178 / 366
静かな旅路
しおりを挟む
国境の扉を開けてもらい私たちはヒーズル王国に足を踏み入れる。ジェイソンさんには見慣れた光景であろうが、草木一本も生えない砂だけの大地はブルーノさんとペーターさんには衝撃だったようで絶句している。
「ブルーノさんとペーターさんは申し訳ないのだけれど、荷車に載ってもらっても良いかしら? 少し急がないと夜営の場所に到達出来ないわ」
二人はきっと楽しい旅になると思っていたのだろう。この砂しかない場所を見るまでは。悲しそうな悔しそうな怒っているような、そんな何とも言えない表情のまま静かに荷車に載ってくれた。
「ジェイソンさんは徒歩でも大丈夫よね?」
一応確認をしてみると大きく頷く。
「途中で、規模は分からないけれど最低でも一回は砂嵐に遭うと思うわ。その時はあまり目を開けず、鼻や口は袖で覆ってね。下手に口を開けていると口の中がジャリジャリになるから気を付けて」
砂嵐という言葉にも三人は驚いていた。こうして歩き始めた私たちだったが、ジェイソンさんだけは有頂天でじいやの横をキープし、ひたすらじいやに話しかけている。私とスイレンが知らなかった鬼のしごきの話題などで盛り上がり、早歩きをしながらも和気あいあいと進むがブルーノさんとペーターさんは少し元気がないままだった。
この道を何回も往復をしている私たちにとっては大したことのない砂嵐に遭遇したが、三人、特にブルーノさんとペーターさんは心身ともにダメージを受けたように見えた。
何回かの小休止を挟みながら夜営の小屋へと着いた時にはすっかり日も暮れていたが、月明かりのおかげで大きくペースが狂うこともなく辿り着けた。私たちの居住地に近付くにつれ砂嵐や強風がなくなる。じいややタデは何回か指笛を吹き、小屋に泊まり込んでいる者に状況を伝えていたおかげでわざわざ火を起こして待っていてくれ、私たちは軽い食事を済ますと倒れるように眠ってしまった。
翌朝目を覚ますとイチビたち四人がいない。どうやら私たちと同じくらい疲れているはずなのに、ほんの少しの仮眠をとってお父様たちに現状を知らせようと先に旅立ったらしい。とてもありがたいことだ。
水や食べ物が少ないので少量の朝食となったが、ブルーノさんとペーターさんは朝食のことは気にせず「昨夜は気付かなかった」と地面に生えるクローバーや雑草を愛しそうに見つめていた。
「さぁ出発しましょうか! ここからは昨日とは景色が変わるわよ!」
ただの砂漠と山しかなかった昨日の光景とは打って変わり、ここからは雑草が増え砂の色も変化する。リトールの町側はベージュ系の色の砂だが、この辺りは赤みが強い砂になる。そこに濃い緑色のクローバーや雑草が生えているのでとても色鮮やかな地面となっているのだ。ここからはどんなにゆっくり歩いても日が昇っているうちに王国に着くと言うと、ブルーノさんもペーターさんも自分で歩くと言う。目で見て足で感じて、この国を全身で体感したいとの思いに私たちは同意した。
昨日のようにジェイソンさんは楽しそうに歩いているが、ブルーノさんとペーターさんは相変わらず口数は少ない。けれど進むにつれ表情は変わり柔らかくなっているように見える。そしてついに森が見えると三人は立ち止まり絶句してしまった。こう見ると随分と森が広がったなと変な感心をしてしまう。
「さあ、あの森を抜けたら私たちの王国よ! 城も何もないけどね!」
そう言い一歩を踏み出すと自然とペースが上がる。毎日間伐をする者たちの手入れのおかげで簡素な道が作られ、私たちもポニーもロバも何の苦労もせずに森を通り抜けることが出来る。一度森へ入ればここが砂漠地帯だということは忘れてしまうほど、しっとりとした空気の中に土や木や花の香りを感じる。この香りに安心感を覚えるのは野山で遊んでいた美樹の記憶からなのか、森の民として産まれたカレンの感情なのかは自分でも分からない。そして森をようやく抜ける。
「ようこそヒーズル王国へ! よく来てくださった!」
そこには太陽のように熱く、森の大木のように力強く、獣のようにたくましいお父様が満面の笑みを浮かべ立っていた。ううん、お父様だけじゃない。ヒーズル王国の全国民が私たちの到着を待ち、ブルーノさんにペーターさん、ジェイソンさんを歓迎してくれている。民たちははしゃぎ、辺りはお祭り騒ぎである。けれどブルーノさんとペーターさんはその場で泣き崩れてしまった。
「二人ともどうしたの!?」
「僕たち歩くのが速かった? 疲れちゃった?」
私とスイレンが駆け寄り声をかけるが、二人は声を上げて泣いている。ふと見ればあんなに元気だったジェイソンさんですら声すら上げてはいないが涙をこぼしている。
「どうなされた!? ひとまずこちらへ!」
お父様の言葉を聞いた近くの民たちはブルーノさんたちに駆け寄り心配し、私たちと共に二人を立ち上がらせシャイアーク国から来た三人を広場へと案内した。
「ブルーノさんとペーターさんは申し訳ないのだけれど、荷車に載ってもらっても良いかしら? 少し急がないと夜営の場所に到達出来ないわ」
二人はきっと楽しい旅になると思っていたのだろう。この砂しかない場所を見るまでは。悲しそうな悔しそうな怒っているような、そんな何とも言えない表情のまま静かに荷車に載ってくれた。
「ジェイソンさんは徒歩でも大丈夫よね?」
一応確認をしてみると大きく頷く。
「途中で、規模は分からないけれど最低でも一回は砂嵐に遭うと思うわ。その時はあまり目を開けず、鼻や口は袖で覆ってね。下手に口を開けていると口の中がジャリジャリになるから気を付けて」
砂嵐という言葉にも三人は驚いていた。こうして歩き始めた私たちだったが、ジェイソンさんだけは有頂天でじいやの横をキープし、ひたすらじいやに話しかけている。私とスイレンが知らなかった鬼のしごきの話題などで盛り上がり、早歩きをしながらも和気あいあいと進むがブルーノさんとペーターさんは少し元気がないままだった。
この道を何回も往復をしている私たちにとっては大したことのない砂嵐に遭遇したが、三人、特にブルーノさんとペーターさんは心身ともにダメージを受けたように見えた。
何回かの小休止を挟みながら夜営の小屋へと着いた時にはすっかり日も暮れていたが、月明かりのおかげで大きくペースが狂うこともなく辿り着けた。私たちの居住地に近付くにつれ砂嵐や強風がなくなる。じいややタデは何回か指笛を吹き、小屋に泊まり込んでいる者に状況を伝えていたおかげでわざわざ火を起こして待っていてくれ、私たちは軽い食事を済ますと倒れるように眠ってしまった。
翌朝目を覚ますとイチビたち四人がいない。どうやら私たちと同じくらい疲れているはずなのに、ほんの少しの仮眠をとってお父様たちに現状を知らせようと先に旅立ったらしい。とてもありがたいことだ。
水や食べ物が少ないので少量の朝食となったが、ブルーノさんとペーターさんは朝食のことは気にせず「昨夜は気付かなかった」と地面に生えるクローバーや雑草を愛しそうに見つめていた。
「さぁ出発しましょうか! ここからは昨日とは景色が変わるわよ!」
ただの砂漠と山しかなかった昨日の光景とは打って変わり、ここからは雑草が増え砂の色も変化する。リトールの町側はベージュ系の色の砂だが、この辺りは赤みが強い砂になる。そこに濃い緑色のクローバーや雑草が生えているのでとても色鮮やかな地面となっているのだ。ここからはどんなにゆっくり歩いても日が昇っているうちに王国に着くと言うと、ブルーノさんもペーターさんも自分で歩くと言う。目で見て足で感じて、この国を全身で体感したいとの思いに私たちは同意した。
昨日のようにジェイソンさんは楽しそうに歩いているが、ブルーノさんとペーターさんは相変わらず口数は少ない。けれど進むにつれ表情は変わり柔らかくなっているように見える。そしてついに森が見えると三人は立ち止まり絶句してしまった。こう見ると随分と森が広がったなと変な感心をしてしまう。
「さあ、あの森を抜けたら私たちの王国よ! 城も何もないけどね!」
そう言い一歩を踏み出すと自然とペースが上がる。毎日間伐をする者たちの手入れのおかげで簡素な道が作られ、私たちもポニーもロバも何の苦労もせずに森を通り抜けることが出来る。一度森へ入ればここが砂漠地帯だということは忘れてしまうほど、しっとりとした空気の中に土や木や花の香りを感じる。この香りに安心感を覚えるのは野山で遊んでいた美樹の記憶からなのか、森の民として産まれたカレンの感情なのかは自分でも分からない。そして森をようやく抜ける。
「ようこそヒーズル王国へ! よく来てくださった!」
そこには太陽のように熱く、森の大木のように力強く、獣のようにたくましいお父様が満面の笑みを浮かべ立っていた。ううん、お父様だけじゃない。ヒーズル王国の全国民が私たちの到着を待ち、ブルーノさんにペーターさん、ジェイソンさんを歓迎してくれている。民たちははしゃぎ、辺りはお祭り騒ぎである。けれどブルーノさんとペーターさんはその場で泣き崩れてしまった。
「二人ともどうしたの!?」
「僕たち歩くのが速かった? 疲れちゃった?」
私とスイレンが駆け寄り声をかけるが、二人は声を上げて泣いている。ふと見ればあんなに元気だったジェイソンさんですら声すら上げてはいないが涙をこぼしている。
「どうなされた!? ひとまずこちらへ!」
お父様の言葉を聞いた近くの民たちはブルーノさんたちに駆け寄り心配し、私たちと共に二人を立ち上がらせシャイアーク国から来た三人を広場へと案内した。
23
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる