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静かな旅路
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国境の扉を開けてもらい私たちはヒーズル王国に足を踏み入れる。ジェイソンさんには見慣れた光景であろうが、草木一本も生えない砂だけの大地はブルーノさんとペーターさんには衝撃だったようで絶句している。
「ブルーノさんとペーターさんは申し訳ないのだけれど、荷車に載ってもらっても良いかしら? 少し急がないと夜営の場所に到達出来ないわ」
二人はきっと楽しい旅になると思っていたのだろう。この砂しかない場所を見るまでは。悲しそうな悔しそうな怒っているような、そんな何とも言えない表情のまま静かに荷車に載ってくれた。
「ジェイソンさんは徒歩でも大丈夫よね?」
一応確認をしてみると大きく頷く。
「途中で、規模は分からないけれど最低でも一回は砂嵐に遭うと思うわ。その時はあまり目を開けず、鼻や口は袖で覆ってね。下手に口を開けていると口の中がジャリジャリになるから気を付けて」
砂嵐という言葉にも三人は驚いていた。こうして歩き始めた私たちだったが、ジェイソンさんだけは有頂天でじいやの横をキープし、ひたすらじいやに話しかけている。私とスイレンが知らなかった鬼のしごきの話題などで盛り上がり、早歩きをしながらも和気あいあいと進むがブルーノさんとペーターさんは少し元気がないままだった。
この道を何回も往復をしている私たちにとっては大したことのない砂嵐に遭遇したが、三人、特にブルーノさんとペーターさんは心身ともにダメージを受けたように見えた。
何回かの小休止を挟みながら夜営の小屋へと着いた時にはすっかり日も暮れていたが、月明かりのおかげで大きくペースが狂うこともなく辿り着けた。私たちの居住地に近付くにつれ砂嵐や強風がなくなる。じいややタデは何回か指笛を吹き、小屋に泊まり込んでいる者に状況を伝えていたおかげでわざわざ火を起こして待っていてくれ、私たちは軽い食事を済ますと倒れるように眠ってしまった。
翌朝目を覚ますとイチビたち四人がいない。どうやら私たちと同じくらい疲れているはずなのに、ほんの少しの仮眠をとってお父様たちに現状を知らせようと先に旅立ったらしい。とてもありがたいことだ。
水や食べ物が少ないので少量の朝食となったが、ブルーノさんとペーターさんは朝食のことは気にせず「昨夜は気付かなかった」と地面に生えるクローバーや雑草を愛しそうに見つめていた。
「さぁ出発しましょうか! ここからは昨日とは景色が変わるわよ!」
ただの砂漠と山しかなかった昨日の光景とは打って変わり、ここからは雑草が増え砂の色も変化する。リトールの町側はベージュ系の色の砂だが、この辺りは赤みが強い砂になる。そこに濃い緑色のクローバーや雑草が生えているのでとても色鮮やかな地面となっているのだ。ここからはどんなにゆっくり歩いても日が昇っているうちに王国に着くと言うと、ブルーノさんもペーターさんも自分で歩くと言う。目で見て足で感じて、この国を全身で体感したいとの思いに私たちは同意した。
昨日のようにジェイソンさんは楽しそうに歩いているが、ブルーノさんとペーターさんは相変わらず口数は少ない。けれど進むにつれ表情は変わり柔らかくなっているように見える。そしてついに森が見えると三人は立ち止まり絶句してしまった。こう見ると随分と森が広がったなと変な感心をしてしまう。
「さあ、あの森を抜けたら私たちの王国よ! 城も何もないけどね!」
そう言い一歩を踏み出すと自然とペースが上がる。毎日間伐をする者たちの手入れのおかげで簡素な道が作られ、私たちもポニーもロバも何の苦労もせずに森を通り抜けることが出来る。一度森へ入ればここが砂漠地帯だということは忘れてしまうほど、しっとりとした空気の中に土や木や花の香りを感じる。この香りに安心感を覚えるのは野山で遊んでいた美樹の記憶からなのか、森の民として産まれたカレンの感情なのかは自分でも分からない。そして森をようやく抜ける。
「ようこそヒーズル王国へ! よく来てくださった!」
そこには太陽のように熱く、森の大木のように力強く、獣のようにたくましいお父様が満面の笑みを浮かべ立っていた。ううん、お父様だけじゃない。ヒーズル王国の全国民が私たちの到着を待ち、ブルーノさんにペーターさん、ジェイソンさんを歓迎してくれている。民たちははしゃぎ、辺りはお祭り騒ぎである。けれどブルーノさんとペーターさんはその場で泣き崩れてしまった。
「二人ともどうしたの!?」
「僕たち歩くのが速かった? 疲れちゃった?」
私とスイレンが駆け寄り声をかけるが、二人は声を上げて泣いている。ふと見ればあんなに元気だったジェイソンさんですら声すら上げてはいないが涙をこぼしている。
