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何とも言えない空気が漂う中、一人の女中が走って来た。
「水をお持ちしました!」
その言葉を聞き、一度部屋から出る。皆からも安堵の溜め息が漏れ聞こえたが、モズさんが叫んだ。
「自分でそれを飲んでみろ!」
モズさんの発する言葉の意味が分からず、その場はまた緊張感に包まれる。
「お主もクジャク様に対し暴行をしたな! そんな者が持って来る水など信用出来ん!」
口の痛みを忘れたかのようにモズさんは叫ぶ。それを言われた女中はしどろもどろになり、水を飲むことも言い返すこともしない。その場にいる家臣や女中たちの中には、クジャが暴行を受けたことすら知らなかった者もおり、辺りはまた騒然となる。するとその女中は逆上し、サギに問いかけた。
「サギ様! 王妃と前王妃が亡くなれば、呪いを弾くまじないの力となり、王も王子も助かるのですよね!? 王と王子さえ無事なら、王家は滅びないのですよね!?」
信じられないことに、自分たちでどうにも出来なかった王家の病気を、人柱を立てることでどうにかしようと思っていたようだ。サギは静かに首を振り、そして私とお父様の感情が爆発する前にクジャのお父様が口を開いた。
「私たちは……食べ物を制限した……王家の風習により……病気になっただけだ……。……モズよ……クジャに……暴行を働いた者を覚えておるか……?」
「はい! 全員憶えております!」
その場でモズさんは名前を挙げていく。その者たちはその場で捕らえられ、牢へと連行されて行く。すると兵の一人がとんでもないことを言い出した。なんとモズさんのご家族全員が、国家反逆罪の容疑で牢にいると言う。クジャのお父様はそのことも知らなかったらしく、すぐに解放するように強く言った。
その混乱の中、頭を負傷した女中が水を持って来てくれた。先程の女中にいきなり襲われたらしい。水を受け取り、すぐに怪我の手当てをするように伝え、私はまた部屋の中へと走る。
頭の下に手を差し入れ、ほんの少し上体を起こすようにして、水の入った器を口に近付ける。
「お水です。飲んでください……」
祈りにも似た呟きが聞こえたのか、クジャのお祖母様は目を瞑ったままほんの少しの水だが飲んでくれた。静かに頭を枕に戻し、次はクジャのお母様に水を飲ませる。クジャのお母様も同様に、コクリ、と喉を鳴らし、少量の水を飲んでくれた。
「お二人とも水を飲んだわ!」
廊下に向かって叫ぶと、泣く者や歓喜の声を上げる者たちで溢れ返る。するとクジャのお父様は、一歩、また一歩と、家臣の手を借りずに気力だけで歩いて来る。よろけそうになった瞬間、すかさずお父様とじいやが動き、両サイドから支えるようにして部屋の中へと連れて来てくれた。
「……母上……オオルリ……こんなことになっているとは……知らずに申し訳ない……。私たちは……呪いではなく……病気なのだ……共に……治そう……」
クジャのお父様がそう言うと、奇跡が起きた。
「……ぁ……」
「……ぅ……」
微かではあるが、クジャのお父様の声にお二人が反応したのだ。私も、お父様も、じいやも、その奇跡を目の当たりにし、涙ぐみながらも小さな笑みがこぼれた。そのタイミングで女中たちが「お湯をお持ちしました!」「布を集めて参りました!」と部屋に入って来る。
「こちらの……方たちは……王家の救世主である……! 指示に……従うように……!」
クジャのお父様の言葉に、女中たちは疑うこともなく「はい!」と返事をしてくれる。
「カレンよ、私たちに出来ることはあるか?」
お父様は私に問いかけた。
「壊しておいて何だけれど、お二人の服を着替えさせるから、入り口から見えないようにしてくれると助かるわ。それが終わり次第、この部屋から移動させたいの。あまりにもこの部屋は精神的に良くないわ。あと、あまり動かすのも危険な状態だから、荷車を寝台のように手直し出来ないかしら?」
するとお父様は「分かった」と言ってくれる。
「あぁ! クジャのお父様も本当なら絶対安静なのよ! 誰かクジャのお父様をお部屋に! クジャは一人にすると泣き叫んだりするから、一緒のお部屋へ!」
私が叫ぶと一気に人が動き始める。家臣たちがクジャのお父様を支え部屋へと連れ戻ってくれ、クジャも抱きかかえられながら同じ方向へと向かって行った。サギはレオナルドさんに取り押さえられ、「自分のしたことを見届けろ!」と怒鳴られている。
お父様とじいやは道具を借り、手早く入り口にシーツのような大きな布を打ち付け中を見えないようにしてくれた。それが終わると「荷車を集めてくれ!」と、指示を出している。
「皆さんありがとう。着替えは脱がせるより、切ってしまうわ。だから裁断するものと、お二人の着替えと、使い古した清潔な布、それと裁縫道具があったら貸してほしいわ」
近くの女中に伝えると、数名がパタパタと部屋から出て行く。
そして女中たちにお湯で湿らせた布を絞ってもらい、私はお二人のお顔から洗浄を始めた。森の民の、いいえ、私の底力を発揮させてもらうわ!
「水をお持ちしました!」
その言葉を聞き、一度部屋から出る。皆からも安堵の溜め息が漏れ聞こえたが、モズさんが叫んだ。
「自分でそれを飲んでみろ!」
モズさんの発する言葉の意味が分からず、その場はまた緊張感に包まれる。
「お主もクジャク様に対し暴行をしたな! そんな者が持って来る水など信用出来ん!」
口の痛みを忘れたかのようにモズさんは叫ぶ。それを言われた女中はしどろもどろになり、水を飲むことも言い返すこともしない。その場にいる家臣や女中たちの中には、クジャが暴行を受けたことすら知らなかった者もおり、辺りはまた騒然となる。するとその女中は逆上し、サギに問いかけた。
「サギ様! 王妃と前王妃が亡くなれば、呪いを弾くまじないの力となり、王も王子も助かるのですよね!? 王と王子さえ無事なら、王家は滅びないのですよね!?」
信じられないことに、自分たちでどうにも出来なかった王家の病気を、人柱を立てることでどうにかしようと思っていたようだ。サギは静かに首を振り、そして私とお父様の感情が爆発する前にクジャのお父様が口を開いた。
「私たちは……食べ物を制限した……王家の風習により……病気になっただけだ……。……モズよ……クジャに……暴行を働いた者を覚えておるか……?」
「はい! 全員憶えております!」
その場でモズさんは名前を挙げていく。その者たちはその場で捕らえられ、牢へと連行されて行く。すると兵の一人がとんでもないことを言い出した。なんとモズさんのご家族全員が、国家反逆罪の容疑で牢にいると言う。クジャのお父様はそのことも知らなかったらしく、すぐに解放するように強く言った。
その混乱の中、頭を負傷した女中が水を持って来てくれた。先程の女中にいきなり襲われたらしい。水を受け取り、すぐに怪我の手当てをするように伝え、私はまた部屋の中へと走る。
頭の下に手を差し入れ、ほんの少し上体を起こすようにして、水の入った器を口に近付ける。
「お水です。飲んでください……」
祈りにも似た呟きが聞こえたのか、クジャのお祖母様は目を瞑ったままほんの少しの水だが飲んでくれた。静かに頭を枕に戻し、次はクジャのお母様に水を飲ませる。クジャのお母様も同様に、コクリ、と喉を鳴らし、少量の水を飲んでくれた。
「お二人とも水を飲んだわ!」
廊下に向かって叫ぶと、泣く者や歓喜の声を上げる者たちで溢れ返る。するとクジャのお父様は、一歩、また一歩と、家臣の手を借りずに気力だけで歩いて来る。よろけそうになった瞬間、すかさずお父様とじいやが動き、両サイドから支えるようにして部屋の中へと連れて来てくれた。
「……母上……オオルリ……こんなことになっているとは……知らずに申し訳ない……。私たちは……呪いではなく……病気なのだ……共に……治そう……」
クジャのお父様がそう言うと、奇跡が起きた。
「……ぁ……」
「……ぅ……」
微かではあるが、クジャのお父様の声にお二人が反応したのだ。私も、お父様も、じいやも、その奇跡を目の当たりにし、涙ぐみながらも小さな笑みがこぼれた。そのタイミングで女中たちが「お湯をお持ちしました!」「布を集めて参りました!」と部屋に入って来る。
「こちらの……方たちは……王家の救世主である……! 指示に……従うように……!」
クジャのお父様の言葉に、女中たちは疑うこともなく「はい!」と返事をしてくれる。
「カレンよ、私たちに出来ることはあるか?」
お父様は私に問いかけた。
「壊しておいて何だけれど、お二人の服を着替えさせるから、入り口から見えないようにしてくれると助かるわ。それが終わり次第、この部屋から移動させたいの。あまりにもこの部屋は精神的に良くないわ。あと、あまり動かすのも危険な状態だから、荷車を寝台のように手直し出来ないかしら?」
するとお父様は「分かった」と言ってくれる。
「あぁ! クジャのお父様も本当なら絶対安静なのよ! 誰かクジャのお父様をお部屋に! クジャは一人にすると泣き叫んだりするから、一緒のお部屋へ!」
私が叫ぶと一気に人が動き始める。家臣たちがクジャのお父様を支え部屋へと連れ戻ってくれ、クジャも抱きかかえられながら同じ方向へと向かって行った。サギはレオナルドさんに取り押さえられ、「自分のしたことを見届けろ!」と怒鳴られている。
お父様とじいやは道具を借り、手早く入り口にシーツのような大きな布を打ち付け中を見えないようにしてくれた。それが終わると「荷車を集めてくれ!」と、指示を出している。
「皆さんありがとう。着替えは脱がせるより、切ってしまうわ。だから裁断するものと、お二人の着替えと、使い古した清潔な布、それと裁縫道具があったら貸してほしいわ」
近くの女中に伝えると、数名がパタパタと部屋から出て行く。
そして女中たちにお湯で湿らせた布を絞ってもらい、私はお二人のお顔から洗浄を始めた。森の民の、いいえ、私の底力を発揮させてもらうわ!
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