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みんな倒れる
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国境を抜け、珍しくほとんど砂嵐に遭遇することもなく、無事にいつもの小屋に到着した。
雲一つない空を見上げ、天の川のような星空を見ながら夕食を食べ、寒さからシャガとハマスゲとくっついて眠った。
「姫様、あの植物を植えるには、浄化設備に水を貯めたほうが良いのでは?」
まだ冷える早朝、完全に目覚めていない私は、シャガのその声に起こされた。
「……そうね、そうよね。水がないといけない植物ですものね」
だんだんと頭がクリアになっていき、起き上がりながらそう言うとシャガが微笑んだ。
「先に私が戻ります。最低でも、一番上の設備には水を貯めておきます」
シャガはキラリと光る笑顔を残し、朝食も食べずに颯爽と小屋から出て行ってしまった。
「……何も食べずに行くなんて……」
思わず呟くと、ハマスゲがアポーの実を切り分けながら口を開いた。
「ジェイソンさんと筋肉の話で盛り上がりましたからね。鍛錬も兼ねて、走って行ったのでしょう。シャガは、私よりも筋肉があるジェイソンさんやオヒシバのような、前から見ても横から見ても分かるような、ぶ厚い筋肉を欲しがっているんですよ」
ハハハ、とハマスゲは笑うが、私は目を見開いて動きが止まってしまった。
「……ダメよ! シャガはあのままが良いのよ! シャガ、早まったらダメよ!」
シャガには細マッチョでいてもらいたい私は、ドタバタと小屋から出たが、そこにはもうシャガはいなかった。
────
ポニーとロバに草を食べさせながら、私とハマスゲはのんびりと歩いて広場へと向かっている。
ひとしきり筋肉について語り合ったが、個人的好みもあると前置きした上で、シャガのような細マッチョが前世の女子の間では人気があったなどと話していた。
「それにしても、姫様と二人というのも珍しいですね。オヒシバがいると本当に……」
先ほどまでニコニコとしていたハマスゲが溜め息を吐いた。
「いつも暴走するのを止めるのがハマスゲですものね。それにしても、どうしてこの子たちを邪険にするのかしら?」
苦笑いをしながら、いつもオヒシバが暴走する姿を思い浮かべていると、ポニーとロバは耳をこちらに向けている。
「あぁ、それは姫様のことが好きすぎて……あっ! 今のは聞かなかったことにしてください!」
知りたくなかった事実に、耳と脳が拒否反応を示した。
「ポニー! ロバ! 少し急ぎましょうか。植物が萎れてきているわ。あら、少しずつデーツを植えてくれているのね」
ハマスゲの言葉に全く触れず、私が真顔でポニーとロバに声をかけて走り出すと、ハマスゲは頭を抱えて青ざめていた。
────
「ただいま!」
広場へ到着すると、糸を作っていたお母様たちや、作業をしていたヒイラギに浄化設備に向かうように声をかけられ、私たちは立ち止まることなくそのまま進む。
「あ! カレン! 大丈夫? 疲れてない?」
私の姿を確認したスイレンが走り寄って来た。
「えぇ大丈夫よ。作業はどう?」
スイレンに問いかけると、浄化設備となる棚田は残り二段となり、あとは川へと続く部分を仕上げれば完成だそうだ。お父様たちが現在も作業をしているらしい。
順番に作って行った一段目以降には砂が多く入り込んでいて、先ほどまで砂を掻き出していたらしい。
「今ね、シャガとオヒシバが住居に行って、下水の確認をしながら水を出してくれてるの」
各住居の台所や風呂場から水を流し、詰まりがないかを確認もしているようだ。
言っているそばからチョロチョロと水が流れて来た。
「誰か土を運んでちょうだい」
私の言葉に数名が走り出した。その間に私とハマスゲは荷車から水生植物を降ろし、蛇籠の隙間や水が溜まる部分に泥ごと植え付けていく。
運んで来てもらった土は棚田周辺に撒いてもらい、湿性植物を植えていく。
この浄化設備は、オーバーフローした水が下の段に流れるように作られている。水量が少ないのでゆっくりとだったが、三段目までは水が溜まったので、シャガとオヒシバに水を止めてもらうよう伝えに走ってもらった。
かなりの量を採取したつもりだったが、こうやって植えたものを見てみるとまだまだ足りない。根が定着すれば自然と増えてくれるだろう。
「姫様、お戻りでしたか。どれ、じいも手伝いましょう」
一足先に作業を終えたじいやがこちらに来てくれた。それと同時にシャガとオヒシバもこちらに向かって歩いて来ていた。
私は大事なことを思い出し、叫びながら走った。
「シャガ! それ以上筋肉を付けたらダメよ! 私はシャガの体が好きなのよ! その体が良いの! 抱きついて眠るには、ハマスゲの体が好きだけれど!」
その瞬間オヒシバが卒倒し、背後からはバタバタと人が倒れる音がした。振り向けば、あまりの光景にスイレンがパニックになるほどカオスな状況だった。
ちなみに皆が倒れた原因は、私がシャガとハマスゲと良からぬことをしたと勘違いしたからだった。もちろんそんなことはないので、怒りながらしっかりと説明をさせてもらった。全く失礼しちゃうわ。
そしてじいやが倒れた原因は他の者とは違い、植物が入っていると思って見た木箱の中に、イトミミズもどきがウネウネとダマになっているのを見て卒倒したらしい。ごめんなさいじいや、初めに言っておくべきだったわね……。
