貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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お菓子

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 もち米と小豆という愛してやまないものに出会えたが、話は大幅に脱線している。元々はニコライさん用に何かを作りにこの厨房へとやって来たのだ。そうは思いつつも、このマイについて質問をしたりと私の探究心は留まることを知らない。

 何回かの問答を重ねると驚くべきことが分かった。このもち米も小豆も、赤飯にする以外に使い方を知らないようなのだ。とはいえ、赤飯も、それ以外のものも今は作ろうとは思わない。なぜなら、ニコライさんが来ていることは祝い事ではないからだ。

「あら? これは?」

 カマス袋に混じり、布で作られた小さめの袋があった。それに触れながら呟くと、トビ爺さんが答えてくれる。

「それはムギン粉だ。頼まれてたからなぁ」

 マイを主食にしている国なのでムギンがないのかと思っていたが、女中たちに聞くと少量だが栽培していると言っていた。クジャの家族がもう少し回復し、不謹慎だと思われない頃に城中のみんなにお菓子を振る舞うと約束していたのだ。
 日に日に体調が回復している王家の人たちの様子を見て、女中たちはもち米などの他にこのムギン粉もトビ爺さんに頼んだらしい。

「……はぁ……仕方ないわ……このムギン粉でお菓子を作ってニコライさんに出しましょう……」

 私も実はお菓子を楽しみにしていたのだ。溜め息混じりでそう言うと、気の強い女中たちは「あの人にはもったいない!」と騒ぐ。そこにお茶を出しに行った女中たちも戻り、この現状を伝えるととんでもないことを告げ口してくれた。

「カレン嬢の手作り料理はまだですか? なんて言っていたわ。モクレン様が一喝すると縮こまっていたけれど。モクレン様……素敵……」

 最初は怒り口調で、最後はうっとりとしながら話す女中の言葉を聞いて、私もイラッとしてしまった。

「……いいわ。このムギン粉を使ってしまいましょう。……その代わり、皆さんには後日別のお菓子を作るわ!」

 おそらくニコライさんは、何か食べ物を出すまで繰り返しわがままを言うだろう。ならばとっとと作ってしまったほうが早い。
 もったいないと騒ぐ女中たちに混じり、クジャは「イナッズでも食わせればよい!」などと言い始める。どうやら食後のおやつを食べたいようだ。この細い体のどこにそんなに入るのかと疑問に思う。

「もちろん、私たちの試食用も作るわ! それで我慢してちょうだい! さっき言った私の秘伝のお菓子の作り方もあとで教えるけれど、またこの国に革命をもたらすわよ!」

 やはり人は希少価値の高い言葉に惹かれるようで、『秘伝』の言葉に女中たちはようやく口をつぐんだ。

「……その試食ってぇのは、このムギン粉を持って来たワシも食べれるのかい?」

 騒ぎ立てる女性たちの中で、おとなしくしていたトビ爺さんが口を開いた。少しワクワクしたような表情をしており、どうやら甘いものが好きなようだ。

「もちろんよ! すぐに出来るわ! 早速作るわよ! お鍋に油を、あと砂糖とコッコの卵も用意して! トビ爺さんはクジャが何もしないように見張ってください!」

 ニコライさんへのイライラから大声になってしまう。けれど私の掛け声と共に、女中たちはテキパキと動き始めた。トビ爺さんは笑いながらクジャの横をキープする。

 ボウルでは小さいと思ったので、低めの木桶を用意しそこにムギン粉を入れる。その三分の一ほどの量の砂糖を入れ混ぜ合わせているうちに、溶き卵を作ってもらう。
 ムギン粉と砂糖が混ざったところへいくつかの溶き卵を入れ、ひたすら混ぜ合わせて生地を作り、一瞬悩んだが一口大に丸めて温めておいた油へ投入する。

「じっくりと揚げるのよ」

 鍋の周りには人だかりが出来ているが、クジャに油が跳ねないように女中たちがガードしているため、「見えん!」とクジャが騒ぐ。
 見守るように鍋を見ていると、生地が割れてくる。

「その割れたものを取り出して」

 一つ、また一つと取り出されるうちに、私はまた生地を油の中へと入れる。それを繰り返し、たくさんの揚げ菓子が完成した。

「お出しする前に、ちゃんと試食しなくちゃね」

 もはやニコライさんのためではなく、私たちのおやつとして作った感が強いが、皆も「そうね」「当然よね」と賛同してくれる。そして各々が一つずつ手に取り、私の食べ方を確認して一斉にかじる。

「うん! 美味しい!」

 思わず叫ぶと、全員が歓声を上げて食べている。実は手抜き簡単ドーナツを作ろうとしていたのだが、ドーナツ型にするよりも丸めたほうが早いと思い、急きょなんちゃってサーターアンダギーを作ったのだ。

「お茶はこれにしましょう」

 ここに来てからは毎日お茶を飲んでいる。そのおかげでたくさんの種類のお茶を飲み、味の違いまで分かるようになったのだ。品種や育てた人によって味が違うのもまた面白い。
 私が選んだのは菓子の甘味を引き立ててくれる、渋めのお茶だ。すぐに女中たちが動き、ささっとお茶の準備をする。

「……カレン……ニコライにはイナッズで良いのではないか?」

 ニコライさんやお父様たちのために小皿に盛り付けていると、クジャが恨めしそうになんちゃってサーターアンダギーを見つめている。

「また作ってあげるから」

 私はなだめるようにそう言うも、でもでも……と繰り返すクジャを見て、トビ爺さんは追加のムギン粉を取りに行ってくれた。要するにトビ爺さんからも、無言のおかわりアピールをされてしまったのだった。
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