貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
164 / 366

取水口の改良

しおりを挟む
 兎にも角にも取水口に流れる水の量を増やさなければならない。要は今現在フラットになっている川の水面と取水口に差をつければ良いのだ。けれどセメントで接着しながら埋めた沈殿槽へと続く取水口を掘り起こすのは困難だ。ましてや前世では土木工事などやったことなどないのだ。ならば別の方法を考えねばならない。
 困ったり焦ったりするみんなに早めの休憩をとるように言い少し考える。美樹の住んでいた県に流れる川は急流で洪水も多く、『大聖牛』という三角形に組んだ丸太と蛇籠を組み合わせた水の流れを緩めるものはあった。逆に水の流れを早くするものが分からない。……いや、もしかしたらあの漁の方法が使えるかもしれない。

「まだ使用していないタッケが残っていたわよね? それを使うわ。私はタッケを取りに行くから、お父様とじいやはその辺にある岩を割っていてちょうだい」

 道具もない一般人にはそんな無茶振りは出来ないが、パワー系の二人はすぐに立ち上がり手頃な岩を持ち上げ別の岩に叩きつけて割り始める。

「カレンが戻るまでどちらが多く砕けるかな?」

「ほっほっほ。望むところですよモクレン様」

 二人は久しぶりの勝負に燃えているようだ。この二人に常識は通用しないのでこれで良い。スイレンは私について来ると言うので私たちは広場を目指し、その途中で休憩をとっている者たちに声をかけ道具が必要だと伝える。ぞろぞろと連なって歩いていると、ちょうど水路にいたタデに会った。

「みんなでどうした? モクレンとベンジャミン様は?」

 指笛では伝えきれないこれまでのことと、同時にこれからのことを伝えるとタデは驚く。そのタデが驚いたことはこれからの作業内容ではなく、二人を残してきたことだった。

「あの二人が夢中になって勝負すれば、石管まで破壊されかねん!」

 そう言い残しタデは全力疾走で川の方向へと走って行ってしまった。確かにそうだ。迂闊な判断をしたことを反省する。

「……タデの道具も持っていきましょう」

「……そうだね……」

 破壊活動をさせたら世界一、二を争う二人だけにしてしまったことを深く反省しながら広場でポニーとロバに荷車を取り付け様々な道具やタッケを載せていく。

「そうだわ! 少し待っていて」

 まだ全てのものを積み込んでいないので必要なものの確認をし、後のことはスイレンに任せ私は貯水池へと走った。そこではイチビたち四人がせっせと蛇籠作りに没頭していた。

「イチビー! ちょっと来てー!」

 少し離れた場所から叫ぶと四人は驚いている。名前を呼ばれたイチビは「何かありましたか?」とこちらに向かって来てくれた。そして現在の状況を伝える。

「それでタッケの加工が必要なのだけれど、イチビたちはタッケを扱ったことがあるし川にも入ったことがあるでしょう? だから手伝ってほしいのだけれど……ポニーとロバも連れて行くのよ……」

 小声でそう話すと察してくれたイチビはシャガとハマスゲを呼び、手短に助けが必要なこととポニーとロバのことを話す。名前を出していないが話の中心人物となっているオヒシバは、こちらに目もくれずに蛇籠を作っている。

「私が残ります。その前に姫様、オヒシバを励ましてやってください」

 シャガはそう言いオヒシバの背中を親指で指さす。なので私はオヒシバのところまで駆け足で近付き声をかけた。

「オヒシバ! さすがよ! 仕事が丁寧だわ! あのね、タッケの加工が必要でイチビとハマスゲを連れて行くのだけれど、ここはこのまま任せても大丈夫かしら? ううん、オヒシバにしか任せられないわ」

 顔を上げたオヒシバに大げさに話しながら、罪悪感やら何やらを感じつつ両手を胸の前で組みオヒシバを見上げる。すると鼻息を荒くしたオヒシバは叫んだ。

「もちろん! お任せください! このオヒシバ、例え一人になったとしてもここは完成させます!」

「いや、私も残るのだが」

 冷静なシャガの突っ込みに気付いているのか気付いていないのか、オヒシバはスピードを上げ鉄線の中に綺麗に石を詰め込んでいく。それを見たシャガは「早く行け」と言わんばかりに広場を数回指さした。

 広場へ戻ると荷車には全てのものが載せられていた。思った以上のタッケの量だったが、力持ちのポニーとロバは気にしていないようだ。

「お待たせ。イチビとハマスゲにも手伝ってもらうわ。二人はタッケの加工をしたことがあるし川にも慣れているから」

 そう言うと何人かに川に入ることになるのかと問われた。必ずしも全員が入るわけではないと伝えるが、川に入るという恐怖心を抱える者はすでに顔面蒼白である。

「無理強いなんてしないわ。お父様もじいやもいるし百人力よ。もし良かったら松……マッツを切り倒して後で届けてもらっても良いかしら? 枝と葉を落として丸太にしてくれるとありがたいのだけれど」

 そう言うと「すぐに取り掛かります」と数人が森へと入って行った。言葉通り本当にすぐにやってくれるだろう。

「じゃあマッツが届く前に私たちも作業を少しでも進めましょう」

 私の号令の元、私たちは川へと向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...