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レオナルドさんの特技?

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 納豆や漬け物だけではなく、大皿料理も存分に堪能し終えて満足していると、最後には食後のお茶が出された。透明な緑のお茶は、一口飲むとほのかな甘みと茶葉の香りが口いっぱいに広がる。

「もう最高すぎて……帰りたくないかも……」

 うっかりと本音がだだ漏れると、クジャは「カレンが住むのは歓迎じゃ!」と喜び、お父様は「それは困る……」と動揺していた。

「はぁ……ゆっくりとこうしてお話をしていたいのだけれど、私は戻らないと」

 そう言って立ち上がろうとすると、クジャに呼び止められた。

「メジロやスズメに任せてはダメなのか?」

「そうね。まず一番慣れているのが私だもの。クジャのお祖母様もお母様も、一時間から二時間に一回は必ず体の向きを変えないといけないの。ご自分で動けるようになるまでは、私がお世話をすると決めたのよ」

 それを聞いたクジャは、驚きと悲しみが混じり合った表情をしている。

「わらわも何か……」

 そう言いかけたクジャを止める。

「大丈夫よ。クジャは傷痕を完治させましょう。綺麗な顔なのに、痕が残ったら大変よ。それにお二人は今、お肌の状態も良くないから、そこも気を付けなければいけないし」

 苦笑いで告げると、クジャは困ったように声を絞り出した。

「しかし……カレンはいつ休むのじゃ……?」

「それが少し問題なのよねぇ……起こしてくれる道具はないから、寝ずにお世話をするしかないのかもしれないわね」

 目覚まし時計というものはないので、徹夜の看病は覚悟していたのである。そして日中に数時間の仮眠をとって、その間はメジロさんに看病をお願いしようと思っていたのだ。
 そんな私たちの会話を聞いていたレオナルドさんが声を上げた。

「一時間から二時間に一回の世話なんだろ? 姫ちゃん、俺が起こしてやるから寝な」

「え? どういうこと? レオナルドさんは寝ないの?」

 レオナルドさんの言葉に驚き、質問攻めにしてしまう。

「寝るさ。寝るが、俺は先生のせいで長時間眠れない体になっちまったんだ」

「は? どういうことだ?」

 突如、じいやのせいで眠れなくなったとレオナルドさんは言い、それに驚いたじいやが困惑しながらレオナルドさんに質問をしている。

「先生の伝説の実戦訓練は、今も語り継がれてるんですよ……」

 どこか遠くを見ながらレオナルドさんは話す。その目は死んだ魚のようであり、口元は若干笑っている。そのいろいろと察してしまう何ともいえない表情から、行かねばならないのに『伝説の実戦訓練』の話が聞きたくなってしまう。

「……伝説って……どんな……?」

 ゴクリとツバを飲み込みながら聞くと、じいやは「変わったことはしておりません」と否定するが、それを見たレオナルドさんは「……ふ」と小さく息を吐いた。

「……敵は人だけとは限らない。そして日中だけが戦とは限らない……先生はそう言って、俺たちを森へと連れて行ったんだ……」

 レオナルドさんの表情からは、あきらかにトラウマとなっていることが伺い知ることが出来る。レオナルドさんの口も止まることはなさそうだし、私も続きが聞きたくて椅子に深く座り直した。

 レオナルドさんが言うには、数十名の兵士が森へと連れて行かれ、二日間生き延びろと言われたらしい。そして鬼教官だったじいやに「殺しはしないが、殺す気で襲撃する」と、兵士たちは予告されたそうだ。
 兵士たちは数名から十数名の部隊となり、森の中へと入ったそうだ。

「森の中にはな、凶暴な獣がたくさんいたんだ……」

 じいやから逃げるのにも必死だが、ベーアやガイターなどが多数生息していたらしく、それらを倒そうとしているうちにじいやに背後を取られ、休息をしようとするとじいやが現れるという、まるでホラーやサスペンス映画のような状態だったらしい。

「逃げてるうちにな、先生は沼には現れないって情報が共有されたんだ」

 おそらく、森の民の住んでいた森には沼がなかったらしいので、じいやは不用意に近付かなかったのだろう。
 その沼地で夜を明かそうと、兵士たちは集まって眠りについたらしい。

「そしたらな、出たんだよ……沼から奴が……」

 ようやく休める、そう思ったのも束の間、沼の中からスネックが現れたらしい。月の光に照らされ、ぬらぬらと光るそのスネックは超巨大種だったらしいのだ。
 どうにか全員が逃げることができ、なんとか森へと逃げ込むと、いたる所にじいやが作った罠が仕掛けられていて、罠と背後からのスネックと、前方から来る獣とじいやに兵士たちは阿鼻叫喚を極めたらしい。

「後に危険すぎると判断され、その一回きりで終わった、俺たちだけが体験した訓練だ……。あの日から俺は寝てもすぐに目が覚めてしまうようになった……」

 私とクジャはうわぁという顔でじいやを見るが、じいやは「懐かしい」と笑い、お父様は「森では良くあることだ」と、こちらも笑っている。
 レオナルドさんは目に光がないまま私に言った。

「だから、腕に紐でもつけて扉の下をくぐらせておいたら、俺が起きる度に引っ張って起こすぞ」

 思いがけないレオナルドさんのトラウマのおかげで夜の看病への不安は無くなったけれど、複雑な思いのまま私は看病へと戻ったのだった。
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