貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
110 / 366

姫たちのお散歩

しおりを挟む
 自分でも薄々、いやハッキリと分かってはいたが、王族が畑仕事をしてるなんて考えられないらしくクジャやニコライさんは驚きすぎていた。畑仕事くらいでこんなに驚くなら、土を捏ねてレンガを作った話やモールタールを使った左官工事の話なんてしたら失神してしまうんじゃないかと思ってしまった。
 そうしてワイワイと騒いでいるうちにお代わりをしたスネック料理が運ばれて来て、新しいワインで作られたスネックの蒸し焼きは絶品だった。

「そうじゃペーター殿」

 すっかりスネックに抵抗がなくなり、むしろ満足そうに堪能しまくったクジャは食後にペーターさんに話しかけた。

「うん?」

「この町を見て回っても良いだろうか?」

「構わんが見て回るほど広くもないぞ」

 ペーターさんは笑ってそう返答するが、クジャは満足げに微笑み外に出る気満々だ。その間にじいや、モズさん、マークさんの三人は食堂内のカウンター付近に集まり「私が」「いや、私が」と支払いで揉めている。三人のそつのない動きには驚いた。揉めてはいるけれど。

────

「のどかで良い町だな」

 食堂を出てからキョロキョロしっぱなしのクジャは楽しそうに言葉を発する。そんなクジャを見ているこちらも楽しくなっていると、離れた場所から声をかけられる。

「おぉ~い!カレンちゃん!」

 声の主はブルーノさんだ。ブルーノさんは町の入り口にはついて来ずに家に留まっていた。お互いに前進し、程よい距離感のところでペーターさんがクジャを紹介する。

「ブルーノよ、こちらはリーンウン国の姫だ」

「クジャクと申す」

 クジャはそれはもう惚れ惚れするほどの美しい笑顔でブルーノさんに握手を求める。握手をしたブルーノさんは呆けたようにクジャを見ているが、ようやく声を振り絞ったセリフに笑ってしまった。

「……こんなにも美しい御方に失礼を働くなんて、シャイアーク王は本当にどうしようもないしどうにかしている……」

 ペーターさんまで「違いない」と笑っていたが、クジャが口を開く。

「『美しい御方』という部分以外は同意する。真の美しさとはカレンのように見た目だけではなく中身が伴っている者のことだ」

 そう言い切ったクジャは私と視線を合わせて微笑む。

「もう、クジャったら。私はいつも土だらけの泥だらけよ?美しくなんかないわ」

「ふぅ……ニコライの気持ちが分かるとはな」

 クジャに反論するが、そのクジャは私の言うことなど聞かずどこか遠くを見て呟いている。

「どうやら……すっかり仲良くなったようだな」

 ブルーノさんは私とクジャのやり取りを見てニコニコと笑っている。さっきまで緊迫した話をしていたのに、いざ会ってみると友人になるなんて私も思っていなかった。そのクジャはブルーノさんの持っている物を見ている。

「その短い縄の束をどうするのじゃ?」

 ブルーノさんは跳び縄を持っていた。使い道が分からないクジャは普通に疑問に思ったようだ。

「あぁ、これは娯楽の道具だよ」

「娯楽?娯楽とは茶を飲み語り合うことではないのか?」

 娯楽と聞いて、クジャも今まで出会った人たちと同じ反応をする。リーンウン国でも語り合うことしか娯楽がないらしい。

「ほら、あぁやって遊ぶんだよ」

 ブルーノさんが指さす方を見ると、子どもたち数人が縄跳びをしている。子どもたちはすっかり上手になり、いろんな技を繰り出している。

「……なんと素晴らしい町だ……こんなものは見たことがない……」

 クジャが子どもたちを見てそう呟くと、ブルーノさんとペーターさんは「カレンちゃんが作ってくれた」と言ってしまった。さらには他にも娯楽の道具があると言ってしまったのでクジャが食いついてくる。

「カレンよ、そなた天才か?娯楽の為の品を作るなど……子どもたちの将来が楽しみだな」

 と言っているそばから、仕事が終わった人や時間の余った主婦が独楽や竹馬で遊んだり、空いている場所に樽を持って来て即席のテーブルと椅子にしてリバーシをやり始める。

「あれも全部カレンちゃんが考えた娯楽の品だよ」

「は!?カレンよ!そなたの頭脳はどうなっておる!?」

 私が一から開発したわけではないので、「たまたまよ」と笑って誤魔化す。そして自由奔放なクジャはリバーシをやっている人のところまで走り、「わらわに構わず続けるのじゃ」と無理難題を言っている。ペーターさんが「リーンウン国の姫だ」と言うとますます萎縮してしまい、町の人はリバーシどころではない。なのでその場所とリバーシを借り、イチビとシャガに対戦させることにした。

「ほほぅ……難しくはないが奥が深いのだな……」

 クジャはリバーシを見てそう呟いている。かなり気に入ったようだ。するとあの人がまたうっかり発言をする。

「私は特注品を買い占めましたよ。帰ってからが楽しみです」

 ニコニコと微笑んでいるニコライさんをクジャは睨みつけている。

「……ニコライよ。買い占めたということは、複数所持しておるのだな?」

「え?えぇ。この世界に十個しかない限定品ですよ!厳重に馬車に保管しているんです」

 この先の展開が予想出来る私たちは生暖かく見守ることにした。

「限定品じゃと!?ニコライのくせに生意気じゃ!一つ寄越すが良い!」

「駄目です!絶対に駄目!無理です無理!」

 ギャーギャーと騒ぐ二人にブルーノさんは近付き、リバーシを指さしてクジャに話しかける。

「これと同じ物なら作ることは可能だよ。欲しいのならすぐに作るが?」

 そう言われたクジャはしばし考える。

「……では悪いが一つ作ってもらえぬか?だがわらわはニコライのように特注品が欲しいのじゃ!カレンよ、忙しいのは承知で無理を言うが、わらわにも作ってくれぬか!?」

「分かったわ。次に会った時に渡せるようにするわね」

 そう言うとクジャはようやく落ち着いたようだった。ブルーノさんが自宅へ向かうとイチビたちも手伝うと着いていき、クジャはニコライさんに「お前の物は諦めてやるが後で見せろ」と脅していた。
 もしかしたら世界中でリバーシが流行するかもしれないわね。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...