193 / 366
大きな子どもたち
しおりを挟む
昨日はオヒシバに怒鳴り散らしたせいで喉が痛い。お父様とタデと一緒に延々と怒鳴っているとオヒシバは涙目で反省をしていた。けれど私以上にお父様とタデの怒りが凄まじく、「カレンがそんなにふしだらな娘だと思っているのか!?」と、怒り狂っていた。
その怒り具合からお母様ですら、いや、誰も止めに入ることが出来ずにいたところにスイレンが帰って来た。周りの者から事情を聞いたであろうスイレンはいつの間にか私の横に立っていた。
「ねぇオヒシバ」
私以外はスイレンに気付いていなかったようで、声をかけられたオヒシバもお父様もタデも驚き一瞬辺りは静寂に包まれた。
「僕もカレンもまだ子どもだよ? 冷静に考えて、そんな子どもがお父様の友人にそんなことするわけがないと思わない? 子どもに対してそんなことを思うって、どういう思考をしたの?」
小首を傾げながらスイレンは言うが、特大の天然砲が炸裂したのである。天然でありながら冷静で、なおかつ純粋な疑問を口にしただけなのだが、よほどオヒシバの心に刺さったのか胸を押さえて倒れ込んだところで解散となった。
一夜明け朝食も終えた今現在もお父様とタデは腹が立っているらしい。昨日あれだけ口喧嘩をしていたのに、「オヒシバのあの発言は許せない」と二人で語り合っている。お母様とハコベさんは呆れ笑いをしつつ、私たちの喉を気遣って薬草を使ったお茶を淹れてくれた。そのお茶を一口飲んだタデがおもむろに口を開いた。
「……駄目だ。私は今日オヒシバの顔を見たくない」
「同感だ。私もあちら方面に今日は行きたくない」
まるで子どものような駄々をこね始め、私が呆気にとられている内に二人はじいやを呼び出している。そんな内容を聞かされたじいやも「気持ちは分かります」と同意してしまい、「スイレン様にも伝えておきます。今日は三人ともお休みください」と作業へと向かってしまった。そして気付けば腫れ物を触るような扱いをされている私たちの周りには誰もいなくなってしまった。
「……暇だな」
作業を休んだくせにお父様はいきなりそんなことを口走る。今日は作業をするつもりだったにもかかわらず、私もなぜか一緒に休みになってしまったのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
「姫、何か良い案はないか?」
タデもタデでかなりの無茶振りをしてくる。三人で遊ぶわけにもいかないので、先日思い付いたことを話すことにした。
「この前思ったのだけれど、わざわざ粘土をここに運んでレンガを作るより、粘土のある場所でレンガを焼いたらどうかしら? お父様たちは以前レンガがあれば炭を焼くことが出来ると言っていたわよね? 今粘土が採れる場所は川沿いでしょう? あの辺に炭に適した木を植えて炭焼きもしたらどうかしら?」
「ふむ……ならばカッシやナーラなどが良いな」
お父様は森の方向を見てそう話す。カッシは樫の木でナーラはナラの木のことかしら? どちらも炭を作るのに適した木である。そしてどちらもブナ科の木なのでそれぞれ形は違うがどんぐりが成る。
「ドングーリが実る木のことよね?」
「あぁそうだ」
タデが肯定してくれた。竹ことタッケも良い炭になると言うと二人は驚いている。
「ならばカッシとナーラの若木を集めようではないか。まとめて植えて、それが育ったら焼き場の移動をしよう。それらは炭を焼く時の薪にもなるからな」
お父様とタデは立ち上がると善は急げとばかりに森へ向かう。途中でお母様とハコベさんのみに声をかけて連れ出すのは癒やしを求めてなのか、ご機嫌取りなのか。そんなお母様たちも少し嬉しそうである。
「では二手に分かれるぞ。カッシとナーラだぞ? 間違えるなよタデ」
「誰に言っている」
森へ入ると私たち親子と、タデとハコベさん夫妻とでカッシとナーラを探すことになった。かなり広くなった森は道を外れると迷子になってしまいそうで一人で入ることはない。なので私は久しぶりの森の探索にワクワクとしている。
さすがは森の民だ。お父様もお母様もすぐに目当てのものを見つけ出す。そんなに木に詳しくない私は大木であれば葉や幹からなんとなくブナ科だと気付くが、それが何の木なのかまでは判断がつかない。それなのにお父様もお母様も、地表から十数センチほどに育った小さな苗木を見ても判断がついている。
ひたすら苗木や若木を集めていると間伐された場所に出た。少し広めの地表には小さな花が咲き乱れていた。
「スミレにホトケノザ!?」
「カレンはそう呼んでいたの? これはビオレートとヘーンビートと私たちは呼んでいるわ」
お母様としゃがんで薄紫色の花と紫がかったピンクの花を鑑賞する。虫もいないのになぜこんなにも繁殖してるのかと思ったが、そういえばこの二種類は閉鎖花といって、花を咲かせなくても種が成る植物だったことを思い出す。閉鎖花は花を咲かすことなく種になるが、普通の蕾は花となりそれも種が成る。受粉しなくても種が成るこの小さな植物たちは自力でここまで増え、一斉に花を咲かせているのだろう。
「綺麗ね……」
風にそよぐ花たちを見ていたが、ハッと大変なことに気付く。お父様がいないのだ。そしてお父様は迷子の天才だ。
「大変! お父様がいないわ!」
慌てたお母様は指笛を吹くが、男性陣ほど大きな音が鳴らない。私たちは指笛を吹きながら移動すると、遠くから甲高い音が聞こえた。お父様が見つかったと思いホッとすると、お母様は「違う……タデだわ」と言う。
その後タデ夫妻と合流した私たちはお父様の捜索に出たのは言うまでもない。
その怒り具合からお母様ですら、いや、誰も止めに入ることが出来ずにいたところにスイレンが帰って来た。周りの者から事情を聞いたであろうスイレンはいつの間にか私の横に立っていた。
「ねぇオヒシバ」
私以外はスイレンに気付いていなかったようで、声をかけられたオヒシバもお父様もタデも驚き一瞬辺りは静寂に包まれた。
「僕もカレンもまだ子どもだよ? 冷静に考えて、そんな子どもがお父様の友人にそんなことするわけがないと思わない? 子どもに対してそんなことを思うって、どういう思考をしたの?」
小首を傾げながらスイレンは言うが、特大の天然砲が炸裂したのである。天然でありながら冷静で、なおかつ純粋な疑問を口にしただけなのだが、よほどオヒシバの心に刺さったのか胸を押さえて倒れ込んだところで解散となった。
一夜明け朝食も終えた今現在もお父様とタデは腹が立っているらしい。昨日あれだけ口喧嘩をしていたのに、「オヒシバのあの発言は許せない」と二人で語り合っている。お母様とハコベさんは呆れ笑いをしつつ、私たちの喉を気遣って薬草を使ったお茶を淹れてくれた。そのお茶を一口飲んだタデがおもむろに口を開いた。
「……駄目だ。私は今日オヒシバの顔を見たくない」
「同感だ。私もあちら方面に今日は行きたくない」
まるで子どものような駄々をこね始め、私が呆気にとられている内に二人はじいやを呼び出している。そんな内容を聞かされたじいやも「気持ちは分かります」と同意してしまい、「スイレン様にも伝えておきます。今日は三人ともお休みください」と作業へと向かってしまった。そして気付けば腫れ物を触るような扱いをされている私たちの周りには誰もいなくなってしまった。
「……暇だな」
作業を休んだくせにお父様はいきなりそんなことを口走る。今日は作業をするつもりだったにもかかわらず、私もなぜか一緒に休みになってしまったのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
「姫、何か良い案はないか?」
タデもタデでかなりの無茶振りをしてくる。三人で遊ぶわけにもいかないので、先日思い付いたことを話すことにした。
「この前思ったのだけれど、わざわざ粘土をここに運んでレンガを作るより、粘土のある場所でレンガを焼いたらどうかしら? お父様たちは以前レンガがあれば炭を焼くことが出来ると言っていたわよね? 今粘土が採れる場所は川沿いでしょう? あの辺に炭に適した木を植えて炭焼きもしたらどうかしら?」
「ふむ……ならばカッシやナーラなどが良いな」
お父様は森の方向を見てそう話す。カッシは樫の木でナーラはナラの木のことかしら? どちらも炭を作るのに適した木である。そしてどちらもブナ科の木なのでそれぞれ形は違うがどんぐりが成る。
「ドングーリが実る木のことよね?」
「あぁそうだ」
タデが肯定してくれた。竹ことタッケも良い炭になると言うと二人は驚いている。
「ならばカッシとナーラの若木を集めようではないか。まとめて植えて、それが育ったら焼き場の移動をしよう。それらは炭を焼く時の薪にもなるからな」
お父様とタデは立ち上がると善は急げとばかりに森へ向かう。途中でお母様とハコベさんのみに声をかけて連れ出すのは癒やしを求めてなのか、ご機嫌取りなのか。そんなお母様たちも少し嬉しそうである。
「では二手に分かれるぞ。カッシとナーラだぞ? 間違えるなよタデ」
「誰に言っている」
森へ入ると私たち親子と、タデとハコベさん夫妻とでカッシとナーラを探すことになった。かなり広くなった森は道を外れると迷子になってしまいそうで一人で入ることはない。なので私は久しぶりの森の探索にワクワクとしている。
さすがは森の民だ。お父様もお母様もすぐに目当てのものを見つけ出す。そんなに木に詳しくない私は大木であれば葉や幹からなんとなくブナ科だと気付くが、それが何の木なのかまでは判断がつかない。それなのにお父様もお母様も、地表から十数センチほどに育った小さな苗木を見ても判断がついている。
ひたすら苗木や若木を集めていると間伐された場所に出た。少し広めの地表には小さな花が咲き乱れていた。
「スミレにホトケノザ!?」
「カレンはそう呼んでいたの? これはビオレートとヘーンビートと私たちは呼んでいるわ」
お母様としゃがんで薄紫色の花と紫がかったピンクの花を鑑賞する。虫もいないのになぜこんなにも繁殖してるのかと思ったが、そういえばこの二種類は閉鎖花といって、花を咲かせなくても種が成る植物だったことを思い出す。閉鎖花は花を咲かすことなく種になるが、普通の蕾は花となりそれも種が成る。受粉しなくても種が成るこの小さな植物たちは自力でここまで増え、一斉に花を咲かせているのだろう。
「綺麗ね……」
風にそよぐ花たちを見ていたが、ハッと大変なことに気付く。お父様がいないのだ。そしてお父様は迷子の天才だ。
「大変! お父様がいないわ!」
慌てたお母様は指笛を吹くが、男性陣ほど大きな音が鳴らない。私たちは指笛を吹きながら移動すると、遠くから甲高い音が聞こえた。お父様が見つかったと思いホッとすると、お母様は「違う……タデだわ」と言う。
その後タデ夫妻と合流した私たちはお父様の捜索に出たのは言うまでもない。
32
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる