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筋力アップの効果
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クジャのお祖母様が歩いてから数日が経った。私は何だかんだ理由をつけてお父様とじいやに作業を頼み、その間は兵たちは今まで通りの自主訓練の期間に入り、こっそりと厨房へお礼を言いに来る兵までいたくらいだ。
「さぁどうぞ」
今は朝食と昼食の間くらいの時間だ。地球よりも時間が長いこの世界では、この時間帯にも何かを食べる。とは言ってもガッツリと食べるわけではなく、おやつのような簡単な軽食を食べる。
今日はアポーの実を出すことにした。先日まではすりおろしていたが、お口の状態がほとんど良くなっているので、歯ごたえを楽しんでもらいたくアポーを選んだ。けれど薄切りにして、歯と歯茎に負担をかけないようにする。
「美味しいわ」
「本当に」
サクッという音を響かせて、オオルリさんもスワンさんも食べてくれる。お二人にお出ししたのに、勧められて私まで摘んでしまったが、酸味と甘みのバランスがよいこのアポーはとても美味しい。
「トビ爺さんの村で作っているアポーですよ」
トビ爺さんは今までも無償で食料を持って来たりしていたそうだが、最近はその頻度が上がっているらしい。
厨房の女中が言うには、オオルリさんとクジャのことはもちろん心配しているが、私のことを気に入ってくれたからだと言う。とても嬉しいことだが、なかなかタイミングが合わずすれ違いが続いていた。
「あぁ美味しかった。さぁ今日はどうかしら?」
先日のスワンさんが歩く姿を見たオオルリさんは、毎日必死に立とうと練習していた。そしてみるみるうちに言葉もはっきりと話せるようになり、回復が著しい。
メジロさんとスズメちゃんは別の仕事でこの部屋にはいないので、私が一人でオオルリさんを支える。
「……よいしょ」
オオルリさんはゆっくりとだが立ち上がった。ここまでは毎回ではないが、何回か成功させていた。問題はここからである。
「よいしょ……」
私はオオルリさんの背後へと回り込み、軽く抱きつくような体勢になる。転びそうになった時に、私が後ろに倒れクッション代わりになれば良いと思ったのだ。オオルリさんは、すり足気味に一歩を踏み出す。
「オオルリさん! 歩いているわ! 頑張って!」
スワンさんも寝台から降り、立ってオオルリさんを励ましている。お父様とじいやに頼んでいるものよりも先に、杖を作ってもらえばよかったと思い始めていると、オオルリさんはさらに一歩進んだ。
「んんっ!」
自身に気合を入れているのかオオルリさんはそんな声を漏らすと、また一歩進む。スワンさんが気を利かせ、オオルリさんの前まで歩いて来るとそのオオルリさんの手を取り「もう少しよ」と励ましているが、二人が転倒してしまったらどうしようかと私は気が気でない。
けれど関係が良好な嫁姑は、一人が応援するとその応援に応えるかのように体に力が入る。そしてハラハラとする私の気持ちに気付かないオオルリさんは、見事にスワンさんの寝台まで歩いたのだ。
「オオルリさん! 歩けたわね! おめでとう!」
「やりました!」
二人は手を取り合い喜んでいるが、こうしている場合ではない。私はそのまま廊下へと小走りで移動する。
「誰か! 誰かー!」
「どうした!? 姫ちゃん!?」
隣の部屋からレオナルドさんが血相を変えて飛び出して来た。辺りを見回し、小さな刃物を構えている。
ジェイソンさんのように、どんなに辛い目に遭ってもじいやから離れたくないのか、レオナルドさんはずっとこの国に滞在していた。そして訓練が中断された今、一応お客様であるレオナルドさんはあてがわれた寝室で休んでいたのだ。
「オ……オオルリさんが歩けたの!」
私の言葉を聞いたレオナルドさんは、戦闘状態の表情から驚きの表情に変わり、そして笑顔へと変わった。
「ついにやったな! 姫ちゃん!」
全身で喜びを表そうとするレオナルドさんは私に向かって走って来るが、その手にはまだ刃物を持っている。
「待って! レオナルドさん! それを仕舞って! ……じいやに見られたら一大事よ!」
最初は私の言葉の意味が分からなかったようだが、じいやという言葉で脳が覚醒したようである。自分の手を見て「うぉぉぉ!」と叫び、腰にある鞘に刃物を仕舞って辺りをキョロキョロと見回し、じいやがいないのを確認すると文字通り胸を撫で下ろしながら溜め息を吐いている。
「……姫ちゃん……内緒にしてくれ……」
「任せて、大丈夫よ」
そう返答すると、今度こそ私たちは喜びのハイタッチを交わした。
「っと、こうしちゃいられねぇな! 城中に知らせて来るぜ!」
そう言い残してレオナルドさんは走り去って行った。そのスピードは最初に見た頃よりも相当上がっている。じいやにしごかれたおかげで、レオナルドさんもパワーアップしたのだろう。
そうこうしているうちに、メジロさんにスズメちゃん、女中たちが集まって来た。そして私からもオオルリさんが歩いたことを報告すると、その場は一気にお祭り騒ぎとなった。オオルリさんとスワンさんは並んで座ったまま、にこやかに手を振っている。
