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お鍋の赤飯
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私の手料理を楽しみにしてくれるリーンウン国の兵たちは、それはもう本気で頑張ってくれた。
トビ爺さんの村までは、普通の若者が早歩きで十五分くらいかかると残った老兵が言っていた。いくら兵たちが走ったとしても、荷物もあることだし戻るのに三十分くらいかかるものだと思っていた。だが実際は二十分ほどで戻って来たのだ。
お父様とじいやに鍛えられた兵たちは、自分たちの体が驚くほどに軽いことに気付いたらしい。両肩にマイやアーズを担いだ兵がほとんどだった。
けれど、一着で城に到着した組は体力だけではなく頭も使った。私は道具の使用を禁止していなかったので、トビ爺さんに荷車を借りたらしい。しかも『救世主がマイを欲しがっている』と言ったために、トビ爺さんはすぐに荷車を貸してくれたそうだ。
その荷車に大量のマイとアーズを積み込み、引く者と押す者と、そして鍛えられた脚力で見事に一着になったのだ。
ちなみに最後尾の兵たちの組は、マイやアーズだけではなく、なぜかトビ爺さんを背負って来ていた。連れて行けと騒がれたらしい。
────
材料が揃ったので私は厨房に戻ったが、兵たちは旗を掲げ、祝い事を国民に知らせる作業をするらしい。トビ爺さんはそれを見に行った。
まずはもち米を洗う。この国はもち米もうるち米も玄米も『マイ』と区別なく読んでいるので、後で名前を付けるように進言しようと思う。
もち米を洗い水に浸けている間に、アーズのほうに取り掛かろう。
アーズも洗い、鍋に水と共に入れて茹でる。途中何回か差し水をし、アクを取りながら茹でて、指で潰れるくらいになったら鍋を火から降ろす。
余談だが、いつまで経っても私は火加減の調節が上手くいかないので、女中の一人は必ず私に付き添ってくれるようになった。
ざると桶を用意し、豆と茹で汁を分けているとトビ爺さんが厨房へとやって来た。
「何をしとるんじゃ?」
「トビ爺さん! 急にわがままを言ってごめんなさいね。美味しいものを作っているから、見学していく?」
そう言うと、トビ爺さんは興味津々な様子でその場に留まった。女中たちも私の赤飯の作り方に興味津々だ。
お玉のような物を使い茹で汁をすくって、薄くて小さなまな板を使って扇ぎながら注ぎ落とし、色を出す作業をする。うちわがないので大変だったが、女中たちが手伝ってくれた。
もち米の水気を切り、アーズを入れて混ぜ、鍋に移して茹で汁を入れる。水加減は私の経験と勘、要するにいつもの目分量である。
鍋に蓋をして強火にし、沸騰したら弱火にする。
「もうすぐ完成よ」
この国で作る『赤飯もどき』とは違う炊き方に、厨房内の皆は顔を見合わせている。
十分少々火にかけ、頃合いを見計らい火を消し、蒸らしをしている間に次の作業の準備をする。高さのない浅い桶を準備し、濡れ布巾で拭き上げる。
「お鍋の様子はどうかしら?」
鍋を降ろし桶の中に赤飯をあけると、均一に赤く色付いているマイに歓声が起こった。
「もう一手間かけるわ」
女中たちに赤飯を扇いでもらいながらしゃもじで混ぜると、赤飯にツヤが出てくる。私の口内はよだれでいっぱいである。女中たちやトビ爺さんもそうらしく、ゴクリと喉を鳴らしていた。
「こんなにも違うものが出来るなんて……」
「色が綺麗ね……」
女中たちはそう囁きあっている。けれど赤飯に必要なアレがない。私は先日、調味料置き場で見つけたのである。
「コレが大事なのよ!」
調味料置き場からそれを持って来ると、全員が同じ言葉を呟いた。
「セッサーミン?」
