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炭焼小屋
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炭焼小屋に近付くと、木を伐採して乾燥させるために積み上げているかと思っていたものは丸太の壁だった。その丸太の壁の先には、均一の長さに切り揃えられた木材や枝がきっちりと積み上げられていた。
「こんなにたくさん……しかも綺麗に整頓されているわね……」
呆気にとられ、抑揚もなく言葉を発した。
「あぁ! 時間のある時にコツコツとだな! 私とコイツで作業をしたんだ! 私たちの性分だな!」
そう言ってハマナスは機嫌良さそうにガハハと笑った。元々この国の民たちは私とは違い、きちんと道具や物の整頓をする。けれど目の前に広がる光景は、几帳面を超えて神経質なのかと疑うほどにミリ単位で木材が置かれている。
そして『コイツ』と呼ばれたのは、白髪で細身の老人だった。広場でいつも料理班の中にいたような気がする。
「あぁ姫様、食事の支度をいつもしておりましたが、この度炭焼き担当になりましたヒゲシバです。ちゃんと話すのは初めてですね」
名前に負けないくらい立派なヒゲで口元が覆われたヒゲシバは、ペコリと私に頭を下げた。つられて私もお辞儀をする。
「このヒゲシバは、森の民の中でも炭焼きに長けているんだ。そこのオヒシバの親戚になる」
そう言ったハマナスは、親指でクイッとオヒシバをさした。ふとオヒシバを見れば、いつもと違い品行方正でキリッとしたように見える。むしろ緊張しているように見えるが、親戚の前だからなのだろう。
「まぁ! そうだったの!? 私ったら、誰と誰が家族とか、しっかりと把握していなくて……」
知らなかったとはいえ失礼したと、美樹の記憶がある私は日本人の感覚から謝ると、皆が笑い始める。
「姫様、一人一人の家族ももちろん大事ですが、私たちは森の民……いえ、今はヒーズル王国民ですね。王国民の全てが家族という認識なのですよ」
そう言ってヒゲシバは立派なヒゲを揺らしながら笑った。その言葉を聞いた私は一瞬呆けた。『民のため』とあれこれ動いてきたが、言われてみれば確かに『家族のため』に働くのと大差ない。
そしてこの国の民たちは、私利私欲のために何かをしているわけではない。『皆のため』すなわち『家族のため』に毎日頑張ってくれているのだろう。
「何というか……しっくりと、すんなりと言葉を受け止められたわ……」
そう呟くと、オヒシバは目を輝かせ表情で私にアピールしている。……さっきの考えは一部訂正だ。ポニーとロバに負けたくないという欲求で動く者もいるのだ。
オヒシバの顔面アピールをスルーし、私は窯の近くに歩み寄った。見上げれば三角屋根を真下から見ることが出来る。雨風を凌いだり、熱気や煙を逃がすために屋根だけが建てられているといった感じだ。
目の前を見れば、レンガと粘土で作られた窯はそこそこの大きさで、一度にたくさんの炭を作ることが出来るだろう。
「もう使ってみたのよね?」
「もちろんだ。住居の水を貯める部分に入れてあるぞ。料理にもたまに使っている」
これからは貴重だった炭を、惜しみなくふんだんに使うことが出来る。そしてコッコたちも順調に増えている。炭とコッコの肉があれば、パーフェクトな焼き鳥を味わえるだろう。振り向きハマナスの顔を見たまま、思わずニヤリとしてしまった。
「あれは食べ物のことを考えているのでは……?」
「姫様に限ってそんなことは……」
私の表情を見たイチビたちがヒソヒソと話し合っている。残念ながらオヒシバ以外、全員正解だ。
「……そうだわ! これで木酢液が取れるわね!」
声を弾ませそう言うと、その場の全員が首を傾げる。そして早口言葉を言う時のように言い難そうに「モクサクエキ……?」と、カタコトになっている。
「……ん? 木酢液を知らない……?」
今は窯を使っていないので、全員を引き連れ窯の裏側へ向かう。そのまま煙突部分を確認すると、窯から出ている部分は傾斜がつけられ一部穴が開いており、そこから上空へ向かって真っ直ぐに煙突がそびえ立っている。
「この穴から液体が出るでしょう?」
そう聞くと全員が首を縦に振る。ただの水抜きで穴を開けているとヒゲシバが言った。
「それを貯めておいたら、すぐには無理だけれど色々と使えるのよ?」
「……もしかして……草が生えなくなったりするのでは……?」
思い当たることがあるのか、ヒゲシバは小首を傾げながらそう問いかけてきた。
「そういう使い方もあるけれど、用途は様々よ」
そう言うと、次に炭を作る時には容器を持って来ると言う。
そして移設されたレンガ焼き場の確認をし、私たちは浄化設備の手伝いをすべく広場へと戻った。
────
「…………」
広場へ戻ると、お父様は正座させられタデとヒイラギに怒鳴られている。
どういうことか予想はついたが、三人から少し距離を開けたその横で、明らかに寝たふりをしているジェイソンさんに近付き小声で問いかけた。事情を聞くと、案の定お父様は薬草を採りに行き迷子になったようで、タデとヒイラギがどうにか発見したとのことだった。
