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売買とバイバイ

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 まだ釈然としない私であったが、気持ちを切り替え荷物を取りにブルーノさんの家へと向かう。スイレンはブルーノさんと話がしたいと残り、私たちはポニーとロバを引き連れカーラさんの店へと向かった。

「カーラさんおはよう!」

「カレンちゃん! 昨日は盛り上がっていたようだからね。食堂には行かなかったけど今日は会えて嬉しいよ」

 カーラさんはそう言い私をギュッと抱き締める。そしてそれを見たお母様が挨拶を始め、意外にも二人は意気投合し盛り上がっている。

「お母様、今日は早めに帰るのよ。カーラさん、ニコライさんも品物を見て」

 二人の会話を遮り、売り物として持って来た野菜や果実を見てもらう。いつも農作業をしているタラは自分の作った作物を売る場面を見るのは初めてなので緊張の面持ちだ。そしておずおずと「味見をしてください」と言う。

「どれもこれも立派だねぇ」

 カーラさんはそう言いながら食後だからと果実に手を伸ばす。ベーリを摘んで口に入れると目を見開いた。その姿を見たクジャとニコライさんもベーリを食べ「甘い!」と騒いでいる。

「そんなに甘いかしら? 程よい酸味を感じるけれど」

「何言ってるんだい! この辺のベーリなんて程よいどころか酸っぱいよ!」

 そんな三人にキャベッチの葉をちぎって手渡す。このまま生で食べて欲しいと言うと三人は戸惑っているが、私が目の前でむしゃむしゃと食べると驚きながらも口に入れてくれた。

「キャベッチが……」

「甘い……」

「青臭くない……」

 三人で一つの感想を言い夢中になって食べている。結局生で食べられる野菜や果実を全部味見をした三人は「奇跡だ」と騒いでいる。タラはその三人をそれは嬉しそうに見ていた。カーラさんとクジャはそれぞれ自分用にいくつか購入し、残ったものはニコライさんが買い取ることになった。私たちはクジャが選んでくれた薬の説明を聞きいくつか購入したが、ハコベさんが熱心に飲み方や保管方法を質問していた。野菜などはジョーイさんも欲しがるだろうからとみんなでジョーイさんの店へと向かう。

「ジョーイさーん」

 外から店内に声をかけるとジョーイさんは出て来たが、お母様を見つめたまま動かなくなってしまった。お母様が挨拶をするが、真っ赤になったまま動かないので体を揺すって私に意識を向けるようにした。

「ジョーイさん、売り物を持ってきたわよ」

「あ……あぁ……」

 まだどこか気の抜けている様子だったが、木箱を開けて中を見せるといつものジョーイさんに戻ってくれた。野菜や果実を一通り選び、数が少ないが履物や麦わら帽子に歓喜の声を上げている。まだジョーイさんにも売っていないのにお客さんが集まって来てしまい、その反響の大きさを見た作り手のセリさんをはじめとする女性陣は驚いている。
 店内の奥でお金のやり取りをし、ジョーイさんは「予約優先だよ!」と大声を張り上げ、凄まじい勢いで売れていくヒーズル王国の商品を私たちは眺めていた。ある程度落ち着いた頃に鉄線やリーンウン国の茶葉、他にも必要そうな道具を買い、スイレンを呼びに行き私たちは手早く帰り支度をする。ブルーノさんやペーターさんにも挨拶を済ませ、全員が町の外に集結した。

「はぁ……あっという間だったのぅ。次にカレンに会えるのはいつになるやら」

 クジャはそう寂しそうに呟く。

「またいつか絶対に会えるのだから、そんなに気落ちしないで。それにいつかリーンウン国に招いてくれるのでしょ?」

「当然じゃ。最高の持て成しをするぞ。その時はスイレンも……来てください」

 スイレンに話しかけようとしたクジャは照れて下を向いてしまったが、無邪気なスイレンは「また会おうね」とクジャの手を握る。耳まで真っ赤に染まったクジャに「クジャクさん、熱でもあるの?」とおでこに手を当てたのだが、やはりスイレンはお母様の天然魔性を受け継いだようだ。

「いいい一応わわわ私たちは一週間に一度この町に物を売りに来ます。……スイレンも来れたら来てください」

 クジャは完全に恋する乙女になってしまったのか、普段と口調すら変わっている。そんなクジャをモズさんはにこやかに見守っていた。

「カレン嬢、国境が出来たらテックノン王国にも来てくださいね! 王たちも皆さんに会いたがっていますから」

「え!? 王様が!? テックノン王国もどんな場所なのか気になるわ。それまでに私も頑張らなければいけないわね」

 もう頑張り過ぎだとヒイラギに言われ笑いが起こる。ヒイラギはクジャに鳥をモチーフに彫ってもらったリバーシを渡すと、クジャはいろんな思いが込み上げたのだろう。なんと泣いてしまったのだ。そんなクジャを天然の弟は頭を撫でて慰めている。

「さぁみんな帰るわよ。さようなら、よりも軽くてまた会いましょうという意味合いの言葉を教えるわ。『バイバイ、またね』よ」

 キョトンとした表情のクジャとニコライさんは顔を見合わせ、そして同時に言葉を発した。

「「バイバイ、またね」」

「えぇまた会いましょう!」

 こうして私たちは笑顔で別れ、それぞれの国に向かって歩き出した。
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