上 下
216 / 366

目指せリーンウン城

しおりを挟む
 私たちヒーズル王国勢と、リーンウン国勢は問題なく森の中を走れるが、レオナルドさんは慣れない森の中だが、体力と気力で走ってついて来れる。問題はクジャだ。

「ひっ! ……キャッ!」

 私たちに追いつこうと必死なのだが、地面を見ても、そこに足を乗せたら滑るだろうという場所やその感覚が分からないらしく、足を滑らせたり躓いたりと、かなりスピードを落としている私たちについて来れないのだ。
 以前、狩りをしたことがあると言っていたが、それはおそらく言葉は悪いが、開けた場所で狩りやすいようお膳立てされた状態での狩りだったのだろう。その証拠に、とにかく虫に怯えるのである。
 ヒーズル王国では昆虫らしい昆虫がおらず、ある意味いびつな森となっているが、本来の森は様々な生き物が住んでいるのである。

「虫が苦手なのか?」

 完全に足を止めてしまったクジャにお父様が問いかけると、クジャは青ざめながらコクコクと頷いている。クジャは今、虫ではなくクモに怯えているのだが。木と木の間に大きな巣を張っていたので、私たちはその下を走り抜けたり別のルートを走ったが、レオナルドさんが気付いて立ち止まってしまったことからはっきりと見てしまったようだ。

「カカカカカレン!?」

 そのクモは黄色と黒のはっきりとした縞模様で、大きな腹部には赤い模様がある。見た目だけならジョロウグモに見えるが、私の手のひらくらいの大きさなのである。好奇心から小枝でジョロウグモを触ろうとすると、木の上へと逃げてしまったのだが、それを見たクジャが化け物を見るような顔で私を見ているのである。

「襲って来ないから大丈夫よ。それに噛まれても少し血が出るくらいよ?」

 そう言うとクジャは真顔で無言になり、カラスさんとハトさんからは「……本当に姫ですよね?」と確認されてしまった。残念ながら私は間違いなく姫なのである。

「まだ日の出ているうちに到着したいのだが……じい、背負ってやれ。虫は私がなんとかしよう」

 ここで急きょ作戦会議である。私とレオナルドさんは初めて来る土地なので仕方がないとはいえ、カラスさんもハトさんも、そしてモズさんも森の中を走ったことがないので、既に城の方角が分からないと言う。
 また木に登り城の場所を確認するが、あまり近付いているとは言えない。だが、さすがじいやである。森の民特有の方角が分かる能力で、確実に最短距離で行けると言うのだ。
 けれどクジャを背負って走るとなると、虫にまで構っていられない。異常に耳の良いお父様は、羽音で虫を察知して蜂などを落としたり回避するつもりだったらしいが、仮にお父様が先頭を走ったらおそらく全員で遭難することだろう。

 結局、方角が分かる能力を持ち、お父様ほどではないが虫の気配に敏感なじいやが先頭を走ることになった。じいやのオールマイティーさに、本当はすごい人なのだと悟る。
 そして、人を背負って走れる体力がある人はお父様くらいである。結局お父様がクジャを背負うことになったが、「レンゲには内緒に……」と及び腰になっている。
 そのお父様の横に、全く虫を気にしない私とモズさんが並走し、後方にレオナルドさん、カラスさん、ハトさんと続くことになった。私とモズさんの並走はお父様の迷子防止の為でもあるのだ。

「では行きますか」

 そう言ってじいやが走り出したが、全力で走っているわけでははないだろうに、そのスピードは速い。私もついて行くのがやっとだ。じいやはそのスピードを維持しながら、木の枝で向かってくる蜂などを叩き落としている。

「じいやや私やお父様の踏みしめた場所を辿ると走りやすいわよ!」

 少し遅れ始めた後方に声をかけながら進む。それを確認したじいやは少しスピードを落としてくれたが、それでも私にとっては全力疾走に近い。けれど日々、姫らしからぬ野生児の如くの生活をしているおかげで足腰が鍛えられているのか、呼吸は苦しいが走れているのだ。

 数回、村と村を繋ぐ林道を横切る形になったが、じいやとお父様が人の気配を察知し、隠れてやり過ごしたりするおかげで休憩もとることが出来た。
 途中でまたしてもベーアに出会い、後方の三人は武器を構えたりしたが、じいやは「殺すわけではないからの」とアゴに蹴りを入れて一撃で気絶させたりと、私とお父様以外をドン引かせることをやってのけ、そしてついに肉眼で城を確認出来る場所に到着した。草木の生える小高い丘にリーンウン城が建っている。
 実に濃い時間ではあったが、時間にして二時間もかかっていない。林道を横切るのに一番時間がかかったくらいだ。

「……こんなにも早く着くとは……」

 お父様の背中で乗り物酔いを起こしたクジャが呟く。普段なら馬車で比較的ゆっくり走って、城から国境まで三時間ほどだそうだ。

「で、守備はどうなっているの?」

 私が聞くとリーンウン国の全員が答えてくれたが、律儀に道を通って敵が来ると思っているこの国は、城の入り口前にしか兵がいないらしい。正確には広場にだ。
 城の前方は広場となっており、宴を開催したりする時に使う場所らしいのだ。なので城の後方部分はガラ空きという、もはや何と言ったら良いのか分からない城の守りとなっているようだ。レオナルドさんと私は顔を見合わせ苦笑いしたくらいだ。

「じゃあ裏側から行けば中に入れるのね」

 入り口から入って小競り合いになるよりも、忍び込んでクジャのお父様と話がしたいと言うと、クジャは「悪者のようじゃ……」と言うが、時間が惜しいのだ。

「向かって来る者は私たちがなんとかするから、カレンは好きなようにしろ。救える命は救うべきだ」

 かつてたくさんの命を救えなかったお父様は、悪者にでも何にでもなると言う。それで大事な人の命が救えるならばと。
 私たちは城の後方部分に回り込み、そして城に侵入することにしたのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...