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初めてのお父様もお母様もいない家での就寝であったが、意外にも私たち姉弟はいつも通りの夜を過ごすことが出来た。それは夫婦喧嘩について深く考えることを放棄したからでもあるだろうけれど。
手早く朝食を済ませ私とスイレンはポニーとロバを連れてきて、ヒイラギが荷車を取り付け、じいやが丸太やロープなどを荷車に載せていく。さてここで定番となっている問題がある。オヒシバのことだ。イチビたちには声をかけたが、ポニーとロバと相性が最悪であるオヒシバを連れて行くのは余計な問題が多発するだろう。なのでここで一肌脱ぐことにする。
「オヒシバ。オヒシバにはぜひ頼みたいことがあるの。オヒシバは力も強いし仕事は丁寧だし水路の建設には欠かせない人だわ。だから今日はどんどんと蛇籠を作って欲しいの。期待しているわ」
ポニーとロバと睨み合っていたオヒシバにそう声をかけると、途端に笑顔となりやる気に満ちた表情へと変わる。
「おまかせください! 完成は間近ですからね!」
「えぇそうね。水路が完成したら次は家の建設よ。オヒシバには期待しているの。今日は水路建設の者たちと一緒に向かってちょうだい」
そう言うと「分かりました!」と笑顔で広場へと走り去って行った。ヒイラギやイチビたちからは「扱いが上手くなった」と苦笑いで言われ少々複雑な気持ちになったが仕方がない。
ヒイラギは念の為にとさらに数名の人を呼び、総勢十名で川へと向かった。
川岸へと着いた私たちだったがここで問題が浮上する。美樹が日本で遊んでいたイカダはペットボトルや廃タイヤなど浮力を上げる為のものを使っていたがここにはそれがないのだ。私がうっかりしていたのだが、それを説明すると運びやすいように軽い木材を持ってきたと説明された。確かに軽い木材であれば浮きやすいであろうが、美樹が乗っていたイカダは竹製だったのを思い出す。むしろ今から竹ことタッケを伐採に行くのだ。向こうで切ったタッケをイカダにして戻ったほうが効率が良いのではないだろうか?
「作戦変更よ! これくらいの板を作ってちょうだい。あぁ早く思い出してイチビにもこれを使わせればよかったわ……」
私は人の胴体ほどの幅の板を作ってもらうように頼むと、急な作戦変更なのにもかかわらずその場で板に加工してくれる。新しい作戦は日本古来の波乗り遊びである『板子乗り』だ。船の船底に敷く揚げ板を『板子』と呼ぶのだが、要するにその板を使って日本でも昔からサーフィンをしていたのだ。海に入りその板を身体の下に入れ、パドルという手で水を漕ぐことをし沖に出てから波に乗って遊ぶのだ。もちろんここは川で淡水なので海水ほどは浮力もないであろうし板に乗ることもない。川の真ん中の水深が深い場所さえクリア出来れば、前回行った私たち以外も向こう側に到達することが出来るだろう。
泳げる私には帰りのオール用に細長く板を加工してもらい、前回水泳をしてみたそうにしていたシャガとハマスゲにまずは板子を渡す。水に入る前に裸足となり、川岸に近い特に流れの緩やかな場所で板子の上に身体を乗せて見せると、同じようにシャガとハマスゲは楽しそうに流されている。前回イチビに教えたようにバタ足を教えると「早く進む!」とはしゃいでいる。板子のおかげで筋肉量の多い者でも浮きやすくなったようだ。
ただどうしても水に入ることに抵抗がある者もいる。スイレンとヒイラギ、それとヒイラギが声をかけた者たちだ。ヒイラギは向こう岸には興味があったが、実際に泳ぐ姿を見て躊躇したようだ。無理強いなどしないし、むしろこちらの陸地側でやってほしいことがあるので助かる。
「スイレンたちにはこちら側でヤンナギの枝をいくつか集めてほしいの。もちろん私たちの動きも見ていてね」
「あの木だね? 分かった!」
じいやたちと共に採取し植えたヤンナギは立派な若木となり、川岸にヤンナギ並木を作りたくさんの葉を茂らせている。ここまで成長しているならばそれなりの数の枝を折ったくらいでは枯れることもないだろう。
少々こちらが不安に思っていたじいやにも板子を使ってもらったが、さすがと言うか難なくバランスをとりバタ足もすぐに覚えてくれた。
「みんな必要な道具は持った? わらじも持った? しばらくは浅瀬が続くから歩いて行くわ。私の後を追ってね。もし流されてもこの板だけは手放さず、乗ってバタ足よ」
私の言葉に水泳組は「はい!」と大きな返事をしてくれる。道具を分担して身体に括り付け、向こう岸で履けるように濡れても問題のないわらじも腰に括り付けた。
前回はおっかなびっくり進んだが、注意すべきなのは川の真ん中の足がつかない場所くらいである。私よりも足腰の強いみんなであれば問題はないだろう。
「じゃあ行くわよ!」
私たちはタッケを求めて川へと入った。
手早く朝食を済ませ私とスイレンはポニーとロバを連れてきて、ヒイラギが荷車を取り付け、じいやが丸太やロープなどを荷車に載せていく。さてここで定番となっている問題がある。オヒシバのことだ。イチビたちには声をかけたが、ポニーとロバと相性が最悪であるオヒシバを連れて行くのは余計な問題が多発するだろう。なのでここで一肌脱ぐことにする。
「オヒシバ。オヒシバにはぜひ頼みたいことがあるの。オヒシバは力も強いし仕事は丁寧だし水路の建設には欠かせない人だわ。だから今日はどんどんと蛇籠を作って欲しいの。期待しているわ」
ポニーとロバと睨み合っていたオヒシバにそう声をかけると、途端に笑顔となりやる気に満ちた表情へと変わる。
「おまかせください! 完成は間近ですからね!」
「えぇそうね。水路が完成したら次は家の建設よ。オヒシバには期待しているの。今日は水路建設の者たちと一緒に向かってちょうだい」
そう言うと「分かりました!」と笑顔で広場へと走り去って行った。ヒイラギやイチビたちからは「扱いが上手くなった」と苦笑いで言われ少々複雑な気持ちになったが仕方がない。
ヒイラギは念の為にとさらに数名の人を呼び、総勢十名で川へと向かった。
川岸へと着いた私たちだったがここで問題が浮上する。美樹が日本で遊んでいたイカダはペットボトルや廃タイヤなど浮力を上げる為のものを使っていたがここにはそれがないのだ。私がうっかりしていたのだが、それを説明すると運びやすいように軽い木材を持ってきたと説明された。確かに軽い木材であれば浮きやすいであろうが、美樹が乗っていたイカダは竹製だったのを思い出す。むしろ今から竹ことタッケを伐採に行くのだ。向こうで切ったタッケをイカダにして戻ったほうが効率が良いのではないだろうか?
「作戦変更よ! これくらいの板を作ってちょうだい。あぁ早く思い出してイチビにもこれを使わせればよかったわ……」
私は人の胴体ほどの幅の板を作ってもらうように頼むと、急な作戦変更なのにもかかわらずその場で板に加工してくれる。新しい作戦は日本古来の波乗り遊びである『板子乗り』だ。船の船底に敷く揚げ板を『板子』と呼ぶのだが、要するにその板を使って日本でも昔からサーフィンをしていたのだ。海に入りその板を身体の下に入れ、パドルという手で水を漕ぐことをし沖に出てから波に乗って遊ぶのだ。もちろんここは川で淡水なので海水ほどは浮力もないであろうし板に乗ることもない。川の真ん中の水深が深い場所さえクリア出来れば、前回行った私たち以外も向こう側に到達することが出来るだろう。
泳げる私には帰りのオール用に細長く板を加工してもらい、前回水泳をしてみたそうにしていたシャガとハマスゲにまずは板子を渡す。水に入る前に裸足となり、川岸に近い特に流れの緩やかな場所で板子の上に身体を乗せて見せると、同じようにシャガとハマスゲは楽しそうに流されている。前回イチビに教えたようにバタ足を教えると「早く進む!」とはしゃいでいる。板子のおかげで筋肉量の多い者でも浮きやすくなったようだ。
ただどうしても水に入ることに抵抗がある者もいる。スイレンとヒイラギ、それとヒイラギが声をかけた者たちだ。ヒイラギは向こう岸には興味があったが、実際に泳ぐ姿を見て躊躇したようだ。無理強いなどしないし、むしろこちらの陸地側でやってほしいことがあるので助かる。
「スイレンたちにはこちら側でヤンナギの枝をいくつか集めてほしいの。もちろん私たちの動きも見ていてね」
「あの木だね? 分かった!」
じいやたちと共に採取し植えたヤンナギは立派な若木となり、川岸にヤンナギ並木を作りたくさんの葉を茂らせている。ここまで成長しているならばそれなりの数の枝を折ったくらいでは枯れることもないだろう。
少々こちらが不安に思っていたじいやにも板子を使ってもらったが、さすがと言うか難なくバランスをとりバタ足もすぐに覚えてくれた。
「みんな必要な道具は持った? わらじも持った? しばらくは浅瀬が続くから歩いて行くわ。私の後を追ってね。もし流されてもこの板だけは手放さず、乗ってバタ足よ」
私の言葉に水泳組は「はい!」と大きな返事をしてくれる。道具を分担して身体に括り付け、向こう岸で履けるように濡れても問題のないわらじも腰に括り付けた。
前回はおっかなびっくり進んだが、注意すべきなのは川の真ん中の足がつかない場所くらいである。私よりも足腰の強いみんなであれば問題はないだろう。
「じゃあ行くわよ!」
私たちはタッケを求めて川へと入った。
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