上 下
262 / 366

国境〜リトールの町

しおりを挟む
 ニコライさんと別れた私たちは、田園や畑、森などを横目に進み、お父様が迷い込んだオオムギ村を遠目に見ながらついに国境へと到着した。

「カラスさん、ハトさん、お久しぶり」

 挨拶のために一度馬車を停めてもらい、降りて挨拶をする。

「この度はリーンウン国のために本当にありがとうございました」

「もう帰っちゃうんですか……?」

 カラスさんは私たちに丁寧に頭を下げ、ハトさんは垂れ目がさらに垂れてしまうほどにしょんぼりとしている。

「困った時はお互い様よ。それにまた来るし、すぐにではないけれど国境も出来るのよ」

 そう言うと二人は「あぁ……あの山を崩すのですね……」と窓から指をさす。その先を見ると、確かに他の山よりはかなり標高が低いが、そこそこに立派な山がある。

「……お父様? ……あれを崩すのはさすがに無理じゃないかしら?」

 その私の言葉にリーンウン国の兵たちの目つきが変わる。明らかにもっと言ってくれというのが伝わってきた。

「カレンよ、何か勘違いしているな。私は山を削るとは言ったが、山頂から崩すなどとは言っていない。兵たちもそのようなことを言っていたが、皆私よりもやる気があると思っていたが……」

 どうやらお父様は山と山の間の谷を削るつもりだったようだ。私たちはお父様とじいやの筋力や体力が、一般人とは桁違いだと思っているので勝手に勘違いをしていたらしい。
 その朗報とも言える衝撃の事実を知り、リーンウン国兵たちは喜びの雄叫びを上げたが、それを聞いたお父様は「やる気があって良い」と、良い意味の勘違いをしてくれた。

「いやぁ~、俺はシャイアーク国の国境警備隊だから手伝えなくて悪いなぁ~」

 そこに全く悪びれず、むしろ清々しいまでに喜びを含んだ言い方のレオナルドさんが口を挟んだ。面白くなさそうな表情でじいやが見つめているが、レオナルドさんは決してじいやの方を見なかった。賢い判断だ。

「それにしてもレオナルドも他の兵たちも、見る度に体が大きくなってるな」

 何気なく発したカラスさんの言葉に、レオナルドさんも御者代わりの兵も、焦点が合わない目で無言で微笑んでいる。それほど壮絶な日々だったのだろう……。

「おぉ! 私としたことが……国境警備隊こそ鍛えねばならなかったな。お主もレオナルドも後で鍛え方を教えてやってくれ」

 じいやがうっかりしていたと反省し、御者代わりの兵とレオナルドさんにそう告げると、一瞬黒い笑みをこぼしたのは見なかったことにした。

「じゃ……じゃあ私たちは帰るわね! またそのうち会いましょう!」

 挨拶もそこそこにお父様とじいやを客室へ追いやり、小声で兵とその場に残ると言うレオナルドさんに「本当にお疲れ様でした……無理はしないでね」と、労いの言葉をかけて私たちは国境を抜けた。

────

「カレンちゃん!」

 馬車から降りた私にペーターさんが駆け寄って来る。
 国境を抜けた私たちは、あくまでもリトールの町へ行商に行くと見せかけ、ハーザルの街の横を通って来た。市場が所狭しと並ぶ活気溢れる街だが、私たちの存在を知られるわけには行かないので危険回避のため、ハーザルの街には寄らずに真っ直ぐにリトールの町へと来たのだ。

「ペーターさん! お久しぶり!」

「あぁ良かった! モクレン殿もベンジャミン殿も、よくぞご無事で!」

 ペーターさんは私を軽く抱きしめ、涙ぐみながらお父様とじいやの手を握る。

「ははは! 私たちは友人だろう? そんなに畏まる言い方はよせ」

 そう言い、お父様はペーターさんの肩をポンポンと叩く。その行動でペーターさんは余計に感動しているようだ。

「そうだわ、ペーターさん。大きめの荷車を二つほど用意してくれるかしら?」

「寄って行かないのかい?」

「えぇ。今日はこのまま帰るわ」

 寄っていきたいのは山々だが、荷物の中には食べ物や植物もある。その理由からなるべく急いで帰ろうと思っていると伝えると、ペーターさんは町の中へと戻り、町民に声をかけている。

「カレンちゃん!」

 荷車よりも先に到着したのはカーラさんだった。

「カーラさん! ごめんなさい、せっかく用意してくれた服だけど、私たち汚してしまって……」

「そんなこといちいち気にするんじゃないよ! クジャク姫も無事なんだね?」

 リーンウン国へと向かう時に貰った服は汚れて処分してしまった。申し訳なく思っていたが、カーラさんは全く気にしていないようだ。
 そして少しの間をおき、見慣れた面々が荷車と共に集まって来た。ジョーイさんは「無事に戻ったお祝いだ」と荷車をプレゼントしてくれ、お父様やじいやがお礼を言っている。

 アンソニーさんも店を放棄して来てくれ、ブルーノさんのお弟子さんたちも集まり、男たちは馬車から荷車へと荷物の載せ替えを手伝ってくれる。

「あの馬車で帰るんじゃないのかい?」

「あのバはリーンウン国のバだし、道中は過酷だからちゃんとお返しするの。ここまで乗せてくれただけで感謝よ」

 あれこれとカーラさんに質問攻めにされ、私は手伝うことが出来ない代わりにこちらからも質問をする。どうやらブルーノさんは一度も帰ることなく、ヒーズル王国で建築に没頭しているらしい。そしてジェイソンさんもまた国境に戻ることなくヒーズル王国に滞在しているとのことだった。

 そんな質疑応答を繰り返しているうちに、男手によって荷物は荷車へと載せ替えられた。

「バタバタして本当にごめんなさい。後日またゆっくり来るわ! リーンウン国のみんなにもよろしく伝えてください!」

 そうして私たちはヒーズル王国へと帰るべく歩を進めた。その時御者代わりの兵が「馬車で運んだ荷物を人力で運ぶなんて……」と、半分恐怖感を込めて呟く声が聞こえてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...