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いつもの広場へ
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広場へ戻る道すがら、スイレンから話を聞いた。いつもおとなしくのんびりとしているポニーとロバが急に暴れ出し、放牧地から出たそうにしていたので二頭を出したらしいのだ。
すると二頭は自分から馬具を口に咥え、スイレンに迫ったらしい。
「てっきり僕たちの手伝いをしてくれると思ったの」
馬具を装着している間もおとなしく、装着し終えると同時に二頭は走り出したらしい。その二頭を追ってスイレンは走り出し、たまたま近くにいたオヒシバがスイレンの後を追ったらしいのだ。
ちなみに今でもポニーとロバと、オヒシバの関係は良くなっていないらしい。
「ポニーとロバはカレンのことが好きだから、きっとすぐに分かったんだね」
そう言ってスイレンは微笑む。こんなに長い期間離れたことのなかった私の片割れは、やはり最高の癒やしの存在なのだ。その笑顔に疲れが吹っ飛ぶ。
そんな会話をしているうちに、とうとう私たちの家がある広場へと到着した。
「みんなー! カレンたちが帰って来たよー!」
今までのスイレンからは考えられないほど腹から声を出して叫び、その声量に私たちは驚いた。きっとスイレンも少しずつたくましく成長しているのだろう。
「姫様ー!」
「モクレン様ー!」
ほんの少し大人の階段を登ったスイレンを見ているうちに、広場にはどんどんと人が集まって来た。その中から風のように駆けて来る者がいた。森の民の全力疾走はこんなにも速いのかと驚いていると私たちの前で止まり、お父様とハイタッチをしている。
「タデ! ヒイラギ! 変わりはないか?」
お父様が少年のように笑っている。
「変わりあるわけがないだろう!」
「あったら怒るくせに!」
全力疾走をして来たのに息切れ一つしていないタデとヒイラギは、お父様と同様に少年のような顔で微笑んでいる。そしてお父様とのやり取りを終えると私を見た。
「娘よ! 会いたかったぞ!」
「私の妹! 寂しかったんだよ!」
以前、私はタデを『お父さん』と呼び、ヒイラギを『歳の離れたお兄ちゃん』と呼んだ。二人はそのことを忘れなかったのだろう。『お父さん』と『お兄ちゃん』に私は揉みくちゃにされる。
「待って待って二人とも! 落ち着いて!」
そうは言っても「落ち着くなんて出来ない」と二人に持ち上げられたり、抱っこをされたりと、まるで赤ん坊になった気分だ。
「……モクレン! ……カレン! じいやも……おかえりなさい!」
私の周りが大騒ぎの中、か細い鈴の音のような声が聞こえた。お母様だ。
「お母様! ただい……ま……」
元気に挨拶をしたのだが、お母様は一応私とじいやにも「おかえりなさい」と言ったにもかかわらず、真っ直ぐにお父様の元へと走りその胸に飛び込んだ。お父様もしっかりと両腕でお母様を抱きしめている。
「こんなに離れたことなんてなかった……」
「そうだな……待たせてしまったな」
ドラマか何かかと思うほど二人の世界になってしまっている。スイレンもギョッとしているが、見ているこちらが赤面してしまい、二人をその場に残して広場の中央へと移動した。大人たちは見慣れているのか、お父様とお母様に声すらかけない。
「ようやく帰って来たわー! ただいまー!」
「戻りましたぞー!」
じいやと共に大声で叫ぶと、笑いと共に拍手が起きる。するとスイレンが口を開いた。
「カレン変わらないね」
「どういう意味?」
スイレンに問いかけると、スイレンは問題発言をした。
「あんなにお姫様らしいクジャクさんと一緒にいたんでしょう? お姫様らしさを見習おうと思わなかったの? あっ……ごめん。それどころじゃなかったよね……」
普段のクジャを知らないスイレンは、クジャをおとなしいお姫様だと思っている。私のように大雑把で騒がしく、そして食いしん坊だと言っても信じないだろう。苦笑いしか出て来ないのが悔しい。
「カレンちゃーん!」
「先生ー!」
悔しさからプルプルと震え始めていると、遠くからまた懐かしい声が近付いて来た。その声が聞こえる方向を見ると、ジェイソンさんがブルーノさんをおんぶして走って来ておりギョッとしてしまった。
「ジェイソン! ブルーノ殿の体を気遣わんか!」
「あぁ! 間違いなく先生だ! もっと怒鳴ってください!」
この国に来た時の服装は汚してしまったのか、二人ともヒーズル王国の服を着ている。そのことに触れずにじいやはジェイソンさんを怒鳴るが、ジェイソンさんはそれは嬉しそうにしている。
「カレンちゃん、ベンジャミンさん、モクレンさんは……あぁ……。おかえり! お疲れ様!」
お父様の姿を確認し、いろいろと察した表情をしたブルーノさんは私とじいやを労ってくれた。
「ただいま。ブルーノさん、ジェイソンさん。私たちが帰って来ないから、帰らなかったのでしょう?」
「それもあるけど、こんなに建築が楽しいと感じたのは久しぶりで、なかなか帰りたくなくてね」
「私も建築というものの魅力に気付いてしまいました!」
そう二人は言う。まずはお疲れ様と皆の休憩も兼ねて、お茶でも飲もうとお茶会の準備が始まった。
ちなみにお父様とお母様は二人の世界に入ってしまい、誰もが声をかけるのを躊躇っていたが、そういったことに疎いスイレンが普通に駆け寄り二人の世界を壊したのには皆が笑ったのだった。
すると二頭は自分から馬具を口に咥え、スイレンに迫ったらしい。
「てっきり僕たちの手伝いをしてくれると思ったの」
馬具を装着している間もおとなしく、装着し終えると同時に二頭は走り出したらしい。その二頭を追ってスイレンは走り出し、たまたま近くにいたオヒシバがスイレンの後を追ったらしいのだ。
ちなみに今でもポニーとロバと、オヒシバの関係は良くなっていないらしい。
「ポニーとロバはカレンのことが好きだから、きっとすぐに分かったんだね」
そう言ってスイレンは微笑む。こんなに長い期間離れたことのなかった私の片割れは、やはり最高の癒やしの存在なのだ。その笑顔に疲れが吹っ飛ぶ。
そんな会話をしているうちに、とうとう私たちの家がある広場へと到着した。
「みんなー! カレンたちが帰って来たよー!」
今までのスイレンからは考えられないほど腹から声を出して叫び、その声量に私たちは驚いた。きっとスイレンも少しずつたくましく成長しているのだろう。
「姫様ー!」
「モクレン様ー!」
ほんの少し大人の階段を登ったスイレンを見ているうちに、広場にはどんどんと人が集まって来た。その中から風のように駆けて来る者がいた。森の民の全力疾走はこんなにも速いのかと驚いていると私たちの前で止まり、お父様とハイタッチをしている。
「タデ! ヒイラギ! 変わりはないか?」
お父様が少年のように笑っている。
「変わりあるわけがないだろう!」
「あったら怒るくせに!」
全力疾走をして来たのに息切れ一つしていないタデとヒイラギは、お父様と同様に少年のような顔で微笑んでいる。そしてお父様とのやり取りを終えると私を見た。
「娘よ! 会いたかったぞ!」
「私の妹! 寂しかったんだよ!」
以前、私はタデを『お父さん』と呼び、ヒイラギを『歳の離れたお兄ちゃん』と呼んだ。二人はそのことを忘れなかったのだろう。『お父さん』と『お兄ちゃん』に私は揉みくちゃにされる。
「待って待って二人とも! 落ち着いて!」
そうは言っても「落ち着くなんて出来ない」と二人に持ち上げられたり、抱っこをされたりと、まるで赤ん坊になった気分だ。
「……モクレン! ……カレン! じいやも……おかえりなさい!」
私の周りが大騒ぎの中、か細い鈴の音のような声が聞こえた。お母様だ。
「お母様! ただい……ま……」
元気に挨拶をしたのだが、お母様は一応私とじいやにも「おかえりなさい」と言ったにもかかわらず、真っ直ぐにお父様の元へと走りその胸に飛び込んだ。お父様もしっかりと両腕でお母様を抱きしめている。
「こんなに離れたことなんてなかった……」
「そうだな……待たせてしまったな」
ドラマか何かかと思うほど二人の世界になってしまっている。スイレンもギョッとしているが、見ているこちらが赤面してしまい、二人をその場に残して広場の中央へと移動した。大人たちは見慣れているのか、お父様とお母様に声すらかけない。
「ようやく帰って来たわー! ただいまー!」
「戻りましたぞー!」
じいやと共に大声で叫ぶと、笑いと共に拍手が起きる。するとスイレンが口を開いた。
「カレン変わらないね」
「どういう意味?」
スイレンに問いかけると、スイレンは問題発言をした。
「あんなにお姫様らしいクジャクさんと一緒にいたんでしょう? お姫様らしさを見習おうと思わなかったの? あっ……ごめん。それどころじゃなかったよね……」
普段のクジャを知らないスイレンは、クジャをおとなしいお姫様だと思っている。私のように大雑把で騒がしく、そして食いしん坊だと言っても信じないだろう。苦笑いしか出て来ないのが悔しい。
「カレンちゃーん!」
「先生ー!」
悔しさからプルプルと震え始めていると、遠くからまた懐かしい声が近付いて来た。その声が聞こえる方向を見ると、ジェイソンさんがブルーノさんをおんぶして走って来ておりギョッとしてしまった。
「ジェイソン! ブルーノ殿の体を気遣わんか!」
「あぁ! 間違いなく先生だ! もっと怒鳴ってください!」
この国に来た時の服装は汚してしまったのか、二人ともヒーズル王国の服を着ている。そのことに触れずにじいやはジェイソンさんを怒鳴るが、ジェイソンさんはそれは嬉しそうにしている。
「カレンちゃん、ベンジャミンさん、モクレンさんは……あぁ……。おかえり! お疲れ様!」
お父様の姿を確認し、いろいろと察した表情をしたブルーノさんは私とじいやを労ってくれた。
「ただいま。ブルーノさん、ジェイソンさん。私たちが帰って来ないから、帰らなかったのでしょう?」
「それもあるけど、こんなに建築が楽しいと感じたのは久しぶりで、なかなか帰りたくなくてね」
「私も建築というものの魅力に気付いてしまいました!」
そう二人は言う。まずはお疲れ様と皆の休憩も兼ねて、お茶でも飲もうとお茶会の準備が始まった。
ちなみにお父様とお母様は二人の世界に入ってしまい、誰もが声をかけるのを躊躇っていたが、そういったことに疎いスイレンが普通に駆け寄り二人の世界を壊したのには皆が笑ったのだった。
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