雲一つない空を見上げ、天の川のような星空を見ながら夕食を食べ、寒さからシャガとハマスゲとくっついて眠った。
「姫様、あの植物を植えるには、浄化設備に水を貯めたほうが良いのでは?」
まだ冷える早朝、完全に目覚めていない私は、シャガのその声に起こされた。
「……そうね、そうよね。水がないといけない植物ですものね」
だんだんと頭がクリアになっていき、起き上がりながらそう言うとシャガが微笑んだ。
「先に私が戻ります。最低でも、一番上の設備には水を貯めておきます」
シャガはキラリと光る笑顔を残し、朝食も食べずに颯爽と小屋から出て行ってしまった。
「……何も食べずに行くなんて……」
思わず呟くと、ハマスゲがアポーの実を切り分けながら口を開いた。
「ジェイソンさんと筋肉の話で盛り上がりましたからね。鍛錬も兼ねて、走って行ったのでしょう。シャガは、私よりも筋肉があるジェイソンさんやオヒシバのような、前から見ても横から見ても分かるような、ぶ厚い筋肉を欲しがっているんですよ」
ハハハ、とハマスゲは笑うが、私は目を見開いて動きが止まってしまった。
「……ダメよ! シャガはあのままが良いのよ! シャガ、早まったらダメよ!」
シャガには細マッチョでいてもらいたい私は、ドタバタと小屋から出たが、そこにはもうシャガはいなかった。
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ポニーとロバに草を食べさせながら、私とハマスゲはのんびりと歩いて広場へと向かっている。
ひとしきり筋肉について語り合ったが、個人的好みもあると前置きした上で、シャガのような細マッチョが前世の女子の間では人気があったなどと話していた。
「それにしても、姫様と二人というのも珍しいですね。オヒシバがいると本当に……」
先ほどまでニコニコとしていたハマスゲが溜め息を吐いた。
「いつも暴走するのを止めるのがハマスゲですものね。それにしても、どうしてこの子たちを邪険にするのかしら?」
苦笑いをしながら、いつもオヒシバが暴走する姿を思い浮かべていると、ポニーとロバは耳をこちらに向けている。
「あぁ、それは姫様のことが好きすぎて……あっ! 今のは聞かなかったことにしてください!」
知りたくなかった事実に、耳と脳が拒否反応を示した。
「ポニー! ロバ! 少し急ぎましょうか。植物が萎れてきているわ。あら、少しずつデーツを植えてくれているのね」
ハマスゲの言葉に全く触れず、私が真顔でポニーとロバに声をかけて走り出すと、ハマスゲは頭を抱えて青ざめていた。
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「ただいま!」
広場へ到着すると、糸を作っていたお母様たちや、作業をしていたヒイラギに浄化設備に向かうように声をかけられ、私たちは立ち止まることなくそのまま進む。
「あ! カレン! 大丈夫? 疲れてない?」
私の姿を確認したスイレンが走り寄って来た。
「えぇ大丈夫よ。作業はどう?」
スイレンに問いかけると、浄化設備となる棚田は残り二段となり、あとは川へと続く部分を仕上げれば完成だそうだ。お父様たちが現在も作業をしているらしい。
順番に作って行った一段目以降には砂が多く入り込んでいて、先ほどまで砂を掻き出していたらしい。
「今ね、シャガとオヒシバが住居に行って、下水の確認をしながら水を出してくれてるの」
各住居の台所や風呂場から水を流し、詰まりがないかを確認もしているようだ。
言っているそばからチョロチョロと水が流れて来た。
「誰か土を運んでちょうだい」
私の言葉に数名が走り出した。その間に私とハマスゲは荷車から水生植物を降ろし、蛇籠の隙間や水が溜まる部分に泥ごと植え付けていく。
運んで来てもらった土は棚田周辺に撒いてもらい、湿性植物を植えていく。
この浄化設備は、オーバーフローした水が下の段に流れるように作られている。水量が少ないのでゆっくりとだったが、三段目までは水が溜まったので、シャガとオヒシバに水を止めてもらうよう伝えに走ってもらった。
かなりの量を採取したつもりだったが、こうやって植えたものを見てみるとまだまだ足りない。根が定着すれば自然と増えてくれるだろう。
「姫様、お戻りでしたか。どれ、じいも手伝いましょう」
一足先に作業を終えたじいやがこちらに来てくれた。それと同時にシャガとオヒシバもこちらに向かって歩いて来ていた。
私は大事なことを思い出し、叫びながら走った。
「シャガ! それ以上筋肉を付けたらダメよ! 私はシャガの体が好きなのよ! その体が良いの! 抱きついて眠るには、ハマスゲの体が好きだけれど!」
その瞬間オヒシバが卒倒し、背後からはバタバタと人が倒れる音がした。振り向けば、あまりの光景にスイレンがパニックになるほどカオスな状況だった。
ちなみに皆が倒れた原因は、私がシャガとハマスゲと良からぬことをしたと勘違いしたからだった。もちろんそんなことはないので、怒りながらしっかりと説明をさせてもらった。全く失礼しちゃうわ。
そしてじいやが倒れた原因は他の者とは違い、植物が入っていると思って見た木箱の中に、イトミミズもどきがウネウネとダマになっているのを見て卒倒したらしい。ごめんなさいじいや、初めに言っておくべきだったわね……。
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