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ペーターさんのために
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翌朝目が覚めるが、心の中がモヤモヤとして起きたくない。明日にはペーターさんが帰ってしまうからだ。あぁそうか、このモヤモヤは寂しさなのか。そう理解すると私たちがリトールの町から帰る時にペーターさんやブルーノさんもこんな想いをしているのかと思ってしまう。
「カレン起きて。寂しいのは分かるけど、ならペーターさんとこの国での思い出作りをしたら良いんじゃない?」
一人でくすぶっているとスイレンに呆れたように声をかけられハッとする。だがまだ発展していないこの国は見どころらしい場所もない。本物のオアシスはなるべくそっとしておきたいとの思いがあり、行く場所が他にないのだ。やはり料理でしか私たちの気持ちを表すことが出来ないようだ。ならば漁に連れて行こう。だがその前に……。
「……ふっふっふ」
私は部屋の片隅でここ数日、密かに大事に大事に育てていたものを取り出す。手に持ち目線の高さを合わせれば、その育ち具合は完璧で使うなら今日が良いだろう。
「うわぁっ! カレン! それ腐ってるよ! 早く捨てなよ!」
「腐ってないわ。失礼よ」
肩越しに私の手の中にあるものを見たスイレンは青ざめ腐っているなどと言うが、これは腐っているのではない。発酵しているのだ。それを説明してもスイレンは理解せず「お腹を壊すよ! 捨てて!」と繰り返す。だが私は決めたのだ。今日はこれを使った料理を作ると。けれど細かな性格のスイレンにそう言えば、絶対に騒ぐのは目に見えているので「朝食にしましょう」といなして一度外へ出ることにした。
今日でペーターさんとの朝食も最後だからか民たちも元気がない。それにブルーノさんとジェイソンさんも口数が少ないままだ。しかし夕食時には全員が騒ぐものを作ると決めたのだ。そう野望に燃えながら朝食を終えるとタデに声をかけられた。
「姫、今日の予定は?」
「今日でペーターさんが最後の滞在でしょう? だから今から夕食の仕込みをするわ。というか後で川に魚を獲りに行くわ」
「魚か。久しぶりだな。ならついでにブルーノさんたちも連れて行ったらどうだ?」
水量が少ないとはいえ水路が完成するとほとんど川へと行くことがなくなってしまったので、ここしばらくは魚料理を食べていないのだ。
「うん、そのつもりよ。ただ他の準備があるから、私が行くまで住宅の作り方などを話し合っていてはどうかしら?」
タデは「分かった」と言うと私の頭をポンポンとし、ヒイラギたちと共に水路の方向へと向かって行った。思い返せば最初はタデが怖くて仕方がなかったが、初めてのリトールの町での一件以来、話し方がきつくて表情に乏しい人なのだと分かったら気にならなくなった。むしろハコベさんのこととなると全部顔に出てしまうのが面白くてからかってしまう。タデとの関係も良い意味で変わったなぁ、などと自分の頭を触りながら思った。
そうだ、こうしている場合ではない。今日の私はフル稼働しなければならないのだ。まずはボウルを多数用意し、強力粉にあたるムギン粉を入れる。何往復かしていると、今日も老人たちが興味を示して集まってきて手伝ってくれた。
ムギン粉が入った大量のボウルに、今日も目分量で塩を入れていくと喜びの声が上がる。パスタにうどんと麺料理を作ったが、どれも民たちに好評で麺好きの民族なのかと思ったくらいだ。けれど今日は残念ながら麺料理ではない。
一度自室へと戻り、スイレンに腐っていると言われた瓶詰めを持ってにこやかに戻って来ると皆の表情は一変する。
「姫様! それは腐っ「腐っていないのよ」」
「まさかそれを食べ「そう食べるのよ」」
もう朝からスイレンにも言われた言葉をあちらこちらから浴びるので、その言葉をさえぎってしまう。下手をすると取り上げられそうなので、勢いでムギン粉へとそれをドボドボと入れる。
「あぁぁぁ!」
「何てことだ!」
辺りは阿鼻叫喚となっているが気持ちは分からないでもない。私が入れた液体は、食べ残したアポーの実の芯の部分から作った酵母液だ。
以前リトールの町でカーラさんが食べていたブレッドというものがあったが、要するにパンのことである。けれど外側の食感は硬く、中はスカスカとしており日本のパンに慣れている私には悪い意味で衝撃的だったのだ。なので日本のようなふんわりもっちりとしたパンを作ろうと思ったが、当然この世界ではドライイーストなんてない。
美樹の家で中古とはいえ新しい炊飯器を買った時にパンのモードが付いていた。早速パンを作ろうとしたが、お金を出してドライイーストを買うよりも捨ててしまう部分で作る天然酵母液を作ろうとお母さんと盛り上がり作ったことがあったのだ。結果は成功と言えば成功だった。ただ炊飯器で作るので美味しかったが香ばしさが足りず、さらに釜に匂いが付いてしまい数日は白米から白米らしからぬ匂いがした為に、この一回で作るのを止めたというエピソードがある。
今日はこのリベンジも兼ねているのだ。皆が『うわぁ……』という残念そうな表情をしている中、私は構わず捏ねて生地を丸めて休ませることした。ドライイーストではなく天然酵母を使うと発酵に時間がかかる。私が川に行っている間に『腐っているから』と捨てられてしまわないように、絶対に誰も立ち入らない私とスイレンの部屋の床にボウルごと生地を運んだ。足の踏み場がないとはまさにこのことだと、それを見て一人で笑ってしまった。スイレンがここにいたら発狂していたに違いない。
