貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
279 / 366

お父様の災難

しおりを挟む
 娘の私ですらどうしたら良いのか分からないお父様とじいやの奇行に、タデとヒイラギは重い足取りながらも対処しようと向かってくれた。
 はじめは一歩は亀の歩みのようであったが、進むにつれタデもヒイラギも早歩きとなり、最後には全力疾走だった。

「なぜお前は王らしく振る舞えないんだ!?」

「ベンジャミン様も威厳がなくなってますよ~」

 お父様が着地し、また飛び跳ねようとしたタイミングでタデはお父様の背後に回り、腕でお父様の首を絞める。プロレスでいうスリーパーホールド状態だ。
 同じようにじいやが飛び跳ねる前に、ヒイラギに至ってはじいやのツルツル頭をペチンと叩いた。甲高い『ペチーン!』という音はヒーズル王国に鳴り響き、私たちは笑いを堪えきれなくなった。

「ぐをっ……!」

「はっ……! 私は何を……!」

 タデの怒りのスリーパーホールドは見事なまでにガッチリと決まり、お父様は落ちそうになっている。
 かたやじいやは奇行の記憶が無くなったのか、呆然と立ち尽くしている。私たちはクスクスと見守る。

 そこからの二人は凄かった。青筋を立てながらお父様とじいやに説教をし、怒られた二人はおとなしく地面に正座したくらいだ。一国の王と、その王に極めて近い側近にここまで怒鳴ることが出来る二人はある意味一番怖い存在なのかもしれない。

「なぜそんなに思うがままに行動ばかりするのだ!?」

「ベンジャミン様にね、ついていける身体能力があるモクレンが好きなのは分かるけど。もう少し後先を考えないと~」

 タデは烈火の如く怒り、ヒイラギは笑顔を作りつつネチネチと責め立てる。じいやラブのジェイソンさんは「あ……あ……」と呟きながらもその中に入れず、庇いたくても庇いきれないほどだ。
 けれどこれも昔から見慣れた光景なのか、お母様もお怒りの二人の奥さんも、他の民たちも笑って見ている。

「良いか!? 分かったか!?」

 タデの最後の喝に、お父様もじいやも「……はい……」と小さく答える。

「ならばお前が楽しみにしていたものを見に行くぞ!」

 そして絶妙な飴と鞭を使いこなす。本気で怒られたことと、言われた『楽しみ』が分からないお父様は少し動揺しているようだ。

「オアシスだ! オアシス! 忘れたのか!?」

 そこまで言われてお父様は一瞬で立ち上がった。笑顔となり喜びを全身で表現しようとしたのだろうが、タデとヒイラギの顔を見てピタリと動きを止めた。

「仕事は後回しにして全員で行こう」

 いつもの優しげな表情と口調に戻ったヒイラギがそう言うと、ぞろぞろとオアシスへ向かって私たちは歩き出した。

────

「うぉぉぉぉ! 私は! 今! 猛烈に! 感動している!」

 人工オアシスが見えて来たところでお父様は吠えた。あの空っぽだった人工オアシスは豊かな水を蓄え、その周りにはデーツの木が植えられ、その木の下にはテーブルや椅子が置かれリゾート地のようになっている。他にも屋根付きの休憩所のようなものまで建てられている。

「夢にまでみたオアシスだぁぁぁ!」

 またお父様が叫んだかと思うと、そのまま走り出し水に飛び込んだ。今度は誰も怒る者などおらず、お父様のはしゃぎっぷりを見て笑っている。

「どう? カレン。カレンが考えていたのって、こんな感じ? ココナッツの木の周りには近寄らないように柵も作ったんだ」

 スイレンはしてやったり顔で私を見つめる。

「うん! まさに最高の場所ね! 皆でいつでも遊びに来れるわね!」

 何もなかった砂だらけのヒーズル王国に、ついに娯楽施設が出来たのだ。
 何もなかった場所に森を作り、畑を作り、水路を作り、小さな作業場を作り、住居も作り、と今までコツコツとやってきた。そしてついに皆が遊べる場所まで完成したとあっては、感動し過ぎて上手くリアクションが出来ない。

 歩いて来た時から一瞬「あれ?」と思うことがあったが、水路には水草らしきものが生え始め、川から卵でも流れて来たのか稚魚らしきものも見えた。
 それよりも育った少し大きめの稚魚がオアシスにも群れをなして泳いでいるのだ。大きくなればオーバーフロー用の排水口から出て行くことも出来ないだろうし、将来的にはここで釣りも出来るかもしれない。

「……ん?」

 王国の将来を考え、喜びと空想に浸りながらオアシスの水面を見ていると大変なことに気付いた。

「たたたた! 大変! お父様が沈んでる!!」

 おそらく勢いに任せ飛び込んだは良いが、筋肉ダルマのようなお父様は浮かずにそのまま沈んでしまったようなのだ。
 最近水泳に目覚めてしまったというイチビたちが恐れもなくオアシスに飛び込み、そしてお父様を無事に救出した。

「ブハッ……! ゲホッ……! ガハッ……!」

 水深は深いわけではないが、沈んでしまったのなら浅くても意味がない。
 ひたすら息を止めていたと言うお父様は何事もなく無事ではあったが、お父様はオアシスで泳いだりするのを楽しみにしていたらしく、浮かばない自分の体を悲しみただただしょぼんとしていたのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...