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目指せリーンウン城
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私たちヒーズル王国勢と、リーンウン国勢は問題なく森の中を走れるが、レオナルドさんは慣れない森の中だが、体力と気力で走ってついて来れる。問題はクジャだ。
「ひっ! ……キャッ!」
私たちに追いつこうと必死なのだが、地面を見ても、そこに足を乗せたら滑るだろうという場所やその感覚が分からないらしく、足を滑らせたり躓いたりと、かなりスピードを落としている私たちについて来れないのだ。
以前、狩りをしたことがあると言っていたが、それはおそらく言葉は悪いが、開けた場所で狩りやすいようお膳立てされた状態での狩りだったのだろう。その証拠に、とにかく虫に怯えるのである。
ヒーズル王国では昆虫らしい昆虫がおらず、ある意味いびつな森となっているが、本来の森は様々な生き物が住んでいるのである。
「虫が苦手なのか?」
完全に足を止めてしまったクジャにお父様が問いかけると、クジャは青ざめながらコクコクと頷いている。クジャは今、虫ではなくクモに怯えているのだが。木と木の間に大きな巣を張っていたので、私たちはその下を走り抜けたり別のルートを走ったが、レオナルドさんが気付いて立ち止まってしまったことからはっきりと見てしまったようだ。
「カカカカカレン!?」
そのクモは黄色と黒のはっきりとした縞模様で、大きな腹部には赤い模様がある。見た目だけならジョロウグモに見えるが、私の手のひらくらいの大きさなのである。好奇心から小枝でジョロウグモを触ろうとすると、木の上へと逃げてしまったのだが、それを見たクジャが化け物を見るような顔で私を見ているのである。
「襲って来ないから大丈夫よ。それに噛まれても少し血が出るくらいよ?」
そう言うとクジャは真顔で無言になり、カラスさんとハトさんからは「……本当に姫ですよね?」と確認されてしまった。残念ながら私は間違いなく姫なのである。
「まだ日の出ているうちに到着したいのだが……じい、背負ってやれ。虫は私がなんとかしよう」
ここで急きょ作戦会議である。私とレオナルドさんは初めて来る土地なので仕方がないとはいえ、カラスさんもハトさんも、そしてモズさんも森の中を走ったことがないので、既に城の方角が分からないと言う。
また木に登り城の場所を確認するが、あまり近付いているとは言えない。だが、さすがじいやである。森の民特有の方角が分かる能力で、確実に最短距離で行けると言うのだ。
けれどクジャを背負って走るとなると、虫にまで構っていられない。異常に耳の良いお父様は、羽音で虫を察知して蜂などを落としたり回避するつもりだったらしいが、仮にお父様が先頭を走ったらおそらく全員で遭難することだろう。
結局、方角が分かる能力を持ち、お父様ほどではないが虫の気配に敏感なじいやが先頭を走ることになった。じいやのオールマイティーさに、本当はすごい人なのだと悟る。
そして、人を背負って走れる体力がある人はお父様くらいである。結局お父様がクジャを背負うことになったが、「レンゲには内緒に……」と及び腰になっている。
そのお父様の横に、全く虫を気にしない私とモズさんが並走し、後方にレオナルドさん、カラスさん、ハトさんと続くことになった。私とモズさんの並走はお父様の迷子防止の為でもあるのだ。
「では行きますか」
そう言ってじいやが走り出したが、全力で走っているわけでははないだろうに、そのスピードは速い。私もついて行くのがやっとだ。じいやはそのスピードを維持しながら、木の枝で向かってくる蜂などを叩き落としている。
「じいやや私やお父様の踏みしめた場所を辿ると走りやすいわよ!」
少し遅れ始めた後方に声をかけながら進む。それを確認したじいやは少しスピードを落としてくれたが、それでも私にとっては全力疾走に近い。けれど日々、姫らしからぬ野生児の如くの生活をしているおかげで足腰が鍛えられているのか、呼吸は苦しいが走れているのだ。
数回、村と村を繋ぐ林道を横切る形になったが、じいやとお父様が人の気配を察知し、隠れてやり過ごしたりするおかげで休憩もとることが出来た。
途中でまたしてもベーアに出会い、後方の三人は武器を構えたりしたが、じいやは「殺すわけではないからの」とアゴに蹴りを入れて一撃で気絶させたりと、私とお父様以外をドン引かせることをやってのけ、そしてついに肉眼で城を確認出来る場所に到着した。草木の生える小高い丘にリーンウン城が建っている。
実に濃い時間ではあったが、時間にして二時間もかかっていない。林道を横切るのに一番時間がかかったくらいだ。
「……こんなにも早く着くとは……」
お父様の背中で乗り物酔いを起こしたクジャが呟く。普段なら馬車で比較的ゆっくり走って、城から国境まで三時間ほどだそうだ。
「で、守備はどうなっているの?」
私が聞くとリーンウン国の全員が答えてくれたが、律儀に道を通って敵が来ると思っているこの国は、城の入り口前にしか兵がいないらしい。正確には広場にだ。
城の前方は広場となっており、宴を開催したりする時に使う場所らしいのだ。なので城の後方部分はガラ空きという、もはや何と言ったら良いのか分からない城の守りとなっているようだ。レオナルドさんと私は顔を見合わせ苦笑いしたくらいだ。
「じゃあ裏側から行けば中に入れるのね」
入り口から入って小競り合いになるよりも、忍び込んでクジャのお父様と話がしたいと言うと、クジャは「悪者のようじゃ……」と言うが、時間が惜しいのだ。
「向かって来る者は私たちがなんとかするから、カレンは好きなようにしろ。救える命は救うべきだ」
