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移設と新設

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 紆余曲折あったが、なんとか水鉄砲戦争は無事に終わり、そのまま一晩経った。ちなみにお父様とじいやは決着がつかないままだった。

「ジェイソンよ! 何があった!?」

 散々じいやに回し蹴りや飛び蹴りを食らったジェイソンさんは、体のあちらこちらに青あざを作り、可哀想なくらいボロボロになっている。
 ジェイソンさんがそんな状態になったのは、昨日のじいやのせいなのに、じいやはその記憶が全くないらしい。ジェイソンさんも私たちも苦笑いでそのことが言えず、本気で心配するじいやはジェイソンさんの看病を始めた。

「……先生」

 散々酷い目にあったのに、じいやの看病が嬉しいのかジェイソンさんはうっとりとした目でじいやの看病を受け入れている。美しい師弟愛ではあるが、二人ともどうにかしていると思ってしまうのは私だけだろうか? とてもじゃないが、国境警備隊には見せられない酷い絵面だ。

「一晩で何があったのだ? 何かあったのなら言ってくれ」

 そしてお父様もまた、昨日の戦いの最中の記憶がないのか、心配そうにジェイソンさんに問いかけている。
 そんな三人を見て、ブルーノさんは口を押さえて笑いをこらえている。私たちにとっては日常の風景なので、民たちもあまり気にしていない。慣れとは怖いものだ。

「モクレン様、今日は私たち二人でジェイソンを看病しましょう」

「あぁ……そうだな。本当に酷い怪我だ……」

 怪我を負わせた本人たちが看病することに決まり、ブルーノさんはついに「ぶほぉ!」と噴き出してしまっている。

「ブルーノさん、僕たちは浄化設備を作ってしまおう」

 スイレンは、笑いが止まらなくなっているブルーノさんに実に普通に話しかけている。

 実は昨夜、下水さえ使わなければ普通に住める状態の家に誰が住むかで揉めたのだ。揉めた理由も、「私が住みたい!」という自己の欲求などではなく、浄化設備が整ってから住む人を決めたら良いという、早く住んで欲しい王家側とヒーズル王国民らしいのんびりとした揉め事だったのだ。
 なのでスイレンは意地でも浄化設備を作り、民たちに早く住んでもらおうと思っているのだ。

「姫様」

 背後から声をかけられたので振り向くと、イチビたち四人組がそわそわとしながら立っていた。

「どうしたの?」

 小首を傾げて聞くと、移設したレンガ焼き場と新設した炭焼き窯を見てほしいと控えめに言われた。

「そうだったわ! すっかり忘れていた! 早く見に行きましょう」

 ワクワクが止まらず、笑顔で言ったが四人は顔を見合わせモジモジとしている。

「……あの、浄化設備の人員が……」

 恐る恐るといった感じにイチビが声を発した。

「あぁ……大丈夫よ」

 私は振り向き声を張った。

「お父様! じいや! ジェイソンさんの右半身と左半身、それぞれどちらが先に処置を終えられるかしら? 優れた人ほどすぐに処置が出来るわよね? そして浄化設備の工事も難なくやれる人は英雄だと思うわ」

 それを聞いたお父様とじいやはピクリと反応した。

「ジェイソン! おとなしくそこで寝ておれ!」

「薬草を採って来る! 早く浄化設備を作らねば!」

 一応日差しを気にしたのか、広場の屋根がある場所にジェイソンさんを無理やり寝かせ、動いたらただでは済まないと脅しまでかけて二人は森へ向かって走って行った。

「ね? 少ししたら数人分働いてくれるはずよ」

 笑顔で振り向きイチビたちにそう言うと、四人は呆気にとられていた。

────

「風景が変わっているわ!」

 イチビたち四人組と、数名の作業員と共に川のほとりに来て驚いた。
 レンガ焼き場と炭焼き小屋が出来ているのは想像していたが、リーンウン国へ旅立つ前に植えたカッシとナーラの苗木たちはしっかりと成長し、川辺の一部は見事な落葉樹林となっていた。

「特に成長が早い木はドングーリが大量に実ってな。それを植えてここまで広げたのだ。勝手に増えたものもあるがな」

 森を見て驚いていた私に、ハマスゲのお父さんであるハマナスが自慢気に説明をしてくれた。

「ただこの川の上流には獣がいたのだろう? 上流側に向かっても森は成長している。いつか降りてくるかもしれん。対策をしなければならんな」

 そう言ってハマナスは厳しい目付きで上流側を睨んでいる。あのガリガリに痩せた動物たちも、早く餌を食べて飢えから解放されてほしい。けれど、それで元気になってここまで人を襲いに来てしまったら、私たちはその獣を駆除しなければならない。難しい問題に頭を悩ませ、心が痛む。

「だが、まだ先の話だ。それに姫には危険が及ばないように私たちが守るから大丈夫だ」

 私が深刻そうな表情をしていたからか、ハマナスは笑い飛ばすように話しながら私の肩をポンポンと叩いた。

「さぁ姫様、ゆっくりとご覧ください」

 ハマナスの息子であるハマスゲがスっと会話に入って来た。私を気遣う親子の阿吽の呼吸に気付かないフリをし、私はまずは楽しもうと一歩を踏み出した。
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