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カレンとヒイラギ
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翌日となり外へと出てみんなと挨拶を交わしているとオヒシバが猛烈な勢いで走って来る。
「姫様!」
「おはようオヒシバ。どうしたの?」
真剣な表情をするオヒシバに問いかけていると、後ろからイチビたちがオヒシバを追って来た。
「姫様! 体調を崩されていたと聞きまして……」
「あぁ一日だけね。昨日はもう作業も出来ていたし問題はないわよ? 心配ありがとう」
そう言うとホッと胸を撫で下ろし、聞き捨てならないことをオヒシバは言った。
「良かった……。そろそろ寒くなる季節ですので私は心配です」
以前じいやに聞いた話では冬は少し肌寒いくらいだと聞いている。肌寒いくらいでこんなことを言うだろうか? 何よりもイチビたちがオヒシバの口を塞ごうと必死になっている。
「どういうこと? 少しだけ肌寒くなるとはじいやに聞いたわ」
怪訝に思った私はそう問いかけると、イチビたちはオヒシバを罵りながらパチンパチンと叩いている。
「暴力は駄目よ。ちゃんと話して」
イチビたちの手を止め詳しく話を聞いてみると夏は朝晩の気温差はあまり無いらしいのだが、秋から春にかけては気温差が激しく、特に冬は雪こそ降らないが相当の冷え込みになるようだ。季節はもうすぐ秋になろうとしている。
「……モクレン様とベンジャミン様は他の者と体の作りが違うので……少しと言ったのだと思います……」
ここ数日オヒシバに振り回されっぱなしのハマスゲはゲンナリとしつつも、お父様とじいやのことを気遣い言葉を選んでそう言った。
「みんな冬はどう越していたの!?」
つい語気を強めて聞いてしまう。
「モクレン様とベンジャミン様が動物を狩り尽くした話は覚えてますか? 食料としてでもありましたが毛皮を全国民に配る為でもありました。ほとんど道具らしい道具もない中、普段私たちは皮をなめす時に植物を使うのですがここにはほとんど植物もなく、ベンジャミン様や占いおババの幼少期の記憶から狩った動物の脳みそを使って皮をなめしていただいたのです」
シャガはそう語るがそれは壮絶な光景だったことだろう。だけどそのおかげで大勢の命が助かったのだ。
「……早く家を作らないといけないわね……」
「今年は壁があるので大丈夫です!」
神妙な顔で呟くとオヒシバは笑顔でそう言い、またみんなからパチーンと叩かれていた。今度は私も止めることなく放置してじいやの元へと走った。
「じいや! 私に嘘をついたわね!」
じいやに怒鳴るとキョトンとしている。そうだった、嘘はついていないのだ。じいやの感覚がおかしいだけなのだ。
「ごめんなさい、じいやからすれば嘘ではなかったわね……。これから他の民たちにとってはかなり寒い季節になると聞いたの……」
「聞いてしまわれたのですね。男以外には辛い季節になるということを……あまり姫様に心配をかけたくなかったのです……」
そこはじいやとお父様以外みんなが辛いだろうと思ったがあえてツッコまずにおく。
「私は寒さの対策などについて考えるわ。だから今日は水路と蛇籠について任せるわ」
じいやが「かしこまりました」と頭を下げると朝食の時間となり、その後私はヒイラギを捕まえた。
「姫! 今日は話せそう?」
「えぇ。たっぷりゆっくり話さないといけないわ」
そう言うとヒイラギはクスクスと笑いながらも「先に話すね」と言う。
先日リトールの町へと向かう前にヒイラギに頼んでいたものがあったのだが、それの確認をしてほしいと言う。いけない、すっかり忘れていたわ……。
ヒイラギに連れられ最近では布作りの場所となった作業スペースに連れて行かれると、そこには立派な足踏み式の機織り機が置かれている。
「姫の設計図のおかげで仕組みは分かったけど、姫より先に使うわけにはいかないからね」
律儀というか何というか、ヒイラギは誰にも座らせることすら禁じていたようだ。
「お母様、みんな、集まって!」
私が叫ぶと女性陣が集まってくる。その目はみんなワクワクとしていて、今まで待たせてしまって申し訳ない気持ちになってしまう。
「これは先日作ってもらった織機と構造は一緒なの。この前のものは一段編むごとに手で綜絖を動かしたでしょう? でもこれはここを足で踏むと綜絖が動くのよ」
そう説明をしながら織機の足元にあるペダルを踏む。ペダルを踏めば自動的に綜絖が動いてくれるので、より編む速さがスピードアップするのだ。女性陣は手を叩いて喜んでいる。
「今はこれしかないけれど、いずれ増やしましょう。家が建って足踏み式が増えたその時は、今使っている卓上型は誰か欲しい人に譲るわ」
そう言うとみんなが欲しい欲しいと騒ぐ。もちろんお母様もその中に入っている。
「ところでもうすぐ昼夜の気温差が激しい季節になると聞いたの。みんなには飢えだけじゃなく寒さの苦労もかけていてごめんなさい。その為の話し合いをこれからするから、布作りを手伝えなくてごめんなさい」
