貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

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 ポニーとロバに荷車を取り付けてもらいながら「今からお出かけよ」と声をかけるとポニーは尻尾を高く振っている。二頭も行く気満々のようだ。
 スイレンがいるであろう場所に行くと女性陣が珍しく立ち話をしている。特段変わったことではないのでスイレンを探すとその女性陣の近くで苦笑いで立っている。そのスイレンの近くには荷物を載せた荷車を引くつもりのヒイラギの姿が見えたが、こちらも困ったような苦笑いをしている。

「スイレーン! ヒイラギー! 準備が出来たわよー!」

 大きな声で呼びかけるとヒイラギが猛烈な勢いで走って来た。私とタラは驚いて止まる。

「姫! スイレン様が言ってたのだけど、モクレンが『行きたい者は連れて行って』と言ってたのは本当!?」

 見たことのない形相に驚きつつも「えぇ」と肯定するとヒイラギは深く深く、それは深く溜め息を吐いた。

「私はナズナをこっそり連れて行こうと思ったんだ。そこに今日の小屋での監視役であるナデシコとキキョウが出発が遅れていて、小屋まで一緒に行くことになったんだ」

 何か問題でもあるのかと私とタラは小首を傾げた。

「その場にハコベが現れてしまい『良いなぁ』と呟いたんだけれど……スイレン様がモクレンがそんなことを言ったと言ってしまったものだから……」

 軽くパニック状態になっているヒイラギの話をまとめると、スイレンが言った言葉によりハコベさんも行くこととなり、それを聞いたセリさんも行きたいと言い出し、さらにはお母様まで行くと言っているようだ。

「ナズナたち幼馴染三人組は結託したら強いんだ。絶対に引かない。連れて行かないと言っても勝手に付いてくるだろうし、姫は知らないだろうけどモクレンはレンゲを好きすぎて伝説を作った男だ。レンゲがいないことを知ったら泣いて癇癪を起こすと思うんだ……。さらにタデ……。タデもハコベを大事にし過ぎているから絶対に激怒する。帰って来たらその二人の怒りの矛先は私に来るんだ……」

 ナズナさんたちにその伝説の話は聞いているし、じいやにもお父様の弱点はお母様だと聞いている。それだけに「うわぁ……」という感想しか出て来ない。私と同じように引いている横にいたタラが口を開く。

「実は私も一緒に同行しますので……二人で死に物狂いで全員を守りましょう……」

 二人はうんうんと頷き合い、今ここに新たな友情が芽生えたようである。

────

 道中女性陣はそれはそれは楽しそうに盛り上がる。女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、その倍の人数がいるので会話が止まらない。

「モクレンったら本当に良いことを言ってくれたわ」

「そうね。でも何も告げずに出たから、タデもモクレンも驚くかしら?」

「自分で言ったのだもの、大丈夫でしょ」

 お母様は天然全開で嬉しそうに笑い、ハコベさんも若干天然なのか驚くかしらなどと呑気なことを言い、ナズナさんはあっけらかんと笑っている。セリさんたちもそれを聞いて楽しそうに笑っている。そんな女性陣の先頭を男性陣と私は溜め息を吐いたり真顔になったりと会話もなく黙々と歩く。今回のおババさんの占いでは『楽しい』や『幸福』というプラスの言葉ばかりであったが、最後の最後に『嵐』なんて言っていた。『嵐』とはお父様とタデのことだと言うのは先頭を歩く私たちだけは理解した。

 辺りは暗くなっていたが山沿いを歩けば道に迷うことなく小屋に着いた。正直なところバラックのようなものを想像していたが、掘っ立て小屋にしてはかなり立派なものが建っていた。かなり木材を持って行ったように見えていたが、さすがはヒイラギとタデの作ったものだ。中は簡易的ではあるが居間のような広く集まれるスペースがあり、その分狭いが小さな個室が何個か作られているようだ。

「さすがヒイラギね。これはここに来るのが楽しみになってしまうわ」

「やっぱり癖で集まりたくなると思ってね。砂嵐を防ぎつつ集まれるようにしたんだ」

 小屋を褒めるとようやくヒイラギに笑顔が戻る。すると真っ暗な個室の中から交代予定であった者たちが出て来てスイレンは驚いて叫んでいる。今日はもう交代の者は来ないだろうと思い寝ようとしていたとのことだった。怒る訳でもなく実におおらかでのんびりとしている。
 そして一度外に出て月明かりを頼りに焚き火に火をつける。私とスイレンだけでは不可能だが、他のみんなは手慣れたものでテキパキと作業をする。火がつくとみんなで火を囲み売り物として持ってきた野菜や果実を食べたが、売り物に手をつける大雑把さが私にはちょうど良い。
 寝ようとしていた者にお母様は「あの日以来、初めてシャイアーク国に行くの」と呑気に語っていたが、その話を聞いた者は色々と察した顔をしてヒイラギを見ていた。私たちは貼り付けたような笑顔で女性陣が喋り疲れるまで黙って聞いていたのだった。
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