212 / 366
聴き取り2
しおりを挟む
その日は一日かけてクジャとモズさんの話を聞いた。すぐにでもリーンウン国に行きたかったが、二人がいなければリーンウン国に入ることは出来ないだろう。怪我の療養も兼ねて聴き取りをしたのだ。
クジャは家臣たちに疎まれていたが、家族関係は良好だったようだ。ただ、クジャの母親もクジャを産んだことにより、家臣たちにいろいろと酷いことを言われていたそうだ。それを間近で見て育ったので、母親に気を遣ってあまり近寄らなかったせいで、お互いに大事に思っているのに少しギクシャクしているとも語っていた。
モズさんは代々王家に仕える家系らしく、誰もクジャの世話をしようともしないことに怒り、先代の王に直訴してクジャ付きになったらしい。モズさんに甘やかされて育てられ、そしてギスギスとした城に居たくないクジャは小さな頃から城を抜け出していたそうだ。優秀な兄と比べられるのも辛かったらしい。
城を抜け出しては街へと遊びに行き、民たちにはその自由奔放さから親しみやすいと慕う民と、王族らしくないと毛嫌いする民とに分かれているらしい。クジャはクジャで辛い過去があったのだ。
そしてその奇病の発生について尋ねたが、どうやらクジャの祖父が亡くなった後から発生したらしい。
クジャの祖父は生まれつき体の弱い人だったようだ。優しく穏やかで優秀だったその祖父に、王の座を譲りたいと思った先々代の王、クジャの曽祖父は生前退位をし王位を譲ったそうだ。
ただ、やはり体の弱さから年々床に臥せるようになり、クジャの兄が産まれた辺りでクジャの父親が当代の王になったと言う。
私とクジャが出会う一年程前に、先代王である祖父が奇病ではなく持病で亡くなったそうだ。平均寿命の長いこの世界で、六十代の若さで亡くなってしまったらしい。そして最近になって立て続けに王族が奇病に侵され始め、曾祖母、曽祖父の順に亡くなったそうだ。
リーンウン国の薬は効かず、テックノン王国から薬を取り寄せてみたものの、あまり効果はみられなかったと言う。そしてクジャの祖母と母親が完全に寝たきりになると、クジャへの風当たりは以前にも増し、そして先日、ついにクジャの兄と父親も倒れたことにより家臣たちのタガが外れ、手当り次第に物を投げられたり暴行を受けたようだ。
それでもクジャはやり返さなかった。家臣たちは、クジャの家族を想っての行動だからと分かっていたからだ。そして城から二人で逃げ出し、自国とシャイアーク国の国境警備隊に理由を話して、そしてここまでなんとか走って来たそうだ。
「……じゃから、戻ったとしても警備隊がリーンウン国の中に入れてくれるかは分からぬ……」
クジャは悲しそうに目を伏せたが、モズさんが反論する。
「……警備隊は……クジャク様を慕っておりました……ですから……国には入れると思います……」
リーンウン国内の民たちの派閥があるが、警備隊はクジャの味方だとモズさんは言う。けれど辛い目にあったクジャは怯えきっている。すると、それまで沈黙を守っていたお父様が口を開いた。
「して、カレンよ。その奇病はどうにかなりそうなのか?」
「確証はないけれど、目星はついているわ。ただすぐに治る病気なんてないわ……」
他の話も聞いた時に、思い当たる病があったのだ。そう言うとお父様はいつもの調子で話し始めた。
「よし、明日行くぞ」
私とじいやは予想していたが、クジャもモズさんも、そして匿っているペーターさんも口をあんぐりと開けて驚いている。
「私たちは自分からは攻撃しない。だが攻撃されたのならやり返す。人も動物も、圧倒的な力の差を見せれば戦意は喪失するのだ。私とじいの戦力はすごいのだぞ。……まずは国境だな。そしてそのまま城を目指し、カレンになんとかしてもらおう」
お父様は笑って二人に話しているが、クジャとモズさんは「そんな簡単には……」と驚きを通り越して引いている。
「大丈夫よ。森の民の底力はすごいのよ? ね、ペーターさん」
ペーターさんに話を振ると、動揺しながらも「実際にこの目で見て来たからな……」と、つい先日までヒーズル王国に滞在していたことをクジャたちに話し始めた。
「……ずるい……」
ペーターさんは想像以上に過酷な土地で、一から森や畑を作っていた元森の民の話をすると、クジャは一言そう漏らした。
「……わらわも……わらわも遊びに行きたいのじゃ……」
まるで駄々っ子のように話すクジャに私は微笑みかける。
「えぇ。その為に、クジャの大事な家族を救いましょう? 物事には順番があるのよ。まずは二人は今日このまま休み、明日にはリーンウン国を目指しましょう。……あまりこういうことは言いたくないけれど、お祖母様とお母様は早く診たほうが良いわ」
その言葉にクジャは青ざめてしまった。そして目をぎゅっと瞑り「明日には完全に復活するのじゃ!」と眠ろうとしている。クジャも覚悟を決めたようだ。その時、ペーターさんがおもむろに口を開いた。
「そうだ。カレンちゃんたちは、その服装で動くのは止したほうが良いな。目立ちすぎる。この国の服を用意しよう」
そう言って、カーラさんに会いに行くと部屋を出て行った。
