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忘れ物
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「姫様ー!姫様!起きてくだされ!」
じいやの声で目が覚める。やはり疲れていたのか自然に起きることが出来なくて、起こされるのも久しぶりだなと起き上がる。スイレンはもう目覚めていて「疲れていそうだったから」と起こさずにいてくれたようだ。
「姫様ー!」
またしてもじいやの声が聞こえ、手早く身支度を整えどうしたのかと外へと出た。
「おはようじいや。どうしたの?」
「おはようございます……ではなくてですね、荷物の降ろし忘れがあったのですよ!」
そう言いじいやは走り出す。そんなに慌てるほどのものを忘れるだろうか?そう思いながらじいやの後を追った。
ポニーとロバに挨拶をしながら撫で、荷車を置いた場所に向かうと人だかりが出来ている。大人たちの壁に阻まれじいやの姿も荷車もここからは見ることが出来ない。
「どうしたの?」
まだどこかのんびりとしていた私は大人たちをかき分けてその中心部へと進む。
「姫様!」
「…………」
青ざめるじいやに慌てふためいているイチビたち。そして絶句する私だ。
昨日シャイアーク国から採取してきた湿地の土を畑の近くに積み上げ山にし、ヤンナギが枯れないように代わりに土を入れて挿し木した。そして都合が良い時にすぐに行けるようにと荷車に載せ直したのだが、それの存在をすっかり忘れていた私たちは荷車の縁と樽の間にそれが挟まっていたことにすら気付いていなかった。
「姫様……どうしましょう……?」
じいややイチビたちを驚かせ、民たちがここまで集まった理由は竹ことタッケである。日本ですらその成長速度が凄まじいのに、この世界は地球よりも植物の成長速度が速い。一部のタッケが横になりつつも伸び、荷車から飛び出しているのである。
「これは大変だわ……。貰ったは良いけれど、後のことを考えていなかったわ……。これはかなり役立つ素材になるのだけれど、植えたら最後タッケと人との戦いになるのよ……」
寝起きだった頭が覚醒していく。
「駄目だわ。こうしてる間にもどんどん伸びてしまう……近くには植えられないし……じいや、このまま川に向かいましょう」
「分かりました」
朝食を食べている暇もなくロバと荷車を繋いでいるとポニーが服の裾を噛む。一緒に行きたそうに見えたので連れて行くことにした。
「姫!話したいことがあったのに!」
「私もだ」
バタバタと支度をしているとヒイラギとタデが走り寄って来た。
「ごめんなさいね。帰って来てから聞くわ」
そう言う私に二人は途中で食べてと果実の入った袋を手渡してくれた。お礼を言っているうちにじいやたちはヤンナギも植えることになるだろうと色々な道具を積んでくれていた。そしてタッケと共に降ろし忘れていたテンサインの苗を取り出し、畑に植えるようオヒシバに頼んだ。オヒシバは不思議そうな顔をしている。
「さぁ行きましょう……オヒシバはお留守番ね。この子たちと相性が悪いでしょう?」
そう言うとオヒシバはその場で泣き崩れ、ポニーとロバはことわざではないけれどオヒシバに後ろ足で砂をかけていた。
────
道中、水路が気になりはしたが、帰りにゆっくり見ようとひたすら前に進んだ。川に到着すると粘土を採取している場所以外は一面が草原に変わっており、ほんの数日でここまで変化した風景に驚いた。
「姫様、どうなされます?」
どこまでも広がる緑に心を奪われていたが、じいやの声で我にかえる。ここに着くまでに色々考えた。ヤンナギと一緒に植えてしまおうかとも思ったが、すぐにタッケの勢いに駆逐されてしまうだろう。下手をしたら私たちの住む場所ですら脅威にさらされる。そう考えると植えるのに適した場所は私には一箇所しか考えられなかった。
「川の向こうに行くわ」
私の言葉にじいやたちは目を丸くしている。
「泳げる人はいる?」
じいやたちはフルフルと首を振っている。森には川もなかったようだし当然か。ならば私一人で行くしかない。それを告げると大反対にあうが、川の流れは緩やかで中州もある。流されたとしてもなんとかなるだろう。……この伸びたタッケさえ無ければ。
「大丈夫よ。流されたとしても私は泳げるし、最悪タッケを手放せば戻って来れるわ。一つずつ中州に寄って行けば大丈夫よ……きっと」
そして問題がもう一つある。川の向こうはまだ誰も行ったことのない未開の土地なのだ。あちら側の川岸は斜面になっているようだが、こちら側からは上手く見渡すことが出来ない。何がいるのかさえ分からないのだ。それを言うとみんなの顔が曇る。
「やはり危険です。……泳ぐにはどうしたら良いですか?」
シャガが口を開いた。
「簡単に言うと水に浮いて足をバタバタさせると前に進むのだけれど……筋肉がありすぎる人は水に浮かずに沈んでしまうのよ……」
いくら超人的とはいえじいやには年齢的なものも含めて無理はさせたくない。だがここで思い出した。私はみんなの上半身を見ている。筋肉の付き方を堪能していて良かった。
「イチビ、万が一の為に少し泳ぐ練習をしましょう」
私が白羽の矢を立てたのはイチビだ。脂肪のない細マッチョのシャガよりも、筋肉量のすごいハマスゲよりも幾分浮く可能性が高い。急遽この場で水泳教室が始まった。
