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久しぶりのバナナはやはり美味しく、どうしても育てたくなってしまう。
「お父様、私これが欲しい」
「しかしこの鳥たちも食べるであろうし……」
他のバナナはたくさん実っているが赤いバナナだけは極端に数が少ない。
「この植物はこんなに背も高く木に見えるでしょうけど、実は草なのよ。果実が実ったらその株は枯れるはずよ」
お父様とスイレンは草という事実に驚き、どうやって増えるのかと問いかけられる。バナナを庭で育てられないかと美樹は調べたことがあったが、冬の温度管理が無理であろうと諦めた経験があった。
「この株の根元に……あったあった。この脇芽を増やしていくしかないの。それで繁殖させるのよ」
根元にはたくさんの脇芽というか子株が背を伸ばしている。大事に育てればこの一本から永久的に増やすことは可能だろう。
私たちの会話を左右に首を傾げながら聞いているインコらしき鳥に問いかける。
「一つもらってもいいかしら?」
すると突然頭を上下に振り始めた。左右にステップを踏みながら頭を振るので踊っているようだ。
「良いよって言っているみたい!」
「なかなか激しい表現だな!」
そんな鳥の様子を見てスイレンとお父様は笑う。鳥たちは私が食べ残した最初の種ありバナナを啄み始めた。お父様は一度スイレンを地面に降ろし、腰に括り付けてきたスコップを手にして赤いバナナの子株を一つ掘り返す。子株とはいえもうすでに充分大きいので、上手くいけばそんなに待たずにバナナが実ることだろう。
「あなたたちのお家に立ち入ってごめんなさいね。でもまた来ても良いかしら?」
鳥たちに声をかけると他の木からも隠れていた鳥たちが飛び交う。色とりどりの鳥が舞うのは圧巻の光景だ。その上空の光景を知ってか知らずかカメたちはのんびりと草を食べている。
「まさにここは楽園ね。長居しても悪いし戻りましょうか」
すっかり泣き止み初めて見る美しい鳥たちに心奪われているスイレンも、大きなバナナの子株を抱えたお父様も名残惜しそうにしながら水路建設の現場に戻ることにした。
────
「随分と遠くまで行かれたので……モクレン様! なんですかそれは!」
一人で黙々と地面を掘っていたじいやは私たちに気付き話しながら顔を上げたが、お父様の持っているバナナの木……正確には草だが木を見て驚いている。私とスイレンはこの短時間で掘られた穴の大きさに驚いているのだが。
「じい! 川もオアシスもあったのだ!」
お父様は興奮気味にオアシスの詳細を語る。あんなに素敵なオアシスがここに作られれば民たちの憩いの場になること間違い無しだ。
「そしてこれは第二の神の恵みだ。カレンが知っているもののようだ。これからこれを植えてくる」
知らない人からすればバナナも神の恵みなのだろう。畑へ向かうのかと思ったらお父様はまた違う方向へ歩きだそうとするので、私とスイレンは苦笑いをしながら畑の方向へ誘導した。
「モクレン様!? なんですかそれは!?」
一番新しい最南にある畑でこの前購入した新しいムギンの世話をしていたエビネは大変驚いている。
「カレンが見たと言うオアシスを私も見つけたのだ! これも神の恵みだ。これを植えたいのだが」
お父様の持つバナナの木を興味深そうに見るエビネはまだ耕していない畑予定地ならどこに植えても良いと言う。最近では畑の予定地となる場所は農作業チームが草を抜き更地になっている。なので南側にはあまり草が繁殖していない。
「エビネ、これはもっと大きくなるし増えるし場所もとるの。もう少し南に植えても大丈夫かしら?」
「はい。大丈夫ですよ。見える範囲に植えてくだされば水やりもいたします」
エビネは早くもこのバナナを育ててみたくなったようで、水やりなどの世話もする気が満々だ。そしてコンポストまで戻るのに時間がかかるからと今いる畑から土まで分けてくれた。つい最近土を入れたばかりなのでまだまだ栄養があるはずだ。
私とスイレンが二人でバナナの木を持ち、お父様はスコップにこんもりと土を載せて南へ移動する。一度スコップの土を地面に山にし、穴を掘って土を混ぜ合わせる。そしてそこにバナナを植えた。
「ちゃんと育つと良いわね」
私がそう言うとお父様もスイレンも微笑む。
「そうだカレンよ。私は以前、水路の横にデーツを植えたいと言ったが……オアシスの周囲に重点的に植えたくなったのだ。あの光景は素晴らしいものだった」
「うん、僕も最初は怖かったけどあんなに綺麗な場所を僕たちが作れたら良いなって思う」
オアシスという存在すら知らなかった二人はすっかりと虜になったようだ。
「そうだカレン。あの場所はどうして水が留まっていられるの?」
私よりも頭の良いスイレンは疑問を口にする。これなら私も答えられる。
「オアシスの底から砂が噴いていたのを見たかしら? あれは地下水が湧いている証拠だったわ。水はそのままにしていると蒸発してしまうのだけれど、その蒸発する量よりも噴き出す水の量が多いから均整がとれて留まっていられるのよ」
少しだけ知識をひけらかすとお父様もスイレンも「へぇ」と感想を漏らす。
「ねぇカレン。僕たちが作っているオアシスは水路の水が貯まるよね?その蒸発する量よりももしかなり水の量が多いと溢れるんじゃない?」
スイレンの発言に私は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
「……それもそうね……。もし溢れたら大変なことになるわね……。川も見つけたし、川までの小さな水路を作るべきかもしれないわね……」
新たな問題点を見つけ頭を抱えてしまったが、まずは出来ることからやっていこうとスイレンに励まされた。
