231 / 366
レオナルドさんの特技?
しおりを挟む
納豆や漬け物だけではなく、大皿料理も存分に堪能し終えて満足していると、最後には食後のお茶が出された。透明な緑のお茶は、一口飲むとほのかな甘みと茶葉の香りが口いっぱいに広がる。
「もう最高すぎて……帰りたくないかも……」
うっかりと本音がだだ漏れると、クジャは「カレンが住むのは歓迎じゃ!」と喜び、お父様は「それは困る……」と動揺していた。
「はぁ……ゆっくりとこうしてお話をしていたいのだけれど、私は戻らないと」
そう言って立ち上がろうとすると、クジャに呼び止められた。
「メジロやスズメに任せてはダメなのか?」
「そうね。まず一番慣れているのが私だもの。クジャのお祖母様もお母様も、一時間から二時間に一回は必ず体の向きを変えないといけないの。ご自分で動けるようになるまでは、私がお世話をすると決めたのよ」
それを聞いたクジャは、驚きと悲しみが混じり合った表情をしている。
「わらわも何か……」
そう言いかけたクジャを止める。
「大丈夫よ。クジャは傷痕を完治させましょう。綺麗な顔なのに、痕が残ったら大変よ。それにお二人は今、お肌の状態も良くないから、そこも気を付けなければいけないし」
苦笑いで告げると、クジャは困ったように声を絞り出した。
「しかし……カレンはいつ休むのじゃ……?」
「それが少し問題なのよねぇ……起こしてくれる道具はないから、寝ずにお世話をするしかないのかもしれないわね」
目覚まし時計というものはないので、徹夜の看病は覚悟していたのである。そして日中に数時間の仮眠をとって、その間はメジロさんに看病をお願いしようと思っていたのだ。
そんな私たちの会話を聞いていたレオナルドさんが声を上げた。
「一時間から二時間に一回の世話なんだろ? 姫ちゃん、俺が起こしてやるから寝な」
「え? どういうこと? レオナルドさんは寝ないの?」
レオナルドさんの言葉に驚き、質問攻めにしてしまう。
「寝るさ。寝るが、俺は先生のせいで長時間眠れない体になっちまったんだ」
「は? どういうことだ?」
突如、じいやのせいで眠れなくなったとレオナルドさんは言い、それに驚いたじいやが困惑しながらレオナルドさんに質問をしている。
「先生の伝説の実戦訓練は、今も語り継がれてるんですよ……」
どこか遠くを見ながらレオナルドさんは話す。その目は死んだ魚のようであり、口元は若干笑っている。そのいろいろと察してしまう何ともいえない表情から、行かねばならないのに『伝説の実戦訓練』の話が聞きたくなってしまう。
「……伝説って……どんな……?」
ゴクリとツバを飲み込みながら聞くと、じいやは「変わったことはしておりません」と否定するが、それを見たレオナルドさんは「……ふ」と小さく息を吐いた。
「……敵は人だけとは限らない。そして日中だけが戦とは限らない……先生はそう言って、俺たちを森へと連れて行ったんだ……」
レオナルドさんの表情からは、あきらかにトラウマとなっていることが伺い知ることが出来る。レオナルドさんの口も止まることはなさそうだし、私も続きが聞きたくて椅子に深く座り直した。
レオナルドさんが言うには、数十名の兵士が森へと連れて行かれ、二日間生き延びろと言われたらしい。そして鬼教官だったじいやに「殺しはしないが、殺す気で襲撃する」と、兵士たちは予告されたそうだ。
兵士たちは数名から十数名の部隊となり、森の中へと入ったそうだ。
「森の中にはな、凶暴な獣がたくさんいたんだ……」
じいやから逃げるのにも必死だが、ベーアやガイターなどが多数生息していたらしく、それらを倒そうとしているうちにじいやに背後を取られ、休息をしようとするとじいやが現れるという、まるでホラーやサスペンス映画のような状態だったらしい。
「逃げてるうちにな、先生は沼には現れないって情報が共有されたんだ」
おそらく、森の民の住んでいた森には沼がなかったらしいので、じいやは不用意に近付かなかったのだろう。
その沼地で夜を明かそうと、兵士たちは集まって眠りについたらしい。
「そしたらな、出たんだよ……沼から奴が……」
ようやく休める、そう思ったのも束の間、沼の中からスネックが現れたらしい。月の光に照らされ、ぬらぬらと光るそのスネックは超巨大種だったらしいのだ。
どうにか全員が逃げることができ、なんとか森へと逃げ込むと、いたる所にじいやが作った罠が仕掛けられていて、罠と背後からのスネックと、前方から来る獣とじいやに兵士たちは阿鼻叫喚を極めたらしい。
「後に危険すぎると判断され、その一回きりで終わった、俺たちだけが体験した訓練だ……。あの日から俺は寝てもすぐに目が覚めてしまうようになった……」
私とクジャはうわぁという顔でじいやを見るが、じいやは「懐かしい」と笑い、お父様は「森では良くあることだ」と、こちらも笑っている。
レオナルドさんは目に光がないまま私に言った。
「だから、腕に紐でもつけて扉の下をくぐらせておいたら、俺が起きる度に引っ張って起こすぞ」
思いがけないレオナルドさんのトラウマのおかげで夜の看病への不安は無くなったけれど、複雑な思いのまま私は看病へと戻ったのだった。
「もう最高すぎて……帰りたくないかも……」
うっかりと本音がだだ漏れると、クジャは「カレンが住むのは歓迎じゃ!」と喜び、お父様は「それは困る……」と動揺していた。
「はぁ……ゆっくりとこうしてお話をしていたいのだけれど、私は戻らないと」
そう言って立ち上がろうとすると、クジャに呼び止められた。
「メジロやスズメに任せてはダメなのか?」
「そうね。まず一番慣れているのが私だもの。クジャのお祖母様もお母様も、一時間から二時間に一回は必ず体の向きを変えないといけないの。ご自分で動けるようになるまでは、私がお世話をすると決めたのよ」
それを聞いたクジャは、驚きと悲しみが混じり合った表情をしている。
「わらわも何か……」
そう言いかけたクジャを止める。
「大丈夫よ。クジャは傷痕を完治させましょう。綺麗な顔なのに、痕が残ったら大変よ。それにお二人は今、お肌の状態も良くないから、そこも気を付けなければいけないし」
苦笑いで告げると、クジャは困ったように声を絞り出した。
「しかし……カレンはいつ休むのじゃ……?」
「それが少し問題なのよねぇ……起こしてくれる道具はないから、寝ずにお世話をするしかないのかもしれないわね」
目覚まし時計というものはないので、徹夜の看病は覚悟していたのである。そして日中に数時間の仮眠をとって、その間はメジロさんに看病をお願いしようと思っていたのだ。
そんな私たちの会話を聞いていたレオナルドさんが声を上げた。
「一時間から二時間に一回の世話なんだろ? 姫ちゃん、俺が起こしてやるから寝な」
「え? どういうこと? レオナルドさんは寝ないの?」
レオナルドさんの言葉に驚き、質問攻めにしてしまう。
「寝るさ。寝るが、俺は先生のせいで長時間眠れない体になっちまったんだ」
「は? どういうことだ?」
突如、じいやのせいで眠れなくなったとレオナルドさんは言い、それに驚いたじいやが困惑しながらレオナルドさんに質問をしている。
「先生の伝説の実戦訓練は、今も語り継がれてるんですよ……」
どこか遠くを見ながらレオナルドさんは話す。その目は死んだ魚のようであり、口元は若干笑っている。そのいろいろと察してしまう何ともいえない表情から、行かねばならないのに『伝説の実戦訓練』の話が聞きたくなってしまう。
「……伝説って……どんな……?」
ゴクリとツバを飲み込みながら聞くと、じいやは「変わったことはしておりません」と否定するが、それを見たレオナルドさんは「……ふ」と小さく息を吐いた。
「……敵は人だけとは限らない。そして日中だけが戦とは限らない……先生はそう言って、俺たちを森へと連れて行ったんだ……」
レオナルドさんの表情からは、あきらかにトラウマとなっていることが伺い知ることが出来る。レオナルドさんの口も止まることはなさそうだし、私も続きが聞きたくて椅子に深く座り直した。
レオナルドさんが言うには、数十名の兵士が森へと連れて行かれ、二日間生き延びろと言われたらしい。そして鬼教官だったじいやに「殺しはしないが、殺す気で襲撃する」と、兵士たちは予告されたそうだ。
兵士たちは数名から十数名の部隊となり、森の中へと入ったそうだ。
「森の中にはな、凶暴な獣がたくさんいたんだ……」
じいやから逃げるのにも必死だが、ベーアやガイターなどが多数生息していたらしく、それらを倒そうとしているうちにじいやに背後を取られ、休息をしようとするとじいやが現れるという、まるでホラーやサスペンス映画のような状態だったらしい。
「逃げてるうちにな、先生は沼には現れないって情報が共有されたんだ」
おそらく、森の民の住んでいた森には沼がなかったらしいので、じいやは不用意に近付かなかったのだろう。
その沼地で夜を明かそうと、兵士たちは集まって眠りについたらしい。
「そしたらな、出たんだよ……沼から奴が……」
ようやく休める、そう思ったのも束の間、沼の中からスネックが現れたらしい。月の光に照らされ、ぬらぬらと光るそのスネックは超巨大種だったらしいのだ。
どうにか全員が逃げることができ、なんとか森へと逃げ込むと、いたる所にじいやが作った罠が仕掛けられていて、罠と背後からのスネックと、前方から来る獣とじいやに兵士たちは阿鼻叫喚を極めたらしい。
「後に危険すぎると判断され、その一回きりで終わった、俺たちだけが体験した訓練だ……。あの日から俺は寝てもすぐに目が覚めてしまうようになった……」
私とクジャはうわぁという顔でじいやを見るが、じいやは「懐かしい」と笑い、お父様は「森では良くあることだ」と、こちらも笑っている。
レオナルドさんは目に光がないまま私に言った。
「だから、腕に紐でもつけて扉の下をくぐらせておいたら、俺が起きる度に引っ張って起こすぞ」
思いがけないレオナルドさんのトラウマのおかげで夜の看病への不安は無くなったけれど、複雑な思いのまま私は看病へと戻ったのだった。
43
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる