172 / 366
下水道計画
しおりを挟む
掘るだけの作業ならこの国には人間重機が二人もいるので容易いだろう。問題は個々の家からどう下水道に排水するかだ。
「姫様のいらした場所ではどうなっていたのですかな?」
じいやは私に質問を投げかけるが答えられない。さすがにこれに関しては知識がなさすぎるのだ。
「そもそも、家を自分で建てる人はまずいないわね……。大まかに家を建てる仕事の人、内装工事をする人、水回りの仕事をする人と何人もが作業をするし、地面の下にはいろんなものが埋まっていて……下水道というよりも、この世界にはない素材で作られたいろいろな用途の管が張り巡らされている……んじゃないかしら?」
塩ビ管の説明すらも難しく、場所によっては地中に電線が埋め込まれている場所もある。自分の住んでいる場所の地面の下のことすら専門の人でないと分からないと言うと驚かれる。蛇口をひねれば水が出て、風呂やトイレの水は勝手に流れていく。蛇口や水道の構造も分からないし、下水は最終的に処理場に行くというくらいの知識しかない。
ただ、小学生の時の社会見学で処理場に行った際に下水道の歴史を職員の人が語ってくれ、場所にもよるが古くは地中にトンネルを掘って汚水を流していたというのを記憶している。日本ではし尿は溜めて肥料にしていたが、ご近所のお年寄りたちから肥溜めに落ちた時の話をやたら聞いて育ったせいか、私は肥溜めを作りたくはない。そんなことを掻い摘んで説明をする。
「ならば簡単に言うとその下水道と川を繋げるのだな?」
タデはそう言うが、そういうわけにもいかないのだ。
「本当に簡単に言えばそうなのだけど、そのまま汚れた水を川に流すと川が汚染されるの。私たちの病気の心配だったり、魚が死んでしまうことによってヘドロという良くない泥が溜まって他の生物まで死んでしまったり……」
「ならどうするのだ?」
私の説明にタデは困惑気味に返す。
「水を綺麗にしてから川に流すの。それについては調べたことがあるの」
美樹が亡くなる少し前に、暇つぶしに植物図鑑を見ていた時にその関連で植物の浄化作用について調べたことがあった。それが役立つことになるとはあの時は思ってもいなかったが。
「まずはどこに下水道を掘るのか、その下水道にどう繋げるかを考えてしまいましょう」
そこからは皆で知恵を出し合って話し合いをする。日本のように自分の好きなように間取りを決めると、そうなった場合に配管をどうすれば良いのか分からない。そもそも森の民が暮らしたことのない造りの家だけに、皆は間取りすらもどうしたら良いのか分からないようだ。
「私たちも基礎というものしか聞きませんでしたので……」
ブルーノさんから基礎について詳しく聞いたと言うオヒシバは悔しそうに呟く。
「……いっそのこと、ブルーノさんにもっと詳しく聞いたら良いんじゃないかしら? お母様たちが住みたいと言っている家はリトールの町にあるような家だし、そもそもブルーノさんは長年大工さんをやっているのよ? 絶対に力になってくれると思うの。ブルーノさんの家の排水は庭に流していたけれど、下水道についてももしかしたら良い案を授けてくれるかもしれないわ」
分からない者たちが知恵を出し合ってもたかが知れている。ならば餅は餅屋という言葉があるようにその道のプロに聞けば良いのだ。
「でしたらスイレン様もお誘いしましょう。設計に関することを楽しんで学ぶ方ですからな」
「いっそのことこの全員で行けば良いのではないか? ヒイラギも連れて行けばより学べるだろう」
確かにスイレンは喜んでブルーノさんからたくさんのノウハウを学ぶだろう。もちろん皆もだ。そしてヒイラギもさらに技術を学べるだろう。ただ一つ問題がある。タデと当の本人以外の視線はある一人に注がれる。
「姫様、そんなに見つめられては照れてしまいます……」
何か盛大な勘違いをしたようでオヒシバは赤くなりうつむく。今この場の皆が思っているのは、オヒシバ対ポニーとロバとの相性のことである。オヒシバがうつむいている間にハマスゲが小声でタデに耳打ちをすると「あぁ!」と言ったあとに笑い始めた。
「姫がいれば大丈夫じゃないか?」
などと言っている。歩く時の隊列を考えないといけないわね。
「今回はハコベたちは連れて行かないぞ。絶対にだ。……歩く速度に影響する」
前回お母様たちと向かった時はマイペースすぎて困ったくらいである。それを思い出した私は苦笑いで頷いた。
「姫ー!」
遠くからヒイラギの声が聞こえてきた。どうやら頼んでいたものが完成したようだ。にこやかに走って来るヒイラギを見てタデは走り寄り、肩を掴んで捕獲する。
「リトールの町に行くぞ」
「え!? いきなり何!?」
言いたいことだけを言うタデにヒイラギは面食らっている。すぐにイチビが一から説明をすると「なるほどね、行くよ」と肯定してくれた。今回は今すぐに向かうわけではないので、まずはヒイラギが作ってくれたものを皆で見に行くことにした。
「姫様のいらした場所ではどうなっていたのですかな?」
じいやは私に質問を投げかけるが答えられない。さすがにこれに関しては知識がなさすぎるのだ。
「そもそも、家を自分で建てる人はまずいないわね……。大まかに家を建てる仕事の人、内装工事をする人、水回りの仕事をする人と何人もが作業をするし、地面の下にはいろんなものが埋まっていて……下水道というよりも、この世界にはない素材で作られたいろいろな用途の管が張り巡らされている……んじゃないかしら?」
塩ビ管の説明すらも難しく、場所によっては地中に電線が埋め込まれている場所もある。自分の住んでいる場所の地面の下のことすら専門の人でないと分からないと言うと驚かれる。蛇口をひねれば水が出て、風呂やトイレの水は勝手に流れていく。蛇口や水道の構造も分からないし、下水は最終的に処理場に行くというくらいの知識しかない。
ただ、小学生の時の社会見学で処理場に行った際に下水道の歴史を職員の人が語ってくれ、場所にもよるが古くは地中にトンネルを掘って汚水を流していたというのを記憶している。日本ではし尿は溜めて肥料にしていたが、ご近所のお年寄りたちから肥溜めに落ちた時の話をやたら聞いて育ったせいか、私は肥溜めを作りたくはない。そんなことを掻い摘んで説明をする。
「ならば簡単に言うとその下水道と川を繋げるのだな?」
タデはそう言うが、そういうわけにもいかないのだ。
「本当に簡単に言えばそうなのだけど、そのまま汚れた水を川に流すと川が汚染されるの。私たちの病気の心配だったり、魚が死んでしまうことによってヘドロという良くない泥が溜まって他の生物まで死んでしまったり……」
「ならどうするのだ?」
私の説明にタデは困惑気味に返す。
「水を綺麗にしてから川に流すの。それについては調べたことがあるの」
美樹が亡くなる少し前に、暇つぶしに植物図鑑を見ていた時にその関連で植物の浄化作用について調べたことがあった。それが役立つことになるとはあの時は思ってもいなかったが。
「まずはどこに下水道を掘るのか、その下水道にどう繋げるかを考えてしまいましょう」
そこからは皆で知恵を出し合って話し合いをする。日本のように自分の好きなように間取りを決めると、そうなった場合に配管をどうすれば良いのか分からない。そもそも森の民が暮らしたことのない造りの家だけに、皆は間取りすらもどうしたら良いのか分からないようだ。
「私たちも基礎というものしか聞きませんでしたので……」
ブルーノさんから基礎について詳しく聞いたと言うオヒシバは悔しそうに呟く。
「……いっそのこと、ブルーノさんにもっと詳しく聞いたら良いんじゃないかしら? お母様たちが住みたいと言っている家はリトールの町にあるような家だし、そもそもブルーノさんは長年大工さんをやっているのよ? 絶対に力になってくれると思うの。ブルーノさんの家の排水は庭に流していたけれど、下水道についてももしかしたら良い案を授けてくれるかもしれないわ」
分からない者たちが知恵を出し合ってもたかが知れている。ならば餅は餅屋という言葉があるようにその道のプロに聞けば良いのだ。
「でしたらスイレン様もお誘いしましょう。設計に関することを楽しんで学ぶ方ですからな」
「いっそのことこの全員で行けば良いのではないか? ヒイラギも連れて行けばより学べるだろう」
確かにスイレンは喜んでブルーノさんからたくさんのノウハウを学ぶだろう。もちろん皆もだ。そしてヒイラギもさらに技術を学べるだろう。ただ一つ問題がある。タデと当の本人以外の視線はある一人に注がれる。
「姫様、そんなに見つめられては照れてしまいます……」
何か盛大な勘違いをしたようでオヒシバは赤くなりうつむく。今この場の皆が思っているのは、オヒシバ対ポニーとロバとの相性のことである。オヒシバがうつむいている間にハマスゲが小声でタデに耳打ちをすると「あぁ!」と言ったあとに笑い始めた。
「姫がいれば大丈夫じゃないか?」
などと言っている。歩く時の隊列を考えないといけないわね。
「今回はハコベたちは連れて行かないぞ。絶対にだ。……歩く速度に影響する」
前回お母様たちと向かった時はマイペースすぎて困ったくらいである。それを思い出した私は苦笑いで頷いた。
「姫ー!」
遠くからヒイラギの声が聞こえてきた。どうやら頼んでいたものが完成したようだ。にこやかに走って来るヒイラギを見てタデは走り寄り、肩を掴んで捕獲する。
「リトールの町に行くぞ」
「え!? いきなり何!?」
言いたいことだけを言うタデにヒイラギは面食らっている。すぐにイチビが一から説明をすると「なるほどね、行くよ」と肯定してくれた。今回は今すぐに向かうわけではないので、まずはヒイラギが作ってくれたものを皆で見に行くことにした。
22
お気に入りに追加
1,988
あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる