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厨房内の変化
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ハヤブサさんとチュウヒさんのことはモズさんとコゲラさんに任せ、クジャに続いて寝室からぞろぞろと移動する。その中の一人の家臣に、お父様はじいやを呼んで来るよう頼んでいる。
女中たちはパタパタと走り回り、明らかに無駄な仕事が増えたことに同情してしまう。それは私もそうなのだが。
「この国の女性たちは美しい人たちばかりで、いつ来ても幸せな気持ちになれます」
無駄な仕事を増やした当の本人であるニコライさんは、女中たちを鼻の下を伸ばして見ている。私はまた大きな溜め息を一つ吐いた。
────
厨房へやって来た私は足を止める。
「……で、どうしてクジャがここにいるのかしら?」
「ニコライめ……この国のどこかでマークを置き去りにして走ってきたと言っておったじゃろ。マークがおらねばニコライとは話にならん!」
それはとても同意出来る内容だが、ニコライさんは今このリーンウン国の城にいながら、私のお父様とじいやと向かい合って座っているはずだ。お父様のことを私の彼氏か夫だとまだ思っていたようで、お父様にビクビクしているところにじいやが戻り、じいやを見て笑顔になったところで私は部屋をあとにしたのだが、ちゃっかりクジャまで部屋を出て来ていたようだ。
「……何を作るにも時間がかかるから、まずはお茶でも出しましょう」
クジャに戻るように言ったところで戻るわけがないのを知っているので、クジャに構わずお茶の準備をする。すぐに出せるのは目の前にある万能草のお茶だ。
これは決して嫌がらせなどではなく、クジャのお母様とお祖母様の回復が早かったために万能草がたくさん余ってしまったからだ。どこからか話が漏れたらしく、この国の民たちが毎日万能草を摘んで持って来てくれていたのだ。
お湯を沸かそうとしていると、簡単な食事をとっていた厨房の女中たちが戻って来た。
「あらカレンさん? 何かあったの? 戻って来るなんて初めてね」
一人の女中がそう言いながら私を手伝おうとすると、他の女中も皆集まり一緒にお茶の準備を手伝ってくれる。理由を言うと「あぁ、あのうるさい人ね」と、こちらでもニコライさんはうるさいと認識されているらしい。
実は毎日の看病をしている私を見たり、おむつを洗ったりしているのを見たりしているうちに、女中たちは少しずつ私に心を開いてくれたのだ。
「今日もマイを美味しく食べられたわ」
特に仲良くなった理由はマイだ。王家の人以外は玄米を食べるリーンウン国だが、日本でも玄米を食べるには長時間水に浸けなければ美味しく炊けない。その為、炊飯器やタイマーなどがないこの国では、当番制で夜中に誰かが起きてマイを水に漬けていたのだ。
「お役に立てたのなら良かったわ」
そこで私は裏技を教えたのだ。いわゆる『びっくり炊き』という、玄米なのに水に浸けずにそのまま炊ける方法だ。
基本的にこの国も目分量でマイを計っているが、そのマイに対して一.二~一.五倍くらいの水を入れて蓋をして強火にかける。二十分ほど火にかけ『ピシッ』という音がしてきたら、蓋を開けて井戸から汲み上げた冷たい水をマイと同量ほど入れ、かき混ぜてから蓋をして、さらに十五分ほど加熱して弱火にする。
そして火を消したら蓋をしたまま五分ほど蒸らすだけだ。
「こんなに簡単に美味しいマイを食べられるなんて、カレンさんはこの国に革命をもたらしたわ」
他の女中たちと違い厨房内の女中たちは特に気の強い人ばかりだったため、初めて会った時はかなりの余所者扱いを受けたが、今では普通に仲良くさせてもらっている。
もう一つ仲良くなった理由がある。ある日、王家のマイを作る時に出る糠をどうしているか聞いた時に、コッコたちの餌として与えていると聞いた。糠床を作ろうかとも思ったが、糠自体の少なさと、私の知っている糠床は昆布を使うために諦めた。
その代わりに糠を使って食器を洗ったり、洗顔をすると良いと教えたのだが、女性は美に対して敏感である。
糠での洗顔は肌がツヤツヤになると瞬く間に女中たちの間に広がり、そのお礼として『アワノキ』という木を教えてもらったのだ。その木の実はサイガーチのように泡立つのだが、これで髪を洗うとサラツヤになるのだ。これもヒーズル王国へ持って帰ると私は決めたくらいだ。
そんなつい最近の出来事を思い出しているうちに湯が沸き、女中たちが茶器を手にし万能草のお茶を淹れてくれる。
「ではこのお茶を持って行きますね」
「いえ、私が」
女中たちがお茶の奪い合いを始めてしまった。実は女中たちの間でお父様のファンクラブのようなものが出来てしまい、隙あらばお父様に近付こうと必死なのだ。
そんなお父様はお母様一筋なので全く見向きもしないが、そこがまたポイントが高いらしい。それを娘である私の前で言うくらい女中たちとは仲良くなれたのだ。
「これからおやつを作るから、後からでもお父様を見れるわよ」
