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お別れ会
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スイレンは泣きながらも、その日の終わりまで仕事をし続けた。話を聞いたブルーノさんもジェイソンさんも、手を抜かずにこの国のために働いてくれた。
ただ、翌日急に帰るのは大変だろうと、一日の猶予を設けた。
お父様とも話し合った結果、作業はスイレンが泣いた翌日の午前までとし、午後からはブルーノさんとジェイソンさんのお別れ会が開かれることになった。
農作業担当のエビネとタラは、朝からお母様たちの手も借りて新鮮な野菜や果実を収穫し、老人たちはその収穫されたものを使って腕によりをかけ料理を作り始めた。
私は調理の手伝いに入り、おそらく夜まで続く宴会のために、それは料理の数々を作り上げた。
────
「それでは、長らくこの国のために手伝ってくれていたブルーノ殿とジェイソン殿のために!」
お父様がそう音頭を取り、飲み物の入ったコップを掲げると、私たち全員も同じようにコップを掲げ「カンパイ!」と叫ぶ。
私たち子どものコップの中は当然果実を搾ったものだが、大人たちも前回の失敗を踏まえ果実水を飲んでいる。
「さぁ! どんどん料理を運びましょう!」
アポーの実を搾ったものを一口飲み、私は大声を張り上げる。
今日の主役はもちろんブルーノさんとジェイソンさんだが、今まで一緒に作業をして来た者たちを労うためでもあるのだ。
ちなみにスイレンはブルーノさんの横を陣取り、ジェイソンさんはじいやの横を死守している。
「ブルーノさん! ジェイソンさん! 食べまくってちょうだい!」
ひたすら料理を盛り付けながら叫ぶと、二人はこちらに向かって手を振ってくれる。
お別れ会の会場はとても楽しげだが、料理を作る私たちはまさに戦場の真っ只中だ。リーンウン国で兵たちに料理を振る舞った日を思い出す。
ブルーノさんとジェイソンさんに食べたいものはあるかと聞いたが、世の女性たちにとって「何でもいい」という一番困る返答をいただいたので、とにかく思い付く限りの料理を作っているのだ。
私たち料理班も交代で休憩し食べてはいるが、リーンウン国から持って来たマイを使って、炊き込みご飯を作ったところでゆっくりと休憩にすることにした。
「これは美味い!」
炊き込みご飯を口にしたジェイソンさんの叫び声が聞こえ、喜びから疲れも吹っ飛んでしまう。
食事をしながら主役たちの様子を見ていると、子どもたちがブルーノさんとジェイソンさんに近寄る。
「これ……」
どうやら子どもたちは、先日焼いた思い出の焼き物をプレゼントしようとしているようだ。けれど、ブルーノさんはにこやかな表情から真面目な表情へと変わり、諭すように話し始めた。
「すごく嬉しいよ、ありがとう。けどこれを受け取るわけにはいかない。これは君たちが作った思い出の品だろう? とても大事なもののはずだ。大人になっても使えるよう、壊れないように、壊さないように、大事に使いなさい」
ブルーノさんは「気持ちだけ貰うよ」と言葉を続け、涙ぐむ子どもたちとハグをし合った。
面白いのは、子どもたちはジェイソンさんには食べ物を持って行くのだ。ジェイソンさんは笑顔で受け取り、その場で平らげる。双方笑顔なのだ。
そうして作っては食べを繰り返しているうちに、夕方近くとなった。
「やはりこれがないとな!」
そんなお父様の声が聞こえ、嫌な予感がした私はお父様の近くへと行き、その手元を見る。
「お父様! それ……!」
「なに、少しだけだ」
お父様や大人たちの手には、見覚えのある酒が握られていた。途中、イチビたちが見当たらないと思っていたが、どうやらデーツの木から樹液を採取していたようだ。
「そんなこと言って、また前回のようになったらどうするの!?」
思わず叫んだが、イチビに「少なめに採取したので量はありません」などと言われてしまった。真面目なイチビにそう言われてしまえば、何も言い返せなくなってしまう。
こんな時でないと大人たちは酒を飲まないのも分かるので、私は口を噤んだ。とはいえ、酒を飲み始めたのならつまみが必要だろう。私はおもむろに歩き出した。
「はいはい、少しおとなしくしてね」
傍から見たら盛大な独り言だが、私はチキントラクター内のコッコに話しかけている。
しばらく見ないうちに若どりが増えているので、数羽いなくなっても問題はない。そして私が捕まえているのはオスだ。卵を産まないので、たくさんいても逆に困るのだ。
数羽の首を折り、調理場へ持って来て首を落としていると後ろから声をかけられた。
「カレン、何し……」
どうやら大人たちが酒を飲み始めたので、居心地が悪くなったスイレンが私を探しに来たようだ。
けれど、ちょうど首を落とし血抜きをしている衝撃的な場面に出くわし、大人たちが潰れるよりも先にショックでスイレンが倒れてしまった。
「たたた、大変! お母様ー!」
大声でお母様を呼び、じいやと共にスイレンを寝床へと運んでもらった。
ちなみにスイレンはそのまま目を覚ますことなく、大人たちはヒーズル王国製の炭で焼いた『焼きコッコ』で酒を飲み、前回のような醜態を晒すことなく綺麗に宴会は終わったのだった。