「どうなされた!? ひとまずこちらへ!」
お父様の言葉を聞いた近くの民たちはブルーノさんたちに駆け寄り心配し、私たちと共に二人を立ち上がらせシャイアーク国から来た三人を広場へと案内した。
「ブルーノさんとペーターさんは申し訳ないのだけれど、荷車に載ってもらっても良いかしら? 少し急がないと夜営の場所に到達出来ないわ」
二人はきっと楽しい旅になると思っていたのだろう。この砂しかない場所を見るまでは。悲しそうな悔しそうな怒っているような、そんな何とも言えない表情のまま静かに荷車に載ってくれた。
「ジェイソンさんは徒歩でも大丈夫よね?」
一応確認をしてみると大きく頷く。
「途中で、規模は分からないけれど最低でも一回は砂嵐に遭うと思うわ。その時はあまり目を開けず、鼻や口は袖で覆ってね。下手に口を開けていると口の中がジャリジャリになるから気を付けて」
砂嵐という言葉にも三人は驚いていた。こうして歩き始めた私たちだったが、ジェイソンさんだけは有頂天でじいやの横をキープし、ひたすらじいやに話しかけている。私とスイレンが知らなかった鬼のしごきの話題などで盛り上がり、早歩きをしながらも和気あいあいと進むがブルーノさんとペーターさんは少し元気がないままだった。
この道を何回も往復をしている私たちにとっては大したことのない砂嵐に遭遇したが、三人、特にブルーノさんとペーターさんは心身ともにダメージを受けたように見えた。
何回かの小休止を挟みながら夜営の小屋へと着いた時にはすっかり日も暮れていたが、月明かりのおかげで大きくペースが狂うこともなく辿り着けた。私たちの居住地に近付くにつれ砂嵐や強風がなくなる。じいややタデは何回か指笛を吹き、小屋に泊まり込んでいる者に状況を伝えていたおかげでわざわざ火を起こして待っていてくれ、私たちは軽い食事を済ますと倒れるように眠ってしまった。
翌朝目を覚ますとイチビたち四人がいない。どうやら私たちと同じくらい疲れているはずなのに、ほんの少しの仮眠をとってお父様たちに現状を知らせようと先に旅立ったらしい。とてもありがたいことだ。
水や食べ物が少ないので少量の朝食となったが、ブルーノさんとペーターさんは朝食のことは気にせず「昨夜は気付かなかった」と地面に生えるクローバーや雑草を愛しそうに見つめていた。
「さぁ出発しましょうか! ここからは昨日とは景色が変わるわよ!」
ただの砂漠と山しかなかった昨日の光景とは打って変わり、ここからは雑草が増え砂の色も変化する。リトールの町側はベージュ系の色の砂だが、この辺りは赤みが強い砂になる。そこに濃い緑色のクローバーや雑草が生えているのでとても色鮮やかな地面となっているのだ。ここからはどんなにゆっくり歩いても日が昇っているうちに王国に着くと言うと、ブルーノさんもペーターさんも自分で歩くと言う。目で見て足で感じて、この国を全身で体感したいとの思いに私たちは同意した。
昨日のようにジェイソンさんは楽しそうに歩いているが、ブルーノさんとペーターさんは相変わらず口数は少ない。けれど進むにつれ表情は変わり柔らかくなっているように見える。そしてついに森が見えると三人は立ち止まり絶句してしまった。こう見ると随分と森が広がったなと変な感心をしてしまう。
「さあ、あの森を抜けたら私たちの王国よ! 城も何もないけどね!」
そう言い一歩を踏み出すと自然とペースが上がる。毎日間伐をする者たちの手入れのおかげで簡素な道が作られ、私たちもポニーもロバも何の苦労もせずに森を通り抜けることが出来る。一度森へ入ればここが砂漠地帯だということは忘れてしまうほど、しっとりとした空気の中に土や木や花の香りを感じる。この香りに安心感を覚えるのは野山で遊んでいた美樹の記憶からなのか、森の民として産まれたカレンの感情なのかは自分でも分からない。そして森をようやく抜ける。
「ようこそヒーズル王国へ! よく来てくださった!」
そこには太陽のように熱く、森の大木のように力強く、獣のようにたくましいお父様が満面の笑みを浮かべ立っていた。ううん、お父様だけじゃない。ヒーズル王国の全国民が私たちの到着を待ち、ブルーノさんにペーターさん、ジェイソンさんを歓迎してくれている。民たちははしゃぎ、辺りはお祭り騒ぎである。けれどブルーノさんとペーターさんはその場で泣き崩れてしまった。
「二人ともどうしたの!?」
「僕たち歩くのが速かった? 疲れちゃった?」
私とスイレンが駆け寄り声をかけるが、二人は声を上げて泣いている。ふと見ればあんなに元気だったジェイソンさんですら声すら上げてはいないが涙をこぼしている。
「どうなされた!? ひとまずこちらへ!」
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