148 / 366
リフレッシュ
しおりを挟む
「レンゲ様、この水のないオアシスではなく本物のオアシスを見てみませんかの?」
じいやは普通に、さり気なくお母様に話題を振る。すると私たちのやり取りなど知らないスイレンが先に反応をする。
「行こう! お母様! とても綺麗な場所なんだよ! 面白い生き物もいるんだ!」
「そうね。話には聞いていたけれどまだ見たことがなかったものね」
どうやらお母様は行く気になったようだ。スイレンの天然アシストに感謝しよう。じいやは万が一の為にと、私たちがリトールの町に行っている間に一緒にオアシスに行ったというハマナスを大声で呼ぶ。慌ててこちらに走って来たハマナスに「お母様にオアシスを見せたいの」とオアシスへの同行をじいやと共に頼むと、一瞬お母様を見て笑顔で了承してくれた。じいやと私の意図が伝わったようだ。
人工オアシスから出て南側へ向かうと、少々急斜面だった砂丘が無いような気がした。
「あら? この辺に砂の山があった気がするのだけれど」
私の呟きにじいやが反応をする。
「……蹴散らしておいででしたよ……」
私とじいやの後方でお母様たちはハマナスと会話をしているので聞こえなかっただろうが、誰がという主語が無くてもその行動をした人物がすぐに分かってしまった。だけれど砂に八つ当たりをしてくれたおかげで歩きやすくなったのだから、そこは素直に感謝しようと思う。だいぶなだらかになった砂丘を越え、もう一つあった筈の砂丘すらも均されているのを見て、その計り知れないパワーに驚きつつも呆れてしまう。
サクサクと砂の上を歩き、私の耳でも川の音が聞こえて来た辺りで進路を西側に変える。すぐに見えてきた景色にスイレンははしゃぎ、お母様は初めて見る砂漠の中のオアシスに言葉を失っているようだ。その表情から絶句というよりは感動しすぎて声が出せないといった感じだ。
「……こんなにも美しく素晴らしいものがこんな近くにあったなんて……」
お母様の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。そんな感動的な場面を目にしても、この場にヒーズル王国民以外の者がいなくて良かったと思ってしまう私は感覚がおかしくなってしまっているのかもしれない。他の者がいたのならお母様の表情にまた鼻血を流して倒れる者が続出することだろう。
オアシスに降りようと近くに行くと、縄と小さな丸太で作られた縄梯子とそれを支える杭があった。じいやに聞いてみると、私たちが以前露出させた岩盤もすぐに砂で埋もれるであろうし、もっと岩盤を露出させると砂の落下によってオアシスの生き物にもよろしくないであろうということからこの縄梯子を作ったとのことだった。完全には埋もれていない岩盤の上に縄梯子を降ろし、岩盤と梯子の降りやすいほうに足をかけて降りて行く。
「……まぁ……まぁ!」
全員がオアシスまで降り、まだ水辺にも近付いていないのにお母様は感動しているようだった。その様子を見たスイレンがお母様の手を引き水辺へと走るので私たちもその後を追った。
「お母様、いろんな生き物がいるんだよ!」
スイレンがお母様を喜ばせようと大きな声を出すと、木々の間からカラフルな鳥が飛び交う。その光景をお母様は子どものようにはしゃぎながら見ていると一羽は私の肩に、もう一羽はスイレンの頭に止まる。
「なんでまた僕の頭に止まるの! 爪が痛いの!」
スイレンは涙目で抗議をしているが、インコのような鳥は首を傾げそれを見た大人たちは笑う。
「こんにちは。私のことを覚えていたの?」
私の肩に止まる鳥に声をかけると、また上下に激しく頭を振っている。ポニーやロバもそうだがどうやら私は生き物に懐かれやすいようだ。そんなやり取りをしていると近くの茂みがガサガサと鳴り始め、その中から一匹のカメが出て来る。一瞬こちらを見たが、何事もなかったかのように歩き始めムシャムシャと水辺の草を食べ始めた。
