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お父様、矛盾する
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帰ろうとした私たちだが、岩場を降りているうちに夕暮れとなってしまい、荷車の場所に到達出来ずに開けた岩の上で一夜を明かすこととなってしまった。
それは別に構わなかったのだが、毛皮を着ても横になると岩は痛く、そして毛皮のおかげで暑いせいか悪夢を見たのだ。
「……じいやの気持ちがわかったわ……」
バッと起き上がった私は開口一番にそう言う。お父様たちは既に起きており、麻袋から食べ物を取り出そうとしていたところだった。
「どうしたのだカレン?」
そう言うお父様だが、なぜか笑いをこらえているように見える。
「……あのね、顔の上を大量のミズズが這い回る夢を見たの……」
それを聞いたお父様とタデは吹き出し、じいやは思い出してしまったのか固まってしまった。というか、なぜ二人は笑っているのだろう?
「お父様? タデ? 何か知っているの?」
絶対に怪しいと思った私は二人を問い詰める。何かいたずらをされたのだと思ったのだ。
「カレンは暑がって汗をかいていただろう?」
その後に続く言葉を聞いて、問い詰めたのを後悔した……。真夜中、お父様とタデ、じいやは動物の気配を感じて目が覚めたそうだ。足音などからも肉食獣ではないのが分かり、三人はそのまま寝たフリをしていたらしい。薄目を開けて確認すると月明かりの中で、話を聞く限り鹿の仲間と思われる動物が子どもを連れて歩いて来たそうだ。
その母子はしばらく警戒をして動かなかったが、やがて私たちのすぐ近くまで来たそうだ。そして私の顔から噴き出す汗を必死に舐め、そのまま上流の方へと戻って行ったらしい。
「いやぁぁぁ!」
私は川まで走り、冷たすぎる水で顔を洗う。お父様たちはそんな私にフォローにならないフォローをする。
「動物にも塩は必要なのだ」
「あまりにも姫が目を覚まさず、笑いをこらえるのに必死だった」
「なんと恐ろしい夢でしょう……」
若干一名はフォローではないが、実際にミズズに顔の上を這われたじいやはある意味唯一の理解者だ。それにしても動物の気配に気付かないまでも、顔を舐められても起きない私に私が一番驚いている。
食欲を失った私は水だけの朝食をとり、その後は荷車の場所に到着し、広場を目指して帰路についた。
────
途中、私はお父様に質問をした。
「ねぇお父様。動物が動物に食べられるのは仕方のないこと?」
「そうだな。それが生きるためならば」
歩きながらお父様は返事をしてくれる。
「じゃあ動物が人を食べたら?」
「それは私たちの掟で許さない。その動物を仕留める」
「そう……」
そのまま黙り込む私に、三人は心配になったのか気遣って声をかけてくれる。考え事をしていたのだが、お父様が「何かあるなら言ってくれ」と言うので足を止めて私は口を開いた。
「私がいた世界では、希少な生き物や数が減りすぎた生き物は保護されていたの」
世界単位であったり国ごとだったり、住んでいる市町村にだってレッドリストはあるのだ。そういった存在があったと言うと、三人は驚くと共に興味を示す。
「それでね、何が言いたいかと言うとオアシスの生き物のことなのよ」
オアシスが大好きなお父様がピクリと反応する。
「あの場所で誰も何も悪さをしなければ、あの生き物たちは暮らしていけるわ。でもね、森が繋がって肉食の動物がやって来たらどうなるかしら? 私たちはあの場所を行き来しているけれど、例えばガイターがあの場所に落ちたら、あの砂の斜面を上がって来れないわよね? そうしたら速く走ることも飛ぶことも出来ないカメ……カンメは確実に全滅よね?」
淡々と私が話しているうちに、それを聞いたお父様はみるみる真っ青となり、タデとじいやもあまりのお父様の顔面蒼白気味に、二度見どころではないくらい何回もお父様の顔を見ている。
「……何がなんでも死守する」
お父様は小さな声で呟く。私も驚き言葉に詰まってしまうと、お父様はブツブツと呟き始めた。そしてカッと目を見開き力強く言い放った。
「ガイターが入れないものを作れば良いのだな!?」
天敵はガイターだけではないし、そもそもこの地にガイターがいるのかも分からないのだが、そんなことを言える雰囲気ではなく私は呆気にとられながら頷いた。
私が頷いたのを確認するとお父様は「急いで戻るぞ!」と言い始め、私は荷車に載せられそのままとてつもないスピードで住宅の建設地へと連れて来られた。
「オヒシバァァァ!」
先日の一件以来、目に見えて余所余所しくなってしまったオヒシバは、お父様が怒鳴り込んで来た為に怯えて腰を抜かしてしまった。
「今すぐリトールの町へ行ってくれ!」
「……は? 先程タラとセリが戻ったばかりですが……」
オヒシバは体だけではなく声も震えている。
「鉄線をありったけ購入して来てくれ! お前が一番早い!」
そう言われたオヒシバは嬉しそうに立ち上がる。けれど一人では違う意味で危ないからと、今回もハマスゲが同行することになった。そのまま私たちは広場へ戻り、荷物を降ろして荷車を明け渡す。そしてじいやがお金を取りに家へ戻っている最中にいくらかの食糧の積み込みを手伝い、オヒシバとハマスゲに購入して来てほしいもの、売っておらずもしニコライさんに出会えたなら作ってほしいものの図を黒板に書いて手渡す。
じいやがオヒシバにお金を渡すとやる気に満ち溢れたオヒシバは全力で走り出し、ハマスゲがその後を追う。
けたたましいなと思っていると、こちらも騒がしくなる。
「じい! タデ! 手伝え!」
お父様はそう叫ぶと丸太を担ぎ、残っている鉄線を持つように言いオアシスへと走り出す。オアシスの場所だけは迷わず行けるようだ。
どうやらお父様はオアシスの保護活動を始めるようである。どんなことをするのかと興味が湧いた私はもちろんお父様の後を追ったのだった。
それは別に構わなかったのだが、毛皮を着ても横になると岩は痛く、そして毛皮のおかげで暑いせいか悪夢を見たのだ。
「……じいやの気持ちがわかったわ……」
バッと起き上がった私は開口一番にそう言う。お父様たちは既に起きており、麻袋から食べ物を取り出そうとしていたところだった。
「どうしたのだカレン?」
そう言うお父様だが、なぜか笑いをこらえているように見える。
「……あのね、顔の上を大量のミズズが這い回る夢を見たの……」
それを聞いたお父様とタデは吹き出し、じいやは思い出してしまったのか固まってしまった。というか、なぜ二人は笑っているのだろう?
「お父様? タデ? 何か知っているの?」
絶対に怪しいと思った私は二人を問い詰める。何かいたずらをされたのだと思ったのだ。
「カレンは暑がって汗をかいていただろう?」
その後に続く言葉を聞いて、問い詰めたのを後悔した……。真夜中、お父様とタデ、じいやは動物の気配を感じて目が覚めたそうだ。足音などからも肉食獣ではないのが分かり、三人はそのまま寝たフリをしていたらしい。薄目を開けて確認すると月明かりの中で、話を聞く限り鹿の仲間と思われる動物が子どもを連れて歩いて来たそうだ。
その母子はしばらく警戒をして動かなかったが、やがて私たちのすぐ近くまで来たそうだ。そして私の顔から噴き出す汗を必死に舐め、そのまま上流の方へと戻って行ったらしい。
「いやぁぁぁ!」
私は川まで走り、冷たすぎる水で顔を洗う。お父様たちはそんな私にフォローにならないフォローをする。
「動物にも塩は必要なのだ」
「あまりにも姫が目を覚まさず、笑いをこらえるのに必死だった」
「なんと恐ろしい夢でしょう……」