苦笑いでそう告げると争いはピタリと止み、残った女中たちはまた私を手伝おうとしてくれる。クジャはそんな女中たちを見て、声を出して笑っているのだった。
女中たちはパタパタと走り回り、明らかに無駄な仕事が増えたことに同情してしまう。それは私もそうなのだが。
「この国の女性たちは美しい人たちばかりで、いつ来ても幸せな気持ちになれます」
無駄な仕事を増やした当の本人であるニコライさんは、女中たちを鼻の下を伸ばして見ている。私はまた大きな溜め息を一つ吐いた。
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厨房へやって来た私は足を止める。
「……で、どうしてクジャがここにいるのかしら?」
「ニコライめ……この国のどこかでマークを置き去りにして走ってきたと言っておったじゃろ。マークがおらねばニコライとは話にならん!」
それはとても同意出来る内容だが、ニコライさんは今このリーンウン国の城にいながら、私のお父様とじいやと向かい合って座っているはずだ。お父様のことを私の彼氏か夫だとまだ思っていたようで、お父様にビクビクしているところにじいやが戻り、じいやを見て笑顔になったところで私は部屋をあとにしたのだが、ちゃっかりクジャまで部屋を出て来ていたようだ。
「……何を作るにも時間がかかるから、まずはお茶でも出しましょう」
クジャに戻るように言ったところで戻るわけがないのを知っているので、クジャに構わずお茶の準備をする。すぐに出せるのは目の前にある万能草のお茶だ。
これは決して嫌がらせなどではなく、クジャのお母様とお祖母様の回復が早かったために万能草がたくさん余ってしまったからだ。どこからか話が漏れたらしく、この国の民たちが毎日万能草を摘んで持って来てくれていたのだ。
お湯を沸かそうとしていると、簡単な食事をとっていた厨房の女中たちが戻って来た。
「あらカレンさん? 何かあったの? 戻って来るなんて初めてね」
一人の女中がそう言いながら私を手伝おうとすると、他の女中も皆集まり一緒にお茶の準備を手伝ってくれる。理由を言うと「あぁ、あのうるさい人ね」と、こちらでもニコライさんはうるさいと認識されているらしい。
実は毎日の看病をしている私を見たり、おむつを洗ったりしているのを見たりしているうちに、女中たちは少しずつ私に心を開いてくれたのだ。
「今日もマイを美味しく食べられたわ」
特に仲良くなった理由はマイだ。王家の人以外は玄米を食べるリーンウン国だが、日本でも玄米を食べるには長時間水に浸けなければ美味しく炊けない。その為、炊飯器やタイマーなどがないこの国では、当番制で夜中に誰かが起きてマイを水に漬けていたのだ。
「お役に立てたのなら良かったわ」
そこで私は裏技を教えたのだ。いわゆる『びっくり炊き』という、玄米なのに水に浸けずにそのまま炊ける方法だ。
基本的にこの国も目分量でマイを計っているが、そのマイに対して一.二~一.五倍くらいの水を入れて蓋をして強火にかける。二十分ほど火にかけ『ピシッ』という音がしてきたら、蓋を開けて井戸から汲み上げた冷たい水をマイと同量ほど入れ、かき混ぜてから蓋をして、さらに十五分ほど加熱して弱火にする。
そして火を消したら蓋をしたまま五分ほど蒸らすだけだ。
「こんなに簡単に美味しいマイを食べられるなんて、カレンさんはこの国に革命をもたらしたわ」
他の女中たちと違い厨房内の女中たちは特に気の強い人ばかりだったため、初めて会った時はかなりの余所者扱いを受けたが、今では普通に仲良くさせてもらっている。
もう一つ仲良くなった理由がある。ある日、王家のマイを作る時に出る糠をどうしているか聞いた時に、コッコたちの餌として与えていると聞いた。糠床を作ろうかとも思ったが、糠自体の少なさと、私の知っている糠床は昆布を使うために諦めた。
その代わりに糠を使って食器を洗ったり、洗顔をすると良いと教えたのだが、女性は美に対して敏感である。
糠での洗顔は肌がツヤツヤになると瞬く間に女中たちの間に広がり、そのお礼として『アワノキ』という木を教えてもらったのだ。その木の実はサイガーチのように泡立つのだが、これで髪を洗うとサラツヤになるのだ。これもヒーズル王国へ持って帰ると私は決めたくらいだ。
そんなつい最近の出来事を思い出しているうちに湯が沸き、女中たちが茶器を手にし万能草のお茶を淹れてくれる。
「ではこのお茶を持って行きますね」
「いえ、私が」
女中たちがお茶の奪い合いを始めてしまった。実は女中たちの間でお父様のファンクラブのようなものが出来てしまい、隙あらばお父様に近付こうと必死なのだ。
そんなお父様はお母様一筋なので全く見向きもしないが、そこがまたポイントが高いらしい。それを娘である私の前で言うくらい女中たちとは仲良くなれたのだ。
「これからおやつを作るから、後からでもお父様を見れるわよ」
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