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私たちの発見②
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お父様を先頭にスイレン、私と続いて歩く。お父様が周囲に気を配っているので私は安心しているが、スイレンの怯え方は酷いものだ。そんなスイレンに「大丈夫だ」と声をかけながらオアシスの一歩手前で足を止めた。お父様がまた耳を澄ませている。
「……少なくともこの辺りは鳥の気配しか感じない」
とお父様は言うものの私には未だに鳥の姿は確認出来ない。三人で固まりながら砂地からまばらに生えている草の上へと一歩踏み出す。水辺の近くだからか涼しく感じ心地良い。そして私たちはオアシスの水のほとりへと足を進めた。
「綺麗……」
思わず呟くほど水は澄み、底から水が湧いているのか所々砂が小さく噴き上がっている。水中にある石には苔が生え、小さな魚がそれを食べている。周囲を見ればデーツの木が生えていたが、その一部は身の形が違う。
「わ! ココナッツだわ!」
「デーツとは違うのか?」
一般的なヤシの実であるココナッツを指さすとお父様はそう聞いてきた。
「うん。あの実の中には透明な汁が入っていて飲めるのよ」
お父様にココナッツの説明をしているとスイレンが騒ぎ出した。
「わぁ! 岩が動いた!」
水中にも危険があるかもしれないと少し離れた位置に残ったスイレンは岩の上に腰掛けていたが、それが動くと騒ぐので驚いて見てみるとなんとリクガメだった。
「カメじゃない! こんな閉ざされた場所でどうやって生きているの!?」
「カメ……カンメか!? こんな場所にもいるのか!?」
私とお父様はそのカメことカンメに近付き、スイレンは泣きながら岩だと思っていた甲羅から降りる。カンメは私たちを気にする様子もなくゆっくりと歩き、水辺の近くに生えていた草のような木のような植物の葉をムシャムシャと食べている。さらにはその植物の花も食べ始めた。するとその花の間から何かが飛び立つ。
「虫!? ……じゃない! ハチドリだ!」
私の手の平ほどもない、日本には生息していないハチドリがここにはいたのだ。全身が緑から青へとグラデーションがかかり、小さすぎるが故に昆虫に見えてしまう。
「お父様が言っていたのはこの鳥ね」
「いや、違う」
お父様は泣きじゃくるスイレンを無理やり肩車し、オアシスの奥へと進む。その後ろをついて歩きながら周囲を見回すとここにも何本かのコルクの木やアカシアが生えている。他にも日本では見たことのない木々が生え花を咲かせたり実を付けたりしている。
「あそこだ」
お父様が指をさす方向を見ると名前も知らない木の枝に何かが見え隠れする。葉が邪魔でよく見えず、見やすい位置を探しながら移動するとようやく見えた。
「インコ!? それともオウム!? えぇ!?」
そこには確かに目立つ色をした中型の鳥が数匹まとまって休んでいた。鑑賞用の鳥にはあまり詳しくないので種類までは分からないが、黄色や緑、赤といった派手なカラーリングの鳥たちは確かにいた。
そこで私は疑問に思った。ここから広場までそこまで離れているわけではない。今まで畑を荒らされた形跡もない。そしてここにも昆虫の姿はない。なのにここに生き物がいるということはハチドリが花の蜜を吸う時に受粉もし、そのおかげで実や種がなり、それを中型の鳥が食べ、その糞から発芽したものをカメが食べその糞が植物の栄養となっているのではないのかと。お父様たちがこの土地に来た時には動物がいたようだが、この断崖絶壁に近い砂丘を降りられなかったのではないだろうか。きっとこの閉ざされた空間で生態系が出来上がっていたのだと感じた。
「……あなたたちの楽園に踏み入ってしまってごめんなさい。どうしても見たい植物があるの」
鳥たちに声をかけると数羽が羽ばたいて来る。ここにはお父様が言う通り外敵がいないのだろう。だから興味を示してこちらに向かって来るのだ。私の肩に一羽、そしてスイレンの頭に一羽が停まったが「爪が痛い!」とまた泣き出す。肩車をしているお父様が片手を差し出すとスイレンに停まっていた鳥はお父様に移動した。
私はオアシスの奥に密集している植物をどうしても確かめたく、急ぎ足でそこに向かう。
「……やっぱりバナナだ!」
やけに濃い緑の大きな楕円形の葉が気になり見に来たが、葉と葉の間にはバナナが実っているのが見えた。ただ日本で見るものよりも大きさも色もバラバラだった。
「スイレン! 高い場所にいるのだから一つずつ取って!」
そうお願いするとスイレンは顔の高さにあるバナナに渋々手を伸ばす。最初に取ったのは黄緑色の小さなバナナだ。皮を剥いて食べようとするとお父様に止められたが無視して口に入れると激しい酸味と種の多さに驚く。おそらく地球のバナナの原種に近いのだろう。次に取ってもらったのはいつも見かけるような大きさのバナナで黄色に近い黄緑色をしている。
「……うーん」
さっきよりは酸味が少ないけれどやはり酸っぱいのだが、お父様は普通に食べている。私の肩に停まっている鳥は夢中で食べている。どのバナナも野生種だからか甘みを感じず諦めつつあったが、スイレンが赤いバナナを見つけた。大きさは普段見かけるバナナよりも少し小さいと感じるが、赤黒い色も相まって食べる気にならない。だが勇気を出して皮を剥いてみると甘い香りがする。恐る恐る口に入れて驚いた。
