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カレンはサラブレッド?
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リトールの町からヒーズル王国への国境へと到着すると、国境警備隊から「おかえりなさい!」と熱烈歓迎を受けた。
国境警備隊に聞くと、ジェイソンさんはあの日ここを発ってから一度も戻っていないらしい。けれどリトールの町と行き来する民たちから、ジェイソンさんは日々ヒーズル王国のために力を貸してくれているらしい。
「王国に戻ったら、一度ここに来るようにきつく言っておく」
「いえ! 隊長が帰りたくないほどの王国に滞在されているのは羨ましいですが、隊長を叱るのはやめてください!」
じいやは呆れてきつく言うと言うが、隊員たちはジェイソンさんのために叱るなと言い、さすがのじいやも苦笑いになっている。
隊員たちはジェイソンさんのことが心配だが、きっとじいやの為にと頑張っているはずだからむしろ褒めてやって欲しいとまで言っている。この言葉は、じいやよりもジェイソンさんのことを知り尽くしているからこそ出るセリフだろう。ジェイソンさんはじいやラブなのだ。
「分かったわ。じいやが叱るようなことをしたら、私がじいやを叱るから」
そう隊員たちと約束をし、笑顔で別れて久しぶりのヒーズル王国へと足を踏み入れた。
相変わらずの砂しか見えない光景に思わず戸惑ってしまう。日本にとてもよく似た温暖で湿潤なリーンウン国に長らく滞在していたおかげで、この乾燥した空気にまず肌が反応した。
「せっかくツヤツヤのピチピチのお肌になれたのに、乾燥していくのが分かるわ……」
溜め息混じりにボヤくとお父様が反応する。
「なんだ、スイレンよりも男らしいと思っていたが、やはり女なのだな」
お父様の失礼な発言にじいやは声を出して笑っている。笑いながらも私たちは早歩きなのだが。
「まぁ! お父様ったら失礼ね! お母様にお父様がモテモテだったと言いつけてやるんだから!」
その言葉にお父様の足はピタリと止まり、誰が見ても分かるくらいに動揺している。
「カカカ、カレン? わわわ私はモテてはいないぞ? レンゲに変なことを言ってはならん」
「ほっほっほ。『女泣かせのモクレン』の名は伊達ではありませんな」
そのじいやの言葉に時が止まった。
「……どういうこと!? じいや詳しく!」
「全く身に覚えがない! 濡れ衣だ!」
「まずは歩きましょうかの」
ギャーギャーと騒ぐ私たち父娘をたしなめるようにじいやは微笑み、先へと歩くように促す。そして歩きながらじいやに事情聴取をしたところ、お父様たちの同年代の女性たちは一度はお父様に恋い焦がれ、同じように男性たちはお母様に恋心を抱いていたらしいのだ。
「それはじいの勘違いだろう?」
「いいえ、他の者の気持ちに全く気付いていなかったのは、モクレン様とレンゲ様だけですぞ」
お母様だけではなく、お父様も魔性系だったのかと驚いたが、リーンウン国での女中たちからのモテっぷりを思い出すと納得である。魔性系のサラブレッドであるはずなのに、私には全くその気配がないのが解せない。
「……私もいつか結婚するのかしら?」
恋のこの字もない私が呟くと、お父様が口を開く。
「認めん……認めんぞ! せめて私よりも強い者でなければ認めん!」
何かのスイッチが入ったのか、お父様の足は加速した。お父様よりも強い人がいるのなら、この世界で覇者になっているのではないだろうか? お父様に勝てる人などいないと思うのだ。余計なことを言うと暴れまわりそうなので、私は思考を放棄し口をつぐんだ。
何回かの砂嵐を浴びつつ進むが、リーンウン国との国境が出来たのなら、砂嵐地帯の対策を考えねばならない。王国に戻ってからもやりたいことは山ほどある。帰ってから一つずつやっていこう。私にはスイレンや、頼れる大人たちがたくさんいるのだから。
そんなことを考えながら進んで行くうちに日が暮れ、ようやくいつも夜営をする建物へと到着した。けれど中からは人の気配がしない。
「誰もいないわね? 何かあったのかしら?」
恐る恐る入り口を開け、真っ暗な入り口へと入ると何かに躓いた。
「いたた……何かしら?」
躓いたものを手探りで探すと、薄い板があった。ただの板であれば気にしなかったが、触ると表面に彫刻が施されていることに気付いた。
「何か……彫ってあるわ」
「一度火を起こすか」
お父様にもその板を触らせたが、何かは分からないと言う。さすがに私たちは疲れていたので、暗闇の中で簡易の食事をして眠るつもりだったが、外に出て簡易のかまどに火を起こすことにした。
薪などもしっかりと在庫が準備されており、火の中へ焚べるとすぐに火は大きくなる。そして火に照らされたその板を見て驚いた。
『カレンへ。テックノン王国からの爆発の音が聞こえないので、ここには数日に一度しか来ないようにしているから心配しないでね』
「まぁ!」
元々はテックノン王国からのダイナマイトでの爆破の音を聞くための建物だ。ニコライさんがダイナマイト不足だと言っていたので音が聞こえず、毎日ここに来るのはやめたのだろう。
そのことをわざわざ彫刻をした板にスイレンが手彫りしたようなのだ。
「ふふっ。スイレン、明日会えるわよ」
