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バの尻尾
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ようやくゆっくり出来るようになり、また村人たちの手料理を楽しんでいると子どもたちが寄って来た。
「お姉さん、美味しかった~」
「どうしてあんなに美味しいの~?」
急に子どもたちが集まって来たのが不思議で、辺りを見回すとハヤブサさんの周辺では男性たちが酒盛りを始めたようだ。大人の酒盛りほど、子どもにとってつまらないものはない。
「お姉さん、お願いがあるんだけど……」
少年たちがまとまってもじもじとしている。
「どうしたの?」
てっきりおやつや料理を頼まれるのかと思ったら、驚きの返答があった。
「あのね、バの尻尾が欲しいの」
「バって、あのバ?」
のんびりと草を食べている馬車のバを指さすと、少年たちはコクコクと頷く。
「王様には言えないし、兵隊さんは怖いし、お転婆姫様は久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんとお話してるでしょ?」
「だからお姉さんにお願いしたいの」
少年たちの純粋な眼差しが注がれる。子どもながらに気を遣うことも出来る良い子たちだ。力になってあげよう。
「分かったわ。けど教えて? バの尻尾で何をするの?」
少年たちに、私も純粋な質問をしてみることにした。一人が代表して答えてくれた言葉に耳を疑った。
「つり!」
大きな声で言ってくれたその言葉は『釣り』のことだろうか? はたまたこの世界の言葉で、何か私の知らない言葉なのだろうか?
「……これ?」
確認のために釣りのジェスチャーをすると、少年たちは「それー!」とはしゃいでいる。合成繊維がないこの世界では、バの尻尾の毛を使って釣りをするらしい。そんな楽しそうなことを知ってしまったからには、何としても手に入れなければならない。
「分かったわ。任せてちょうだい。その代わりに私を釣りに連れて行って?」
笑顔でそう告げると「お姉さん釣りするの!?」と、逆に驚かれてしまった。釣りは上手いわけではないが、ヒーズル王国では網や梁漁といった一気にたくさん捕れるものを作った。久しぶりに釣り竿を使った釣りをしたいと思う。
「すいませーん!」
私は立ち上がり、馬車の近くで食事をしている兵たちに走り寄った。
「どうされましたカレンさん」
「あのね、バの尻尾の毛が欲しいの」
そう言うと兵たちは「あぁ!」とすぐに笑顔になる。兵たちも、子どもの頃にバの尻尾の毛で釣りをしていたらしい。さらに子どもたちを呼んでくれれば、この場で釣り糸を作ってくれるとまで言ってくれた。
また先程の場所まで行き、少年たちにそのことを言うと、家まで戻り釣り竿などの道具を手に取り緊張の面持ちで兵たちのところまで来てくれた。
今日ここにいるバはテックノン王国のバとは違い、一回りほど小さい茶色いバだ。けれど尻尾だけが黒い。
「ほんの少し尻尾の毛をちょうだいね」
バに声をかけると、兵が毛を切るのをおとなしく待ってくれている。少年たちは近くで見るバや馬車、それにお父様たちにしごかれて屈曲となった兵たちを憧れの眼差しで見つめている。
ある程度毛を切ったところで数人の兵が地べたに座り、糸を作るように撚りをかけていく。美樹ですら見たことのない作業に、私も夢中で見ていた。
「針は持って来たのかい?」
「うん!」
兵の一人が声をかけると、少年は大事そうに針を差し出した。けれどその針はまるで鳥の足のような、三本のフック状の針をまとめたものだった。
「……もしかして、引っ掛けて釣るの?」
あの針は引っ掛け釣り用の針に似ている。
「うん! 何人かで魚を追い立てて、出て来たところを引っ掛けるんだよ!」
少年たちは無邪気にそう言う。引っ掛け釣りも確かに面白い。けれど私がやりたかった釣りは違うのだ。
「……誰かお姉さんに竿と針を貸してくれる?」
そう言うと一人の少年が「はい」と手渡してくれた。竿の素材はタッケで作られているようだ。美樹は中古で数百円ほどの、とても安い竿しか使ったことがないので使いこなせるか不安だが、兎にも角にも釣りたいのである。
さらに針を見てみると、ただのフック状のものを細い糸で縛っただけである。
「誰か、金属を切るハサミのようなものを持ってる?」
そう聞くと、一人の少年が「家にある!」と取りに行ってくれた。
ニッパーのようなその道具を借り、まずは針をバラした。そして返しのないその針にニッパーのようなもので切り込みを入れ、返しを作る。
「絶対に魚を捕まえる危険な針だから、触らないようにね」
そう言い残し、先程コッコを捌いた場所へ行きコッコの羽根を持って来た。その羽根と今作られた糸を使い毛針を作る。毛針は二本作り、一本は餌釣り用にすることにした。
気付けば少年たちだけでなく、兵たちも私の作業に夢中である。
「カレンさん、それは何ですか?」
「もちろん釣り用の針よ! よし! みんなお姉さんと勝負よ!」
少年たちに声をかけると、何事かとクジャがやって来た。
「カレン、何を……釣りか……虫が出るので止めておく……」
虫嫌いのクジャは自ら辞退した。そこにじいやとお父様がやって来た。
「どこかへ行くのか?」
「えぇ。魚を釣りに」
そう言うと二人はついて来ようとしたが、じいやに残酷な現実を突きつけた。
「じいや、私はこれからミズズを捕まえるわ」
そう告げると真っ青になり、じいやも釣りを辞退した。付き添いがお父様だけというのはいろいろと不安なので、糸を作ってくれた兵たちと、酒盛りをしていたトビ爺さんを捕まえて釣りに行くことにした。
「お姉さん、美味しかった~」
「どうしてあんなに美味しいの~?」
急に子どもたちが集まって来たのが不思議で、辺りを見回すとハヤブサさんの周辺では男性たちが酒盛りを始めたようだ。大人の酒盛りほど、子どもにとってつまらないものはない。
「お姉さん、お願いがあるんだけど……」
少年たちがまとまってもじもじとしている。
「どうしたの?」
てっきりおやつや料理を頼まれるのかと思ったら、驚きの返答があった。
「あのね、バの尻尾が欲しいの」
「バって、あのバ?」
のんびりと草を食べている馬車のバを指さすと、少年たちはコクコクと頷く。
「王様には言えないし、兵隊さんは怖いし、お転婆姫様は久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんとお話してるでしょ?」
「だからお姉さんにお願いしたいの」
少年たちの純粋な眼差しが注がれる。子どもながらに気を遣うことも出来る良い子たちだ。力になってあげよう。
「分かったわ。けど教えて? バの尻尾で何をするの?」
少年たちに、私も純粋な質問をしてみることにした。一人が代表して答えてくれた言葉に耳を疑った。
「つり!」
大きな声で言ってくれたその言葉は『釣り』のことだろうか? はたまたこの世界の言葉で、何か私の知らない言葉なのだろうか?
「……これ?」
確認のために釣りのジェスチャーをすると、少年たちは「それー!」とはしゃいでいる。合成繊維がないこの世界では、バの尻尾の毛を使って釣りをするらしい。そんな楽しそうなことを知ってしまったからには、何としても手に入れなければならない。
「分かったわ。任せてちょうだい。その代わりに私を釣りに連れて行って?」
笑顔でそう告げると「お姉さん釣りするの!?」と、逆に驚かれてしまった。釣りは上手いわけではないが、ヒーズル王国では網や梁漁といった一気にたくさん捕れるものを作った。久しぶりに釣り竿を使った釣りをしたいと思う。
「すいませーん!」
私は立ち上がり、馬車の近くで食事をしている兵たちに走り寄った。
「どうされましたカレンさん」
「あのね、バの尻尾の毛が欲しいの」
そう言うと兵たちは「あぁ!」とすぐに笑顔になる。兵たちも、子どもの頃にバの尻尾の毛で釣りをしていたらしい。さらに子どもたちを呼んでくれれば、この場で釣り糸を作ってくれるとまで言ってくれた。
また先程の場所まで行き、少年たちにそのことを言うと、家まで戻り釣り竿などの道具を手に取り緊張の面持ちで兵たちのところまで来てくれた。
今日ここにいるバはテックノン王国のバとは違い、一回りほど小さい茶色いバだ。けれど尻尾だけが黒い。
「ほんの少し尻尾の毛をちょうだいね」
バに声をかけると、兵が毛を切るのをおとなしく待ってくれている。少年たちは近くで見るバや馬車、それにお父様たちにしごかれて屈曲となった兵たちを憧れの眼差しで見つめている。
ある程度毛を切ったところで数人の兵が地べたに座り、糸を作るように撚りをかけていく。美樹ですら見たことのない作業に、私も夢中で見ていた。
「針は持って来たのかい?」
「うん!」
兵の一人が声をかけると、少年は大事そうに針を差し出した。けれどその針はまるで鳥の足のような、三本のフック状の針をまとめたものだった。
「……もしかして、引っ掛けて釣るの?」
あの針は引っ掛け釣り用の針に似ている。
「うん! 何人かで魚を追い立てて、出て来たところを引っ掛けるんだよ!」
少年たちは無邪気にそう言う。引っ掛け釣りも確かに面白い。けれど私がやりたかった釣りは違うのだ。
「……誰かお姉さんに竿と針を貸してくれる?」
そう言うと一人の少年が「はい」と手渡してくれた。竿の素材はタッケで作られているようだ。美樹は中古で数百円ほどの、とても安い竿しか使ったことがないので使いこなせるか不安だが、兎にも角にも釣りたいのである。
さらに針を見てみると、ただのフック状のものを細い糸で縛っただけである。
「誰か、金属を切るハサミのようなものを持ってる?」
そう聞くと、一人の少年が「家にある!」と取りに行ってくれた。
ニッパーのようなその道具を借り、まずは針をバラした。そして返しのないその針にニッパーのようなもので切り込みを入れ、返しを作る。
「絶対に魚を捕まえる危険な針だから、触らないようにね」
そう言い残し、先程コッコを捌いた場所へ行きコッコの羽根を持って来た。その羽根と今作られた糸を使い毛針を作る。毛針は二本作り、一本は餌釣り用にすることにした。
気付けば少年たちだけでなく、兵たちも私の作業に夢中である。
「カレンさん、それは何ですか?」
「もちろん釣り用の針よ! よし! みんなお姉さんと勝負よ!」
少年たちに声をかけると、何事かとクジャがやって来た。
「カレン、何を……釣りか……虫が出るので止めておく……」
虫嫌いのクジャは自ら辞退した。そこにじいやとお父様がやって来た。
「どこかへ行くのか?」
「えぇ。魚を釣りに」
そう言うと二人はついて来ようとしたが、じいやに残酷な現実を突きつけた。
「じいや、私はこれからミズズを捕まえるわ」
そう告げると真っ青になり、じいやも釣りを辞退した。付き添いがお父様だけというのはいろいろと不安なので、糸を作ってくれた兵たちと、酒盛りをしていたトビ爺さんを捕まえて釣りに行くことにした。
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