どうやらこの世界では『セッサーミン』と呼ぶらしいゴマを近くに置き、サラサラになっている塩をフライパンで炒る。加熱し、さらにサラサラになったその塩とセッサーミンを混ぜてゴマ塩の完成だ。
「そういえば最近、セッサーミンを使ってなかったわね」
私の様子を見ていた女中はそう呟く。
「これをかけて食べたら病みつきになるわよ!」
もう我慢の出来ない私は、試食と称してこの場の全員に赤飯を取り分け、その上にゴマ塩をかける。
「いただきます!」
やたら大声で叫んだ私は、出来たてホカホカの赤飯を口に頬張る。もっちりとした食感に、ゴマ塩がもち米のほのかな甘さを引き立ててくれる。
「美味っっっしいー!!」
最後に赤飯を食べたのはいつだっただろうか? 幸せすぎて呆けていると、女中たちやトビ爺さんも試食を開始した。
「なんじゃこりゃあ!!」
「嘘でしょう!?」
「あり得ないわ!」
そんな感想を叫ぶので、お気に召さなかったのかと落ち込みかけたが、どうやら違うようだ。皿の上の赤飯を口に詰め込み、勝手におかわりをしようとしている。
「待って待って! それは配らないと!」
私が止めるとハッとして手を止めてくれた。かなり気に入ってくれたようだ。
「マイは種類によって、ちゃんと水加減を変えないといけないのよ」
この国に来たばかりの頃、白米も玄米も同じ水加減で炊いていたのを見てすぐにそれを指摘したところ、水加減を気にするようになってくれた。今回ももち米の炊き方を見て学んでくれたことだろう。
「さぁ、まずは王家の皆さんに配りましょう。私は追加で作るから、完成したらどんどんと配って」
そうして役割分担をし、どんどんと赤飯を配ってもらった。その数分後、クジャが食べていた皿と箸を持って厨房に突撃し、それに続くように手の空いている家臣や女中も厨房に押し寄せ、兵たちは裏口からおかわりを求めて殺到してしまったのだった。
作ったそばから赤飯が無くなる光景は圧巻だった。
トビ爺さんの村までは、普通の若者が早歩きで十五分くらいかかると残った老兵が言っていた。いくら兵たちが走ったとしても、荷物もあることだし戻るのに三十分くらいかかるものだと思っていた。だが実際は二十分ほどで戻って来たのだ。
お父様とじいやに鍛えられた兵たちは、自分たちの体が驚くほどに軽いことに気付いたらしい。両肩にマイやアーズを担いだ兵がほとんどだった。
けれど、一着で城に到着した組は体力だけではなく頭も使った。私は道具の使用を禁止していなかったので、トビ爺さんに荷車を借りたらしい。しかも『救世主がマイを欲しがっている』と言ったために、トビ爺さんはすぐに荷車を貸してくれたそうだ。
その荷車に大量のマイとアーズを積み込み、引く者と押す者と、そして鍛えられた脚力で見事に一着になったのだ。
ちなみに最後尾の兵たちの組は、マイやアーズだけではなく、なぜかトビ爺さんを背負って来ていた。連れて行けと騒がれたらしい。
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材料が揃ったので私は厨房に戻ったが、兵たちは旗を掲げ、祝い事を国民に知らせる作業をするらしい。トビ爺さんはそれを見に行った。
まずはもち米を洗う。この国はもち米もうるち米も玄米も『マイ』と区別なく読んでいるので、後で名前を付けるように進言しようと思う。
もち米を洗い水に浸けている間に、アーズのほうに取り掛かろう。
アーズも洗い、鍋に水と共に入れて茹でる。途中何回か差し水をし、アクを取りながら茹でて、指で潰れるくらいになったら鍋を火から降ろす。
余談だが、いつまで経っても私は火加減の調節が上手くいかないので、女中の一人は必ず私に付き添ってくれるようになった。