その板をスイレンのように感じてしまい抱きしめると、お父様もじいやも炎に照らされる顔は優しく微笑んでいたのだった。
国境警備隊に聞くと、ジェイソンさんはあの日ここを発ってから一度も戻っていないらしい。けれどリトールの町と行き来する民たちから、ジェイソンさんは日々ヒーズル王国のために力を貸してくれているらしい。
「王国に戻ったら、一度ここに来るようにきつく言っておく」
「いえ! 隊長が帰りたくないほどの王国に滞在されているのは羨ましいですが、隊長を叱るのはやめてください!」
じいやは呆れてきつく言うと言うが、隊員たちはジェイソンさんのために叱るなと言い、さすがのじいやも苦笑いになっている。
隊員たちはジェイソンさんのことが心配だが、きっとじいやの為にと頑張っているはずだからむしろ褒めてやって欲しいとまで言っている。この言葉は、じいやよりもジェイソンさんのことを知り尽くしているからこそ出るセリフだろう。ジェイソンさんはじいやラブなのだ。
「分かったわ。じいやが叱るようなことをしたら、私がじいやを叱るから」
そう隊員たちと約束をし、笑顔で別れて久しぶりのヒーズル王国へと足を踏み入れた。
相変わらずの砂しか見えない光景に思わず戸惑ってしまう。日本にとてもよく似た温暖で湿潤なリーンウン国に長らく滞在していたおかげで、この乾燥した空気にまず肌が反応した。
「せっかくツヤツヤのピチピチのお肌になれたのに、乾燥していくのが分かるわ……」
溜め息混じりにボヤくとお父様が反応する。
「なんだ、スイレンよりも男らしいと思っていたが、やはり女なのだな」
お父様の失礼な発言にじいやは声を出して笑っている。笑いながらも私たちは早歩きなのだが。
「まぁ! お父様ったら失礼ね! お母様にお父様がモテモテだったと言いつけてやるんだから!」
その言葉にお父様の足はピタリと止まり、誰が見ても分かるくらいに動揺している。
「カカカ、カレン? わわわ私はモテてはいないぞ? レンゲに変なことを言ってはならん」
「ほっほっほ。『女泣かせのモクレン』の名は伊達ではありませんな」
そのじいやの言葉に時が止まった。
「……どういうこと!? じいや詳しく!」
「全く身に覚えがない! 濡れ衣だ!」
「まずは歩きましょうかの」
ギャーギャーと騒ぐ私たち父娘をたしなめるようにじいやは微笑み、先へと歩くように促す。そして歩きながらじいやに事情聴取をしたところ、お父様たちの同年代の女性たちは一度はお父様に恋い焦がれ、同じように男性たちはお母様に恋心を抱いていたらしいのだ。
「それはじいの勘違いだろう?」
「いいえ、他の者の気持ちに全く気付いていなかったのは、モクレン様とレンゲ様だけですぞ」
お母様だけではなく、お父様も魔性系だったのかと驚いたが、リーンウン国での女中たちからのモテっぷりを思い出すと納得である。魔性系のサラブレッドであるはずなのに、私には全くその気配がないのが解せない。
「……私もいつか結婚するのかしら?」
恋のこの字もない私が呟くと、お父様が口を開く。
「認めん……認めんぞ! せめて私よりも強い者でなければ認めん!」
何かのスイッチが入ったのか、お父様の足は加速した。お父様よりも強い人がいるのなら、この世界で覇者になっているのではないだろうか? お父様に勝てる人などいないと思うのだ。余計なことを言うと暴れまわりそうなので、私は思考を放棄し口をつぐんだ。
何回かの砂嵐を浴びつつ進むが、リーンウン国との国境が出来たのなら、砂嵐地帯の対策を考えねばならない。王国に戻ってからもやりたいことは山ほどある。帰ってから一つずつやっていこう。私にはスイレンや、頼れる大人たちがたくさんいるのだから。
そんなことを考えながら進んで行くうちに日が暮れ、ようやくいつも夜営をする建物へと到着した。けれど中からは人の気配がしない。
「誰もいないわね? 何かあったのかしら?」
恐る恐る入り口を開け、真っ暗な入り口へと入ると何かに躓いた。
「いたた……何かしら?」
躓いたものを手探りで探すと、薄い板があった。ただの板であれば気にしなかったが、触ると表面に彫刻が施されていることに気付いた。
「何か……彫ってあるわ」
「一度火を起こすか」
お父様にもその板を触らせたが、何かは分からないと言う。さすがに私たちは疲れていたので、暗闇の中で簡易の食事をして眠るつもりだったが、外に出て簡易のかまどに火を起こすことにした。
薪などもしっかりと在庫が準備されており、火の中へ焚べるとすぐに火は大きくなる。そして火に照らされたその板を見て驚いた。
『カレンへ。テックノン王国からの爆発の音が聞こえないので、ここには数日に一度しか来ないようにしているから心配しないでね』
「まぁ!」
元々はテックノン王国からのダイナマイトでの爆破の音を聞くための建物だ。ニコライさんがダイナマイト不足だと言っていたので音が聞こえず、毎日ここに来るのはやめたのだろう。
そのことをわざわざ彫刻をした板にスイレンが手彫りしたようなのだ。
「ふふっ。スイレン、明日会えるわよ」
その板をスイレンのように感じてしまい抱きしめると、お父様もじいやも炎に照らされる顔は優しく微笑んでいたのだった。
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