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兵たちVSカレン

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 私は兵たちのことを軽視していたようだ。ガツガツと食べる姿を見て『良かった良かった』などと思っていたが、作ってきた料理の減り方が激しい。
 そういえばジェイソンさんの食欲も凄かったな……などと思い返しているうちに、さらに料理が減っている。不安になってきた私はそっと声をかけた。

「皆さん、まだ食べられそうですか?」

「はい!」

 私は『いえ、もうお腹いっぱいです』と言われるかと思ったが、そんな希望は打ち砕かれた。兵たちの食欲はとどまることを知らない。慌てて数名の女中と共に厨房へと戻った。

 幸いにも食材はまだまだある。『こんなに食べきれないわね、どうしましょう』などとさっきまで言い合っていたが、むしろ足りるか心配になってきた。兎にも角にも作れるものを作っていこう。

「追加でマイを炊きましょう! ミィソの汁物も減っていたわよね?」

「汁物は先程と同じものにしますか?」

「イナッズがたくさん残っていたわよね? ポゥティトゥとイナッズの汁物にしましょう!」

 私の叫びで女中たちはマイを炊いたりミィソの汁物を作り始める。私は肉料理を追加で作ることにした。
 ブー肉を厚めに切りとんかつ用にしようとしていると、先程の料理を作るところを見ていた女中が材料や道具を用意してくれた。パン粉の代わりになんちゃってナンを焼き、それを細かく砕いたものを代用したが、それがまだたくさん残っていたので助かった。

 とんかつを女中に任せた私はブー肉を薄く切る。気持ちが焦っているので上手く切れないが、失敗したものはボウルに入れておく。
 ある程度肉を切ったところでキャベッチを適当にザクザク切り、ガンリックをみじん切りにする。それらをフライパンに放り込み、塩とペパーで味付けをする。全く同じ食材でミィソの炒めものも作った。

「まず揚げ物とこの炒めものを持って行って!」

 今動けるのは一人だけだ。何回か往復させるのは申し訳ないが、こちらも手を離せない。
 ボウルに入れておいた肉片を取り出し、包丁で叩いて挽き肉にする。その間にマイを火にかけた女中に頼み、オーニーオーンをみじん切りにしてもらいそれを炒めてもらう。

「あ! それはナーニーオーンを細かく刻んで入れて!」

 イナッズの汁物が完成し、運ぼうとしていた女中に声をかけた。ナーニーオーンを手早く小口切りにしてくれ、それを入れるとネギたっぷりの納豆汁に見え、生唾をゴクンと飲み込む。私は味見くらいはするが、ほぼ飲まず食わずで料理を作り続けているのだ。けれど兵たちの食欲に負けるわけにはいかないのだ。変な意地を張ってしまう。

 汁物を女中が運ぶと、入れ違いで別の女中が戻って来た。

「兵たちの様子は!?」

「どんどん食べ物が減っています!」

 なんてことかしら……負けていられないわ! そう思っているところに予想外の人物が現れた。

「なんだなんだ? 大忙しじゃねぇか。娘っ子にまたこの前のアレを作ってもらおうと思ったのによ」

 なんとトビ爺さんがムギン粉を持って現れたのだ。戦場のようになっている厨房に酷く驚いている。

「トビ爺さん! 良いところに! それをちょうだい!」

 私の気迫に押されたトビ爺さんはすぐにムギン粉を手渡してくれた。在庫がだいぶ減っていたので大助かりだ。
 緑のペパーことピーマンを半分に切り、挽き肉とオーニーオーンの炒めものを混ぜ、ピーマンの内側にムギン粉を振りみっちりと肉を詰めて焼く。また照り焼きソースを作り、それをかけたものを運んでもらう。

 それから私は塩と水を入れてムギン粉を混ぜ、女中に指示を出していく。一度追加のマイを持って行ってもらい、私はうどん作りに勤しむ。うどんの汁に入れる肉を切ってもらったあとは、唐揚げの作り方を指示しながらうどんを作りを進めた。

────

「皆さんどうかしら!?」

「美味すぎる……が、もう食えねぇ……」

 大量の唐揚げとうどんを持って行った頃には、兵たちの食事のスピードは落ちていた。くたくたになっていた私は厨房に戻らず、兵たちの食事の様子を見ていたのだがどうやら私の勝ちのようである。

「これを娘っ子が作ったのか!?」

 特別ゲストのトビ爺さんは、兵たちに混ざって残っているものを食べていた。「美味い美味い」と年齢を感じさせない食欲に私が驚いたくらいだ。

「久しぶりに食べたが、やはり美味いな」

「なんと! いつもこのようなものを食べておるのか!?」

 何の勝負か分からないが、勝利に酔いしれていると、背後からとてつもなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。恐る恐る、ゆっくりと振り返ると声の主がうどんを食べている。

「クジャ!? お父様!? じいや!?」

「おぉカレン。小腹が空いたのじゃ」

 私の気持ちなどお構いなしに三人は当たり前のようにうどんを啜っている。
 今さら気付いたが、お父様とじいやはヒーズル王国ではほぼ野菜中心の生活なのに、人の倍以上の体力があった。その体力お化けがこの国でほとんど毎日のように肉を食べているのだ。パワーアップしないわけがない。そのパワーアップしたお父様たちに、極一般の人間である兵たちはしごかれていたのだ。

「皆元気になったようだな。明日からまた訓練を頑張ろう」

 何の気無しにお父様が笑顔で宣言をすると、極度の精神的ショックと満腹感からか兵たちはバタバタと倒れていったのだった……。
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