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ブルーノさんの宣言

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 一夜明けた早朝から私やお母様はパタパタと動いている。昨夜の持て成し料理は作りすぎなくらい作ったので私たちは朝食にその残り物をいただく予定だったのだが、三人に大絶賛され、いや、民たちにも大好評で汁の一滴も残らなかったのだ。残飯が出ないのは素晴らしいことだが、昨夜あんなに料理を絶賛してくれた人たちにいつもの質素な朝食のようにトウモロコーンだけを出すわけにはいかないだろうとのことで急きょ料理をしているのだ。
 とはいえ、皆が起き出すまでの時間もあまりないので簡単な野菜炒めとなんちゃってナンを作っているのだが、最近は皆が健康になるにつれて食欲が増し量を作らなければならないのだ。給食センターの職員さんたちの気持ちがこの世界に来てようやく分かった気がする。

 昨夜揚げ物に使った油は品質が良いらしく、これも後日リトールの町で売ることが決まった。一度しか使っていない油を濾し、悪くなる前にこれを油炒めなどに使うのだと説明をするとお母様は大量の野菜を切り始め今に至っている。

────

「簡単な朝食でごめんなさいね」

 三人にはイチビたちが先に帰って来た時に作ってくれた簡易型の家に泊まってもらった。ムギンの藁を束にして敷き詰め、それに布をかぶせたムギンベッドは寝心地が良かったらしく三人はゆっくりと休むことが出来たようだ。ただ今日もリトールの町では見慣れない食べ物であるナンを見て口を閉ざし戸惑っているらしい。

「これはほんの少し味がついているから、このまま食べても良いしその野菜炒めを包んで食べても良いのよ。好きなように食べて」

 私たちの主食になりつつあるナンを恐る恐るかじった三人は「美味い!」と声を上げている。昨日から何回そのセリフを聞いたか分からないが、言われる度に嬉しくなってしまう。逆に質素な食事で申し訳ないとすら思ってしまう。

 食事を終えるとお母様たちが片付けをするので、ブルーノさんたちと家について話してきなさいと背中を押された。新たな石管作りをしているお父様のチームと合流し、タデやヒイラギ、イチビたちと共に家の予定地まで一緒に歩く。

「では今日から私は作業を再開する。何かあったら遠慮なく声をかけてくれ」

 お父様はそう言い残すとスイレンたちと共に颯爽と歩いて行く。その姿を見たペーターさんが口を開いた。

「王や王子が自ら力仕事をするなんて……本当に君たち親子には驚かされてばかりだよ」

「私も自分をお姫様だなんて思っていないわ。愛称だと思っているくらい」

 笑ってそう返すと側にいたブルーノさんもジェイソンさんも笑う。

「こんなに楽しい旅になるとは思わなかったよ。実はね、ある程度建築について教えたら私は帰るつもりだったんだ。だが決めた! 最低でも一軒の家をしっかりと建てるまでは帰らない!」

 私たちはその発言にとても驚いた。ある程度助言をもらい、専門的な部分をしっかりと学んだらブルーノさんは数日で帰ってしまうのだと思っていた。ペーターさんもジェイソンさんも加わっているからなおさらだ。ちらりとペーターさんとジェイソンさんを見ると二人は考え込んでいる。

「……私も帰りたくない!」

「……私もです!」

 しばし無言だった二人は声を上げたが、こちらも帰りたくない宣言をしてしまったのだ。しかしその背後から、お母様の片付けの手伝いをしていたじいやがちょうど現れた。

「ペーターさんは町長の仕事は良いのですかな? ジェイソンは隊長であろう。はっきりとした期日を言わずに来ているのだから、皆が心配するのでは?」

 じいやの言葉でペーターさんは頭を抱え悩んでいる。私たちは何と声をかけたら良いか分からず無言で見つめるしかない。

「……何も起こらない町ではあるが、何かあったら大変だしな……。仕方がない、私は帰るとしよう……明日以降にな!」

 はっきりと帰る日を言わない辺りに、よほど帰りたくないのだと察して思わず笑ってしまう。

「ジェイソンも隊員たちが待っておるだろう。ペーターさんが帰る日に一緒に帰るぞ。良いな?」

 大好きなじいやに声をかけられたのにジェイソンさんはうつむき無言だ。そしておもむろに顔を上げると声高らかに宣言をした。

「帰りません! 私も家を建てるお手伝いをし、完成してから帰ります!」

 よほどじいやと離れたくないのだと思い私たちは笑うが、じいやはため息を吐いている。ジェイソンさんがいかにじいやラブなのかを昨日今日で知ったペーターさんは笑いながら口を開いた。

「私が帰る時に国境警備隊の人たちに説明しよう。上手く言っておくよ」

 ペーターさんまでジェイソンさんの味方をするので、じいやは何も言えなくなってしまい苦笑いをしている。何はともあれヒーズル王国は数人の来客でとても賑やかな日々となっている。
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