貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
229 / 366

洗濯

しおりを挟む
 厨房から出たが、スズメちゃんは相変わらず緊張しているようである。

「スズメちゃんって、何歳?」

 唐突に話しかけると、驚きながらもスズメちゃんは口を開いた。

「十二歳です」

「え!? 私も同じ歳よ! 良かったわ! ぜひお友だちになってちょうだいね!」

 そう言いながらスズメちゃんの手を無理やり握り、ぶんぶんと腕を振りながら握手をする。けれどスズメちゃんは「そんな……」とか「恐れ多いです……」なんて謙遜をしている。
 この国での私のミッションは決まった。王家の皆さんの回復と、女中たちとの関係、そしてスズメちゃんと仲良くなることだ。ちょっとのことでは私はめげないのだ。

「そのうち気付くと思うけれど、私はクジャのような姫ではないわ。とても大雑把だし、男の子のようなのよ。気を使うような必要なんてないからね」

 私の言葉を聞いたスズメちゃんは「え? え?」と戸惑っている。すぐに私の特異さに気付くだろう。

「そうだ! お洗濯って、どこですれば良いのかしら?」

 突然話題を変えた私に驚きつつも、「こちらです」と、スズメちゃんは案内してくれた。外ではあるが屋根が付いており、厨房からはそんなに離れていない場所に洗濯場はあった。
 ここにも井戸があり、桶も何個か置かれている。地面はセーメントで固められており、タッケで作られた排水口から流れた水は小さなせせらぎとなり、森へと自然に流れて行くようだ。

「水の行き先は森なの?」

「はい。小さな小川が流れていて、そこに流れ着くようになっています」

 それを聞いてしばし考える。

「その水を、この国の人が飲むようなことは?」

「それはないです。そこも考えて作られているそうです」

 ならば安心だ。不安の無くなった私は笑顔で宣言をする。

「じゃあ、日の出ているうちにお洗濯をするわ」

 ルンルンと小走りで部屋に戻り、メジロさんが戻っているのを確認した私はお父様たちに声をかける。

「お父様、じいや、樹皮を干しているのと同じ、物干し? を作ってほしいの。メジロさん、この部屋の近くに干す場所を作っても良いかしら?」

 するとメジロさんは、この部屋から見えない場所であれば良いと言ってくれ、さらに物を干すなら乾燥させたタッケがあると言い、お父様たちをスズメちゃんに案内させた。
 私はウキウキで部屋の外に置いてある洗濯物を持つと、メジロさんが驚きの表情をして口を開いた。

「カレンさん……? 何をなされるのです?」

「え? お洗濯よ?」

 私は使い終わったおむつが入ったカゴを持っている。少々混乱しているメジロさんと話すと、どうやら私が洗うのは手ぬぐいや自分の下着なのだろうと思っていたようである。そして使い終わったおむつは、後でまとめて焼却処分するつもりであったようだ。

「えぇ!? 燃やすなんてしないわよ! もったいないわ! 洗ったらまた使えるのよ? じゃあ行ってくるわ!」

 呆然としているメジロさんをその場に残し、私は洗濯場へと向かった。

 井戸から水を汲み、桶に水を入れておむつを手洗いする。クジャのお祖母様もお母様もしばらく食べていなかったので、今のところおむつの汚れは小さい方だけなので楽だ。
 洗濯日和だなと思いつつ、一枚一枚丁寧に洗っていると、一緒におむつを縫った女中と厨房の女中が洗濯物を持って現れた。女中同士の仲は良いようだ。

「……カレンさん? もしかして……それは……」

 一緒におむつを縫っただけあって、すぐに私の洗っているものがおむつだと分かったようである。

「えぇ、お二人のおむつよ。こうやって洗えばまた使えるし、さらに布も柔らかくなってお肌への負担も減るわ」

 それを聞いた厨房の女中が愕然とし、ぷいっとどこかへ行ってしまった。残った女中は、私とその女中を交互に見てオロオロとしている。

「突然やって来て散々騒いだ挙げ句、厨房まで出入りをしているのだもの。良く思われなくて当然だわ。でも私は仲良くなる気でいるから、全然平気よ」

 ザブザブとおむつを洗いながら笑顔で答えるが、女中はそれで厨房で何かあったと察したのだろう。私のことを心配してくれ、次からは一緒に厨房に行こうかとまで言ってくれた。

「ううん、何かされるわけではないし、女中さんもお仕事があるでしょう? 本当に大丈夫よ」

「ですが……」

 そんな会話をしていると、先程の厨房の女中が戻ってきた。その手にはマメ科特有のサヤが、例えるなら藤の実のサヤのようだが、それに比べると巨大なものを持っている。

「あげます」

 ぶっきらぼうにそう言ってサヤを渡されたが、何が何だか分からずにいると「これだからお姫様は……」と嫌味を言われてしまった。けれどこの場に残っていた女中は、そんな様子を笑顔で見ている。

「これで洗い物が出来るんですよ」

 女中は笑顔のまま手でサヤを折り、洗うために持ってきていた汚れの少ない手ぬぐいにそれを包んだ。そのままそれを水の中に入れ、しばらくその手ぬぐいを揉んだりしていると段々と泡立ってきた。

「まぁ! これはすごいわ! ありがとう!」

 そう声をかけるも、女中はまだ笑顔を見せてくれない。けれどこれは大きな前進だ。
 植物由来どころか、そのままの天然植物洗剤で洗濯を終え、二人にまた礼を言って干しに戻った。部屋の近くには、美しい庭には似合わない物干しが建てられていた。

「お父様! じいや! 私の知らない、泡の出る植物を教えてもらったの!」

 洗い物を干しつつ、興奮しながらお父様たちに報告をすると、部屋からメジロさんが出て来て「多分、サイガーチだと思います」と言っている。お父様もじいやも知らない植物だったようで、帰国する時に苗木を貰おうと盛り上がったのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...