ざると桶を用意し、豆と茹で汁を分けているとトビ爺さんが厨房へとやって来た。
「何をしとるんじゃ?」
「トビ爺さん! 急にわがままを言ってごめんなさいね。美味しいものを作っているから、見学していく?」
そう言うと、トビ爺さんは興味津々な様子でその場に留まった。女中たちも私の赤飯の作り方に興味津々だ。
お玉のような物を使い茹で汁をすくって、薄くて小さなまな板を使って扇ぎながら注ぎ落とし、色を出す作業をする。うちわがないので大変だったが、女中たちが手伝ってくれた。
もち米の水気を切り、アーズを入れて混ぜ、鍋に移して茹で汁を入れる。水加減は私の経験と勘、要するにいつもの目分量である。
鍋に蓋をして強火にし、沸騰したら弱火にする。
「もうすぐ完成よ」
この国で作る『赤飯もどき』とは違う炊き方に、厨房内の皆は顔を見合わせている。
十分少々火にかけ、頃合いを見計らい火を消し、蒸らしをしている間に次の作業の準備をする。高さのない浅い桶を準備し、濡れ布巾で拭き上げる。
「お鍋の様子はどうかしら?」
鍋を降ろし桶の中に赤飯をあけると、均一に赤く色付いているマイに歓声が起こった。
「もう一手間かけるわ」
女中たちに赤飯を扇いでもらいながらしゃもじで混ぜると、赤飯にツヤが出てくる。私の口内はよだれでいっぱいである。女中たちやトビ爺さんもそうらしく、ゴクリと喉を鳴らしていた。
「こんなにも違うものが出来るなんて……」
「色が綺麗ね……」
女中たちはそう囁きあっている。けれど赤飯に必要なアレがない。私は先日、調味料置き場で見つけたのである。
「コレが大事なのよ!」
調味料置き場からそれを持って来ると、全員が同じ言葉を呟いた。
「セッサーミン?」
どうやらこの世界では『セッサーミン』と呼ぶらしいゴマを近くに置き、サラサラになっている塩をフライパンで炒る。加熱し、さらにサラサラになったその塩とセッサーミンを混ぜてゴマ塩の完成だ。
「そういえば最近、セッサーミンを使ってなかったわね」
私の様子を見ていた女中はそう呟く。
「これをかけて食べたら病みつきになるわよ!」
もう我慢の出来ない私は、試食と称してこの場の全員に赤飯を取り分け、その上にゴマ塩をかける。
「いただきます!」
やたら大声で叫んだ私は、出来たてホカホカの赤飯を口に頬張る。もっちりとした食感に、ゴマ塩がもち米のほのかな甘さを引き立ててくれる。
「美味っっっしいー!!」
最後に赤飯を食べたのはいつだっただろうか? 幸せすぎて呆けていると、女中たちやトビ爺さんも試食を開始した。
「なんじゃこりゃあ!!」
「嘘でしょう!?」
「あり得ないわ!」
そんな感想を叫ぶので、お気に召さなかったのかと落ち込みかけたが、どうやら違うようだ。皿の上の赤飯を口に詰め込み、勝手におかわりをしようとしている。
「待って待って! それは配らないと!」
私が止めるとハッとして手を止めてくれた。かなり気に入ってくれたようだ。
「マイは種類によって、ちゃんと水加減を変えないといけないのよ」
この国に来たばかりの頃、白米も玄米も同じ水加減で炊いていたのを見てすぐにそれを指摘したところ、水加減を気にするようになってくれた。今回ももち米の炊き方を見て学んでくれたことだろう。
「さぁ、まずは王家の皆さんに配りましょう。私は追加で作るから、完成したらどんどんと配って」
そうして役割分担をし、どんどんと赤飯を配ってもらった。その数分後、クジャが食べていた皿と箸を持って厨房に突撃し、それに続くように手の空いている家臣や女中も厨房に押し寄せ、兵たちは裏口からおかわりを求めて殺到してしまったのだった。
作ったそばから赤飯が無くなる光景は圧巻だった。
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