じいやの声で目が覚める。やはり疲れていたのか自然に起きることが出来なくて、起こされるのも久しぶりだなと起き上がる。スイレンはもう目覚めていて「疲れていそうだったから」と起こさずにいてくれたようだ。
「姫様ー!」
またしてもじいやの声が聞こえ、手早く身支度を整えどうしたのかと外へと出た。
「おはようじいや。どうしたの?」
「おはようございます……ではなくてですね、荷物の降ろし忘れがあったのですよ!」
そう言いじいやは走り出す。そんなに慌てるほどのものを忘れるだろうか?そう思いながらじいやの後を追った。
ポニーとロバに挨拶をしながら撫で、荷車を置いた場所に向かうと人だかりが出来ている。大人たちの壁に阻まれじいやの姿も荷車もここからは見ることが出来ない。
「どうしたの?」
まだどこかのんびりとしていた私は大人たちをかき分けてその中心部へと進む。
「姫様!」
「…………」
青ざめるじいやに慌てふためいているイチビたち。そして絶句する私だ。
昨日シャイアーク国から採取してきた湿地の土を畑の近くに積み上げ山にし、ヤンナギが枯れないように代わりに土を入れて挿し木した。そして都合が良い時にすぐに行けるようにと荷車に載せ直したのだが、それの存在をすっかり忘れていた私たちは荷車の縁と樽の間にそれが挟まっていたことにすら気付いていなかった。
「姫様……どうしましょう……?」
じいややイチビたちを驚かせ、民たちがここまで集まった理由は竹ことタッケである。日本ですらその成長速度が凄まじいのに、この世界は地球よりも植物の成長速度が速い。一部のタッケが横になりつつも伸び、荷車から飛び出しているのである。
「これは大変だわ……。貰ったは良いけれど、後のことを考えていなかったわ……。これはかなり役立つ素材になるのだけれど、植えたら最後タッケと人との戦いになるのよ……」
寝起きだった頭が覚醒していく。
「駄目だわ。こうしてる間にもどんどん伸びてしまう……近くには植えられないし……じいや、このまま川に向かいましょう」
「分かりました」
朝食を食べている暇もなくロバと荷車を繋いでいるとポニーが服の裾を噛む。一緒に行きたそうに見えたので連れて行くことにした。
「姫!話したいことがあったのに!」
「私もだ」
バタバタと支度をしているとヒイラギとタデが走り寄って来た。
「ごめんなさいね。帰って来てから聞くわ」
そう言う私に二人は途中で食べてと果実の入った袋を手渡してくれた。お礼を言っているうちにじいやたちはヤンナギも植えることになるだろうと色々な道具を積んでくれていた。そしてタッケと共に降ろし忘れていたテンサインの苗を取り出し、畑に植えるようオヒシバに頼んだ。オヒシバは不思議そうな顔をしている。
「さぁ行きましょう……オヒシバはお留守番ね。この子たちと相性が悪いでしょう?」
そう言うとオヒシバはその場で泣き崩れ、ポニーとロバはことわざではないけれどオヒシバに後ろ足で砂をかけていた。
────
道中、水路が気になりはしたが、帰りにゆっくり見ようとひたすら前に進んだ。川に到着すると粘土を採取している場所以外は一面が草原に変わっており、ほんの数日でここまで変化した風景に驚いた。
「姫様、どうなされます?」
どこまでも広がる緑に心を奪われていたが、じいやの声で我にかえる。ここに着くまでに色々考えた。ヤンナギと一緒に植えてしまおうかとも思ったが、すぐにタッケの勢いに駆逐されてしまうだろう。下手をしたら私たちの住む場所ですら脅威にさらされる。そう考えると植えるのに適した場所は私には一箇所しか考えられなかった。
「川の向こうに行くわ」
私の言葉にじいやたちは目を丸くしている。
「泳げる人はいる?」
じいやたちはフルフルと首を振っている。森には川もなかったようだし当然か。ならば私一人で行くしかない。それを告げると大反対にあうが、川の流れは緩やかで中州もある。流されたとしてもなんとかなるだろう。……この伸びたタッケさえ無ければ。
「大丈夫よ。流されたとしても私は泳げるし、最悪タッケを手放せば戻って来れるわ。一つずつ中州に寄って行けば大丈夫よ……きっと」
そして問題がもう一つある。川の向こうはまだ誰も行ったことのない未開の土地なのだ。あちら側の川岸は斜面になっているようだが、こちら側からは上手く見渡すことが出来ない。何がいるのかさえ分からないのだ。それを言うとみんなの顔が曇る。
「やはり危険です。……泳ぐにはどうしたら良いですか?」
シャガが口を開いた。
「簡単に言うと水に浮いて足をバタバタさせると前に進むのだけれど……筋肉がありすぎる人は水に浮かずに沈んでしまうのよ……」
いくら超人的とはいえじいやには年齢的なものも含めて無理はさせたくない。だがここで思い出した。私はみんなの上半身を見ている。筋肉の付き方を堪能していて良かった。
「イチビ、万が一の為に少し泳ぐ練習をしましょう」
私が白羽の矢を立てたのはイチビだ。脂肪のない細マッチョのシャガよりも、筋肉量のすごいハマスゲよりも幾分浮く可能性が高い。急遽この場で水泳教室が始まった。
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