119 / 366
カレンの水泳教室
しおりを挟む
プールどころか全く水に入ったことのない人がいきなり川で泳げるかと心配になりつつも、クレソンの生えている浅瀬にイチビを連れてきた。
「あ……私は脱ぐわけにいかないけれど、服が濡れると重くなるし泳ぎ辛くなるわ……」
気付いたことを独りごちるとイチビは上半身裸になる。川の水温は雪解け水のような冷たさではないが、やはり外気温よりは冷たい。だけどイチビは「気持ちいいですね」と笑顔で水に入ってくれた。
「まずは水に顔をつける練習よ」
イチビが着ていた服から腰紐を借りて髪をまとめ、ザブッと水に顔を入れた後すぐに顔を上げる。泳げない人は顔に水が触れるのも怖いと聞くがイチビはどうだろうか?
「プハッ!気持ちいい!」
爽やかな笑顔でイチビは水から顔を上げた。次の段階に進むことにする。
「じゃあ同じように顔を水につけて、五を数えましょう」
すると手持ち無沙汰になっているシャガとハマスゲもやると川に入って来た。大丈夫かと聞くと「これくらいは問題ありません」と二人が答えたので続行する。そしてみんなで同時に顔を水に入れ五まで数えて顔を上げる。イチビたち三人は少年のように笑いはしゃいでいる。あまり見ることが出来ない笑顔はレアだ。
「次は十まで数えましょう。その間に目を開けて」
時間との勝負なので少々ペースが早いかと心配になったが、三人はやる気に満ち溢れている。私が顔をつける前に三人とも川に顔を突っ込んだ。驚きつつも見守ると十を数えたあたりで三人は顔を上げ、最初から目を開けていたとか途中で目を開けたと盛り上がっている。水中で目を開けることは全員がクリアしたようだ。
「本当はもっとゆっくり教えるべきなんでしょうけど、みんなごめんなさい。次は同じように水に顔を入れて目を開け、息を吐き続けてちょうだい。苦しくなったら顔を上げて息を吸うの。私が先にやるわね」
大きく息を吸ってから水面に顔をつけて目を開く。そしてブクブクと口から気泡を出しながら川底に何か生き物はいないかと目だけ動かす。クレソンの根元には小魚やエビが見え隠れし、顔の真下を小さなカニが慌てて走り去って行く。名前の知らない貝の殻も見つけることが出来た。ここで息を吸うために顔を上げる。
「プハッ!……生き物がたくさんいたわ……じゃなくて、これが息継ぎの時の呼吸法でもあるの」
それを聞くと三人はすぐに実行する。それぞれのタイミングで顔を上げ息を吸う。
「みんな上手よ。本当に急で申し訳ないのだけれど、次に浮く為の話をするわ。水に入ったらとにかく力を抜くの。それだけで普通は浮くわ。変に力を入れると沈むし、驚いて手足をバタつかせると溺れるわ。溺れた時こそ冷静に力を抜いて」
少しだけ上流に向かい仰向けで水面に浮き、水の流れに任せてみんなの前に流されてくる。イチビも同じ所に移動し恐る恐る水面に体を浮かせようとする。
「うわっ!」
「大丈夫よ!力を抜いて!」
そう叫ぶとイチビは力を抜き、見事に浮くことが出来た。私のいる場所まで流されて来たタイミングで腕を掴み起き上がらせる。
「シャガたちも試したい気持ちは分かるけど、今度ゆっくりやりましょう。その応用で一番簡単な泳ぎ方を教えるわね」
水に浮こうとしていたシャガたちを止めつつそちらに向かい川辺に座る。
「さっきは仰向けだったけど今度はうつ伏せよ。水に浮いたら力を抜きつつ足を真っ直ぐに伸ばして交互に動かすの。こんな感じよ」
深さがない場所でやるのでやり難くはあったが、足と足を離さず膝ではなく足の付け根を使って動かす。そして「見てて」と川に入る。バタ足で泳いでいるだけで遠い昔の記憶を思い出すが、今は懐かしんでいる暇はない。あっという間にじいやの前に泳ぎ着き顔を上げると、ポニーとロバはじいやに慣れたのか隣に座ってくつろいでいる。
「イチビ、やってみて」
そう声をかけるとイチビはバタ足で泳いで来た。だがまだ足の動きに力が入り過ぎている。
「もっと細かく動かす感じで」
そう伝えるとまたシャガたちの所へ戻り、必死にバタ足をして泳いで来る。何回か繰り返してもらい、イチビ自身もコツを掴んだ所で川の向こうに向かって進むことにした。
「イチビ、もしかしたら川底に足が届かない場所もあるかもしれないわ。そうなったらとにかく冷静に力を抜いて浮くことを考えて。そして落ち着いたら斜めに川岸に向かって泳ぐのよ?いざとなったら助けるから安心して」
とは言ったものの、この子どもの体で上手くいくか心配ではある。イチビも気合いを入れ直している。
「そろそろ行きましょうか。足元に気を付けてね」
水泳教室を開いているうちにもタッケは伸びていたが、他のタッケと同様麻袋に入れたものを体にくくりつけた。私の頭上を超えている分はイチビが抑えているというシュールな図になっている。だけど私は危険があろうとも、まだ誰も行ったことのない場所に行くのが楽しみなのだ。
「あ……私は脱ぐわけにいかないけれど、服が濡れると重くなるし泳ぎ辛くなるわ……」
気付いたことを独りごちるとイチビは上半身裸になる。川の水温は雪解け水のような冷たさではないが、やはり外気温よりは冷たい。だけどイチビは「気持ちいいですね」と笑顔で水に入ってくれた。
「まずは水に顔をつける練習よ」
イチビが着ていた服から腰紐を借りて髪をまとめ、ザブッと水に顔を入れた後すぐに顔を上げる。泳げない人は顔に水が触れるのも怖いと聞くがイチビはどうだろうか?
