貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
237 / 366

マークさんとの再会

しおりを挟む
 思いがけず、おかわりなんちゃってサーターアンダギーを作る羽目になってしまったが、これはこれで良い思い出になった。女中たちとの息もピッタリで、連携プレーも見事なものであった。

「ちょっとこの場の人数で食べるには多いかもしれないわね……」

 こんもりと山になっているなんちゃってサーターアンダギーを見て呟くが、これは他の者たちにバレてしまったら争いになってしまいそうである。
 秘密の共有ということにしてこの場の皆で食べられるだけ食べ、残りは証拠隠滅とばかりにトビ爺さんに持たせると、それはそれはとても喜んでくれた。

「救世主! ありがとよ!」

「救世主よりも、娘っ子と呼んでくれたほうが嬉しいわ」

 そう言うとトビ爺さんはまたニカっと笑った。

「娘っ子! ワシは娘っ子を気に入った! 落ち着いたらお転婆と一緒にうちの村に遊びに来いよ!」

「えぇ! ぜひとも! うふふ、楽しみだわ」

 そうして私たちは固い握手を交した。

────

 お父様とじいやだけにニコライさんを任せていたが、どういう状況になっているのかいろんな意味で心配になり、クジャと共に部屋へと向かったのだが私とクジャは困惑している。

「ガ……ガデンドゥー……!」

 なぜか号泣しているニコライさんが発した言葉の意味が分からなかったが、おそらく『カレン嬢』と言っているのだろう。私たちがこっそりと大量のお菓子を食べているうちに、クジャのお父様であるハヤブサさんがこの場に来ていた。
 ちなみに私のお父様は「面白い」と呟き、珍獣を見るかのようにニコライさんを観察している。

「カレンさんが来てからのことを説明していたのだが……」

 ハヤブサさんも困惑気味に私たちにそう言う。ニコライさんはどうやら話を聞いて感動をしているようなのだが、その気持ちは嬉しくもあり恥ずかしくもあるが、泣き方が尋常ではなく引いてしまう。

「……ニコライよ。顔が汚い」

 クジャに至っては引くを通り越して毒舌になっている。それを聞いたお父様は下を向いて笑いをこらえている。

「……失礼します。お連れ様が到着したようです」

 未だおいおいと泣くニコライさんをどうしたら良いのか分からず微妙な空気が流れていたが、そこに家臣が現れ一言告げると、その後ろからマークさんが疲れきった様子で現れた。

「遅れてしまい大変申し訳ございません。……ニコライ様、わがままはいけませんとあれ程申しましたでしょう……」

 ハヤブサさんがニコライさんの隣の席を手で示すと、マークさんは一礼をし部屋へと入室する。そして静かに椅子に座ると、ニコライさんに諭すように話しかける。

「ば……ばがばばだんで~……」

 これは何を言いたいのか分かった。『わがままなんて』と言っているに違いない。それを聞いたマークさんは小さな溜め息を吐いた。

「……ニコライ様、リーンウン国の王家の方たちを心配していたことは、私が誰よりも分かっております」

 マークさんは落ち着いたように話し続ける。

「ですから、心配で駆け出したことは何も言いません。ですが、薬は馬車に載ったままなのですよ?」

 そこでニコライさんは泣き止み、足元やポケットなどを確認している。お父様はその様子を見てついにくっくと笑い出し、じいやもお父様につられ始めてしまった。

「バもですね、食事や水が必要なのでニコライ様のことは諦め、途中の村々で草や水を恵んでいただきました。先程、ようやく城に近くなったところでとてもお元気なご老人にお会いしたのですが、城からの帰りだとおっしゃっていました。『多分、あんたらのお仲間がわがまま放題だ』と私たちに言い、去って行かれました」

 それはトビ爺さんだろう。確かにニコライさんがわがままを言ったが、そのおかげで大量のおやつを食べることが出来た私とクジャは素知らぬ顔をしてマークさんの話を聞いていた。

「城の方でもないご老人が言うほどに、わがままを言ったのでしょう?」

 マークさんは無表情のまま、瞬きもせずにニコライさんの顔を凝視している。そんなニコライさんはすっかりと泣き止み、しどろもどろになっている。

「わわわわ私はただ……カレン嬢の手料理が食べたいとだけ……」

「ニコライ様! それがわがままでございますよ!」

 さっきまで無表情で淡々と話していたマークさんが真っ赤になって怒鳴ると、ニコライさんはあっちを向いたりこっちを向いたりと言葉通り右往左往している。お父様とじいや、それにハヤブサさんまでもが口元を押さえ笑いをこらえている。
 こんなタイミングで、女中がハヤブサさんとマークさんや、お父様たちにおかわりのお茶を持ってくると、挙動不審になっているニコライさんは目の前の皿をそっと持った。

「……マーク、カレン嬢の手作り料理の残りの一個をあげます。とても美味でした。あ……半分にして、ハヤブサ王にも……」

 無理やりなんちゃってサーターアンダギーを手で割ると、半分をマークさんへ、残りの半分をハヤブサさんへと渡そうとしている。

「ニコライ! 貴様父上を愚弄しておるのか!?」

 笑いをこらえるのに必死だった私たちヒーズル王国勢は、クジャのその怒号についに我慢しきれず笑い出した。
 そして追い打ちをかけるようにマークさんも「そういうところです! 失礼ですよ!?」と叫ぶと、まだ少し体調の悪かったハヤブサさんまでもが大声で涙を流しながら笑い出したのだった。リーンウン国のハヤブサ王、完全復活のようである。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...