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敵との戦い
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お父様の本気を見ているうちに日が暮れてしまい、お父様たちに混ざりながら広場へと戻った。ここ数日は、他の者たちよりもゆっくりと元気になっていっているお年寄りたちが、それは楽しそうに食事を作ってくれている。若い世代よりも回復のスピードが遅いのだろう。だが年の功なのか料理が上手く、私が一度作ったことのあるものを、私に聞き直さずとも作り上げてしまうのだ。今日の夕食はトマトのパスタである。
「いやはや、これは絶品料理だ」
「いくらでも食べられます!」
どうやらブルーノさんとジェイソンさんのお口にも合ったようである。
「トゥメィトゥはそのまま食べるとばかり思っていたが、火を通すとこんなにも美味いのだなぁ」
ジェイソンさんはそう呟きながらトゥメィトゥソースをまじまじと見つめ、少量をスプーンですくい口に運ぶ。様々な具材を濃縮して煮詰めているのでトゥメィトゥだけの味ではないのだが、他の食材の味までは判別出来ないのか、トゥメィトゥを煮つめただけのものだと思っているようだ。
「火を通したものは好き嫌いが分かれるのだけれど、気に入ってくれたのなら良かったわ」
こちらとしてもレパートリーが増えるので、良い結果となった夕食であった。
────
翌日もお父様の気合いの入り方は凄まじかった。じいやとタデもお父様に感化されたのか、はたまた同じくらいオアシスを大事に思っているのか、ツッコミを入れることなくお父様の後ろに並んでオアシスを目指して歩いている。
昨日の害獣防止柵の設置はただ見ていただけで口を挟めなかったが、まだ見ぬ害獣対策として助言したいことのあった私はお父様たちの後ろに並んだ。
「ねぇお父様」
作業現場に着いた私が声をかけると、三人は大層驚いている。
「驚いた……カレンも来ていたのだな」
どうやら三人は、私の気配に気付かないほどオアシスのことを考えていたようである。むしろ、ここまで情熱的にオアシスのことを考えるお父様たちのために、私も一緒に架空の害獣と戦わねばとまで思ってしまう。
「昨日の鉄線の柵は完璧よ。けれど敵はガイターだけとは限らないわ。こうすると良いのよ」
助言を言いに来ただけのつもりが、私まで感化されたようである。道具を手にし柵に向かうが、楽しいのでもう余計なことを考えるのを放棄した。
昨日垂直に設置された柵の前でしゃがみ込み、地面から数十センチほど上の部分に、じいやが蛇籠のように編んだ中途半端な鉄線を括り付け、それを地面に埋める。横から見ると斜めに取り付けられたそれは、美樹たちは『スカート』と呼んでいた。
「あとはこれを杭などで固定すれば良いわ」
「この斜めの部分は何なのだ?」
私の作業を手伝ってくれていたタデが口を開く。すっかりと感化された私は、恥ずかしさも忘れて言い切った。
「……敵はガイターだけではないわ」
「何!?」
お父様たちはざわめく。森の民として生活していたのならば、あまり気にならなかったのかもしれない。けれど美樹たちの住んでいた地域では、畑を守るために農家と獣の熱い戦いが繰り広げられていたのである。
美樹の家の家庭菜園でさえ、イタチやアナグマ、ハクビシンがたまに現れて、貧乏家の貴重な野菜を食い荒らしていた。困った美樹たち家族は知り合いの農家に助言を聞くべく訪ねたが、そこはイノシシやシカ、サルまで現れると言っていた。
結局その農家は山に近いこともあり、普通の害獣防止柵ではどうにもならないと、ついに電気柵の設置に踏み切ったのだ。そして使わなくなった害獣防止柵をタダでくれたのだ。その柵には今取り付けたようなスカート部分が付いていたのだが、この効果は絶大だった。
土を掘り返して侵入するアナグマは、柵を深く埋めたおかげで侵入することが出来ず、素直に諦めてくれた。とは言ってもお隣の庭に出没するようになったようだが。そして余った柵を上部にかぶせたおかげで、木登りが上手で上から侵入するハクビシンにまで効果があったのだ。
「……というわけで、敵は全方向から攻めて来るのよ。見た目は悪くなるけれど、オアシスの上も守らないといけないわ」
「何ということだ……はっ! 少しここを離れるぞ!」
そう言い残し、お父様は広場の方へと走り去った。残された私たちはその場で鉄線を加工し、アンカーを作った。ねじって螺旋状にすることで、より地面から抜けないようになるのだが、砂地のためにあまり意味がなかった。
どうしようかと困っていると、珍しく迷子にならなかったお父様が大量の植物を森から採取してきたようで、全力でこちらに走って来る。
「これを植えるぞ!」
戻って来たお父様はテキパキと、柵のスカート部分の辺りに植物を植え込む。根が定着すれば、先ほど作ったアンカーを固定してくれるだろう。美樹たちが『リュウノヒゲ』と呼んでいた、細長い葉が密集した植物に似ているが、それよりも葉が長い。せっせと植え込みをしたお父様は木材や縄を使い、くくり罠のようなものや箱罠のようなものを作り、その葉の中に隠す。
「これで小動物も捕まえられる」
「お父様、完璧すぎるわ」
もはや私たちは何と戦っているのか分からないが、オアシスの安全対策は着々と進んでいる。
「いやはや、これは絶品料理だ」
「いくらでも食べられます!」
どうやらブルーノさんとジェイソンさんのお口にも合ったようである。
「トゥメィトゥはそのまま食べるとばかり思っていたが、火を通すとこんなにも美味いのだなぁ」
ジェイソンさんはそう呟きながらトゥメィトゥソースをまじまじと見つめ、少量をスプーンですくい口に運ぶ。様々な具材を濃縮して煮詰めているのでトゥメィトゥだけの味ではないのだが、他の食材の味までは判別出来ないのか、トゥメィトゥを煮つめただけのものだと思っているようだ。
「火を通したものは好き嫌いが分かれるのだけれど、気に入ってくれたのなら良かったわ」
こちらとしてもレパートリーが増えるので、良い結果となった夕食であった。
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翌日もお父様の気合いの入り方は凄まじかった。じいやとタデもお父様に感化されたのか、はたまた同じくらいオアシスを大事に思っているのか、ツッコミを入れることなくお父様の後ろに並んでオアシスを目指して歩いている。
昨日の害獣防止柵の設置はただ見ていただけで口を挟めなかったが、まだ見ぬ害獣対策として助言したいことのあった私はお父様たちの後ろに並んだ。
「ねぇお父様」
作業現場に着いた私が声をかけると、三人は大層驚いている。
「驚いた……カレンも来ていたのだな」
どうやら三人は、私の気配に気付かないほどオアシスのことを考えていたようである。むしろ、ここまで情熱的にオアシスのことを考えるお父様たちのために、私も一緒に架空の害獣と戦わねばとまで思ってしまう。
「昨日の鉄線の柵は完璧よ。けれど敵はガイターだけとは限らないわ。こうすると良いのよ」
助言を言いに来ただけのつもりが、私まで感化されたようである。道具を手にし柵に向かうが、楽しいのでもう余計なことを考えるのを放棄した。
昨日垂直に設置された柵の前でしゃがみ込み、地面から数十センチほど上の部分に、じいやが蛇籠のように編んだ中途半端な鉄線を括り付け、それを地面に埋める。横から見ると斜めに取り付けられたそれは、美樹たちは『スカート』と呼んでいた。
「あとはこれを杭などで固定すれば良いわ」
「この斜めの部分は何なのだ?」
私の作業を手伝ってくれていたタデが口を開く。すっかりと感化された私は、恥ずかしさも忘れて言い切った。
「……敵はガイターだけではないわ」
「何!?」
お父様たちはざわめく。森の民として生活していたのならば、あまり気にならなかったのかもしれない。けれど美樹たちの住んでいた地域では、畑を守るために農家と獣の熱い戦いが繰り広げられていたのである。
美樹の家の家庭菜園でさえ、イタチやアナグマ、ハクビシンがたまに現れて、貧乏家の貴重な野菜を食い荒らしていた。困った美樹たち家族は知り合いの農家に助言を聞くべく訪ねたが、そこはイノシシやシカ、サルまで現れると言っていた。
結局その農家は山に近いこともあり、普通の害獣防止柵ではどうにもならないと、ついに電気柵の設置に踏み切ったのだ。そして使わなくなった害獣防止柵をタダでくれたのだ。その柵には今取り付けたようなスカート部分が付いていたのだが、この効果は絶大だった。
土を掘り返して侵入するアナグマは、柵を深く埋めたおかげで侵入することが出来ず、素直に諦めてくれた。とは言ってもお隣の庭に出没するようになったようだが。そして余った柵を上部にかぶせたおかげで、木登りが上手で上から侵入するハクビシンにまで効果があったのだ。
「……というわけで、敵は全方向から攻めて来るのよ。見た目は悪くなるけれど、オアシスの上も守らないといけないわ」
「何ということだ……はっ! 少しここを離れるぞ!」
そう言い残し、お父様は広場の方へと走り去った。残された私たちはその場で鉄線を加工し、アンカーを作った。ねじって螺旋状にすることで、より地面から抜けないようになるのだが、砂地のためにあまり意味がなかった。
どうしようかと困っていると、珍しく迷子にならなかったお父様が大量の植物を森から採取してきたようで、全力でこちらに走って来る。
「これを植えるぞ!」
戻って来たお父様はテキパキと、柵のスカート部分の辺りに植物を植え込む。根が定着すれば、先ほど作ったアンカーを固定してくれるだろう。美樹たちが『リュウノヒゲ』と呼んでいた、細長い葉が密集した植物に似ているが、それよりも葉が長い。せっせと植え込みをしたお父様は木材や縄を使い、くくり罠のようなものや箱罠のようなものを作り、その葉の中に隠す。
「これで小動物も捕まえられる」
「お父様、完璧すぎるわ」
もはや私たちは何と戦っているのか分からないが、オアシスの安全対策は着々と進んでいる。
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