日は暮れ始めている。明日の朝一番に、私たちはリーンウン国を目指すことに決まった。
クジャは家臣たちに疎まれていたが、家族関係は良好だったようだ。ただ、クジャの母親もクジャを産んだことにより、家臣たちにいろいろと酷いことを言われていたそうだ。それを間近で見て育ったので、母親に気を遣ってあまり近寄らなかったせいで、お互いに大事に思っているのに少しギクシャクしているとも語っていた。
モズさんは代々王家に仕える家系らしく、誰もクジャの世話をしようともしないことに怒り、先代の王に直訴してクジャ付きになったらしい。モズさんに甘やかされて育てられ、そしてギスギスとした城に居たくないクジャは小さな頃から城を抜け出していたそうだ。優秀な兄と比べられるのも辛かったらしい。
城を抜け出しては街へと遊びに行き、民たちにはその自由奔放さから親しみやすいと慕う民と、王族らしくないと毛嫌いする民とに分かれているらしい。クジャはクジャで辛い過去があったのだ。
そしてその奇病の発生について尋ねたが、どうやらクジャの祖父が亡くなった後から発生したらしい。
クジャの祖父は生まれつき体の弱い人だったようだ。優しく穏やかで優秀だったその祖父に、王の座を譲りたいと思った先々代の王、クジャの曽祖父は生前退位をし王位を譲ったそうだ。
ただ、やはり体の弱さから年々床に臥せるようになり、クジャの兄が産まれた辺りでクジャの父親が当代の王になったと言う。
私とクジャが出会う一年程前に、先代王である祖父が奇病ではなく持病で亡くなったそうだ。平均寿命の長いこの世界で、六十代の若さで亡くなってしまったらしい。そして最近になって立て続けに王族が奇病に侵され始め、曾祖母、曽祖父の順に亡くなったそうだ。
リーンウン国の薬は効かず、テックノン王国から薬を取り寄せてみたものの、あまり効果はみられなかったと言う。そしてクジャの祖母と母親が完全に寝たきりになると、クジャへの風当たりは以前にも増し、そして先日、ついにクジャの兄と父親も倒れたことにより家臣たちのタガが外れ、手当り次第に物を投げられたり暴行を受けたようだ。
それでもクジャはやり返さなかった。家臣たちは、クジャの家族を想っての行動だからと分かっていたからだ。そして城から二人で逃げ出し、自国とシャイアーク国の国境警備隊に理由を話して、そしてここまでなんとか走って来たそうだ。
「……じゃから、戻ったとしても警備隊がリーンウン国の中に入れてくれるかは分からぬ……」
クジャは悲しそうに目を伏せたが、モズさんが反論する。
「……警備隊は……クジャク様を慕っておりました……ですから……国には入れると思います……」
リーンウン国内の民たちの派閥があるが、警備隊はクジャの味方だとモズさんは言う。けれど辛い目にあったクジャは怯えきっている。すると、それまで沈黙を守っていたお父様が口を開いた。
「して、カレンよ。その奇病はどうにかなりそうなのか?」
「確証はないけれど、目星はついているわ。ただすぐに治る病気なんてないわ……」
他の話も聞いた時に、思い当たる病があったのだ。そう言うとお父様はいつもの調子で話し始めた。
「よし、明日行くぞ」
私とじいやは予想していたが、クジャもモズさんも、そして匿っているペーターさんも口をあんぐりと開けて驚いている。
「私たちは自分からは攻撃しない。だが攻撃されたのならやり返す。人も動物も、圧倒的な力の差を見せれば戦意は喪失するのだ。私とじいの戦力はすごいのだぞ。……まずは国境だな。そしてそのまま城を目指し、カレンになんとかしてもらおう」
お父様は笑って二人に話しているが、クジャとモズさんは「そんな簡単には……」と驚きを通り越して引いている。
「大丈夫よ。森の民の底力はすごいのよ? ね、ペーターさん」
ペーターさんに話を振ると、動揺しながらも「実際にこの目で見て来たからな……」と、つい先日までヒーズル王国に滞在していたことをクジャたちに話し始めた。
「……ずるい……」
ペーターさんは想像以上に過酷な土地で、一から森や畑を作っていた元森の民の話をすると、クジャは一言そう漏らした。
「……わらわも……わらわも遊びに行きたいのじゃ……」
まるで駄々っ子のように話すクジャに私は微笑みかける。
「えぇ。その為に、クジャの大事な家族を救いましょう? 物事には順番があるのよ。まずは二人は今日このまま休み、明日にはリーンウン国を目指しましょう。……あまりこういうことは言いたくないけれど、お祖母様とお母様は早く診たほうが良いわ」
その言葉にクジャは青ざめてしまった。そして目をぎゅっと瞑り「明日には完全に復活するのじゃ!」と眠ろうとしている。クジャも覚悟を決めたようだ。その時、ペーターさんがおもむろに口を開いた。
「そうだ。カレンちゃんたちは、その服装で動くのは止したほうが良いな。目立ちすぎる。この国の服を用意しよう」
そう言って、カーラさんに会いに行くと部屋を出て行った。
日は暮れ始めている。明日の朝一番に、私たちはリーンウン国を目指すことに決まった。
23
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる