが居間に寝たのを見届け、こちらの壺にも食材を入れて隣へと向かった。
「みんなー、おは……よう……?」
イチビたちの住居の勝手口から声をかけると、中からは言い争うような声が聞こえて来た。何があったのかと驚き、靴を脱いで勝手に上がり込んだ。
「どうしたの!? 何かあった!?」
「「「姫様……」」」
「「「姫様!」」」
イチビたち男性陣はハの字眉毛の困り顔でゲンナリとしながら、女性陣はハツラツとした笑顔で私を呼ぶ。とりあえず女性陣が元気なことにホッとする。
「えぇと……女性たちは元気そうに見えるけど……何か問題でも……?」
タジタジとしたイチビたちに気を遣いながら聞いてみると、真っ先に口を開いたのは女性たちだ。
「見ての通り元気なんだ」
「たまに気持ち悪くなったりはするけど……」
「早く作業に向かいたいんです」
キキョウさんにナデシコさん、セリさんが同時に叫ぶ。けれど、婚約者の身に何かがあると困る男性陣は、女性陣の気迫にビクビクとしながらも体を気遣ってほしいと言う。
この構図に既視感を覚えるのは、お父様たちがお母様たちを怒らせた時のようだからだろう。……この王国の女性陣は何気なく強いのだ。
とはいえ、イチビたちの気持ちも分かるので、間を取り持つことにしよう。
「キキョウさん、ナデシコさん、なんともないようなら、お母様たちの手伝いを頼んでも良いかしら?」
私の言葉を聞いたキキョウさんとナデシコさんは頷くが、イチビとハマスゲは「でも……」と、控えめな反論をする。
「具合が悪いなら休んでいるべきだけれど、元気なら少しは体を動かしても大丈夫よ。それにお母様の手伝いと言っても、糸や布作りよ? 女性たちが周りにいるし、一番安全だと思わない?」
イチビとハマスゲはようやく納得してくれたようだが、問題はセリさんである。
彼女は農作業の楽しさを知ってしまい、自分が作って収穫したものを食べる人が見たいとの思いで、私たちとリトールの町まで行ったくらいだ。
さらには妊娠中なのを隠し、連日農作業に勤しんでいたくらいだ。生半可な言葉では諦めないだろう。
「セリさん、シャガは心配なのよ……。セリさんの体はもちろんだけど、シャガ以外の他の誰かを押し倒してしまわないかと……」
「「あーーー!!」」
セリさんの体のためを思い、農作業を諦めさせるために爆弾発言をしたが、シャガにまで猛烈な流れ弾を当ててしまい、二人は耳や顔を覆い悶えてしまった。
それを見たイチビたちにからかわれ、二人は撃沈してしまった。
セリさんの農作業への戦意喪失には成功したので、結果オーライである。
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