これで今日の昼食は決まった。その準備をしようではないか。私はメジロさんとスズメちゃんにその場を任せ、厨房へと颯爽と向かったのだった。
「さぁどうぞ」
今は朝食と昼食の間くらいの時間だ。地球よりも時間が長いこの世界では、この時間帯にも何かを食べる。とは言ってもガッツリと食べるわけではなく、おやつのような簡単な軽食を食べる。
今日はアポーの実を出すことにした。先日まではすりおろしていたが、お口の状態がほとんど良くなっているので、歯ごたえを楽しんでもらいたくアポーを選んだ。けれど薄切りにして、歯と歯茎に負担をかけないようにする。
「美味しいわ」
「本当に」
サクッという音を響かせて、オオルリさんもスワンさんも食べてくれる。お二人にお出ししたのに、勧められて私まで摘んでしまったが、酸味と甘みのバランスがよいこのアポーはとても美味しい。
「トビ爺さんの村で作っているアポーですよ」
トビ爺さんは今までも無償で食料を持って来たりしていたそうだが、最近はその頻度が上がっているらしい。
厨房の女中が言うには、オオルリさんとクジャのことはもちろん心配しているが、私のことを気に入ってくれたからだと言う。とても嬉しいことだが、なかなかタイミングが合わずすれ違いが続いていた。
「あぁ美味しかった。さぁ今日はどうかしら?」
先日のスワンさんが歩く姿を見たオオルリさんは、毎日必死に立とうと練習していた。そしてみるみるうちに言葉もはっきりと話せるようになり、回復が著しい。
メジロさんとスズメちゃんは別の仕事でこの部屋にはいないので、私が一人でオオルリさんを支える。
「……よいしょ」
オオルリさんはゆっくりとだが立ち上がった。ここまでは毎回ではないが、何回か成功させていた。問題はここからである。
「よいしょ……」
私はオオルリさんの背後へと回り込み、軽く抱きつくような体勢になる。転びそうになった時に、私が後ろに倒れクッション代わりになれば良いと思ったのだ。オオルリさんは、すり足気味に一歩を踏み出す。
「オオルリさん! 歩いているわ! 頑張って!」
スワンさんも寝台から降り、立ってオオルリさんを励ましている。お父様とじいやに頼んでいるものよりも先に、杖を作ってもらえばよかったと思い始めていると、オオルリさんはさらに一歩進んだ。
「んんっ!」
自身に気合を入れているのかオオルリさんはそんな声を漏らすと、また一歩進む。スワンさんが気を利かせ、オオルリさんの前まで歩いて来るとそのオオルリさんの手を取り「もう少しよ」と励ましているが、二人が転倒してしまったらどうしようかと私は気が気でない。
けれど関係が良好な嫁姑は、一人が応援するとその応援に応えるかのように体に力が入る。そしてハラハラとする私の気持ちに気付かないオオルリさんは、見事にスワンさんの寝台まで歩いたのだ。
「オオルリさん! 歩けたわね! おめでとう!」
「やりました!」
二人は手を取り合い喜んでいるが、こうしている場合ではない。私はそのまま廊下へと小走りで移動する。
「誰か! 誰かー!」
「どうした!? 姫ちゃん!?」
隣の部屋からレオナルドさんが血相を変えて飛び出して来た。辺りを見回し、小さな刃物を構えている。
ジェイソンさんのように、どんなに辛い目に遭ってもじいやから離れたくないのか、レオナルドさんはずっとこの国に滞在していた。そして訓練が中断された今、一応お客様であるレオナルドさんはあてがわれた寝室で休んでいたのだ。
「オ……オオルリさんが歩けたの!」
私の言葉を聞いたレオナルドさんは、戦闘状態の表情から驚きの表情に変わり、そして笑顔へと変わった。
「ついにやったな! 姫ちゃん!」
全身で喜びを表そうとするレオナルドさんは私に向かって走って来るが、その手にはまだ刃物を持っている。
「待って! レオナルドさん! それを仕舞って! ……じいやに見られたら一大事よ!」
最初は私の言葉の意味が分からなかったようだが、じいやという言葉で脳が覚醒したようである。自分の手を見て「うぉぉぉ!」と叫び、腰にある鞘に刃物を仕舞って辺りをキョロキョロと見回し、じいやがいないのを確認すると文字通り胸を撫で下ろしながら溜め息を吐いている。
「……姫ちゃん……内緒にしてくれ……」
「任せて、大丈夫よ」
そう返答すると、今度こそ私たちは喜びのハイタッチを交わした。
「っと、こうしちゃいられねぇな! 城中に知らせて来るぜ!」
そう言い残してレオナルドさんは走り去って行った。そのスピードは最初に見た頃よりも相当上がっている。じいやにしごかれたおかげで、レオナルドさんもパワーアップしたのだろう。
そうこうしているうちに、メジロさんにスズメちゃん、女中たちが集まって来た。そして私からもオオルリさんが歩いたことを報告すると、その場は一気にお祭り騒ぎとなった。オオルリさんとスワンさんは並んで座ったまま、にこやかに手を振っている。
これで今日の昼食は決まった。その準備をしようではないか。私はメジロさんとスズメちゃんにその場を任せ、厨房へと颯爽と向かったのだった。
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