「お父様、私これが欲しい」
「しかしこの鳥たちも食べるであろうし……」
他のバナナはたくさん実っているが赤いバナナだけは極端に数が少ない。
「この植物はこんなに背も高く木に見えるでしょうけど、実は草なのよ。果実が実ったらその株は枯れるはずよ」
お父様とスイレンは草という事実に驚き、どうやって増えるのかと問いかけられる。バナナを庭で育てられないかと美樹は調べたことがあったが、冬の温度管理が無理であろうと諦めた経験があった。
「この株の根元に……あったあった。この脇芽を増やしていくしかないの。それで繁殖させるのよ」
根元にはたくさんの脇芽というか子株が背を伸ばしている。大事に育てればこの一本から永久的に増やすことは可能だろう。
私たちの会話を左右に首を傾げながら聞いているインコらしき鳥に問いかける。
「一つもらってもいいかしら?」
すると突然頭を上下に振り始めた。左右にステップを踏みながら頭を振るので踊っているようだ。
「良いよって言っているみたい!」
「なかなか激しい表現だな!」
そんな鳥の様子を見てスイレンとお父様は笑う。鳥たちは私が食べ残した最初の種ありバナナを啄み始めた。お父様は一度スイレンを地面に降ろし、腰に括り付けてきたスコップを手にして赤いバナナの子株を一つ掘り返す。子株とはいえもうすでに充分大きいので、上手くいけばそんなに待たずにバナナが実ることだろう。
「あなたたちのお家に立ち入ってごめんなさいね。でもまた来ても良いかしら?」
鳥たちに声をかけると他の木からも隠れていた鳥たちが飛び交う。色とりどりの鳥が舞うのは圧巻の光景だ。その上空の光景を知ってか知らずかカメたちはのんびりと草を食べている。
「まさにここは楽園ね。長居しても悪いし戻りましょうか」
すっかり泣き止み初めて見る美しい鳥たちに心奪われているスイレンも、大きなバナナの子株を抱えたお父様も名残惜しそうにしながら水路建設の現場に戻ることにした。
────
「随分と遠くまで行かれたので……モクレン様! なんですかそれは!」
一人で黙々と地面を掘っていたじいやは私たちに気付き話しながら顔を上げたが、お父様の持っているバナナの木……正確には草だが木を見て驚いている。私とスイレンはこの短時間で掘られた穴の大きさに驚いているのだが。
「じい! 川もオアシスもあったのだ!」
お父様は興奮気味にオアシスの詳細を語る。あんなに素敵なオアシスがここに作られれば民たちの憩いの場になること間違い無しだ。
「そしてこれは第二の神の恵みだ。カレンが知っているもののようだ。これからこれを植えてくる」
知らない人からすればバナナも神の恵みなのだろう。畑へ向かうのかと思ったらお父様はまた違う方向へ歩きだそうとするので、私とスイレンは苦笑いをしながら畑の方向へ誘導した。
「モクレン様!? なんですかそれは!?」
一番新しい最南にある畑でこの前購入した新しいムギンの世話をしていたエビネは大変驚いている。
「カレンが見たと言うオアシスを私も見つけたのだ! これも神の恵みだ。これを植えたいのだが」
お父様の持つバナナの木を興味深そうに見るエビネはまだ耕していない畑予定地ならどこに植えても良いと言う。最近では畑の予定地となる場所は農作業チームが草を抜き更地になっている。なので南側にはあまり草が繁殖していない。
「エビネ、これはもっと大きくなるし増えるし場所もとるの。もう少し南に植えても大丈夫かしら?」
「はい。大丈夫ですよ。見える範囲に植えてくだされば水やりもいたします」
エビネは早くもこのバナナを育ててみたくなったようで、水やりなどの世話もする気が満々だ。そしてコンポストまで戻るのに時間がかかるからと今いる畑から土まで分けてくれた。つい最近土を入れたばかりなのでまだまだ栄養があるはずだ。
私とスイレンが二人でバナナの木を持ち、お父様はスコップにこんもりと土を載せて南へ移動する。一度スコップの土を地面に山にし、穴を掘って土を混ぜ合わせる。そしてそこにバナナを植えた。
「ちゃんと育つと良いわね」
私がそう言うとお父様もスイレンも微笑む。
「そうだカレンよ。私は以前、水路の横にデーツを植えたいと言ったが……オアシスの周囲に重点的に植えたくなったのだ。あの光景は素晴らしいものだった」
「うん、僕も最初は怖かったけどあんなに綺麗な場所を僕たちが作れたら良いなって思う」
オアシスという存在すら知らなかった二人はすっかりと虜になったようだ。
「そうだカレン。あの場所はどうして水が留まっていられるの?」
私よりも頭の良いスイレンは疑問を口にする。これなら私も答えられる。
「オアシスの底から砂が噴いていたのを見たかしら? あれは地下水が湧いている証拠だったわ。水はそのままにしていると蒸発してしまうのだけれど、その蒸発する量よりも噴き出す水の量が多いから均整がとれて留まっていられるのよ」
少しだけ知識をひけらかすとお父様もスイレンも「へぇ」と感想を漏らす。
「ねぇカレン。僕たちが作っているオアシスは水路の水が貯まるよね?その蒸発する量よりももしかなり水の量が多いと溢れるんじゃない?」
スイレンの発言に私は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
「……それもそうね……。もし溢れたら大変なことになるわね……。川も見つけたし、川までの小さな水路を作るべきかもしれないわね……」
新たな問題点を見つけ頭を抱えてしまったが、まずは出来ることからやっていこうとスイレンに励まされた。
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