「プハッ!気持ちいい!」
爽やかな笑顔でイチビは水から顔を上げた。次の段階に進むことにする。
「じゃあ同じように顔を水につけて、五を数えましょう」
すると手持ち無沙汰になっているシャガとハマスゲもやると川に入って来た。大丈夫かと聞くと「これくらいは問題ありません」と二人が答えたので続行する。そしてみんなで同時に顔を水に入れ五まで数えて顔を上げる。イチビたち三人は少年のように笑いはしゃいでいる。あまり見ることが出来ない笑顔はレアだ。
「次は十まで数えましょう。その間に目を開けて」
時間との勝負なので少々ペースが早いかと心配になったが、三人はやる気に満ち溢れている。私が顔をつける前に三人とも川に顔を突っ込んだ。驚きつつも見守ると十を数えたあたりで三人は顔を上げ、最初から目を開けていたとか途中で目を開けたと盛り上がっている。水中で目を開けることは全員がクリアしたようだ。
「本当はもっとゆっくり教えるべきなんでしょうけど、みんなごめんなさい。次は同じように水に顔を入れて目を開け、息を吐き続けてちょうだい。苦しくなったら顔を上げて息を吸うの。私が先にやるわね」
大きく息を吸ってから水面に顔をつけて目を開く。そしてブクブクと口から気泡を出しながら川底に何か生き物はいないかと目だけ動かす。クレソンの根元には小魚やエビが見え隠れし、顔の真下を小さなカニが慌てて走り去って行く。名前の知らない貝の殻も見つけることが出来た。ここで息を吸うために顔を上げる。
「プハッ!……生き物がたくさんいたわ……じゃなくて、これが息継ぎの時の呼吸法でもあるの」
それを聞くと三人はすぐに実行する。それぞれのタイミングで顔を上げ息を吸う。
「みんな上手よ。本当に急で申し訳ないのだけれど、次に浮く為の話をするわ。水に入ったらとにかく力を抜くの。それだけで普通は浮くわ。変に力を入れると沈むし、驚いて手足をバタつかせると溺れるわ。溺れた時こそ冷静に力を抜いて」
少しだけ上流に向かい仰向けで水面に浮き、水の流れに任せてみんなの前に流されてくる。イチビも同じ所に移動し恐る恐る水面に体を浮かせようとする。
「うわっ!」
「大丈夫よ!力を抜いて!」
そう叫ぶとイチビは力を抜き、見事に浮くことが出来た。私のいる場所まで流されて来たタイミングで腕を掴み起き上がらせる。
「シャガたちも試したい気持ちは分かるけど、今度ゆっくりやりましょう。その応用で一番簡単な泳ぎ方を教えるわね」
水に浮こうとしていたシャガたちを止めつつそちらに向かい川辺に座る。
「さっきは仰向けだったけど今度はうつ伏せよ。水に浮いたら力を抜きつつ足を真っ直ぐに伸ばして交互に動かすの。こんな感じよ」
深さがない場所でやるのでやり難くはあったが、足と足を離さず膝ではなく足の付け根を使って動かす。そして「見てて」と川に入る。バタ足で泳いでいるだけで遠い昔の記憶を思い出すが、今は懐かしんでいる暇はない。あっという間にじいやの前に泳ぎ着き顔を上げると、ポニーとロバはじいやに慣れたのか隣に座ってくつろいでいる。
「イチビ、やってみて」
そう声をかけるとイチビはバタ足で泳いで来た。だがまだ足の動きに力が入り過ぎている。
「もっと細かく動かす感じで」
そう伝えるとまたシャガたちの所へ戻り、必死にバタ足をして泳いで来る。何回か繰り返してもらい、イチビ自身もコツを掴んだ所で川の向こうに向かって進むことにした。
「イチビ、もしかしたら川底に足が届かない場所もあるかもしれないわ。そうなったらとにかく冷静に力を抜いて浮くことを考えて。そして落ち着いたら斜めに川岸に向かって泳ぐのよ?いざとなったら助けるから安心して」
とは言ったものの、この子どもの体で上手くいくか心配ではある。イチビも気合いを入れ直している。
「そろそろ行きましょうか。足元に気を付けてね」
水泳教室を開いているうちにもタッケは伸びていたが、他のタッケと同様麻袋に入れたものを体にくくりつけた。私の頭上を超えている分はイチビが抑えているというシュールな図になっている。だけど私は危険があろうとも、まだ誰も行ったことのない場所に行くのが楽しみなのだ。
21
お気に入りに追加
1,950
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる