貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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「レンゲ様、この水のないオアシスではなく本物のオアシスを見てみませんかの?」

 じいやは普通に、さり気なくお母様に話題を振る。すると私たちのやり取りなど知らないスイレンが先に反応をする。

「行こう! お母様! とても綺麗な場所なんだよ! 面白い生き物もいるんだ!」

「そうね。話には聞いていたけれどまだ見たことがなかったものね」

 どうやらお母様は行く気になったようだ。スイレンの天然アシストに感謝しよう。じいやは万が一の為にと、私たちがリトールの町に行っている間に一緒にオアシスに行ったというハマナスを大声で呼ぶ。慌ててこちらに走って来たハマナスに「お母様にオアシスを見せたいの」とオアシスへの同行をじいやと共に頼むと、一瞬お母様を見て笑顔で了承してくれた。じいやと私の意図が伝わったようだ。

 人工オアシスから出て南側へ向かうと、少々急斜面だった砂丘が無いような気がした。

「あら? この辺に砂の山があった気がするのだけれど」

 私の呟きにじいやが反応をする。

「……蹴散らしておいででしたよ……」

 私とじいやの後方でお母様たちはハマナスと会話をしているので聞こえなかっただろうが、誰がという主語が無くてもその行動をした人物がすぐに分かってしまった。だけれど砂に八つ当たりをしてくれたおかげで歩きやすくなったのだから、そこは素直に感謝しようと思う。だいぶなだらかになった砂丘を越え、もう一つあった筈の砂丘すらも均されているのを見て、その計り知れないパワーに驚きつつも呆れてしまう。

 サクサクと砂の上を歩き、私の耳でも川の音が聞こえて来た辺りで進路を西側に変える。すぐに見えてきた景色にスイレンははしゃぎ、お母様は初めて見る砂漠の中のオアシスに言葉を失っているようだ。その表情から絶句というよりは感動しすぎて声が出せないといった感じだ。

「……こんなにも美しく素晴らしいものがこんな近くにあったなんて……」

 お母様の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。そんな感動的な場面を目にしても、この場にヒーズル王国民以外の者がいなくて良かったと思ってしまう私は感覚がおかしくなってしまっているのかもしれない。他の者がいたのならお母様の表情にまた鼻血を流して倒れる者が続出することだろう。

 オアシスに降りようと近くに行くと、縄と小さな丸太で作られた縄梯子とそれを支える杭があった。じいやに聞いてみると、私たちが以前露出させた岩盤もすぐに砂で埋もれるであろうし、もっと岩盤を露出させると砂の落下によってオアシスの生き物にもよろしくないであろうということからこの縄梯子を作ったとのことだった。完全には埋もれていない岩盤の上に縄梯子を降ろし、岩盤と梯子の降りやすいほうに足をかけて降りて行く。

「……まぁ……まぁ!」

 全員がオアシスまで降り、まだ水辺にも近付いていないのにお母様は感動しているようだった。その様子を見たスイレンがお母様の手を引き水辺へと走るので私たちもその後を追った。

「お母様、いろんな生き物がいるんだよ!」

 スイレンがお母様を喜ばせようと大きな声を出すと、木々の間からカラフルな鳥が飛び交う。その光景をお母様は子どものようにはしゃぎながら見ていると一羽は私の肩に、もう一羽はスイレンの頭に止まる。

「なんでまた僕の頭に止まるの! 爪が痛いの!」

 スイレンは涙目で抗議をしているが、インコのような鳥は首を傾げそれを見た大人たちは笑う。

「こんにちは。私のことを覚えていたの?」

 私の肩に止まる鳥に声をかけると、また上下に激しく頭を振っている。ポニーやロバもそうだがどうやら私は生き物に懐かれやすいようだ。そんなやり取りをしていると近くの茂みがガサガサと鳴り始め、その中から一匹のカメが出て来る。一瞬こちらを見たが、何事もなかったかのように歩き始めムシャムシャと水辺の草を食べ始めた。

「カンメ!? こんな場所に!? こんなに大きいの!?」

 お母様はそのカンメことカメを見てお父様のように驚いている。森の民の住んでいた場所で見られるカメはもっと小さく湿った場所を好む種だったのだろう。

「私も初めて見た時は驚きましたよ」

 そう言うじいやに同意しハマナスも首を縦に振る。

「とても大人しいカンメですな。攻撃性は一切ない」

 ハマナスのその発言にお母様は相槌を打つ。

「それにしても……見たことのないものがたくさんね。これを真似たものを作ろうとしているモクレンは……素敵ね」

 その言葉を聞いた私とじいやとハマナスは「よしっ!」と拳を握る。どうやらお母様の機嫌が治り、なおかつお父様を惚れ直したようだ。

「ねぇカレン、あれはデーツとは違うのかしら?」

 お母様はココナッツを指差して首を傾げている。

「そうね、デーツの仲間だけれど違うものよ。あの実は食べたり飲んだり出来るのだけれど、植えるつもりはないわ。なぜならあの実は結構な重さがあって自然と落下してくるのだけれど、それに当たった人が怪我をしたり死亡したりするからよ」

 私は注意を促したつもりなのだが「食べたり飲んだり」に大人たちは反応する。

「少し離れた場所に植えれば……」

「下を歩かないように気を付ければ……」

 と、お母様とじいやはココナッツを欲しがっているようである。私は溜め息を吐きつつも目論見通りにことが進んだお祝いだと自分に言い聞かせながらヤシの木に登り、まだ青い実を下に落とす。ドスッという落下音に全員が「なるほど」といった表情をしている。

「じいや刃物はある?」

「はい」

 下に降りた私はそのココナッツをじいやに力技で穴を開けてもらい、「他の人には内緒よ」とこの場にいる五人だけでジュースを飲んだ。お母様の機嫌が治らないことにはいろんなことに支障をきたしそうなので、罪悪感を感じながらも祝杯をあげたのだった。
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