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新たな料理
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今現在、農作業で収穫した食材は生で食べられるものは生で食べ、それ以外は茹でたり焼いたりしただけで料理らしい料理というものをしていない。なので先日クジャからいただいたリーンウン国の調味料は非常に助かっている。とはいえもう少し料理の手間がかかったとしてもバリエーションを増やしたほうが民たちも喜ぶだろう。そうと決まれば即実行だ。私はシャイアーク国から香草を採取してくれたことのあるナズナさんの元へと走った。
ナズナさんは糸や布を作る場所にいた。あの騒ぎは何だったのだろうと思うほど、お母様とハコベさんと楽しそうに会話をしながら作業をしている。まだ手に持っていた黒板にチョークンで絵と特徴を描いてナズナさんに話しかけた。
「ねぇナズナさん。前にシャイアーク国から香草を持ってきて植えたでしょう? こういうのはある?」
ナズナさんに話しかけたのだが、当然のようにお母様とハコベさんも黒板を覗き込む。
「これは……ガンリックかなぁ? こっちはべージル?」
「この特徴はセルリンじゃない?」
お母様たちはそう話しながら黒板を見ている。
「多分そうだわ。私が住んでいた場所でも似たような名前だったから。これらが欲しいのだけれど」
嬉しさから笑顔でそう言うとお母様が心配そうな顔をしてこちらを向いた。
「ガンリックは美味しいけれど、刺激が強すぎて子どもには与えないようにする決まりなのよ」
お母様はそう言う。ガンリックは私が求めているニンニクだろう。確かに丸焼きにしたものはホクホクとした食感であまりの美味しさに手が止まらなくなるが、翌日にお腹を下したり何よりも臭いが気になってしまう。子どもに与えないというのは頷ける。
「あぁやっぱり私が求めているものだわ。そのまま食べるには子どもには向かないわね。でも少量を隠し味に使うから子どもでも大丈夫よ。夕飯に新しい料理を作ろうと思うの」
それを聞いた三人は作業を中断し「手伝うわ」「任せて」と言い残し森へと入って行った。少しその場で待つと三人は手にたくさんの香草を抱えて戻って来てくれた。確認してみると日本のスーパーで見かけるものとは多少違いがあるが、味見をしてみるとまさしく私が欲しかったニンニク、バジル、セロリだった。どうやら糸や布作りの女性陣は、休憩時に森へと入りこれらの香草を摘んで食べたりしていたらしいことから馴染みのある香草のようである。ただやはり葉をちぎって食べるくらいしか使いみちを知らないようだった。
「夕飯の為に今から仕込みをするわ。お母様たちも興味があるなら作り方を見る?」
そう声をかけると三人はワクワクとした表情で「うん!」と少女のような返事をした。ならばとそのまま広場へと移動する。
私一人であれば同時に作業を進めることが出来るが、新しい料理を知りたいと思っているお母様たちの為に一つ一つの工程を見せるように作るべきだろう。まずは必要なものを準備することにした。
普段は皮を使うがキャロッチを皮ごと適当な大きさに切って鍋に入れる。そして後から使う予定のオーニーオーンの皮を剥き、普段なら使わない頭とおしりの部分も皮と一緒に鍋に入れ、セルリンもそのまま鍋に入れる。さらにまだギリギリ食べられそうな干し肉も鍋に入れて水を入れて煮る。
「不思議な組み合わせの汁物なのね」
お母様たちは顔を見合わせそんな感想を漏らしていた。
「汁物として飲むことは出来るけれど、これはまだ料理の一部にしかすぎないわ。まだまだ工程がたくさんあるのよ」
そう言うと三人は驚いている。グツグツと十五~二十分ほど煮ている間に、肉体労働や細かい作業が出来ない老人たちが興味を示して集まってくる。お料理教室の先生になった気分だ。煮えたところでザルを用意し、ザルを使って別の鍋に濾し入れる。
「この具材はどうするの?」
ザルに残った野菜を見てナズナさんは口を開いた。
「それはもう使わないからいつもなら捨てるけれど……もうそんなに味はないと思うけれど、食べたいなら食べても大丈夫よ」
捨てるという言葉に反応した者たちは食べると言い始めた。さすがにオーニーオーンの皮や根の部分まで食べようとするのは止めたが。
「この汁物が別のものになるの?」
今度はハコベさんが不思議そうに鍋の中を覗いている。これから作ろうと思っているものにはコンソメが必要なのだが、ここにコンソメの素はない。野菜と肉を煮込めばコンソメスープの完成だ。これから味付けをするので、これはまだ味はないものだけれど。
「えぇ。全く別のものになるのよ。きっと想像出来ないものに」
いたずらっぽく笑うと周りのみんなは「どんな汁物になるのだろう」と話し合っている。残念ながら今夜の夕食は汁物ではない。みんなの度肝を抜くために私は次の工程へと移ることにした。
ナズナさんは糸や布を作る場所にいた。あの騒ぎは何だったのだろうと思うほど、お母様とハコベさんと楽しそうに会話をしながら作業をしている。まだ手に持っていた黒板にチョークンで絵と特徴を描いてナズナさんに話しかけた。
「ねぇナズナさん。前にシャイアーク国から香草を持ってきて植えたでしょう? こういうのはある?」
ナズナさんに話しかけたのだが、当然のようにお母様とハコベさんも黒板を覗き込む。
「これは……ガンリックかなぁ? こっちはべージル?」
「この特徴はセルリンじゃない?」
お母様たちはそう話しながら黒板を見ている。
「多分そうだわ。私が住んでいた場所でも似たような名前だったから。これらが欲しいのだけれど」
嬉しさから笑顔でそう言うとお母様が心配そうな顔をしてこちらを向いた。
「ガンリックは美味しいけれど、刺激が強すぎて子どもには与えないようにする決まりなのよ」
お母様はそう言う。ガンリックは私が求めているニンニクだろう。確かに丸焼きにしたものはホクホクとした食感であまりの美味しさに手が止まらなくなるが、翌日にお腹を下したり何よりも臭いが気になってしまう。子どもに与えないというのは頷ける。
「あぁやっぱり私が求めているものだわ。そのまま食べるには子どもには向かないわね。でも少量を隠し味に使うから子どもでも大丈夫よ。夕飯に新しい料理を作ろうと思うの」
それを聞いた三人は作業を中断し「手伝うわ」「任せて」と言い残し森へと入って行った。少しその場で待つと三人は手にたくさんの香草を抱えて戻って来てくれた。確認してみると日本のスーパーで見かけるものとは多少違いがあるが、味見をしてみるとまさしく私が欲しかったニンニク、バジル、セロリだった。どうやら糸や布作りの女性陣は、休憩時に森へと入りこれらの香草を摘んで食べたりしていたらしいことから馴染みのある香草のようである。ただやはり葉をちぎって食べるくらいしか使いみちを知らないようだった。
「夕飯の為に今から仕込みをするわ。お母様たちも興味があるなら作り方を見る?」
そう声をかけると三人はワクワクとした表情で「うん!」と少女のような返事をした。ならばとそのまま広場へと移動する。
私一人であれば同時に作業を進めることが出来るが、新しい料理を知りたいと思っているお母様たちの為に一つ一つの工程を見せるように作るべきだろう。まずは必要なものを準備することにした。
普段は皮を使うがキャロッチを皮ごと適当な大きさに切って鍋に入れる。そして後から使う予定のオーニーオーンの皮を剥き、普段なら使わない頭とおしりの部分も皮と一緒に鍋に入れ、セルリンもそのまま鍋に入れる。さらにまだギリギリ食べられそうな干し肉も鍋に入れて水を入れて煮る。
「不思議な組み合わせの汁物なのね」
お母様たちは顔を見合わせそんな感想を漏らしていた。
「汁物として飲むことは出来るけれど、これはまだ料理の一部にしかすぎないわ。まだまだ工程がたくさんあるのよ」
そう言うと三人は驚いている。グツグツと十五~二十分ほど煮ている間に、肉体労働や細かい作業が出来ない老人たちが興味を示して集まってくる。お料理教室の先生になった気分だ。煮えたところでザルを用意し、ザルを使って別の鍋に濾し入れる。
「この具材はどうするの?」
ザルに残った野菜を見てナズナさんは口を開いた。
「それはもう使わないからいつもなら捨てるけれど……もうそんなに味はないと思うけれど、食べたいなら食べても大丈夫よ」
捨てるという言葉に反応した者たちは食べると言い始めた。さすがにオーニーオーンの皮や根の部分まで食べようとするのは止めたが。
「この汁物が別のものになるの?」
今度はハコベさんが不思議そうに鍋の中を覗いている。これから作ろうと思っているものにはコンソメが必要なのだが、ここにコンソメの素はない。野菜と肉を煮込めばコンソメスープの完成だ。これから味付けをするので、これはまだ味はないものだけれど。
「えぇ。全く別のものになるのよ。きっと想像出来ないものに」
いたずらっぽく笑うと周りのみんなは「どんな汁物になるのだろう」と話し合っている。残念ながら今夜の夕食は汁物ではない。みんなの度肝を抜くために私は次の工程へと移ることにした。
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