「カレン起きて。寂しいのは分かるけど、ならペーターさんとこの国での思い出作りをしたら良いんじゃない?」
一人でくすぶっているとスイレンに呆れたように声をかけられハッとする。だがまだ発展していないこの国は見どころらしい場所もない。本物のオアシスはなるべくそっとしておきたいとの思いがあり、行く場所が他にないのだ。やはり料理でしか私たちの気持ちを表すことが出来ないようだ。ならば漁に連れて行こう。だがその前に……。
「……ふっふっふ」
私は部屋の片隅でここ数日、密かに大事に大事に育てていたものを取り出す。手に持ち目線の高さを合わせれば、その育ち具合は完璧で使うなら今日が良いだろう。
「うわぁっ! カレン! それ腐ってるよ! 早く捨てなよ!」
「腐ってないわ。失礼よ」
肩越しに私の手の中にあるものを見たスイレンは青ざめ腐っているなどと言うが、これは腐っているのではない。発酵しているのだ。それを説明してもスイレンは理解せず「お腹を壊すよ! 捨てて!」と繰り返す。だが私は決めたのだ。今日はこれを使った料理を作ると。けれど細かな性格のスイレンにそう言えば、絶対に騒ぐのは目に見えているので「朝食にしましょう」といなして一度外へ出ることにした。
今日でペーターさんとの朝食も最後だからか民たちも元気がない。それにブルーノさんとジェイソンさんも口数が少ないままだ。しかし夕食時には全員が騒ぐものを作ると決めたのだ。そう野望に燃えながら朝食を終えるとタデに声をかけられた。
「姫、今日の予定は?」
「今日でペーターさんが最後の滞在でしょう? だから今から夕食の仕込みをするわ。というか後で川に魚を獲りに行くわ」
「魚か。久しぶりだな。ならついでにブルーノさんたちも連れて行ったらどうだ?」
水量が少ないとはいえ水路が完成するとほとんど川へと行くことがなくなってしまったので、ここしばらくは魚料理を食べていないのだ。
「うん、そのつもりよ。ただ他の準備があるから、私が行くまで住宅の作り方などを話し合っていてはどうかしら?」
タデは「分かった」と言うと私の頭をポンポンとし、ヒイラギたちと共に水路の方向へと向かって行った。思い返せば最初はタデが怖くて仕方がなかったが、初めてのリトールの町での一件以来、話し方がきつくて表情に乏しい人なのだと分かったら気にならなくなった。むしろハコベさんのこととなると全部顔に出てしまうのが面白くてからかってしまう。タデとの関係も良い意味で変わったなぁ、などと自分の頭を触りながら思った。
そうだ、こうしている場合ではない。今日の私はフル稼働しなければならないのだ。まずはボウルを多数用意し、強力粉にあたるムギン粉を入れる。何往復かしていると、今日も老人たちが興味を示して集まってきて手伝ってくれた。
ムギン粉が入った大量のボウルに、今日も目分量で塩を入れていくと喜びの声が上がる。パスタにうどんと麺料理を作ったが、どれも民たちに好評で麺好きの民族なのかと思ったくらいだ。けれど今日は残念ながら麺料理ではない。
一度自室へと戻り、スイレンに腐っていると言われた瓶詰めを持ってにこやかに戻って来ると皆の表情は一変する。
「姫様! それは腐っ「腐っていないのよ」」
「まさかそれを食べ「そう食べるのよ」」
もう朝からスイレンにも言われた言葉をあちらこちらから浴びるので、その言葉をさえぎってしまう。下手をすると取り上げられそうなので、勢いでムギン粉へとそれをドボドボと入れる。
「あぁぁぁ!」
「何てことだ!」
辺りは阿鼻叫喚となっているが気持ちは分からないでもない。私が入れた液体は、食べ残したアポーの実の芯の部分から作った酵母液だ。
以前リトールの町でカーラさんが食べていたブレッドというものがあったが、要するにパンのことである。けれど外側の食感は硬く、中はスカスカとしており日本のパンに慣れている私には悪い意味で衝撃的だったのだ。なので日本のようなふんわりもっちりとしたパンを作ろうと思ったが、当然この世界ではドライイーストなんてない。
美樹の家で中古とはいえ新しい炊飯器を買った時にパンのモードが付いていた。早速パンを作ろうとしたが、お金を出してドライイーストを買うよりも捨ててしまう部分で作る天然酵母液を作ろうとお母さんと盛り上がり作ったことがあったのだ。結果は成功と言えば成功だった。ただ炊飯器で作るので美味しかったが香ばしさが足りず、さらに釜に匂いが付いてしまい数日は白米から白米らしからぬ匂いがした為に、この一回で作るのを止めたというエピソードがある。
今日はこのリベンジも兼ねているのだ。皆が『うわぁ……』という残念そうな表情をしている中、私は構わず捏ねて生地を丸めて休ませることした。ドライイーストではなく天然酵母を使うと発酵に時間がかかる。私が川に行っている間に『腐っているから』と捨てられてしまわないように、絶対に誰も立ち入らない私とスイレンの部屋の床にボウルごと生地を運んだ。足の踏み場がないとはまさにこのことだと、それを見て一人で笑ってしまった。スイレンがここにいたら発狂していたに違いない。
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