貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
247 / 366

お鍋の赤飯

しおりを挟む
 私の手料理を楽しみにしてくれるリーンウン国の兵たちは、それはもう本気で頑張ってくれた。
 トビ爺さんの村までは、普通の若者が早歩きで十五分くらいかかると残った老兵が言っていた。いくら兵たちが走ったとしても、荷物もあることだし戻るのに三十分くらいかかるものだと思っていた。だが実際は二十分ほどで戻って来たのだ。

 お父様とじいやに鍛えられた兵たちは、自分たちの体が驚くほどに軽いことに気付いたらしい。両肩にマイやアーズを担いだ兵がほとんどだった。

 けれど、一着で城に到着した組は体力だけではなく頭も使った。私は道具の使用を禁止していなかったので、トビ爺さんに荷車を借りたらしい。しかも『救世主がマイを欲しがっている』と言ったために、トビ爺さんはすぐに荷車を貸してくれたそうだ。
 その荷車に大量のマイとアーズを積み込み、引く者と押す者と、そして鍛えられた脚力で見事に一着になったのだ。
 ちなみに最後尾の兵たちの組は、マイやアーズだけではなく、なぜかトビ爺さんを背負って来ていた。連れて行けと騒がれたらしい。

────

 材料が揃ったので私は厨房に戻ったが、兵たちは旗を掲げ、祝い事を国民に知らせる作業をするらしい。トビ爺さんはそれを見に行った。

 まずはもち米を洗う。この国はもち米もうるち米も玄米も『マイ』と区別なく読んでいるので、後で名前を付けるように進言しようと思う。
 もち米を洗い水に浸けている間に、アーズのほうに取り掛かろう。

 アーズも洗い、鍋に水と共に入れて茹でる。途中何回か差し水をし、アクを取りながら茹でて、指で潰れるくらいになったら鍋を火から降ろす。
 余談だが、いつまで経っても私は火加減の調節が上手くいかないので、女中の一人は必ず私に付き添ってくれるようになった。

 ざると桶を用意し、豆と茹で汁を分けているとトビ爺さんが厨房へとやって来た。

「何をしとるんじゃ?」

「トビ爺さん! 急にわがままを言ってごめんなさいね。美味しいものを作っているから、見学していく?」

 そう言うと、トビ爺さんは興味津々な様子でその場に留まった。女中たちも私の赤飯の作り方に興味津々だ。

 お玉のような物を使い茹で汁をすくって、薄くて小さなまな板を使って扇ぎながら注ぎ落とし、色を出す作業をする。うちわがないので大変だったが、女中たちが手伝ってくれた。

 もち米の水気を切り、アーズを入れて混ぜ、鍋に移して茹で汁を入れる。水加減は私の経験と勘、要するにいつもの目分量である。
 鍋に蓋をして強火にし、沸騰したら弱火にする。

「もうすぐ完成よ」

 この国で作る『赤飯もどき』とは違う炊き方に、厨房内の皆は顔を見合わせている。
 十分少々火にかけ、頃合いを見計らい火を消し、蒸らしをしている間に次の作業の準備をする。高さのない浅い桶を準備し、濡れ布巾で拭き上げる。

「お鍋の様子はどうかしら?」

 鍋を降ろし桶の中に赤飯をあけると、均一に赤く色付いているマイに歓声が起こった。

「もう一手間かけるわ」

 女中たちに赤飯を扇いでもらいながらしゃもじで混ぜると、赤飯にツヤが出てくる。私の口内はよだれでいっぱいである。女中たちやトビ爺さんもそうらしく、ゴクリと喉を鳴らしていた。

「こんなにも違うものが出来るなんて……」
「色が綺麗ね……」

 女中たちはそう囁きあっている。けれど赤飯に必要なアレがない。私は先日、調味料置き場で見つけたのである。

「コレが大事なのよ!」

 調味料置き場からそれを持って来ると、全員が同じ言葉を呟いた。

「セッサーミン?」

 どうやらこの世界では『セッサーミン』と呼ぶらしいゴマを近くに置き、サラサラになっている塩をフライパンで炒る。加熱し、さらにサラサラになったその塩とセッサーミンを混ぜてゴマ塩の完成だ。

「そういえば最近、セッサーミンを使ってなかったわね」

 私の様子を見ていた女中はそう呟く。

「これをかけて食べたら病みつきになるわよ!」

 もう我慢の出来ない私は、試食と称してこの場の全員に赤飯を取り分け、その上にゴマ塩をかける。

「いただきます!」

 やたら大声で叫んだ私は、出来たてホカホカの赤飯を口に頬張る。もっちりとした食感に、ゴマ塩がもち米のほのかな甘さを引き立ててくれる。

「美味っっっしいー!!」

 最後に赤飯を食べたのはいつだっただろうか? 幸せすぎて呆けていると、女中たちやトビ爺さんも試食を開始した。

「なんじゃこりゃあ!!」
「嘘でしょう!?」
「あり得ないわ!」

 そんな感想を叫ぶので、お気に召さなかったのかと落ち込みかけたが、どうやら違うようだ。皿の上の赤飯を口に詰め込み、勝手におかわりをしようとしている。

「待って待って! それは配らないと!」

 私が止めるとハッとして手を止めてくれた。かなり気に入ってくれたようだ。

「マイは種類によって、ちゃんと水加減を変えないといけないのよ」

 この国に来たばかりの頃、白米も玄米も同じ水加減で炊いていたのを見てすぐにそれを指摘したところ、水加減を気にするようになってくれた。今回ももち米の炊き方を見て学んでくれたことだろう。

「さぁ、まずは王家の皆さんに配りましょう。私は追加で作るから、完成したらどんどんと配って」

 そうして役割分担をし、どんどんと赤飯を配ってもらった。その数分後、クジャが食べていた皿と箸を持って厨房に突撃し、それに続くように手の空いている家臣や女中も厨房に押し寄せ、兵たちは裏口からおかわりを求めて殺到してしまったのだった。
 作ったそばから赤飯が無くなる光景は圧巻だった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...