貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
179 / 366

歓迎

しおりを挟む
 基本的に私たちは広場に集まり、地面に座って食事をする。雨が降っていたり、降った直後で地面が濡れている時は屋根のある場所で食事をとる。そういう食事スタイルのヒーズル王国だが、イチビたちがシャイアーク国から人が来ると伝えてくれていたので、簡素ではあるが大きなテーブルと椅子を用意してくれていた。リトールの町の人たちは皆テーブルに着いて食事をする。
 テーブルの上には新鮮な野菜や果物、おひたしのような山菜料理が所狭しと並んでいる。お母様は自らお湯を沸かし香草茶を淹れる。

「皆さんお久しぶりね。遠いところをわざわざ来てくれて歓迎します」

「まだ名乗っていなかったな。ヒーズル王国で王をしているモクレンだ。しかし王とは何をすれば良いのだ? まぁ良いか。いつも子どもたちや民たちが世話になって感謝している。疲れただろう? レンゲの淹れた茶は美味い。ぜひ堪能してくれ」

 お母様が三人に香草茶を出すと、いつも通りのお父様は快活に笑いながら話すが、三人はまだ涙を流している。

「……ブルーノと申します。……ここまで人を憎んだのは初めてだ」

 ようやく声を出したブルーノさんはそう話すが、私たちは何か失礼をしてしまったのかと動揺してしまう。

「ジェイソンです……私もいつも見る国境付近だけが砂の土地なのだと思っていました……」

「リトールの町の町長ペーターだ。ここまで歩き、ようやく森が見えて何とも言えない気持ちになり……さぞお辛かったでしょうに……」

 今まで口数が少なかったのも固い表情だったのも、そして泣いているのもシャイアーク国王への憎悪だったのだとようやく理解出来た。お父様もそれが分かったらしく、真面目な表情となり口を開いた。

「確かに私たちは、特に私はシャイアーク国王を憎しみ恨んだな。死ななくても良かった仲間たちがどんどんと死んでいったのだから……」

 いつも笑っているお父様から殺気のようなものを感じ、周囲はピリピリとした空気に変わる。

「どこまで歩いても砂と岩しかない。木はいくらかは生えていたがすぐに伐採し尽くし、獣も全て狩ってしまったようで生物の気配はなくなり、ようやくこの地に辿り着いた時にはもう移動することが出来ないほどだった。民のほとんどが動けなくなり、水とそちらで購入したわずかなトウモロコーンだけで命を繋いでいたほどだ。なぜ私たちがこんな目に……と思っていたが、今は幸せなのだ。だからもう良いのだ」

 お父様は最後に笑った。その笑顔を見て三人はまた涙をこぼす。

「私の子どもたちは王よりも優秀でな。貴方たちが見て来たようにこの場所には何もなかったのだ。しかしカレンがなかなか切れ者でな。あの森を作ったのもその畑を作ったのもカレンだ。後で案内するがそれ以外のものもカレンが提案し、スイレンの計算によって作られている。私たちは幸せなのだ。だから森と畑の恵みを存分に味わってくれ」

 急に名前を出され驚いたが、三人は頭が追い付かないようで私がなぜこのようなものを作れたか、なぜあんなに大きな森林を育てられたかということまでは考えることが出来ないようだ。違う星の前世の記憶があるなんて言っても信じてもらえないだろうし、この土地の不思議な力についてはあまり詮索されたくはない。そんなことを思っているとスイレンがニコリと微笑みながら口を開いた。

「三人の歓迎の宴だよ! 早く食べて飲んで!」

 癒やしの天使のような微笑みでそう言われると、三人は泣きながら食べ物に感謝しようやく手に取り口に運んでくれた。そこからは一気に盛り上がりまだ日も暮れていないのに宴となる。

「リトールの町に持って来てくれるものより美味い!」

「こんなに甘い果物なんて!」

「先生は毎日こんなに美味いものを!?」

 どんなに泣いていても味覚は無くならない。一度食べ物を口に入れてしまえば、採れたて新鮮なヒーズル王国の食べ物に三人は夢中になってくれた。特にジェイソンさんの食欲は凄まじく、目の前のものをどれも「美味い!」と食べ尽くす。民たちも好きなものを好きなだけ食べ、食べるものが足りなくなると収穫に行ってしまうほどだ。
 ペーターさんは私とスイレンを孫のように思っていると言ってくれたり、ブルーノさんはスイレンの計算能力の高さがどれほど凄いかを語り、ジェイソンさんはじいやがどれほど鬼教官だったかを語る。それを聞いた民たちも喜び笑いあう。
 いつも私たちを手厚く歓迎してくれるリトールの町の全員にではないが、ようやく少しでも恩を返せたことに私も嬉しくなってしまう。

 話の内容は目まぐるしく変わるが、自分の家族や民たちを褒められたお父様はとても気を良くし「歳は違うが良い友人が三人も出来た」と豪快に笑うと三人はまた涙を流してしまった。けれどこの涙は悲しい涙ではなく、喜びの嬉し涙なのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...