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クジャとカレンと城下町
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「カレン! 早う!」
比較的早起きな私が目を覚ますと、部屋にはなぜかクジャがいた。どうやらトビ爺さんの村に行くのが楽しみすぎて、ほとんど寝ていなかったようである。
確かに今日はトビ爺さんの村へと行くが、朝食はしっかりととらねばならない。身支度をしている間も、朝食を作っている間もクジャは私に付きまとい、ずっと同じセリフを言い続けていたのだ。
「クジャ、そろそろ行くぞ。準備は……出来ているな」
「とうに準備は出来ている!」
朝食を終えたハヤブサさんとクジャの声が廊下から聞こえる。私はメジロさんと共に、スワンさんとオオルリさんの着替えを手伝っている。お二人はクジャたちのやり取りを聞いて笑っているが、オオルリさんもまたそわそわとしている。
トビ爺さんのいるオオゾラ村へはクジャたち一家に、モズさんたち一家、私とお父様とじいやにレオナルドさん、そして数人の兵たちが行くことになった。思ったよりも大所帯になったことを驚く。その全員が馬車のある場所に揃っている。
「カレン! カレン! 早う行くのじゃ!」
「待ってクジャ、オオルリさんもスワンさんも簡単には馬車に乗れないのよ?」
気ばかりが焦るクジャは私の手を引っ張るが、大きな段差を昇り降りすることが出来ないオオルリさんとスワンさんは馬車の前で立ち止まっている。
「カレン、私とじいが二人を乗せるから、カレンたちは先に行け」
朝からずっと、そわそわどころか落ち着かないクジャを見ていたお父様は笑いながらそう言ってくれた。ハヤブサさんたちも「クジャを頼む」などと言っている。
そしてその言葉を聞いたクジャは笑顔で私の手を引いて歩き出した。
「もう! クジャったら、わがままはダメよ!」
「……わがままだろうか? わらわは、カレンにこの国を案内したかったのじゃが……ずっと城におったからのぅ……」
そうして一気にシュンとしてしまう。確かにクジャは朝から私の名前しか口に出していなかった。てっきりオオゾラ村へと行くのが楽しみなのかと思い込んでいたが、いや、それもあるのだろうが、この国に来てからどこへも行かずに王家の世話をしていた私のことを考えてくれていたようだ。
「……ごめんなさい、クジャ。今日は楽しみましょう」
私を楽しませようと思ってくれていたことを嬉しく思い謝ると、クジャは笑顔に戻り私たちは城下町へと向かった。
さすがは城下町というだけあって、そこは活気に溢れていた。市場のようなものがあり、人々が行き交い、ヒーズル王国やリトールの町よりも人が多いこの光景に呆気にとられる。
ちなみに美樹もまた田舎に住んでいたので、こんなにもたくさんの人を見るのは祭りの時くらいである。
クジャは普通に歩いているが、やはり姫が出歩いているのでたくさんの視線を感じる。けれどその視線は二種類だ。
「姫様! お出かけかい?」
「先日は美味しいものをありがとうございました!」
そう声をかけてくれる人たちは、ニコニコとして目も笑っている。
「……またお姫さんが出歩いてるぜ」
「少しは他の王族を見習えばいいのに」
こういった悪意のある言葉を言う人たちはニヤニヤとし、馬鹿にしたように私たちを見ている。カチンときた私が動こうとすると、クジャは握る手に力を込める。
「気にせんでよい」
クジャはそちらを見ようともせずにそう話す。
「あの者たちは王家のことは敬っておる。わらわのことを気に入らないだけじゃ。サギのことがあって思ったのじゃが、どうしたって分かり合えない者もいる。文句を言ったところで、わらわもあの者たちも余計にイライラするだけじゃ」
クジャはそう言いながらも好意的な民たちに手を振り、笑顔で応えている。
「じゃから無視じゃ。今日は楽しい日にするのじゃ!」
満面の笑みでクジャはそう言った。つられて私も笑ってしまう。
「そうね、楽しみましょう!」
いろいろなことがあって、クジャ自身も強くなった部分があるのだろう。食いしん坊でわがままな部分は変わっていないが、クジャも成長しているのだ。
「む! 店主よ! それを二本くれ!」
微笑ましくクジャを見てそう思っていたが、クジャは露店に向かって走り出し、肉の串焼きに夢中になっている。
「もうすぐ父上たちが来るのでな、代金は父上にもらってくれ」
「いやいや、姫様、あげますよ」
「良いのか!?」
店主は苦笑いで串焼きをクジャに手渡すが、クジャはそれは嬉しそうに微笑んでいる。
「クジャ! 一般の民が王様にお金を請求なんて簡単に出来るわけがないでしょう!?」
「そうなのか? いつもはじいやが払うのでな。じいやも後から来るぞ?」
私が何に対して叱っているのか分かっていないのか、小首を傾げながら串焼きを食べ、一本を私に渡す。
「はぁ……すみません。後日お代は必ず払いますから……」
私が店主に深々と頭を下げると、「いいよいいよ」と店主は笑っている。それどころか小声で「あなたが噂の救世主様なんでしょう?」などと聞かれてしまった。苦笑いをするしかなくなっていると、隣からクジャがいなくなっていた。
「カレン! これも美味そうじゃ!」
他の食べ物が気になり、別の露店に行ったようだ。そんなに離れていないオオゾラ村へ着くまでに、食いしん坊でわがままで自由奔放な部分は成長も治ることもないお姫様に私は振り回されっぱなしになったのだった。
比較的早起きな私が目を覚ますと、部屋にはなぜかクジャがいた。どうやらトビ爺さんの村に行くのが楽しみすぎて、ほとんど寝ていなかったようである。
確かに今日はトビ爺さんの村へと行くが、朝食はしっかりととらねばならない。身支度をしている間も、朝食を作っている間もクジャは私に付きまとい、ずっと同じセリフを言い続けていたのだ。
「クジャ、そろそろ行くぞ。準備は……出来ているな」
「とうに準備は出来ている!」
朝食を終えたハヤブサさんとクジャの声が廊下から聞こえる。私はメジロさんと共に、スワンさんとオオルリさんの着替えを手伝っている。お二人はクジャたちのやり取りを聞いて笑っているが、オオルリさんもまたそわそわとしている。
トビ爺さんのいるオオゾラ村へはクジャたち一家に、モズさんたち一家、私とお父様とじいやにレオナルドさん、そして数人の兵たちが行くことになった。思ったよりも大所帯になったことを驚く。その全員が馬車のある場所に揃っている。
「カレン! カレン! 早う行くのじゃ!」
「待ってクジャ、オオルリさんもスワンさんも簡単には馬車に乗れないのよ?」
気ばかりが焦るクジャは私の手を引っ張るが、大きな段差を昇り降りすることが出来ないオオルリさんとスワンさんは馬車の前で立ち止まっている。
「カレン、私とじいが二人を乗せるから、カレンたちは先に行け」
朝からずっと、そわそわどころか落ち着かないクジャを見ていたお父様は笑いながらそう言ってくれた。ハヤブサさんたちも「クジャを頼む」などと言っている。
そしてその言葉を聞いたクジャは笑顔で私の手を引いて歩き出した。
「もう! クジャったら、わがままはダメよ!」
「……わがままだろうか? わらわは、カレンにこの国を案内したかったのじゃが……ずっと城におったからのぅ……」
そうして一気にシュンとしてしまう。確かにクジャは朝から私の名前しか口に出していなかった。てっきりオオゾラ村へと行くのが楽しみなのかと思い込んでいたが、いや、それもあるのだろうが、この国に来てからどこへも行かずに王家の世話をしていた私のことを考えてくれていたようだ。
「……ごめんなさい、クジャ。今日は楽しみましょう」
私を楽しませようと思ってくれていたことを嬉しく思い謝ると、クジャは笑顔に戻り私たちは城下町へと向かった。
さすがは城下町というだけあって、そこは活気に溢れていた。市場のようなものがあり、人々が行き交い、ヒーズル王国やリトールの町よりも人が多いこの光景に呆気にとられる。
ちなみに美樹もまた田舎に住んでいたので、こんなにもたくさんの人を見るのは祭りの時くらいである。
クジャは普通に歩いているが、やはり姫が出歩いているのでたくさんの視線を感じる。けれどその視線は二種類だ。
「姫様! お出かけかい?」
「先日は美味しいものをありがとうございました!」
そう声をかけてくれる人たちは、ニコニコとして目も笑っている。
「……またお姫さんが出歩いてるぜ」
「少しは他の王族を見習えばいいのに」
こういった悪意のある言葉を言う人たちはニヤニヤとし、馬鹿にしたように私たちを見ている。カチンときた私が動こうとすると、クジャは握る手に力を込める。
「気にせんでよい」
クジャはそちらを見ようともせずにそう話す。
「あの者たちは王家のことは敬っておる。わらわのことを気に入らないだけじゃ。サギのことがあって思ったのじゃが、どうしたって分かり合えない者もいる。文句を言ったところで、わらわもあの者たちも余計にイライラするだけじゃ」
クジャはそう言いながらも好意的な民たちに手を振り、笑顔で応えている。
「じゃから無視じゃ。今日は楽しい日にするのじゃ!」
満面の笑みでクジャはそう言った。つられて私も笑ってしまう。
「そうね、楽しみましょう!」
いろいろなことがあって、クジャ自身も強くなった部分があるのだろう。食いしん坊でわがままな部分は変わっていないが、クジャも成長しているのだ。
「む! 店主よ! それを二本くれ!」
微笑ましくクジャを見てそう思っていたが、クジャは露店に向かって走り出し、肉の串焼きに夢中になっている。
「もうすぐ父上たちが来るのでな、代金は父上にもらってくれ」
「いやいや、姫様、あげますよ」
「良いのか!?」
店主は苦笑いで串焼きをクジャに手渡すが、クジャはそれは嬉しそうに微笑んでいる。
「クジャ! 一般の民が王様にお金を請求なんて簡単に出来るわけがないでしょう!?」
「そうなのか? いつもはじいやが払うのでな。じいやも後から来るぞ?」
私が何に対して叱っているのか分かっていないのか、小首を傾げながら串焼きを食べ、一本を私に渡す。
「はぁ……すみません。後日お代は必ず払いますから……」
私が店主に深々と頭を下げると、「いいよいいよ」と店主は笑っている。それどころか小声で「あなたが噂の救世主様なんでしょう?」などと聞かれてしまった。苦笑いをするしかなくなっていると、隣からクジャがいなくなっていた。
「カレン! これも美味そうじゃ!」
他の食べ物が気になり、別の露店に行ったようだ。そんなに離れていないオオゾラ村へ着くまでに、食いしん坊でわがままで自由奔放な部分は成長も治ることもないお姫様に私は振り回されっぱなしになったのだった。
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