若干一名はフォローではないが、実際にミズズに顔の上を這われたじいやはある意味唯一の理解者だ。それにしても動物の気配に気付かないまでも、顔を舐められても起きない私に私が一番驚いている。
食欲を失った私は水だけの朝食をとり、その後は荷車の場所に到着し、広場を目指して帰路についた。
────
途中、私はお父様に質問をした。
「ねぇお父様。動物が動物に食べられるのは仕方のないこと?」
「そうだな。それが生きるためならば」
歩きながらお父様は返事をしてくれる。
「じゃあ動物が人を食べたら?」
「それは私たちの掟で許さない。その動物を仕留める」
「そう……」
そのまま黙り込む私に、三人は心配になったのか気遣って声をかけてくれる。考え事をしていたのだが、お父様が「何かあるなら言ってくれ」と言うので足を止めて私は口を開いた。
「私がいた世界では、希少な生き物や数が減りすぎた生き物は保護されていたの」
世界単位であったり国ごとだったり、住んでいる市町村にだってレッドリストはあるのだ。そういった存在があったと言うと、三人は驚くと共に興味を示す。
「それでね、何が言いたいかと言うとオアシスの生き物のことなのよ」
オアシスが大好きなお父様がピクリと反応する。
「あの場所で誰も何も悪さをしなければ、あの生き物たちは暮らしていけるわ。でもね、森が繋がって肉食の動物がやって来たらどうなるかしら? 私たちはあの場所を行き来しているけれど、例えばガイターがあの場所に落ちたら、あの砂の斜面を上がって来れないわよね? そうしたら速く走ることも飛ぶことも出来ないカメ……カンメは確実に全滅よね?」
淡々と私が話しているうちに、それを聞いたお父様はみるみる真っ青となり、タデとじいやもあまりのお父様の顔面蒼白気味に、二度見どころではないくらい何回もお父様の顔を見ている。
「……何がなんでも死守する」
お父様は小さな声で呟く。私も驚き言葉に詰まってしまうと、お父様はブツブツと呟き始めた。そしてカッと目を見開き力強く言い放った。
「ガイターが入れないものを作れば良いのだな!?」
天敵はガイターだけではないし、そもそもこの地にガイターがいるのかも分からないのだが、そんなことを言える雰囲気ではなく私は呆気にとられながら頷いた。
私が頷いたのを確認するとお父様は「急いで戻るぞ!」と言い始め、私は荷車に載せられそのままとてつもないスピードで住宅の建設地へと連れて来られた。
「オヒシバァァァ!」
先日の一件以来、目に見えて余所余所しくなってしまったオヒシバは、お父様が怒鳴り込んで来た為に怯えて腰を抜かしてしまった。
「今すぐリトールの町へ行ってくれ!」
「……は? 先程タラとセリが戻ったばかりですが……」
オヒシバは体だけではなく声も震えている。
「鉄線をありったけ購入して来てくれ! お前が一番早い!」
そう言われたオヒシバは嬉しそうに立ち上がる。けれど一人では違う意味で危ないからと、今回もハマスゲが同行することになった。そのまま私たちは広場へ戻り、荷物を降ろして荷車を明け渡す。そしてじいやがお金を取りに家へ戻っている最中にいくらかの食糧の積み込みを手伝い、オヒシバとハマスゲに購入して来てほしいもの、売っておらずもしニコライさんに出会えたなら作ってほしいものの図を黒板に書いて手渡す。
じいやがオヒシバにお金を渡すとやる気に満ち溢れたオヒシバは全力で走り出し、ハマスゲがその後を追う。
けたたましいなと思っていると、こちらも騒がしくなる。
「じい! タデ! 手伝え!」
お父様はそう叫ぶと丸太を担ぎ、残っている鉄線を持つように言いオアシスへと走り出す。オアシスの場所だけは迷わず行けるようだ。
どうやらお父様はオアシスの保護活動を始めるようである。どんなことをするのかと興味が湧いた私はもちろんお父様の後を追ったのだった。
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