かつてたくさんの命を救えなかったお父様は、悪者にでも何にでもなると言う。それで大事な人の命が救えるならばと。
私たちは城の後方部分に回り込み、そして城に侵入することにしたのだった。
「ひっ! ……キャッ!」
私たちに追いつこうと必死なのだが、地面を見ても、そこに足を乗せたら滑るだろうという場所やその感覚が分からないらしく、足を滑らせたり躓いたりと、かなりスピードを落としている私たちについて来れないのだ。
以前、狩りをしたことがあると言っていたが、それはおそらく言葉は悪いが、開けた場所で狩りやすいようお膳立てされた状態での狩りだったのだろう。その証拠に、とにかく虫に怯えるのである。
ヒーズル王国では昆虫らしい昆虫がおらず、ある意味いびつな森となっているが、本来の森は様々な生き物が住んでいるのである。
「虫が苦手なのか?」
完全に足を止めてしまったクジャにお父様が問いかけると、クジャは青ざめながらコクコクと頷いている。クジャは今、虫ではなくクモに怯えているのだが。木と木の間に大きな巣を張っていたので、私たちはその下を走り抜けたり別のルートを走ったが、レオナルドさんが気付いて立ち止まってしまったことからはっきりと見てしまったようだ。
「カカカカカレン!?」
そのクモは黄色と黒のはっきりとした縞模様で、大きな腹部には赤い模様がある。見た目だけならジョロウグモに見えるが、私の手のひらくらいの大きさなのである。好奇心から小枝でジョロウグモを触ろうとすると、木の上へと逃げてしまったのだが、それを見たクジャが化け物を見るような顔で私を見ているのである。
「襲って来ないから大丈夫よ。それに噛まれても少し血が出るくらいよ?」
そう言うとクジャは真顔で無言になり、カラスさんとハトさんからは「……本当に姫ですよね?」と確認されてしまった。残念ながら私は間違いなく姫なのである。
「まだ日の出ているうちに到着したいのだが……じい、背負ってやれ。虫は私がなんとかしよう」
ここで急きょ作戦会議である。私とレオナルドさんは初めて来る土地なので仕方がないとはいえ、カラスさんもハトさんも、そしてモズさんも森の中を走ったことがないので、既に城の方角が分からないと言う。
また木に登り城の場所を確認するが、あまり近付いているとは言えない。だが、さすがじいやである。森の民特有の方角が分かる能力で、確実に最短距離で行けると言うのだ。
けれどクジャを背負って走るとなると、虫にまで構っていられない。異常に耳の良いお父様は、羽音で虫を察知して蜂などを落としたり回避するつもりだったらしいが、仮にお父様が先頭を走ったらおそらく全員で遭難することだろう。
結局、方角が分かる能力を持ち、お父様ほどではないが虫の気配に敏感なじいやが先頭を走ることになった。じいやのオールマイティーさに、本当はすごい人なのだと悟る。
そして、人を背負って走れる体力がある人はお父様くらいである。結局お父様がクジャを背負うことになったが、「レンゲには内緒に……」と及び腰になっている。
そのお父様の横に、全く虫を気にしない私とモズさんが並走し、後方にレオナルドさん、カラスさん、ハトさんと続くことになった。私とモズさんの並走はお父様の迷子防止の為でもあるのだ。
「では行きますか」
そう言ってじいやが走り出したが、全力で走っているわけでははないだろうに、そのスピードは速い。私もついて行くのがやっとだ。じいやはそのスピードを維持しながら、木の枝で向かってくる蜂などを叩き落としている。
「じいやや私やお父様の踏みしめた場所を辿ると走りやすいわよ!」
少し遅れ始めた後方に声をかけながら進む。それを確認したじいやは少しスピードを落としてくれたが、それでも私にとっては全力疾走に近い。けれど日々、姫らしからぬ野生児の如くの生活をしているおかげで足腰が鍛えられているのか、呼吸は苦しいが走れているのだ。
数回、村と村を繋ぐ林道を横切る形になったが、じいやとお父様が人の気配を察知し、隠れてやり過ごしたりするおかげで休憩もとることが出来た。
途中でまたしてもベーアに出会い、後方の三人は武器を構えたりしたが、じいやは「殺すわけではないからの」とアゴに蹴りを入れて一撃で気絶させたりと、私とお父様以外をドン引かせることをやってのけ、そしてついに肉眼で城を確認出来る場所に到着した。草木の生える小高い丘にリーンウン城が建っている。
実に濃い時間ではあったが、時間にして二時間もかかっていない。林道を横切るのに一番時間がかかったくらいだ。
「……こんなにも早く着くとは……」
お父様の背中で乗り物酔いを起こしたクジャが呟く。普段なら馬車で比較的ゆっくり走って、城から国境まで三時間ほどだそうだ。
「で、守備はどうなっているの?」
私が聞くとリーンウン国の全員が答えてくれたが、律儀に道を通って敵が来ると思っているこの国は、城の入り口前にしか兵がいないらしい。正確には広場にだ。
城の前方は広場となっており、宴を開催したりする時に使う場所らしいのだ。なので城の後方部分はガラ空きという、もはや何と言ったら良いのか分からない城の守りとなっているようだ。レオナルドさんと私は顔を見合わせ苦笑いしたくらいだ。
「じゃあ裏側から行けば中に入れるのね」
入り口から入って小競り合いになるよりも、忍び込んでクジャのお父様と話がしたいと言うと、クジャは「悪者のようじゃ……」と言うが、時間が惜しいのだ。
「向かって来る者は私たちがなんとかするから、カレンは好きなようにしろ。救える命は救うべきだ」
かつてたくさんの命を救えなかったお父様は、悪者にでも何にでもなると言う。それで大事な人の命が救えるならばと。
私たちは城の後方部分に回り込み、そして城に侵入することにしたのだった。
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