上 下
281 / 366

上げて落とす

しおりを挟む
 それなりの時間を要してタッケの水鉄砲を作って満足したが、まだ中途半端にタッケが余っている。それを見て子ども用の、いや、大人でも一人くらいは乗れそうなイカダを作ってしまおうということになった。

 以前、川でじいやはイカダに身を預けながら空を眺め、『いつかのんびりと空を見たいと思っていた』と言っていた。
 もしかしたら民たちの中にも同じようなことを思っている人がいるかもしれない。という真面目なことを心の中で思っていたが、ブルーノさんが楽しみすぎて爆発しそうになっている。

「あああぁぁぁ! 早く乗り心地を確かめたい! 水に濡れるのは構わないが、こんなに面白そうなものはぜひとも乗りたい!」

 腹の底から声を出しながら、ブルーノさんは私たちとミニイカダを製作する。そのはしゃぎように私たちは笑いが止まらない。
 むしろ小型の船にしか乗ったことがないそうで、このような原始的な、しかもタッケを使ったイカダに興味津々らしいのだ。そしてリトールの町へと帰ったら、簡単な船の設計図を石版に残しているのでスイレンに教えてくれるとまで言ってくれた。

「それは助かるわ。私も作り方を全く知らないわけではないのだけれど、作ることを考えたらもの凄く大変なのが分かるから……」

 美樹のご近所さんには漁師もいたため、小型木造船の作り方を少しだけ聞いたことがあった。もっとも美樹がそのご近所さんから聞いた時には、港に留まる船の大半がFRP素材の漁船ばかりで、木造船はなかったのだけれど。

「ヒイラギくんを筆頭に、この国の人たちなら問題なく作れるはずだよ」

 そう言ってブルーノさんは笑った。確かに私たちは今まで不可能を可能にしてきたのだ。……ヒイラギならきっとやってくれるわ! 私は密かに、造船作業には参加したくないと心の中で思った。

────

「あら……?」

 ポニーとロバも一緒に遊ばせるつもりで、二頭に荷車を取り付け水鉄砲やミニイカダを載せて来たが、まだお父様はタデたちにからかわれていたようだ。
 この場を去る時は体育座りをしていたお父様だったが、地面に突っ伏しそのまま大地にめり込みそうになっている。そしてお母様たち女性陣は、お父様をからかうのに飽きたのか、他の民たちとオアシスの浅い場所で遊んでいる。

「お父……」

 お父様に声をかけようとしたが、他の民たちに「何かを作ったのですか!?」と聞かれ、揉みくちゃになってしまった。
 その対応をしながらお父様を目で追うと、半草地となった砂山を越えてトボトボと歩いている。どうでも良いことだが、あの場所は砂が溜まりやすいようで、以前お父様が砂を蹴散らしたのに元の砂山となり、雑草と砂とで陣取り合戦を繰り広げている。

「スイレン、この場を任せたわ」

 そう言い残し、スイレンの返事も聞かないままお父様の歩いて行った方向へ走った。そして砂山を登っていると、聞き慣れた雄叫びが聞こえて来た。いろいろと心配になり、急いでその方向へと向かう。

「ぬおぉぉぉ! うおぉぉぉ!」

 水に沈んだイケメン筋肉ゴリラのようなお父様は、象が鼻を動かしながら鳴くかのように、頭をブンブンと振って甲高く叫んでいる。本当に精神状態が大丈夫かと心配になったが、お父様の視線の先を辿って驚いた。

「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 見事なまでに、お父様に負けないくらいの子象のような雄叫びを上げてしまった。

「あ、姫だ」

 一応お父様を気遣ってかタデとヒイラギが同行していたようだが、私の叫び声で振り向いたヒイラギは爽やかに微笑んでいる。

「何これ! 何これ!? すごぉぉぉい!!」

「ぬおぉぉぉ!!」

 お父様の隣まで走り、お父様の謎の動きにつられ私まで左右に頭を振りながら叫んでしまった。私たち父娘の野生的な叫び声に反応し、その谷底にある本物のオアシスの色とりどりの鳥たちもけたたましく鳴き始めた。

「この途中でリーンウン国に旅立ったからな」

「私たちがちゃんと完成させておいたよ」

 先程までお父様をこれでもかと言うほどからかっていたタデとヒイラギは、お父様の肩を叩き私の頭を撫でてそう言った。

 まだ見ぬオアシスへの敵に備えお父様は保護活動を始めたが、その途中で私たちはクジャたちの元へと向かった。それを二人は見事に完成させていたのだ。
 オアシスは谷底にあるが、そこに人や動物が落ちないようにグルリと柵を巡らせ、空からの何かの攻撃に備えオアシス上空には鉄線が張り巡らせている。

「これ……編んだの?」

 その鉄線を良く見てみれば細い鉄線を編み込み、より強度を増した鉄線となっていた。
 タデとヒイラギによると、元々は植物のツルを使って編むものなので、私が思うほど苦労はしなかったそうだ。けれどこの広大な場所をカバーするのにどれだけ労力を使ったことだろう。頭が下がる思いだ。

「タデ……ヒイラギ……私のために感謝する! 家族の次に愛しているぞ!」

 そう言ったお父様はタデとヒイラギに抱きつこうとしたが、二人は華麗に見を躱した。

「お前の愛などいらない。ハコベと姫がいれば良い」

「私もナズナと姫がいれば満足」

 タデとヒイラギはそう言い放ち、どちらが私を抱っこするかで揉め始めた。その後ろでお父様はまた地にめり込みそうになりながら、静かに悲しみに暮れていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...