謝る度に頭を下げると悲鳴に近い抗議の声が上がる。自分にもっと力と知恵があれば良かったのにと悔しくて泣きそうになったので、ヒイラギを引っ張ってその場から離れた。
「姫様!」
「おはようオヒシバ。どうしたの?」
真剣な表情をするオヒシバに問いかけていると、後ろからイチビたちがオヒシバを追って来た。
「姫様! 体調を崩されていたと聞きまして……」
「あぁ一日だけね。昨日はもう作業も出来ていたし問題はないわよ? 心配ありがとう」
そう言うとホッと胸を撫で下ろし、聞き捨てならないことをオヒシバは言った。
「良かった……。そろそろ寒くなる季節ですので私は心配です」
以前じいやに聞いた話では冬は少し肌寒いくらいだと聞いている。肌寒いくらいでこんなことを言うだろうか? 何よりもイチビたちがオヒシバの口を塞ごうと必死になっている。
「どういうこと? 少しだけ肌寒くなるとはじいやに聞いたわ」
怪訝に思った私はそう問いかけると、イチビたちはオヒシバを罵りながらパチンパチンと叩いている。
「暴力は駄目よ。ちゃんと話して」
イチビたちの手を止め詳しく話を聞いてみると夏は朝晩の気温差はあまり無いらしいのだが、秋から春にかけては気温差が激しく、特に冬は雪こそ降らないが相当の冷え込みになるようだ。季節はもうすぐ秋になろうとしている。
「……モクレン様とベンジャミン様は他の者と体の作りが違うので……少しと言ったのだと思います……」
ここ数日オヒシバに振り回されっぱなしのハマスゲはゲンナリとしつつも、お父様とじいやのことを気遣い言葉を選んでそう言った。
「みんな冬はどう越していたの!?」
つい語気を強めて聞いてしまう。
「モクレン様とベンジャミン様が動物を狩り尽くした話は覚えてますか? 食料としてでもありましたが毛皮を全国民に配る為でもありました。ほとんど道具らしい道具もない中、普段私たちは皮をなめす時に植物を使うのですがここにはほとんど植物もなく、ベンジャミン様や占いおババの幼少期の記憶から狩った動物の脳みそを使って皮をなめしていただいたのです」
シャガはそう語るがそれは壮絶な光景だったことだろう。だけどそのおかげで大勢の命が助かったのだ。
「……早く家を作らないといけないわね……」
「今年は壁があるので大丈夫です!」
神妙な顔で呟くとオヒシバは笑顔でそう言い、またみんなからパチーンと叩かれていた。今度は私も止めることなく放置してじいやの元へと走った。
「じいや! 私に嘘をついたわね!」
じいやに怒鳴るとキョトンとしている。そうだった、嘘はついていないのだ。じいやの感覚がおかしいだけなのだ。
「ごめんなさい、じいやからすれば嘘ではなかったわね……。これから他の民たちにとってはかなり寒い季節になると聞いたの……」
「聞いてしまわれたのですね。男以外には辛い季節になるということを……あまり姫様に心配をかけたくなかったのです……」
そこはじいやとお父様以外みんなが辛いだろうと思ったがあえてツッコまずにおく。
「私は寒さの対策などについて考えるわ。だから今日は水路と蛇籠について任せるわ」
じいやが「かしこまりました」と頭を下げると朝食の時間となり、その後私はヒイラギを捕まえた。
「姫! 今日は話せそう?」
「えぇ。たっぷりゆっくり話さないといけないわ」
そう言うとヒイラギはクスクスと笑いながらも「先に話すね」と言う。
先日リトールの町へと向かう前にヒイラギに頼んでいたものがあったのだが、それの確認をしてほしいと言う。いけない、すっかり忘れていたわ……。
ヒイラギに連れられ最近では布作りの場所となった作業スペースに連れて行かれると、そこには立派な足踏み式の機織り機が置かれている。
「姫の設計図のおかげで仕組みは分かったけど、姫より先に使うわけにはいかないからね」
律儀というか何というか、ヒイラギは誰にも座らせることすら禁じていたようだ。
「お母様、みんな、集まって!」
私が叫ぶと女性陣が集まってくる。その目はみんなワクワクとしていて、今まで待たせてしまって申し訳ない気持ちになってしまう。
「これは先日作ってもらった織機と構造は一緒なの。この前のものは一段編むごとに手で綜絖を動かしたでしょう? でもこれはここを足で踏むと綜絖が動くのよ」
そう説明をしながら織機の足元にあるペダルを踏む。ペダルを踏めば自動的に綜絖が動いてくれるので、より編む速さがスピードアップするのだ。女性陣は手を叩いて喜んでいる。
「今はこれしかないけれど、いずれ増やしましょう。家が建って足踏み式が増えたその時は、今使っている卓上型は誰か欲しい人に譲るわ」
そう言うとみんなが欲しい欲しいと騒ぐ。もちろんお母様もその中に入っている。
「ところでもうすぐ昼夜の気温差が激しい季節になると聞いたの。みんなには飢えだけじゃなく寒さの苦労もかけていてごめんなさい。その為の話し合いをこれからするから、布作りを手伝えなくてごめんなさい」
謝る度に頭を下げると悲鳴に近い抗議の声が上がる。自分にもっと力と知恵があれば良かったのにと悔しくて泣きそうになったので、ヒイラギを引っ張ってその場から離れた。
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