この国は毎日が騒がしいが、この騒ぎも毎度のことなので、誰も気にしていないのが笑うに笑えないのだった。
「こんなにたくさん……しかも綺麗に整頓されているわね……」
呆気にとられ、抑揚もなく言葉を発した。
「あぁ! 時間のある時にコツコツとだな! 私とコイツで作業をしたんだ! 私たちの性分だな!」
そう言ってハマナスは機嫌良さそうにガハハと笑った。元々この国の民たちは私とは違い、きちんと道具や物の整頓をする。けれど目の前に広がる光景は、几帳面を超えて神経質なのかと疑うほどにミリ単位で木材が置かれている。
そして『コイツ』と呼ばれたのは、白髪で細身の老人だった。広場でいつも料理班の中にいたような気がする。
「あぁ姫様、食事の支度をいつもしておりましたが、この度炭焼き担当になりましたヒゲシバです。ちゃんと話すのは初めてですね」
名前に負けないくらい立派なヒゲで口元が覆われたヒゲシバは、ペコリと私に頭を下げた。つられて私もお辞儀をする。
「このヒゲシバは、森の民の中でも炭焼きに長けているんだ。そこのオヒシバの親戚になる」
そう言ったハマナスは、親指でクイッとオヒシバをさした。ふとオヒシバを見れば、いつもと違い品行方正でキリッとしたように見える。むしろ緊張しているように見えるが、親戚の前だからなのだろう。
「まぁ! そうだったの!? 私ったら、誰と誰が家族とか、しっかりと把握していなくて……」
知らなかったとはいえ失礼したと、美樹の記憶がある私は日本人の感覚から謝ると、皆が笑い始める。
「姫様、一人一人の家族ももちろん大事ですが、私たちは森の民……いえ、今はヒーズル王国民ですね。王国民の全てが家族という認識なのですよ」
そう言ってヒゲシバは立派なヒゲを揺らしながら笑った。その言葉を聞いた私は一瞬呆けた。『民のため』とあれこれ動いてきたが、言われてみれば確かに『家族のため』に働くのと大差ない。
そしてこの国の民たちは、私利私欲のために何かをしているわけではない。『皆のため』すなわち『家族のため』に毎日頑張ってくれているのだろう。
「何というか……しっくりと、すんなりと言葉を受け止められたわ……」
そう呟くと、オヒシバは目を輝かせ表情で私にアピールしている。……さっきの考えは一部訂正だ。ポニーとロバに負けたくないという欲求で動く者もいるのだ。
オヒシバの顔面アピールをスルーし、私は窯の近くに歩み寄った。見上げれば三角屋根を真下から見ることが出来る。雨風を凌いだり、熱気や煙を逃がすために屋根だけが建てられているといった感じだ。
目の前を見れば、レンガと粘土で作られた窯はそこそこの大きさで、一度にたくさんの炭を作ることが出来るだろう。
「もう使ってみたのよね?」
「もちろんだ。住居の水を貯める部分に入れてあるぞ。料理にもたまに使っている」
これからは貴重だった炭を、惜しみなくふんだんに使うことが出来る。そしてコッコたちも順調に増えている。炭とコッコの肉があれば、パーフェクトな焼き鳥を味わえるだろう。振り向きハマナスの顔を見たまま、思わずニヤリとしてしまった。
「あれは食べ物のことを考えているのでは……?」
「姫様に限ってそんなことは……」
私の表情を見たイチビたちがヒソヒソと話し合っている。残念ながらオヒシバ以外、全員正解だ。
「……そうだわ! これで木酢液が取れるわね!」
声を弾ませそう言うと、その場の全員が首を傾げる。そして早口言葉を言う時のように言い難そうに「モクサクエキ……?」と、カタコトになっている。
「……ん? 木酢液を知らない……?」
今は窯を使っていないので、全員を引き連れ窯の裏側へ向かう。そのまま煙突部分を確認すると、窯から出ている部分は傾斜がつけられ一部穴が開いており、そこから上空へ向かって真っ直ぐに煙突がそびえ立っている。
「この穴から液体が出るでしょう?」
そう聞くと全員が首を縦に振る。ただの水抜きで穴を開けているとヒゲシバが言った。
「それを貯めておいたら、すぐには無理だけれど色々と使えるのよ?」
「……もしかして……草が生えなくなったりするのでは……?」
思い当たることがあるのか、ヒゲシバは小首を傾げながらそう問いかけてきた。
「そういう使い方もあるけれど、用途は様々よ」
そう言うと、次に炭を作る時には容器を持って来ると言う。
そして移設されたレンガ焼き場の確認をし、私たちは浄化設備の手伝いをすべく広場へと戻った。
────
「…………」
広場へ戻ると、お父様は正座させられタデとヒイラギに怒鳴られている。
どういうことか予想はついたが、三人から少し距離を開けたその横で、明らかに寝たふりをしているジェイソンさんに近付き小声で問いかけた。事情を聞くと、案の定お父様は薬草を採りに行き迷子になったようで、タデとヒイラギがどうにか発見したとのことだった。
この国は毎日が騒がしいが、この騒ぎも毎度のことなので、誰も気にしていないのが笑うに笑えないのだった。
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