ただ、翌日急に帰るのは大変だろうと、一日の猶予を設けた。
お父様とも話し合った結果、作業はスイレンが泣いた翌日の午前までとし、午後からはブルーノさんとジェイソンさんのお別れ会が開かれることになった。
農作業担当のエビネとタラは、朝からお母様たちの手も借りて新鮮な野菜や果実を収穫し、老人たちはその収穫されたものを使って腕によりをかけ料理を作り始めた。
私は調理の手伝いに入り、おそらく夜まで続く宴会のために、それは料理の数々を作り上げた。
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「それでは、長らくこの国のために手伝ってくれていたブルーノ殿とジェイソン殿のために!」
お父様がそう音頭を取り、飲み物の入ったコップを掲げると、私たち全員も同じようにコップを掲げ「カンパイ!」と叫ぶ。
私たち子どものコップの中は当然果実を搾ったものだが、大人たちも前回の失敗を踏まえ果実水を飲んでいる。
「さぁ! どんどん料理を運びましょう!」
アポーの実を搾ったものを一口飲み、私は大声を張り上げる。
今日の主役はもちろんブルーノさんとジェイソンさんだが、今まで一緒に作業をして来た者たちを労うためでもあるのだ。
ちなみにスイレンはブルーノさんの横を陣取り、ジェイソンさんはじいやの横を死守している。
「ブルーノさん! ジェイソンさん! 食べまくってちょうだい!」
ひたすら料理を盛り付けながら叫ぶと、二人はこちらに向かって手を振ってくれる。
お別れ会の会場はとても楽しげだが、料理を作る私たちはまさに戦場の真っ只中だ。リーンウン国で兵たちに料理を振る舞った日を思い出す。
ブルーノさんとジェイソンさんに食べたいものはあるかと聞いたが、世の女性たちにとって「何でもいい」という一番困る返答をいただいたので、とにかく思い付く限りの料理を作っているのだ。
私たち料理班も交代で休憩し食べてはいるが、リーンウン国から持って来たマイを使って、炊き込みご飯を作ったところでゆっくりと休憩にすることにした。
「これは美味い!」
炊き込みご飯を口にしたジェイソンさんの叫び声が聞こえ、喜びから疲れも吹っ飛んでしまう。
食事をしながら主役たちの様子を見ていると、子どもたちがブルーノさんとジェイソンさんに近寄る。
「これ……」
どうやら子どもたちは、先日焼いた思い出の焼き物をプレゼントしようとしているようだ。けれど、ブルーノさんはにこやかな表情から真面目な表情へと変わり、諭すように話し始めた。
「すごく嬉しいよ、ありがとう。けどこれを受け取るわけにはいかない。これは君たちが作った思い出の品だろう? とても大事なもののはずだ。大人になっても使えるよう、壊れないように、壊さないように、大事に使いなさい」
ブルーノさんは「気持ちだけ貰うよ」と言葉を続け、涙ぐむ子どもたちとハグをし合った。
面白いのは、子どもたちはジェイソンさんには食べ物を持って行くのだ。ジェイソンさんは笑顔で受け取り、その場で平らげる。双方笑顔なのだ。
そうして作っては食べを繰り返しているうちに、夕方近くとなった。
「やはりこれがないとな!」
そんなお父様の声が聞こえ、嫌な予感がした私はお父様の近くへと行き、その手元を見る。
「お父様! それ……!」
「なに、少しだけだ」
お父様や大人たちの手には、見覚えのある酒が握られていた。途中、イチビたちが見当たらないと思っていたが、どうやらデーツの木から樹液を採取していたようだ。
「そんなこと言って、また前回のようになったらどうするの!?」
思わず叫んだが、イチビに「少なめに採取したので量はありません」などと言われてしまった。真面目なイチビにそう言われてしまえば、何も言い返せなくなってしまう。
こんな時でないと大人たちは酒を飲まないのも分かるので、私は口を噤んだ。とはいえ、酒を飲み始めたのならつまみが必要だろう。私はおもむろに歩き出した。
「はいはい、少しおとなしくしてね」
傍から見たら盛大な独り言だが、私はチキントラクター内のコッコに話しかけている。
しばらく見ないうちに若どりが増えているので、数羽いなくなっても問題はない。そして私が捕まえているのはオスだ。卵を産まないので、たくさんいても逆に困るのだ。
数羽の首を折り、調理場へ持って来て首を落としていると後ろから声をかけられた。
「カレン、何し……」
どうやら大人たちが酒を飲み始めたので、居心地が悪くなったスイレンが私を探しに来たようだ。
けれど、ちょうど首を落とし血抜きをしている衝撃的な場面に出くわし、大人たちが潰れるよりも先にショックでスイレンが倒れてしまった。
「たたた、大変! お母様ー!」
大声でお母様を呼び、じいやと共にスイレンを寝床へと運んでもらった。
ちなみにスイレンはそのまま目を覚ますことなく、大人たちはヒーズル王国製の炭で焼いた『焼きコッコ』で酒を飲み、前回のような醜態を晒すことなく綺麗に宴会は終わったのだった。
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