「カンメ!? こんな場所に!? こんなに大きいの!?」
お母様はそのカンメことカメを見てお父様のように驚いている。森の民の住んでいた場所で見られるカメはもっと小さく湿った場所を好む種だったのだろう。
「私も初めて見た時は驚きましたよ」
そう言うじいやに同意しハマナスも首を縦に振る。
「とても大人しいカンメですな。攻撃性は一切ない」
ハマナスのその発言にお母様は相槌を打つ。
「それにしても……見たことのないものがたくさんね。これを真似たものを作ろうとしているモクレンは……素敵ね」
その言葉を聞いた私とじいやとハマナスは「よしっ!」と拳を握る。どうやらお母様の機嫌が治り、なおかつお父様を惚れ直したようだ。
「ねぇカレン、あれはデーツとは違うのかしら?」
お母様はココナッツを指差して首を傾げている。
「そうね、デーツの仲間だけれど違うものよ。あの実は食べたり飲んだり出来るのだけれど、植えるつもりはないわ。なぜならあの実は結構な重さがあって自然と落下してくるのだけれど、それに当たった人が怪我をしたり死亡したりするからよ」
私は注意を促したつもりなのだが「食べたり飲んだり」に大人たちは反応する。
「少し離れた場所に植えれば……」
「下を歩かないように気を付ければ……」
と、お母様とじいやはココナッツを欲しがっているようである。私は溜め息を吐きつつも目論見通りにことが進んだお祝いだと自分に言い聞かせながらヤシの木に登り、まだ青い実を下に落とす。ドスッという落下音に全員が「なるほど」といった表情をしている。
「じいや刃物はある?」
「はい」
下に降りた私はそのココナッツをじいやに力技で穴を開けてもらい、「他の人には内緒よ」とこの場にいる五人だけでジュースを飲んだ。お母様の機嫌が治らないことにはいろんなことに支障をきたしそうなので、罪悪感を感じながらも祝杯をあげたのだった。
じいやは普通に、さり気なくお母様に話題を振る。すると私たちのやり取りなど知らないスイレンが先に反応をする。
「行こう! お母様! とても綺麗な場所なんだよ! 面白い生き物もいるんだ!」
「そうね。話には聞いていたけれどまだ見たことがなかったものね」
どうやらお母様は行く気になったようだ。スイレンの天然アシストに感謝しよう。じいやは万が一の為にと、私たちがリトールの町に行っている間に一緒にオアシスに行ったというハマナスを大声で呼ぶ。慌ててこちらに走って来たハマナスに「お母様にオアシスを見せたいの」とオアシスへの同行をじいやと共に頼むと、一瞬お母様を見て笑顔で了承してくれた。じいやと私の意図が伝わったようだ。
人工オアシスから出て南側へ向かうと、少々急斜面だった砂丘が無いような気がした。
「あら? この辺に砂の山があった気がするのだけれど」
私の呟きにじいやが反応をする。
「……蹴散らしておいででしたよ……」
私とじいやの後方でお母様たちはハマナスと会話をしているので聞こえなかっただろうが、誰がという主語が無くてもその行動をした人物がすぐに分かってしまった。だけれど砂に八つ当たりをしてくれたおかげで歩きやすくなったのだから、そこは素直に感謝しようと思う。だいぶなだらかになった砂丘を越え、もう一つあった筈の砂丘すらも均されているのを見て、その計り知れないパワーに驚きつつも呆れてしまう。
サクサクと砂の上を歩き、私の耳でも川の音が聞こえて来た辺りで進路を西側に変える。すぐに見えてきた景色にスイレンははしゃぎ、お母様は初めて見る砂漠の中のオアシスに言葉を失っているようだ。その表情から絶句というよりは感動しすぎて声が出せないといった感じだ。
「……こんなにも美しく素晴らしいものがこんな近くにあったなんて……」
お母様の目には薄っすらと涙が浮かんでいる。そんな感動的な場面を目にしても、この場にヒーズル王国民以外の者がいなくて良かったと思ってしまう私は感覚がおかしくなってしまっているのかもしれない。他の者がいたのならお母様の表情にまた鼻血を流して倒れる者が続出することだろう。
オアシスに降りようと近くに行くと、縄と小さな丸太で作られた縄梯子とそれを支える杭があった。じいやに聞いてみると、私たちが以前露出させた岩盤もすぐに砂で埋もれるであろうし、もっと岩盤を露出させると砂の落下によってオアシスの生き物にもよろしくないであろうということからこの縄梯子を作ったとのことだった。完全には埋もれていない岩盤の上に縄梯子を降ろし、岩盤と梯子の降りやすいほうに足をかけて降りて行く。
「……まぁ……まぁ!」
全員がオアシスまで降り、まだ水辺にも近付いていないのにお母様は感動しているようだった。その様子を見たスイレンがお母様の手を引き水辺へと走るので私たちもその後を追った。
「お母様、いろんな生き物がいるんだよ!」
スイレンがお母様を喜ばせようと大きな声を出すと、木々の間からカラフルな鳥が飛び交う。その光景をお母様は子どものようにはしゃぎながら見ていると一羽は私の肩に、もう一羽はスイレンの頭に止まる。
「なんでまた僕の頭に止まるの! 爪が痛いの!」
スイレンは涙目で抗議をしているが、インコのような鳥は首を傾げそれを見た大人たちは笑う。
「こんにちは。私のことを覚えていたの?」
私の肩に止まる鳥に声をかけると、また上下に激しく頭を振っている。ポニーやロバもそうだがどうやら私は生き物に懐かれやすいようだ。そんなやり取りをしていると近くの茂みがガサガサと鳴り始め、その中から一匹のカメが出て来る。一瞬こちらを見たが、何事もなかったかのように歩き始めムシャムシャと水辺の草を食べ始めた。
「カンメ!? こんな場所に!? こんなに大きいの!?」
お母様はそのカンメことカメを見てお父様のように驚いている。森の民の住んでいた場所で見られるカメはもっと小さく湿った場所を好む種だったのだろう。
「私も初めて見た時は驚きましたよ」
そう言うじいやに同意しハマナスも首を縦に振る。
「とても大人しいカンメですな。攻撃性は一切ない」
ハマナスのその発言にお母様は相槌を打つ。
「それにしても……見たことのないものがたくさんね。これを真似たものを作ろうとしているモクレンは……素敵ね」
その言葉を聞いた私とじいやとハマナスは「よしっ!」と拳を握る。どうやらお母様の機嫌が治り、なおかつお父様を惚れ直したようだ。
「ねぇカレン、あれはデーツとは違うのかしら?」
お母様はココナッツを指差して首を傾げている。
「そうね、デーツの仲間だけれど違うものよ。あの実は食べたり飲んだり出来るのだけれど、植えるつもりはないわ。なぜならあの実は結構な重さがあって自然と落下してくるのだけれど、それに当たった人が怪我をしたり死亡したりするからよ」
私は注意を促したつもりなのだが「食べたり飲んだり」に大人たちは反応する。
「少し離れた場所に植えれば……」
「下を歩かないように気を付ければ……」
と、お母様とじいやはココナッツを欲しがっているようである。私は溜め息を吐きつつも目論見通りにことが進んだお祝いだと自分に言い聞かせながらヤシの木に登り、まだ青い実を下に落とす。ドスッという落下音に全員が「なるほど」といった表情をしている。
「じいや刃物はある?」
「はい」
下に降りた私はそのココナッツをじいやに力技で穴を開けてもらい、「他の人には内緒よ」とこの場にいる五人だけでジュースを飲んだ。お母様の機嫌が治らないことにはいろんなことに支障をきたしそうなので、罪悪感を感じながらも祝杯をあげたのだった。
33
お気に入りに追加
2,001
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる