上 下
166 / 366

取水口への整備

しおりを挟む
 タデたちの割っているタッケはお父様たちよりも多い。その分やりやすさと人数の多さからこちらが先に終わると思っていたのに、勝負というものに燃えるお父様とじいやコンビは瞬く間にコツを掴みどんどんと速度を上げ……勝ってしまったのだ。

「私たちの勝ちだぞ!」

「やりましたなモクレン様」

 それは晴れ晴れとした笑顔で二人はそう言うが、それを見たタデは「あの二人に常識というものは通用しないのだ」と呟いていた。それに同意せざるを得ない。

 次にする作業はとても細長い板状になったタッケの節を取ることである。節の部分をナタなどの刃物で横に削ぐようにすれば簡単に節は取れる。

「みんな手を切らないように気を付けて」

 手に布を巻き付けタッケの側面などで手を切らないようにし、私もスイレンも参加して節を落としていく。この地味な作業にもお父様たちは勝負だと盛り上がっている。膨大な数の節取りを全員で終わらせた頃、マッツの伐採を頼んだ者たちが荷車にマッツと昼食を載せて運んで来てくれた。大抵は畑の作業の者たちが建設現場へ運んで来るが、それを頼むのにちょうど良い時間だったのだろう。ただ、茹でたポゥティトゥや生のトゥメィトゥ、そして果実などほとんどゴミの出ないヘルシーすぎる食事なのだが。

 食事を終え、これからの力仕事のためにいつもより長めの休憩を取ることとなり満腹となった私はスイレンに寄りかかりうとうととしてしまう。時間にすれば大したことのない時間であろうが、小学生の頃の夢を見た。懐かしいなぁ……と夢の中で夢だと思いながらいるとスイレンに起こされた。

「カレン起きて。作業をするって。もうよだれ出てるよ」

 少々嫌そうに自分の服の袖で私の口元を拭いながら起こしてくたスイレンに礼を言い、思いっきり伸びをすると私は立ち上がる。

「さぁみんな。鉄線よりも大変な蛇籠を作るわよ!」

 その言葉に大人たちは驚いている。

「あら? 言ってなかったかしら? タッケで蛇籠を作る為に割っていたのよ」

 すると近くにいたタデが口を開いた。

「鉄線での蛇籠のように四角には出来ないな。ツルで作るカゴのようにするのか?」

「うーん……ある意味複雑でもっと大きなものになるのだけれど……説明が難しいからやってしまいましょう。ただ私やスイレンだと力が足りないかもしれないから、みんなの力が必要ね」

 節を取ったタッケを数本束にし地面に置き、その上に別の数本を置いていき「✱」の形に重ねていく。長くてしなるタッケはそれだけで扱いが大変で大人たちが手助けしてくれる。「✱」の形が完成すると最初に置いたものと平行になるように新たに「✱」を作り、最後に編み込んでいくタッケの束を用意し「✱」を交互に交差させ編み込む。編み始めが特に難しく、編み始めたら木槌などで綺麗な形となるように締めながら編む。

 さっきのうたた寝の時に見ていた夢はこの竹蛇籠を作った時の記憶だ。美樹の小学校では地域の伝統などを学ぶ時間がたくさんあった。その中に川の勢いを緩める『大聖牛』を職人に習いに行く時間があった。その『大聖牛』の土台に使われるのが竹蛇籠なのだ。高学年といえども子どもである私たちは二人一組で小さな竹蛇籠を作ったが、その場で職人が二人がかりで本物の蛇籠作りを見せてくれたのだ。大人二人がかりで編み上げる竹蛇籠は芸術品と言っても過言ではない。編み方自体は覚えているし、先程の夢で大型の竹蛇籠の扱い方もしっかりと思い出した。

 大人たちを二人一組に分け、まず私が今作ったように底辺を編んでもらう。全員が出来たのを確認し、次に筒となる部分を編んでもらう。今まで地面に広がっていた底面部分を起こして横にするのだが、これもなかなか骨が折れる。そして一人は締め上げ、もう一人は編み込み、筒の部分を回転させながら手も足も体全体を使ってダイナミックに編んでもらう。

「この交差させて出来た穴が、いかに同じ形と大きさで統一されているかが見た目の美しさになるわ。そして全部を編み上げたらこの穴に石を入れるの。タッケを継ぎ足す時は継ぎ目をずらしながらやるのよ」

 説明を終えるとウキウキ顔のお父様がタデに声をかけた。

「タデ、一緒に作ろうではないか」

「いや、おそらくこれは同じような力の持ち主同士でやった方が良いと思う。そもそもお前の力に耐えられるのはベンジャミン様くらいだ」

 そう言うとしょぼんとしているお父様をその場に残し、タデは二人ずつペアを作っていく。私とスイレンも手伝おうとしたが、怪我をすると大変だからと歪みがないかの確認係にさせられ作業をしているみんなの隙間を縫って歩く。
 ただ編むだけ、と思っていた者ほどその作業の大変さに驚いていた。だが森の民である大人たちはその難儀さに燃え、いかに丈夫で美しく作り上げるかで競い合っていた。編み終わりもまた少々難儀で、一組ずつに「ここにこれを差して締めて」とその場で教えるが、飲み込みの早い大人たちはすぐに理解してくれる。

 そして私とスイレンが縦にすっぽりと入れるくらいの竹蛇籠が完成した。本当にこの国のみんなは何かを作り上げたりすることの能力が高いことを再認識させられた。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

処理中です...