「っ! お父様! スイレン! 食べて!」
「不思議な食感だ。そして甘い!」
「美味しい!」
私の知るバナナとは少し風味が違うがとても甘く美味しい。そして邪魔な種もない。これはデーツに続きこの国の特産品になるのではと私はほくそ笑んだ。
「……少なくともこの辺りは鳥の気配しか感じない」
とお父様は言うものの私には未だに鳥の姿は確認出来ない。三人で固まりながら砂地からまばらに生えている草の上へと一歩踏み出す。水辺の近くだからか涼しく感じ心地良い。そして私たちはオアシスの水のほとりへと足を進めた。
「綺麗……」
思わず呟くほど水は澄み、底から水が湧いているのか所々砂が小さく噴き上がっている。水中にある石には苔が生え、小さな魚がそれを食べている。周囲を見ればデーツの木が生えていたが、その一部は身の形が違う。
「わ! ココナッツだわ!」
「デーツとは違うのか?」
一般的なヤシの実であるココナッツを指さすとお父様はそう聞いてきた。
「うん。あの実の中には透明な汁が入っていて飲めるのよ」
お父様にココナッツの説明をしているとスイレンが騒ぎ出した。
「わぁ! 岩が動いた!」
水中にも危険があるかもしれないと少し離れた位置に残ったスイレンは岩の上に腰掛けていたが、それが動くと騒ぐので驚いて見てみるとなんとリクガメだった。
「カメじゃない! こんな閉ざされた場所でどうやって生きているの!?」
「カメ……カンメか!? こんな場所にもいるのか!?」
私とお父様はそのカメことカンメに近付き、スイレンは泣きながら岩だと思っていた甲羅から降りる。カンメは私たちを気にする様子もなくゆっくりと歩き、水辺の近くに生えていた草のような木のような植物の葉をムシャムシャと食べている。さらにはその植物の花も食べ始めた。するとその花の間から何かが飛び立つ。
「虫!? ……じゃない! ハチドリだ!」
私の手の平ほどもない、日本には生息していないハチドリがここにはいたのだ。全身が緑から青へとグラデーションがかかり、小さすぎるが故に昆虫に見えてしまう。
「お父様が言っていたのはこの鳥ね」
「いや、違う」
お父様は泣きじゃくるスイレンを無理やり肩車し、オアシスの奥へと進む。その後ろをついて歩きながら周囲を見回すとここにも何本かのコルクの木やアカシアが生えている。他にも日本では見たことのない木々が生え花を咲かせたり実を付けたりしている。
「あそこだ」
お父様が指をさす方向を見ると名前も知らない木の枝に何かが見え隠れする。葉が邪魔でよく見えず、見やすい位置を探しながら移動するとようやく見えた。
「インコ!? それともオウム!? えぇ!?」
そこには確かに目立つ色をした中型の鳥が数匹まとまって休んでいた。鑑賞用の鳥にはあまり詳しくないので種類までは分からないが、黄色や緑、赤といった派手なカラーリングの鳥たちは確かにいた。
そこで私は疑問に思った。ここから広場までそこまで離れているわけではない。今まで畑を荒らされた形跡もない。そしてここにも昆虫の姿はない。なのにここに生き物がいるということはハチドリが花の蜜を吸う時に受粉もし、そのおかげで実や種がなり、それを中型の鳥が食べ、その糞から発芽したものをカメが食べその糞が植物の栄養となっているのではないのかと。お父様たちがこの土地に来た時には動物がいたようだが、この断崖絶壁に近い砂丘を降りられなかったのではないだろうか。きっとこの閉ざされた空間で生態系が出来上がっていたのだと感じた。
「……あなたたちの楽園に踏み入ってしまってごめんなさい。どうしても見たい植物があるの」
鳥たちに声をかけると数羽が羽ばたいて来る。ここにはお父様が言う通り外敵がいないのだろう。だから興味を示してこちらに向かって来るのだ。私の肩に一羽、そしてスイレンの頭に一羽が停まったが「爪が痛い!」とまた泣き出す。肩車をしているお父様が片手を差し出すとスイレンに停まっていた鳥はお父様に移動した。
私はオアシスの奥に密集している植物をどうしても確かめたく、急ぎ足でそこに向かう。
「……やっぱりバナナだ!」
やけに濃い緑の大きな楕円形の葉が気になり見に来たが、葉と葉の間にはバナナが実っているのが見えた。ただ日本で見るものよりも大きさも色もバラバラだった。
「スイレン! 高い場所にいるのだから一つずつ取って!」
そうお願いするとスイレンは顔の高さにあるバナナに渋々手を伸ばす。最初に取ったのは黄緑色の小さなバナナだ。皮を剥いて食べようとするとお父様に止められたが無視して口に入れると激しい酸味と種の多さに驚く。おそらく地球のバナナの原種に近いのだろう。次に取ってもらったのはいつも見かけるような大きさのバナナで黄色に近い黄緑色をしている。
「……うーん」
さっきよりは酸味が少ないけれどやはり酸っぱいのだが、お父様は普通に食べている。私の肩に停まっている鳥は夢中で食べている。どのバナナも野生種だからか甘みを感じず諦めつつあったが、スイレンが赤いバナナを見つけた。大きさは普段見かけるバナナよりも少し小さいと感じるが、赤黒い色も相まって食べる気にならない。だが勇気を出して皮を剥いてみると甘い香りがする。恐る恐る口に入れて驚いた。
「っ! お父様! スイレン! 食べて!」
「不思議な食感だ。そして甘い!」
「美味しい!」
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